イタリア映画は、語学学習者にとって最高の教材の一つです。名作を観ながらイタリア語の自然な響きと文化を同時に吸収できる。この記事では、レベル別におすすめのイタリア映画と、学習に活かす視聴方法を紹介します。
初級者にも優しい近年の作品
初級者にまずおすすめしたいのは、ガブリエレ・ムッチーノ監督(1967年ローマ生まれ、「幸せのちから」でハリウッド進出)の「L ultimo bacio(邦題:最後のキス)」(2001年、Fandango出版)です。ローマの30代男女の恋愛群像劇で、セリフが日常会話レベル。主演はステファノ・アッコルシ(1971年ボローニャ生まれ)とジョヴァンナ・メッツォジョルノ(1974年ローマ生まれ)。
ポール・ヴィルジーリの世界
コメディ好きには、パオロ・ヴィルジー監督(1964年リヴォルノ生まれ)の「La prima cosa bella(2010)」がおすすめ。明るく現代的なイタリア語で、トスカーナの海沿い町リヴォルノを舞台にした家族の物語。方言要素も少なく、標準イタリア語の良いサンプルです。
ネオレアリズモの金字塔
イタリア映画史を語るなら、ネオレアリズモ(第二次世界大戦後に生まれた運動)の代表作は避けて通れません。ヴィットリオ・デ・シーカ監督(1901-1974)の「Ladri di biciclette(自転車泥棒)」(1948年、PDS社制作)は、戦後ローマの貧困を描いた不朽の名作で、主演のランベルト・マッジョラーニ氏(実際の工場労働者を起用)の自然な話し方が印象的です。
ロベルト・ロッセリーニ監督(1906-1977、ローマ生まれ)の「Roma citta aperta(無防備都市)」(1945年)も外せません。主演はアンナ・マニャーニ(1908-1973、ローマの伝説的女優)とアルド・ファブリツィ(1905-1990)。ナチス占領下のローマを描いた作品で、語彙は重めですが、歴史的イタリア語を学ぶのに最適です。
ルキノ・ヴィスコンティの世界
ルキノ・ヴィスコンティ監督(1906-1976、ミラノ・ヴィスコンティ家出身)の「Rocco e i suoi fratelli(若者のすべて)」(1960年)は、南から北への移民ドラマで、ミラノとナポリのイタリア語が対比されます。主演のアラン・ドロン(1935-2024)は吹替ですが、共演のレナート・サルヴァトーリ(1933-1988)とアニー・ジラルドー(1931-2011)の声は原音です。
フェリーニとアントニオーニの芸術性
フェデリコ・フェリーニ監督(1920-1993、リミニ生まれ)は「La dolce vita(甘い生活)」(1960年)、「8 1/2」(1963年)、「Amarcord」(1973年)など世界映画史に残る傑作を連発しました。特に「Amarcord」はリミニ方言の要素が混じり、上級学習者向けの挑戦的な教材になります。
ミケランジェロ・アントニオーニ監督(1912-2007、フェラーラ生まれ)の「L avventura(情事)」(1960年)、「La notte(夜)」(1961年)、「L eclisse(太陽はひとりぼっち)」(1962年)のいわゆる「感情三部作」は、現代人の孤独と疎外をテーマにした知的な作品で、語彙が洗練されており、C1以上の学習者におすすめです。
ニーノ・ロータの音楽と共に
フェリーニ作品の多くで音楽を担当したニーノ・ロータ(1911-1979、ミラノ生まれ、のちに「ゴッドファーザー」で世界的に有名に)の楽曲は、セリフと音楽の融合を味わう勉強になります。映画を観ながら音楽と言葉のリズムを同時に感じると、イタリア語の音楽性が自然に身につきます。
現代イタリア映画の注目作
近年の作品では、パオロ・ソレンティーノ監督(1970年ナポリ生まれ)の「La grande bellezza(グレート・ビューティ/追憶のローマ)」(2013年、アカデミー外国語映画賞受賞)が必見です。主演のトニ・セルヴィッロ(1959年カゼルタ生まれ)の語りは詩的で知的、上級者向けの聴解教材として超一流です。
マッテオ・ガローネ監督(1968年ローマ生まれ)の「Gomorra(ゴモラ)」(2008年、ロベルト・サヴィアーノの同名小説原作)は、ナポリ郊外の裏社会を描いた迫真の作品で、ナポリ方言のリアルな音が聴けます。標準イタリア語を学んでいる方には難易度が高いですが、音の雰囲気を味わうだけでも価値があります。
アリーチェ・ロルヴァケル
女性監督の第一人者アリーチェ・ロルヴァケル(1981年フィエゾレ生まれ)の「Le meraviglie(夏をゆく人々)」(2014年)と「Lazzaro felice(幸福なラザロ)」(2018年)は、トスカーナの田園風景とともに素朴なイタリア語を学べる作品です。セリフはゆっくりで、学習者にも聞き取りやすい速度です。
ストリーミングで映画を見る方法
現在日本から合法的にイタリア映画を見る手段はいくつかあります。まず月額1990円のMUBIは、アート系作品に強く、ロルヴァケルやソレンティーノの作品がよく配信されます。月額990円のCriterion Channelは未配信ですがVPN経由で契約できる方もいます。Netflix Italiaには「Suburra」「Baby」などのオリジナルシリーズがあり、字幕設定でイタリア語音声+イタリア語字幕を選べるのが語学学習者には最適です。
イタリア公共放送RAIの無料プラットフォーム「RaiPlay」は、日本からVPN接続すれば膨大なアーカイブにアクセスできます。特にRAI Cultura制作の文学紹介番組「Quante storie」(月〜金12時20分、ジョルジョ・ザノッティ進行)はイタリア語の語彙を豊かにしてくれます。
字幕を使った学習ステップ
私が実践しているのは3周視聴法です。1周目は日本語字幕で話の流れをつかみ、2周目はイタリア語字幕で目と耳を合わせ、3周目は字幕なしで聞き取りに挑戦します。1本の映画に3日かけるこのペースが、無理なく続けられて語彙が定着します。
映画から学ぶイタリア語表現
映画を見ていると教科書には出てこない生きた表現に出会えます。例えば「La dolce vita」の有名なマルチェロ・マストロヤンニ(1924-1996年)のセリフ「Marcello, come here!」のように、アニタ・エクバーグ(1931-2015年)の英語交じりのセリフは当時のローマ国際都市の雰囲気を伝えます。
「Amarcord」ではフェリーニの故郷リミニの方言がふんだんに登場します。タイトル自体がリミニ方言で「私は覚えている(a m arcord)」の意味です。「Ladri di biciclette」のローマ方言、「Rocco e i suoi fratelli」のミラノ移民家族の南部イタリア語など、地域言語の多様性も学べます。
推薦する視聴順序
初心者には「La vita e bella」(1997年、ロベルト・ベニーニ1952年アレッツォ近郊生まれ、アカデミー賞主演男優賞受賞作)がおすすめです。家族の物語で感情が先行するため言葉が分からなくても追えます。次に「Cinema Paradiso」(1988年、ジュゼッペ・トルナトーレ1956年シチリア生まれ監督、エンニオ・モリコーネ1928-2020年音楽)で南イタリアの響きに慣れ、そこからフェリーニの代表作に進むのが王道です。
映画は語学学習の道具である前に芸術作品です。楽しみながら続けることが最大の上達法だと私は信じています。
日本で観られるイタリア映画イベント
実は日本でもイタリア映画を大画面で観る機会は意外と多いのです。毎年秋にイタリア文化会館(東京都千代田区九段南2丁目1-30、1941年設立)主催の「イタリア映画祭」が有楽町朝日ホール(東京都千代田区有楽町2-5-1)で開催されます。1999年から続く老舗イベントで、毎年10本前後の新作を字幕付きで上映します。
大阪ではシネ・リーブル梅田(大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー1階)や京都シネマ(京都市下京区烏丸通四条下ル水銀屋町620)でも定期的にイタリア映画特集が組まれます。DVDを買うより映画館で観ると集中力が違い、細かい表現まで耳に残ります。
私のイタリア映画学習ノート
私は映画を観ながら気になった表現をモレスキン(1997年ミラノ設立、ヴィア・ロヴェスキィに本社)のポケットサイズノートに書き留めています。例えば「La grande bellezza」でジェップ・ガンバルデッラが言う「Io cercavo la grande bellezza」という一文は、動詞cercareの半過去imperfettoを覚える良い例でした。
また「Il postino」(1994年、マッシモ・トロイージ1953-1994年主演、マイケル・ラドフォード監督)では、チリの詩人パブロ・ネルーダ役をフィリップ・ノワレ1930-2006年が演じ、メタファーとしての詩(metafora)を郵便配達員に教える場面があります。詩的なイタリア語の響きを学ぶのに最適な一本です。
最後に、エットーレ・スコラ1931-2016年の「Una giornata particolare」(1977年、ソフィア・ローレン1934年ローマ生まれとマルチェロ・マストロヤンニ共演)は、1938年のローマを舞台にした静かな会話劇で、日常会話レベルのイタリア語を学ぶには理想的です。字幕を頼りに何度も繰り返し観たい名作です。


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