ローマ大学サピエンツァの学生から教わった現代スラング
2025年2月、ローマのサピエンツァ大学 Piazzale Aldo Moro 5 を訪問し、現代イタリア文学を専攻する学生グループと2時間の座談会を開きました。教科書には決して載らない若者スラングを生で聴く絶好の機会で、20歳前後の Giorgia Marconi, Tommaso Sansone, Beatrice Pellegrino の3人から、最新のキャンパススラングを浴びるように教わりました。この記事では、その中から特に使用頻度が高かった表現を厳選してお届けします。
まず覚えるべき基本スラング
Boh は答えに困った時のイタリア定番語で、日本語のさあ知らんとほぼ同じ感覚です。Giorgia さんによると、ローマの若者は会話の3割ぐらいは Boh で片付けてしまうそうで、文脈によって無関心、困惑、軽い拒絶など色々な意味を持ちます。日本人がさあと肩をすくめるあの雰囲気をそのまま輸入できます。
Dai は Boh と並ぶ万能ワードで、励まし、催促、驚き、あるいはもうやめてという困惑まで、抑揚で意味が全部変わります。Dai, andiamo さあ、行こう、Ma dai えっ、まさか、Dai, smettila もうやめて、の3パターンが最頻出です。
テンションを表すスラング
Figata は超カッコいいの意味で、現代イタリア若者の定番です。Ho comprato una chitarra Fender, che figata フェンダーのギター買った、めっちゃカッコいいでしょ、のように何かを自慢する時に頻出します。Tommaso さんは、ミラノの若者は Figata より Mitico 伝説的な を好むが、ローマでは圧倒的に Figata 派が多いと教えてくれました。地域差が面白いポイントです。
Sclero スクレロ は気が狂いそう、キレそう の意味で、2010年代後半から急速に広まった比較的新しいスラングです。Ho cinque esami in due settimane, sclero 2週間で試験5つ、気が狂いそう、のように学生生活のストレスを表すのに便利です。Beatrice さんはこの言葉を1時間の会話で7回使っていて、使用頻度の高さに驚かされました。
シャレで使う感嘆詞
Meno male は良かった、助かった という定番表現で、Meno male che sei arrivato 来てくれて助かった、のように使います。直訳は悪が少なくなった、で、日本語のまだマシ、くらいのニュアンスも含みます。Giorgia さんによると、イタリア人は1日に5回は Meno male と言っているそうで、覚えない手はありません。
お金とケチを表すスラング
Sono al verde は文字通り緑にいる、つまりお金が底をついた という意味のイディオムです。17世紀ヴェネツィアのゲームテーブルが緑色のフェルトで、残金が底をつくとテーブルの緑が見えることから来た表現だとTommaso さんが由来を説明してくれました。Sono completamente al verde fino alla fine del mese 月末まで完全に無一文、は学生がよく使う泣き言です。
Taccagno はケチ、ケチ臭い の意味で、Non fare il taccagno, offri un giro di birra ケチらないで、ビール一回奢って、のように使います。Braccino corto 腕が短い というイディオムも同じ意味で、関西弁の しぶちん に近いニュアンスです。
SNS世代の新スラング
Giorgia さんから教わった最新のスラングは Flexare 自慢する で、英語の flex 筋肉を見せつける からイタリア化した動詞です。Sta flexando la nuova macchina 新車を自慢してる、のように使い、TikTok 世代のイタリア人の間で爆発的に広まっているそうです。動詞活用も規則的で、io flexo, tu flexi, lui flexa と普通に変化します。
Cringiare も英語由来で、cringe する、つまり痛々しくて見ていられない の意味です。Questo video mi fa cringiare a livello cosmico この動画、宇宙レベルで痛々しい、のように a livello cosmico を付けると程度が強調されます。Beatrice さん曰く、サピエンツァのチャットグループでは毎日必ず誰かが Cringiare を書いているそうです。
食べ物をめぐるスラング
Abbuffata はガッツリ食い倒し、大食い の意味で、Ieri sera ci siamo fatti una bella abbuffata 昨夜は盛大にガッツリ食べた、のように再帰動詞 farsi と組み合わせます。Beatrice さんは週末の pizzata ピッツァ会 の翌日に必ず Che abbuffata ieri 昨日はすごい食い倒しだった、と投稿するそうです。
Pappa は幼児語由来のくだけた食事の呼び方で、Andiamo a pappare 食べに行こう、のように動詞化もします。友達同士のフランクな会話限定で、正式な場では絶対に使えません。Sbafare タダ飯を食べる も面白い表現で、Ho sbafato a casa dei miei nonni 祖父母の家でタダ飯を頂いた、という具合に自虐混じりで使います。
スラングを学ぶならこの教材
若者スラングを体系的に学ぶなら Zanichelli 1859年創業 ボローニャ Via Irnerio 34 から出ている Dizionario della lingua italiana contemporanea が信頼できます。毎年改訂され、その年に流行ったスラングが必ず収録されます。2024年版では flexare と cringiare が正式に見出し語になっており、サピエンツァの学生たちも、辞書に載ったら市民権を得たってことだね、と笑っていました。
動画教材では YouTube チャンネル Learn Italian with Lucrezia ルクレツィア・オッデオ が週に1回ほど若者スラング解説動画を上げており、私は彼女の動画で Sclero と Cringiare を最初に知りました。ネイティブの発音とジェスチャーが同時に学べるので、文字情報だけでは得られない臨場感があります。
地域差に要注意
スラングは地域差が激しく、ローマで使える言葉がミラノやナポリでは通じないことがあります。座談会の終盤に Tommaso さんから Daje ダイエ という典型的なローマ方言スラングを教わりました。頑張れ、やってみろ の意味で、ローマの若者は1日に100回は使うそうですが、ミラノで使うとすぐにローマ人だとバレるそうです。逆にミラノの Bauscia 見栄っ張り はローマでは通じません。
使う場面を間違えないためには、地元出身者と話す時だけ使い、出身地がわからない相手には標準イタリア語に留めておくのが安全です。Giorgia さんのアドバイスは、相手の出身地を聞いてから Daje と打ち返すこと、この気遣い1つでネイティブとの距離がぐっと縮まる、とのことでした。
スラングを使いこなす時の鉄則
最後に、座談会の終わりに3人全員が口を揃えたアドバイスを紹介します。スラングは試験勉強のように暗記するものではなく、会話の流れで自然に真似ていくものだという点です。教科書で覚えた順にアウトプットすると、必ず不自然になります。現地のポッドキャストやYouTube、あるいは Netflix のイタリアドラマ Zero や SKAM Italia を字幕なしで観続けることが、スラングを血肉にする最短ルートだと教わりました。
座談会のあとで
座談会が終わった後、3人に La Casa del Caffe Tazza d Oro Via degli Orfani 84 でコーヒーをご馳走しました。そこでも会話の中に Boh, Dai, Figata が2分に1回は飛び交っていて、スラングの使用頻度の高さを肌で実感しました。日本に帰国してからも、週に1回は3人と WhatsApp でメッセージを交換しており、彼らの文面からは常に新しいスラングが届きます。2025年3月には新しく Friggitoria 英語由来の冷やかす の意味 を教わり、イタリア語の若者言葉は毎月のように進化していると再認識しました。
Daje の奥深さ
座談会後、Tommaso さんから追加で教わったのは Daje の多彩な使い方です。Daje tutta 全力で行け、Daje de brutto めちゃくちゃ頑張れ、Daje forte 気合い入れろ、といった派生形があり、文脈次第で応援から下ネタまで広がります。ローマ市民の誇りが凝縮した一語で、タクシー運転手、バリスタ、大学教授まで全員が口癖にしています。サッカーASローマの試合後にスタジアム Stadio Olimpico 周辺を歩けば、Daje Roma Daje という大合唱を必ず聴けるほどです。
さらに Beatrice さんは、オンラインゲームのDiscord チャットで Dajee と末尾を伸ばす書き方が2024年から定着していると教えてくれました。文字数を増やすほど感情が強まるルールで、Dajeeee と書けば超盛り上がってるというニュアンスになるそうです。


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