インドネシア映画と聞いて何を思い浮かべますか。『The Raid』(2011年)を挙げる人、『Pengabdi Setan』(2017年)のJoko Anwar監督を思い出す人、あるいはネットフリックスの『Cigarette Girl』(2023年)を挙げる人もいるでしょう。
今日はインドネシア映画をゼロから楽しむための完全ガイドをお届けします。語学学習者視点で、どの作品から入ればよいか、どこで観られるか、どんな俳優・監督を追えばよいかを具体的に掘り下げます。
インドネシア映画の歴史を3分で
最初の商業映画は1926年の『Loetoeng Kasaroeng』(スンダ民話を題材にしたオランダ領東インド時代の無声映画)です。独立後、1950年代にUsmar Ismail氏(1921-1971年、「インドネシア映画の父」と呼ばれる)が本格的なスタジオ映画を確立しました。
スハルト政権下の1980年代には年間100本以上が制作されましたが、1998年の通貨危機で業界は一度壊滅。2000年代に入ってから『Ada Apa Dengan Cinta?』(2002年、Rudy Soedjarwo監督)のヒットで復活し、現在は年間約130本が劇場公開される黄金期にあります。
まず観るべき10本 ―― 入門ルート
1. Ada Apa Dengan Cinta?(2002年)
インドネシアの青春映画の金字塔で、高校生のCinta(Dian Sastrowardoyo、1982年生まれ)とRangga(Nicholas Saputra、1984年生まれ)の初恋を描いた傑作。続編『AADC2』(2016年)まで観ると14年ぶんの感情移入ができます。
2. Laskar Pelangi(2008年)
Riri Riza監督作品で、Andrea Hirata氏(1967年生まれ)の同名小説が原作。スマトラ島ベリトゥン島の貧しい小学校を舞台にした感動作で、言語はインドネシア標準語とマレー系方言が混ざり、多様性を肌で感じられます。
3. The Raid: Redemption(2011年)
Gareth Evans監督(1980年生まれ、ウェールズ出身)の低予算アクション映画が世界的大ヒット。主演Iko Uwais(1983年生まれ)のPencak Silat(伝統武術)は必見です。
4. Pengabdi Setan(2017年)
Joko Anwar監督(1976年生まれ、バタム出身)による1980年の同名ホラーのリメイクで、国内興行収入420万人以上を動員。続編『Pengabdi Setan 2: Communion』(2022年)も大ヒット。インドネシアホラーの底力が体感できます。
5. Marlina the Murderer in Four Acts(2017年)
Mouly Surya監督作品で、スンバ島の未亡人Marlinaが強盗を退治する女性復讐劇。カンヌ国際映画祭監督週間にも選出された国際評価作。
6. Sultan Agung(2018年)
Hanung Bramantyo監督(1975年生まれ)のマタラム王国歴史超大作で、ジャワ文化・宮廷語・古語を学ぶ最高の教材です。
7. Keluarga Cemara(2019年)
1990年代のテレビドラマを原作にした家族映画で、Ringgo Agus Rahman(1982年生まれ)主演。家族の会話がリアルな日常インドネシア語で、初中級学習者にぴったりです。
8. Yuni(2021年)
Kamila Andini監督(1986年生まれ)作品で、バンテン州の女子高生Yuniが早婚の圧力に抗う姿を描きます。東京国際映画祭でも上映されました。
9. Gadis Kretek(Cigarette Girl、2023年)
Netflixオリジナル5話ドラマで、Dian Sastrowardoyoと Ario Bayu(1985年生まれ)主演。中部ジャワのクレテック(丁子タバコ)産業を描いた大作で、1960年代の豊かなインドネシア語に触れられます。
10. 24 Jam Bersama Gaspar(2023年)
Yosep Anggi Noen監督(1983年生まれ)のサイバーパンク風ノワール。Reza Rahadian(1987年生まれ、インドネシアを代表する俳優)主演で、アート映画寄りの作風です。
追いかけるべき監督・俳優
監督
Joko Anwar(1976年生まれ)はホラー・スリラーの名手で、『Perempuan Tanah Jahanam』(2019年)で国際的に注目されました。Mouly Surya(1980年生まれ)は女性監督の旗手で、社会派作品に強みがあります。Riri Riza(1970年生まれ)はMiles Films創業の大御所で、商業と芸術のバランスが絶妙。Garin Nugroho(1961年生まれ)はアート映画の第一人者で、ベネチア国際映画祭の常連です。
俳優
Reza Rahadian(1987年生まれ)はインドネシアで最も信頼される俳優で、コメディからシリアスまでこなします。Chicco Jerikho(1984年生まれ)は甘いマスクが武器。Adipati Dolken(1991年生まれ)は若手の注目株。女優陣ではDian Sastrowardoyo、Marsha Timothy(1979年生まれ、Marlinaの主演)、Shenina Cinnamon(2000年生まれ、新世代)が要注目です。
どこで観るか ―― プラットフォーム別攻略
Netflix
インドネシア版Netflixはもちろん、日本のNetflixからも多くのインドネシア映画が観られます。『Cigarette Girl』『Pengabdi Setan 2』『24 Jam Bersama Gaspar』などの主要作は即視聴可能。
Vidio
Surya Citra Media傘下の国内最大手動画配信で、2014年創業。月額50,000ルピア前後(約450円)でローカル作品・バラエティ・スポーツが見放題。海外からもVPNなしで一部作品が視聴可能です。
Prime Video
Amazonオリジナルは少ないですが、古典作品や名作が単品レンタル可能。『Habibie & Ainun』(2012年)など歴史映画が充実しています。
KlikFilm
インドネシアのアート映画専門ストリーミング。インディペンデント作品を追いかけたいならここが穴場です。
映画で学ぶインドネシア語 ―― 5つの黄金ルール
1. インドネシア語字幕をオンに
Netflixは多言語字幕に対応しているので、まずインドネシア語字幕でシャドーイング。慣れたら字幕なしに切り替えます。
2. 同じシーンを3回リピート
好きなシーンだけでいいので、1回目は内容把握、2回目は表現メモ、3回目は真似。筆者はAADCの学食シーンを30回以上観ました。
3. スラングを見逃さない
「gue」「lo」「banget」「kok」「deh」などの話し言葉が映画には満載。教科書で覚えたbaku(標準)と対比するとbahasa gaul(ジャカルタ口語)の輪郭がくっきりします。
4. 時代設定に注意
1960年代の映画と2020年代の映画では語彙がかなり違います。時代物で覚えた表現を現代のチャットで使うと年配っぽい印象になります。
5. 映画ログをつける
観終わったらLetterboxd(2011年Matthew Buchanan氏・Karl von Randow氏創業)にインドネシア語で短いレビューを書きます。アウトプットまでセットにすると定着率が段違いです。
国際映画祭でのインドネシア映画
近年インドネシア映画は国際的な評価も高まっています。『Memoria』(2021年、Apichatpong主演だがインドネシア製作参加)、『Autobiography』(2022年、Makbul Mubarak監督)がヴェネチアで受賞。釜山国際映画祭・東京国際映画祭にも毎年数本が選出されています。
毎年12月のJakarta International Film Festival(JIFFest、1999年開始)、11月のJogja-NETPAC Asian Film Festival(JAFF、2006年開始)は現地で作品を一気に浴びる絶好の機会です。
まとめ ―― 映画は最高の言語講師
インドネシア語の教科書で学んだフレーズが、映画の中で役者の感情と一緒に耳に入ってくる瞬間、語学学習の景色は一変します。単語が「使える表現」に変わるのです。
まずは今週末、Netflixを開いて『Gadis Kretek』の第1話をインドネシア語字幕で流してみてください。90分後、あなたはもう後戻りできません。
ホラー・コメディ・ロマンスの三大ジャンル深掘り
ホラー
インドネシアホラーは国際市場でも存在感が増しています。Joko Anwar作品のほかに、Kimo Stamboel監督(1979年生まれ、Mo Brothers名義でも活動)の『The Queen of Black Magic』(2019年)、Awi Suryadi監督の『Danur』シリーズ(2017年開始、2024年時点で7作品)が代表格。kuntilanak、pocong、tuyul、suster ngesot といった土着の怪異が題材になるので、神話語彙まで同時に学べます。
コメディ
Ernest Prakasa監督(1982年生まれ、元スタンダップコメディアン)の『Cek Toko Sebelah』(2016年)、『Imperfect』(2019年)は家族ドラマとコメディの融合作。Falcon Pictures(2010年創業、Frederica社長)制作の『Warkop DKI Reborn』シリーズは1970年代の伝説コメディトリオのリブートで、笑いのテンポから日常スラングを吸収できます。
ロマンス
『Dilan 1990』(2018年)『Dilan 1991』(2019年)の二部作はPidi Baiq氏(1972年生まれ)原作の青春ロマンスで、バンドン弁とスンダ文化の香りが強い傑作。『Habibie & Ainun』三部作(2012年、2016年、2019年)は第3代大統領B.J.ハビビ氏(1936-2019年)と妻アイヌン氏の実話で、歴史とロマンスを同時に味わえます。


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