オランダ文学で上級オランダ語を鍛える|Harry MulischからMarieke Lucas Rijneveldまで

文学作品は語彙の宝庫であり読解力の試金石

上級オランダ語に到達するには、文学作品を原書で読むのがやはり近道です。オランダ語の現代文学はノーベル賞こそまだ出ていませんが、ブッカー国際賞を2020年に受賞したMarieke Lucas Rijneveldのような才能が次々に現れています。ここでは、どの順番で、どこで入手し、どの辞書を併用すべきかを私自身の読書体験に基づいて具体的に紹介します。

戦後オランダ文学の巨人|Harry Mulisch、Gerard Reve、Willem Frederik Hermans

De grote drie(御三家)と呼ばれるHarry Mulisch(1927-2010)、Gerard Reve(1923-2006)、Willem Frederik Hermans(1921-1995)は避けて通れません。Mulischの代表作De aanslag(1982年、De Bezige Bij出版、Amsterdam Van Miereveldstraat本社)は、1945年ハールレムの実話を基にした短編小説で、オランダ文学読解の王道として多くの大学で教材になっています。De Bezige Bijは1942年レジスタンス運動の一環として設立されました。

Reveの『De avonden』(1947年)はFrits van Egters青年の10日間を描いた戦後文学の金字塔で、2016年にPuschkin Pers社のSam Garrett英訳版がTimes Literary Supplementで絶賛されました。Hermansの『De donkere kamer van Damokles』(1958年、Van Oorschot出版)は第二次大戦下のレジスタンスとアイデンティティを問う傑作で、SchiedamとHaarlemが舞台です。

現代の注目作家|Marieke Lucas RijneveldとConnie Palmen

Marieke Lucas Rijneveld(1991年Nieuwendijk生まれ)は2018年のデビュー長編De avond is ongemak(Atlas Contact出版、オランダ語版)でANV Debutantenprijs受賞、英訳The Discomfort of Evening(Michele Hutchison訳、Faber & Faber刊2020年)でInternational Booker Prizeを史上最年少で受賞しました。聖書の引用や家畜業の語彙が多く、C1レベルの読解力が必要です。Connie Palmen(1955年Sint Odiliënberg生まれ)はDe wetten(1990年、Prometheus出版)でAmsterdam知識人の世界を描き、夫Ischa Meijerの死をめぐる回想録I.M.(1998年)も定番作です。

ノンフィクションとジャーナリズム|Geert MakとRutger Bregman

文学小説が重すぎるなら、ジャーナリスティックなノンフィクションから入る手もあります。Geert Mak(1946年Vlaardingen生まれ)のIn Europa(2004年、Atlas出版)は20世紀ヨーロッパを旅する壮大なルポで、VPROテレビ版も制作されました。Amsterdam jordaan地区の歴史を描いたDe eeuw van mijn vader(1999年)は彼自身の家族史でもあります。Rutger Bregman(1988年Westerschouwen生まれ)のDe meeste mensen deugen(De Correspondent出版、2019年)は性善説の現代的再構築で、英訳Humankindで世界的ベストセラーになりました。De Correspondentは2013年Rob Wijnberg創設のクラウドファンディング型ジャーナリズム媒体です。

詩|Lucebert、Rutger Kopland、Ramsey Nasr

詩は短くて挑戦しやすい文学形式で、語彙を凝縮した形で学べます。Lucebert(1924-1994、本名Lubertus Jacobus Swaanswijk)はde Vijftigers運動の中心で、Amsterdam在住時代の詩は戦後モダニズムの代表です。Rutger Kopland(1934-2012、本名Rudi van den Hoofdakker)はGroningen大学精神医学教授でもあり、自然描写の美しい詩を残しました。Ramsey Nasr(1974年Rotterdam生まれ)はDichter des Vaderlands(国民詩人)を2009-2013年に務めました。

入手方法|Athenaeum、Librairie Kramerとオンライン古書店boekwinkeltjes.nl

オランダ在住ならAmsterdamのSpui広場にあるAthenaeum Boekhandel(1966年創業)が文学書の品揃えで定評があります。Den Haagなら1839年創業のGinsberg & Co近くのLibrairie Kramer、Utrechtは1851年創業のBroese Boekverkopersが老舗です。古書はboekwinkeltjes.nl(オランダ最大の古書オンラインプラットフォーム)で安く手に入り、De avondenのペーパーバックが2〜5ユーロで見つかることもあります。日本からはAmazon.nlから国際発送するか、紀伊國屋書店WebStoreで取り寄せます。電子書籍はbol.comのebook storeかKobo Nederlandが定番です。

読書の進め方|週1冊ペースより月1冊で深く読む

私の体感では、オランダ文学は月1冊ペースで辞書を引きながら丁寧に読むのが効果的です。Kindleの辞書機能にVan Dale Pocketwoordenboek辞書を入れておくと、長押しで語義がすぐ出ます。読書記録はGoodreadsのオランダ語版か、De Bezige Bijの公式アプリで管理すると、次に読むべき本が自動で提案されます。章ごとにA4ノートに10個ずつ新出語をメモして、翌日Anki入力する習慣をつけると語彙が定着します。

文学賞と書評|Libris Literatuur Prijs、P.C. Hooft-prijs、NRCとde Volkskrant書評欄

新刊選びの羅針盤として、文学賞をフォローすると外れが少ないです。Libris Literatuur Prijs(1994年創設、書籍チェーンLibrisが毎年5月に発表、賞金5万ユーロ)はオランダ語圏最大級の文学賞で、近年の受賞作にSander Kollaard「Uit het leven van een hond」(2020年)、Oek de Jong「Zwarte schuur」(2022年)などがあります。Belgium側のLibris ShortlistにはBart Van Loo(1973年Geel生まれ、Atlas Contact)の歴史ノンフィクション「De Bourgondiërs」(2019年)も含まれました。オランダ語文学の最高権威はP.C. Hooft-prijs(1947年創設、政府文化省提供)で、Hugo Claus(1994年、Vlaams作家)、Hella Haasse(1984年)、Cees Nooteboom(2004年)などが受賞しています。

日々の書評情報源

NRC Handelsblad(1970年創刊、Rotterdam本社、Mediahuis傘下)の土曜版Boekenビジュアル、de Volkskrant(1919年創刊、DPG Media傘下)の金曜書評欄、そしてDe Groene Amsterdammer(1877年創刊の週刊誌、Amsterdam Weteringschans 259)の文芸欄は信頼できます。ラジオではNPO Radio 1のOVT(オランダ歴史番組、VPRO/NTR制作、日曜10時)で文学作品が頻繁に紹介されます。

やさしい入門|Arnon GrunbergとTommy Wieringa

最初に挑む一冊としては、Arnon Grunberg(1971年Amsterdam生まれ、現在NY在住)のBlauwe maandagen(1994年、Nijgh & Van Ditmar)が短く読みやすくおすすめです。Tommy Wieringa(1967年Goor生まれ、Texel島在住)のJoe Speedboot(2005年、De Bezige Bij)はSchepp県を舞台にした青春小説で、Libris Literatuur Prijsのshortlistにも選ばれました。どちらもC1にいきなり飛ばすよりB2後半での移行期に最適です。

Wieringaの後期作Dit zijn de namen(2012年、De Bezige Bij、Libris Literatuur Prijs受賞)も移民と国境をテーマにした印象深い一冊です。

また戦時下の古典Het Achterhuis(アンネ・フランクの日記、1947年Contact出版)はオランダ語原文でB2レベルから読める貴重な一次資料で、Amsterdam Prinsengracht 263-267の隠れ家でしたためられた原稿そのものです。

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