オランダ語の人事と労務 採用から退職までの実務用語
オランダで働く、あるいはオランダ企業と取引する際に避けて通れないのが人事・労務(HR: human resources、オランダ語ではpersoneelszaken)の領域です。オランダの労働法はEU加盟国の中でも労働者保護が手厚いことで知られ、独自の雇用慣行が数多く存在します。ここではオランダの人事・労務に関するオランダ語表現を体系的に学びましょう。
採用と雇用契約
求人と選考プロセス
求人はvacature、求人広告はpersoneelsadvertentie、応募はsollicitatie、履歴書はcv(curriculum vitae)、志望動機書はmotivatiebrief(モティファーティーブリーフ)と言います。オランダの採用プロセスではmotivatiebrief(志望動機書)がcvと同等以上に重視される点が特徴的です。
人材紹介会社はuitzendbureau(派遣会社)またはwervings- en selectiebureau(人材紹介会社)と呼ばれます。Randstad(1960年アムステルダム創業、創業者Frits Goldschmeding、1933年生まれ)は世界最大級の人材サービス企業に成長しました。Adecco Nederland、ManpowerGroup Nederland、YoungCapital(2000年設立、アムステルダム)も主要プレイヤーです。
雇用契約の種類
オランダの雇用契約にはarbeidsovereenkomst voor bepaalde tijd(有期雇用契約)とarbeidsovereenkomst voor onbepaalde tijd(無期雇用契約、いわゆるvast contract)があります。オランダ労働法では有期契約は最大3回まで更新可能で、3年を超えると自動的に無期契約に転換されるketenregeling(チェーンルール)が適用されます。
試用期間はproeftijd(プルーフタイト)で、1年以上の有期契約では最大1か月、無期契約では最大2か月と法律で定められています。集団労働協約はcao(collectieve arbeidsovereenkomst)と呼ばれ、業界ごとにFNV(Federatie Nederlandse Vakbeweging、1976年設立、ユトレヒト)やCNV(Christelijk Nationaal Vakverbond、1909年設立)などの労働組合と使用者団体が交渉して締結します。
給与と福利厚生
給与体系
給与はsalaris、給与明細はloonstrook、総支給額はbruto loon、手取りはnetto loonです。オランダの最低賃金はminimumloon(ミニムムローン)として政府が半年ごとに改定し、2025年1月時点で21歳以上の時給は13.68ユーロです。Ministerie van Sociale Zaken en Werkgelegenheid(社会雇用省、ハーグ)が管轄しています。
前述のvakantiegeld(休暇手当、年間給与の8%、通常5月支給)に加え、13e maand(13か月目の給与=年末ボーナス)を支給する企業も多くあります。年金はpensioen(ペンシューン)で、オランダの年金制度は三層構造です。第一層がAOW(Algemene Ouderdomswet、一般老齢年金法、1957年施行)による基礎年金、第二層が企業年金(bedrijfspensioen)、第三層が個人年金(individueel pensioen)です。ABP(Algemeen Burgerlijk Pensioenfonds、1922年設立、ヘールレン)は公務員向け、PFZW(Pensioenfonds Zorg en Welzijn)は医療福祉分野の年金基金です。
休暇制度
オランダの法定有給休暇はwettelijke vakantiedagen(法定休暇日数)として、フルタイム勤務者で年間最低20日(週5日勤務の場合4週間分)が保障されています。多くの企業はこれに加えてbovenwettelijke vakantiedagen(法定超過休暇)を付与し、合計25-30日程度が一般的です。
病気休暇はziekteverlof(ジークテフェルロフ)で、オランダでは雇用主が最大2年間(104週間)にわたり給与の少なくとも70%を支払う義務があります。これはLoondoorbetalingsverplichting bij ziekte(疾病時賃金継続支払義務)と呼ばれ、EU加盟国の中でも最長の制度です。UWV(Uitvoeringsinstituut Werknemersverzekeringen、2002年設立、アムステルダム)が社会保険の執行機関として機能しています。
解雇と退職
解雇手続き
オランダの解雇法制はontslag(解雇)について厳格な規制を設けています。解雇にはUWVへのontslagvergunning(解雇許可)申請、またはkantonrechter(簡易裁判所判事)へのontbinding(解約)申立てが必要です。経済的理由による解雇(bedrijfseconomisch ontslag)はUWV経由、個人的理由(例えば能力不足disfunctioneren)は裁判所経由が原則です。
解雇時にはtransitie vergoeding(移行手当)の支払いが義務付けられています。2020年のWAB(Wet Arbeidsmarkt in Balans、労働市場均衡法)施行後、移行手当は勤続年数1年あたり月給の3分の1で計算されます。退職はpensioen(定年退職)またはvrijwillig ontslag(自主退職)で、退職届はontslagbrief(退職届)と呼ばれます。
労働紛争と相談窓口
労使紛争が発生した場合、まずbedrijfsarts(産業医)やvertrouwenspersoon(コンフィデンシャルアドバイザー)に相談することが推奨されます。ondernemingsraad(OR、従業員代表委員会)は従業員50人以上の企業に設置が義務付けられており、人事施策に対する助言権(adviesrecht)や同意権(instemmingsrecht)を持ちます。
外部相談窓口としてはJuridisch Loket(法律相談窓口、2006年設立、全国30か所以上)が無料法律相談を提供しています。労働法専門の弁護士事務所としてはRussell Advocaten(1983年アムステルダム設立)やVan Gelderen Arbeidsrechtadvocaten(アムステルダム)が知られています。Wetboek van Burgerlijke Rechtsvordering(民事訴訟法典)に基づく訴訟手続きも選択肢ですが、オランダではまずmediation(調停)やoverleg(協議)による解決が好まれます。
オランダの労働文化と多様性
ワークライフバランス
オランダはOECD Better Life Indexのワークライフバランス部門で常にトップクラスにランクされています。Wet flexibel werken(柔軟労働法、2016年施行)により、従業員はwerktijden(勤務時間)、werkplek(勤務場所)、arbeidsduur(労働時間数)の変更を雇用主に申請する権利を持ちます。コロナ禍以降、thuiswerken(在宅勤務)やhybride werken(ハイブリッド勤務)が急速に普及し、2022年にはWet werken waar je wilt(好きな場所で働く法)が成立しました。
育児休暇はouderschapsverlof(アウダスハップスフェルロフ)で、子供が8歳になるまで週労働時間の26倍の時間を取得できます。2022年8月からは最初の9週間について給与の70%がUWVから支給される有給化が実現しました。父親の出産休暇はgeboorteverlof(出産休暇)として、出産後1週間の有給休暇に加え、最大5週間のaanvullend geboorteverlof(追加出産休暇、UWVから給与の70%支給)が認められています。
多様性と包括性
オランダ企業ではdiversiteit en inclusie(D&I、多様性と包括性)への取り組みが進んでいます。2022年施行のWet ingroeiquotum en streefcijfers(成長割当法)により、上場企業の取締役会(raad van bestuur)と監査役会(raad van commissarissen)にジェンダーバランスの目標設定が義務付けられました。SER(社会経済評議会)がこの法律の進捗を監視しています。Sociaal en Cultureel Planbureau(SCP、社会文化計画局、1973年設立、ハーグ)は多様性に関する調査報告を定期的に発行しています。
また、外国人労働者向けにはkennismigrant(高度技能移民)ビザ制度があり、IND(Immigratie- en Naturalisatiedienst、移民帰化局、2002年設立)が審査を担当しています。30%-regeling(30%ルール)は海外から招聘された従業員の給与の30%を非課税とする優遇措置で、オランダの国際競争力を支える重要な制度として多くのexpat(駐在員)に利用されています。Belastingdienst(税務署)への申請が必要です。


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