クロアチアの首都ザグレブは、アドリア海の輝きに隠れがちですが、実は中欧の香りが最も濃く残る文化都市です。
石畳の旧市街、オーストリア・ハンガリー期の優美な建築、カフェ文化、そして学生街の活気――一週間かけてじっくり歩くと、この街の厚みに驚かされます。
この記事では、ザグレブを中心にクロアチア内陸部(Zagorje、Slavonija)まで足を延ばす旅のルートを紹介します。
ザグレブ――旧市街と新市街を歩き分ける
ザグレブは人口約76万人(2021年国勢調査)、中世の旧市街「Gornji grad(上町)」と19世紀以降の「Donji grad(下町)」が絶妙に重なる二重構造の都市です。
Gornji grad――石畳と司教区の中世
旧市街の中心は聖マルコ教会(Crkva svetog Marka)で、屋根のクロアチア国章とザグレブ市章のモザイクが象徴的です。
近くのLotrščak塔では毎日正午に大砲が鳴り、ザグレブ市民の生活のリズムを刻んでいます。
Tkalčićeva通りは旧市街随一のカフェ通りで、地元の若者がGornji gradの斜面を下りて集う社交場。
「Idemo na kavu na Tkalču.」はザグレブっ子の決まり文句です。
Donji grad――19世紀の都市計画
下町はレンガスキー広場(Lenuzzi lukovi)に沿って公園と博物館が直線状に配置され、建築家Milan Lenuci(1849-1924)の都市計画が今も息づいています。
クロアチア国立劇場(Hrvatsko narodno kazalište、1895年落成)は、ハプスブルク期ネオバロックの代表的建築。
夜のライトアップは写真映え抜群です。
Dolac市場と地元の食卓
Dolac市場は大聖堂の裏手にあり、赤い日傘がずらりと並ぶ屋外市場。
毎朝5時から地元農家が野菜・果物・花・チーズを並べ、10時ごろまでが最も活気のある時間帯です。
市場2階のレストランAmforaでは、その日の魚介がそのまま料理に出てきます。
ザグレブの博物館と美術館
ザグレブには個性豊かな博物館が集中しており、丸一日を美術館巡りに使っても飽きません。
失恋博物館(Muzej prekinutih veza)
2010年に開館した世界でただひとつの失恋専門博物館。
世界中から寄せられた「別れの遺品」が展示されており、2011年にヨーロッパ博物館大賞(European Museum of the Year Award)のKenneth Hudson賞を受賞しました。
入場料約7ユーロ、旧市街中心のCirilometodska通り2番地に位置します。
Mimara美術館
ザグレブ出身の実業家Ante Topić Mimara(1898-1987)のコレクションを基礎にした総合美術館。
ヨーロッパ絵画からエジプト・中東美術まで、幅広い時代と地域の作品が並びます。
Nikola Tesla技術博物館
発明家Nikola Tesla(1856-1943)の誕生地クロアチアらしく、その発明の再現実験が見学できる技術博物館。
子ども連れにも人気で、平日午後はスクールツアーでにぎわいます。
ザグレブ近郊――Zagorje地方
ザグレブから車で1時間圏内のZagorje(ザゴリェ)地方は、緑の丘と温泉が連なるのどかな田園地帯です。
Krapina――ネアンデルタール博物館
Krapina町には世界最大級のネアンデルタール人化石出土地があり、2010年に開館した博物館では実物大の展示がショーとして楽しめます。
ザゲブから電車で約1時間、入場料約8ユーロ。
Trakošćan城
13世紀創建の城で、19世紀に現在のネオゴシック様式に改築されました。
湖に浮かぶように佇む姿は、Zagorje観光のハイライト。
城内は博物館になっており、当時の家具・武器・絵画が時代ごとに展示されています。
温泉リゾート Tuheljske Toplice
Zagorje地方の温泉地として最大規模で、屋外プールと屋内スパが年間を通じて営業しています。
ザグレブから日帰りで行ける保養地として、地元住民にも人気です。
Slavonija地方――内陸の穀倉地帯
クロアチア東部のSlavonija(スラボニア)は観光客が少ない穴場で、日本人にはほぼ未開拓のエリアです。
Osijek――ハプスブルクの要塞都市
Drava川沿いの要塞都市Osijekは、18世紀のハプスブルク帝国の要塞Tvrđaが今も残り、ネオバロックの中央広場が美しい。
人口約10万人、クロアチア第4の都市で、内陸ビール文化の中心地でもあります。
地元ブランドOsječko pivoは1697年創業と中欧でも有数の歴史を誇ります。
Kopački rit自然公園
OsijekからDrava川下流に広がる湿地帯で、ヨーロッパ屈指のバードウォッチングスポット。
1999年にラムサール条約湿地に登録され、約290種の鳥類が観察できます。
Ilok――ワインと中世城塞
クロアチア最東端の町Ilokは、Fruška goraワイン産地の西端に位置し、中世の城塞と修道院が残ります。
Traminacという白ワインが有名で、エリザベス女王2世の戴冠式にも献上された記録があります。
ザグレブの食――カフェと国民食
ザグレブを歩くなら、食の文化を理解しないと半分しか楽しめません。
朝のカフェ
クロアチア人にとってカフェは単なる飲食店ではなく社交場。
朝10時ごろのTkalčićeva通りは、コーヒーとクロワッサンを前に新聞を読む常連客で埋まります。
「Jedna kava s mlijekom, molim.(ミルク入りコーヒーをひとつ、お願いします)」が最初の一言。
国民食 štrukli
Zagorje地方発祥の伝統料理štrukliは、薄いパイ生地にチーズを包んで焼き上げた料理で、ザグレブの老舗La Štruk(Skalinska通り)で食べられます。
温かいバージョンとデザート版があり、どちらも一度は試す価値があります。
国民的ファストフード burek
チーズか挽肉を包んだパイburekは、ザグレブの学生街Savskaで朝食や深夜食として広く愛されています。
1個2〜3ユーロと手頃で、旅行中の非常食にも便利です。
移動と宿泊のコツ
内陸の旅は公共交通と車の使い分けがポイントです。
鉄道
ザグレブからKrapina・Osijek方面へはHŽ Putnički prijevozの鉄道が運行しています。
所要時間は目的地によって異なりますが、Osijekまで片道約4時間、Krapinaまで約1時間です。
長距離バス
FlixBusとArriva Croatiaが主要路線を押さえており、鉄道より速く安いケースも多いです。
オンライン予約が確実で、プリント不要のQRコード発券が主流です。
レンタカー
Zagorjeの田園地帯を巡るなら、車が最も便利。
ザグレブ国際空港でSixt・Europcar・Avisなど主要レンタカー会社が揃っており、1日50〜80ユーロ前後。
宿泊
ザグレブ市内は中級ホテル、ゲストハウス、アパートメントの選択肢が豊富。
Booking.comで中心地のアパートメントが1泊60〜120ユーロから見つかります。
まとめ――海の手前にある宝物
多くの旅行者はドブロブニクやスプリットに直行してしまいますが、ザグレブと内陸部を通り過ぎるのはもったいない話です。
中世の石畳、19世紀の広場、田園の温泉、東端のワイナリー――どれもクロアチアの違った顔を見せてくれます。
海の前に、まず内陸で「この国の奥行き」を味わってみませんか。
季節ごとの魅力
内陸クロアチアは季節によって顔を変えます。
春(4〜5月)
Zagorjeの丘陵が新緑に染まり、公園のマグノリアと桜が同時に咲きます。
ザグレブのZrinjevac公園では毎年「Prvi cvjetovi(最初の花々)」イベントが開催され、クラシックコンサートと花壇デザインの展示が楽しめます。
夏(6〜8月)
ザグレブ夏祭り(Zagrebačko ljeto)が7〜8月に行われ、旧市街が野外演劇と音楽に包まれます。
暑さはアドリア海沿岸ほどではなく、夜は過ごしやすい気温です。
秋(9〜10月)
Slavonija地方のぶどう収穫祭(Vinkovačke jeseni)は毎年9月開催で、民族衣装のパレードと郷土料理の屋台が出ます。
Krapina近郊ではきのこ狩りの季節でもあり、地元レストランのメニューに季節限定の料理が並びます。
冬(11〜2月)
ザグレブのクリスマス市(Advent u Zagrebu)は、2016-2018年に3年連続で「ヨーロッパ・ベスト・クリスマスマーケット」に選ばれた観光資源です。
ホットワイン(kuhano vino)と揚げドーナツ(krafne)の屋台が旧市街のあちこちに並び、日本の寒さに慣れた旅行者にもちょうどいい気候です。
必須フレーズ10選
最後に、ザグレブ散策で使いたい10のフレーズを置いておきます。
「Dobar dan.」(こんにちは)/「Hvala lijepa.」(ありがとう)/「Molim vas, gdje je…?」(すみません、どこですか)/「Koliko košta?」(いくらですか)/「Jedan espresso, molim.」(エスプレッソ1つ)/「Može račun, molim?」(お会計お願いします)/「Ne razumijem.」(わかりません)/「Govorite li engleski?」(英語話せますか)/「Ja sam iz Japana.」(日本から来ました)/「Doviđenja!」(さようなら)。


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