シチリアはギリシャ、ローマ、アラブ、ノルマン、スペインの支配を受けた歴史から、イタリア語の方言と語彙がきわめて豊かな土地です。この記事では Palermo、Catania、Siracusa、Taormina、Agrigento を中心に、言葉と旅を両立させるルートをご紹介します。筆者は3度訪れ、そのたびに新しい表現と料理名を持ち帰っています。
Palermo で始めるシチリア
Mercato di Ballaro と Vucciria
Palermo 旧市街の Mercato di Ballaro は早朝6時から14時頃まで開く青空市場で、魚屋の掛け声「Vivu! Vivu!」(生きてる生きてる) が飛び交います。siciliano の発音は標準イタリア語とかなり違い、「bello」が「beddu」、「quello」が「chiddu」になります。観光客には標準語で対応してくれるので心配はいりません。arancina (ご飯のコロッケ)、panelle (ひよこ豆のフリット)、sfincione (厚焼きピザ) など、Palermo ならではの語彙を看板で覚えましょう。
Cappella Palatina と Duomo di Monreale
Palazzo dei Normanni 内の Cappella Palatina は1140年に Ruggero II が造らせた礼拝堂で、アラブ・ノルマン・ビザンチン様式が融合した金色モザイクで埋め尽くされています。入場料19ユーロ、日曜午前は宗教行事のため見学不可です。郊外の Monreale の Duomo (1174年着工) は UNESCO 世界遺産で、旧約聖書の物語が描かれた6500平米のモザイクは圧巻です。バスで中心部から約40分、片道1.8ユーロです。
Catania と Etna
Piazza del Duomo と黒い街並み
Catania は Etna 火山の玄武岩を使った黒い街並みが特徴で、Piazza del Duomo の中央には象の噴水 Fontana dell Elefante (1736年、Giovanni Battista Vaccarini 設計) が立ちます。Cattedrale di Sant Agata (1078年創建、1711年再建) では聖アガタ祭 (2月3日から5日) が盛大に行われ、地元の人々は「Cittadini! Cittadini! Semu tutti devoti tutti?」と連呼します。
Etna に登る
標高3357メートルの Etna はヨーロッパ最大の活火山で、2013年に UNESCO 世界遺産に登録されました。Rifugio Sapienza (標高1910メートル) まで AST のバスで Catania から片道6.6ユーロ、そこから Funivia dell Etna のロープウェイで2500メートルまで上がれます。往復65ユーロ、4WD ガイドツアー込みの山頂コースは110ユーロ前後。vulcano、cratere、colata lavica、eruzione といった語彙が現場で生きたものになります。
Siracusa と Ortigia
Siracusa の歴史中心 Ortigia 島は、紀元前734年にコリントスからの入植者が築いたギリシャ都市です。Piazza del Duomo の Cattedrale は7世紀に Atena 神殿の柱をそのまま取り込んで建てられており、神殿とキリスト教会の融合が壁面に刻まれています。Teatro Greco (紀元前5世紀) では毎年5月から7月に古典劇上演が行われ、観劇チケットは25ユーロから。Fonte Aretusa の泉はピンダロスの詩にも歌われ、地中海で唯一パピルスが自生する場所です。
Taormina と Agrigento
Taormina の Teatro Antico
Taormina は紀元前3世紀にギリシャ人が築いた街で、Teatro Antico di Taormina からは Etna と Ionio 海の絶景が一望できます。入場料14ユーロ。Corso Umberto の目抜き通りには Bar Vitelli (映画「Il Padrino」1972 のロケ地) があり、Francis Ford Coppola (1939-) の自筆サインが飾られています。毎年夏の Taormina Film Fest (6月) では国際映画人が集まり、シチリア方言とイタリア語のインタビューを生で聴けます。
Valle dei Templi di Agrigento
Agrigento 郊外の Valle dei Templi は紀元前5世紀のギリシャ神殿群で、1997年に UNESCO 世界遺産に登録されました。Tempio della Concordia (紀元前440年頃) は古代ギリシャ建築の中でも最良の保存状態を誇ります。入場料15ユーロ、夕方からの照明ツアーは幻想的です。作家 Luigi Pirandello (1867-1936) の生家もここ Agrigento 近郊 Caos にあり、記念館で直筆原稿を見られます。
シチリアの味と言葉
Cannolo、Cassata、Granita
cannolo はリコッタチーズを詰めた揚げ菓子で、Palermo 市内の Pasticceria Cappello (Via Colonna Rotta 68, 1940年創業) は絶品で知られます。cassata は13世紀アラブ時代に起源を持つ砂糖漬けフルーツのケーキ。granita alla mandorla (アーモンドのかき氷) は朝食に brioche col tuppo (頭の付いたブリオッシュ) と一緒に食べるのがシチリア流です。Catania の Pasticceria Savia (Via Etnea 300, 1897年創業) では arancino と granita の組み合わせが定番です。
siciliano と映画
シチリア方言を耳に入れるなら、Andrea Camilleri (1925-2019) 原作の Commissario Montalbano シリーズ (RAI 1999年放送開始) が最適です。主人公の刑事は標準語とシチリア語を混ぜて話し、字幕付きで観れば方言の特徴をつかめます。映画では「Nuovo Cinema Paradiso」(1988、Giuseppe Tornatore 監督) と「Il Gattopardo」(1963、Luchino Visconti 監督、原作は Tomasi di Lampedusa 1896-1957) がシチリアの言葉と風景を味わえる古典です。
移動とモデルルート
シチリアは広いので、Palermo、Catania、Siracusa の3都市を最低7日で回るのが現実的です。鉄道は Trenitalia Regionale が基本で、Palermo から Catania まで約3時間、片道13.5ユーロ。レンタカーなら A19 Palermo-Catania 高速道路を使って2時間半で移動できます。空港は Palermo Falcone-Borsellino (PMO) と Catania Fontanarossa (CTA) が主要で、ローマから片道1時間。観光シーズンは5月、6月、9月がおすすめで、7月から8月は40度近くなり観光に向きません。旅の会話に「Quant e lontano?」(どれくらい遠い?)、「A che ora parte il treno?」(列車は何時発?)、「Mi puo consigliare un ristorante?」(お勧めのレストランは?) といった定番表現を準備しておくと安心です。
Siracusa の Ear of Dionysius と Museo Archeologico Paolo Orsi
Parco Archeologico della Neapolis 内の Orecchio di Dionisio (ディオニュシオスの耳) は、Caravaggio (1571-1610) が1608年に命名したと伝えられる巨大な石灰岩の洞窟で、内部で話した声が外に漏れる音響で知られます。公園入場料17ユーロ。近くの Museo Archeologico Regionale Paolo Orsi (Viale Teocrito 66) はシチリア最大の考古学博物館で、先史時代から中世までのコレクションを所蔵し、入場料8ユーロです。館内パネルはイタリア語と英語の併記で、reperto、vasellame、necropoli といった考古学語彙の学習にぴったりです。
Modica と Noto のバロック建築
Siracusa から南西に約1時間の Val di Noto (1693年の大地震後に再建された8都市) は UNESCO 世界遺産で、Noto、Modica、Ragusa、Scicli がシチリア・バロックの宝庫です。Modica は1880年以降のチョコレートで有名で、Antica Dolceria Bonajuto (Corso Umberto I 159, 1880年創業) ではアステカ方式の冷製粉砂糖チョコレートを味わえます。barocco、facciata、volute、cornicione といった建築語彙が街歩きの中で身に付きます。


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