ポルトガル語の名詞は、すべて男性か女性のどちらかの性を持ちます。
英語から入った学習者にとっては、いきなり最大の壁になる要素です。
この記事では、性の見分け方と冠詞の使い分けを、筆者の失敗談も交えて整理します。
名詞の性を見分ける
語尾で判断できるパターン
まず覚えるべきは、-o で終わる名詞はほぼ男性、-a で終わる名詞はほぼ女性という大原則です。
livro(本)は男性、casa(家)は女性、carro(車)は男性、mesa(机)は女性という具合にきれいに分かれます。
筆者も最初の一か月はこの単純な原則だけで乗り切りました。
-agem 系は女性
-agem で終わる名詞は、ほぼ例外なく女性です。
viagem(旅行)、garagem(ガレージ)、imagem(画像)などが代表例です。
-ção 系も女性
-ção で終わる抽象名詞も女性です。
nação(国家)、educação(教育)、informação(情報)は、英語の -tion 系列に対応するので、意味も予想しやすいはずです。
例外にだけは注意
やっかいなのは、-ema で終わる単語です。
problema(問題)、sistema(システム)、tema(テーマ)は語尾が -a なのに男性名詞です。
ギリシア語起源の単語で、この一群だけは例外として丸暗記するしかありません。
筆者も o problema を a problema と間違えてブラジル人講師に笑われた経験があります。
定冠詞と不定冠詞
定冠詞 o と a
ポルトガル語の定冠詞は、男性単数 o、女性単数 a、男性複数 os、女性複数 as の四つです。
英語の the に相当しますが、使用範囲はずっと広いです。
国名にも o Japão、o Brasil、a França、a Alemanha のように定冠詞をつけます。
例外は Portugal で、ここだけは冠詞をつけないのが習慣です。
名前にも冠詞がつく
ブラジル口語では、人名にも定冠詞をつけることが珍しくありません。
O João chegou.(ジョアンが着いた)、A Maria ligou.(マリアが電話してきた)のように自然に使います。
筆者は最初これを見たとき、誰か特定の有名人の話をしているのかと勘違いしました。
不定冠詞 um と uma
不定冠詞は男性単数 um、女性単数 uma、男性複数 uns、女性複数 umas です。
英語の a/an に相当しますが、複数形があるのがポルトガル語の特徴です。
uns amigos(何人かの友人たち)、umas perguntas(いくつかの質問)のような「ちょっと」「いくつかの」に近い意味で使われます。
前置詞と冠詞の融合
de と冠詞の合体
ポルトガル語特有のクセとして、前置詞が冠詞と融合してひとつの単語になる現象があります。
de + o は do、de + a は da、de + os は dos、de + as は das のように変化します。
o livro do João(ジョアンの本)、a casa da Maria(マリアの家)のように、ほぼ毎文で登場します。
em と a も同じ仲間
em(に、で)も同じように変化します。
em + o は no、em + a は na、複数形は nos、nas となります。
no Brasil(ブラジルで)、na casa(家で)、nos livros(本の中に)のセットで覚えると頭に入ります。
前置詞 a(〜へ)も a + o で ao、a + a で à(アクセント付き)となります。
複数形の作り方
基本は -s をつけるだけ
多くの名詞は、語尾に -s をつければ複数形になります。
livro → livros、casa → casas、carro → carros のように、英語とほぼ同じ感覚で問題ありません。
語尾が子音なら -es
語尾が子音で終わる名詞は、-es をつけて複数形を作ります。
flor → flores、país → países、mulher → mulheres のような変化です。
-ão 系は三パターン
最もやっかいなのが -ão で終わる名詞です。
pão(パン)は pães、mão(手)は mãos、coração(心)は corações となり、単語ごとに複数形が違います。
残念ながら一貫した規則がないため、使用頻度の高いものから一つずつ覚えるのが近道です。
筆者のおすすめ暗記リスト
筆者は pão/pães、irmão/irmãos、mão/mãos、cão/cães、nação/nações の五つを最初に丸暗記しました。
この五つを覚えると、新しい -ão 名詞が出てきたときに、似た形の単語を手掛かりにパターンを推測できるようになります。
形容詞の性数一致
ポルトガル語の形容詞は、修飾する名詞の性と数に合わせて語尾が変化します。
bonito(ハンサム・男性単数)、bonita(美しい・女性単数)、bonitos(男性複数)、bonitas(女性複数)の四形が基本です。
o carro bonito(かっこいい車)、a casa bonita(美しい家)のように、名詞の性に合わせて語尾が変わります。
共通形の形容詞
一方で、-e や子音で終わる形容詞は、性による区別がありません。
inteligente(賢い)、feliz(幸せな)、fácil(簡単な)は、男性名詞にも女性名詞にもそのままで使えます。
o menino inteligente、a menina inteligente のように、語尾を変えずに済むので、まずはこちら系の形容詞から覚えるのが楽です。
学習の進め方
最初の一か月
最初の一か月は、語尾が -o と -a の名詞だけを意識すれば十分です。
例外の -ema 系は覚えた瞬間からカウントすればよく、完璧を狙わないのがコツです。
二か月目以降
二か月目からは、前置詞と冠詞の融合(do、da、no、na)を会話に意識的に取り入れていきます。
筆者は Anki(2006年リリース、Damien Elmes 作)でカード表面に例文、裏面に意味を書いて毎日15分回しました。
一か月で o carro da Maria のような所有表現が自然に口をつくようになります。
文法書のすすめ
体系的に学びたい人には、Modern Portuguese: A Reference Grammar(Mário A. Perini 著、2002年 Yale University Press 刊)が定番です。
ブラジル系の文法事象がていねいに解説されており、中上級に進んでも役立ちます。
よくある質問
dia はなぜ男性名詞なのか
dia(日)は -a で終わるのに男性名詞です。
これはラテン語 dies(男性名詞)に由来するためで、ロマンス語全体に共通するルートです。
bom dia(おはよう)を覚えるときに、形容詞 bom が男性形であることを手掛かりにセットで覚えてしまいましょう。
mão はなぜ単数 -ão なのに複数 -ãos なのか
mão の複数形 mãos は、古ポルトガル語で mãõs と書かれていた名残です。
語源まで遡ると面白い発見があるので、余裕が出てきたら語源辞典 Dicionário Houaiss da Língua Portuguesa(2001年、Rio de Janeiro 刊)を一冊手元に置くのも楽しみが増えます。
補足 性のない代名詞
最後にひとつ補足です。
isto、isso、aquilo という中性指示代名詞は、性を持ちません。
O que é isto?(これは何ですか)は、対象が男性でも女性でも使える便利な表現なので、性がわからないときの逃げ道として覚えておくと安心です。
isto は近くのもの、isso は相手の近くのもの、aquilo は両者から離れたものに対応します。
指で示しながら使えば、語彙が足りないときでも会話を繋げられます。
筆者も最初のリスボン滞在では、カフェで指さしながら isto, por favor と言うだけで乗り切った日があります。
実例で覚える名詞の性
家の中の単語
日常的によく使う家の中の単語を性別に並べて覚えると効率的です。
男性名詞の代表例は o quarto(部屋)、o banheiro(トイレ)、o sofá(ソファ)、o quadro(絵)、o armário(戸棚)です。
女性名詞の代表例は a cozinha(台所)、a sala(居間)、a cama(ベッド)、a cadeira(椅子)、a janela(窓)です。
五つずつ覚えれば、家の中の会話はほぼ回せるようになります。
食べ物の単語
食卓の名詞は男女が入り混じるので注意が必要です。
o arroz(米)、o feijão(豆)、o pão(パン)、o queijo(チーズ)は男性名詞です。
a carne(肉)、a fruta(果物)、a salada(サラダ)、a água(水)は女性名詞です。
ブラジルの定番ランチ arroz com feijão を注文できるようになれば、もう初級は卒業です。
街の単語
街を歩くときに使う単語も、性別を意識しておくとスムーズです。
o mercado(市場)、o banco(銀行)、o parque(公園)、o ônibus(バス)は男性名詞です。
a rua(通り)、a praça(広場)、a loja(店)、a estação(駅)は女性名詞です。
Onde fica a estação? のような基本の質問文が即座に出るようになります。


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