ポルトガル語を学び始めると誰もが通るのが「本国ポルトガル語とブラジルポルトガル語、どちらをやるべきか問題」です。
このページでは両バリエーションを切り替えながら学べる教材を紹介し、筆者が往復して感じた具体的な差異を整理します。
どちらか片方を選ぶ必要はなく、最終的には両方わかるようになるのが現実的な着地点だと感じています。
両バリエーションの全体像
話者数と地理
ポルトガル本国の話者は約1000万人、ブラジルは約2億1500万人、アンゴラ3600万人、モザンビーク3300万人と続きます。
数の上ではブラジルが圧倒的ですが、EU公用語としての地位は本国ポルトガル語が担っています。
アフリカの5カ国CPLP ポルトガル語諸国共同体 1996年 リスボン本部 では本国ポルトガル語系の正書法が公用語です。
正書法協定の現状
Acordo Ortográfico da Língua Portuguesa 1990年調印 2009年発効 は8カ国で署名され、2015年からブラジルで完全施行されました。
ポルトガルは2015年の移行期限後も出版界に異論が残っており、Público 紙 1990年創刊 は旧正書法を採用し続けています。
学習者はどちらを書いてもよい状況ですが、新しい教材はほぼ新正書法です。
ブラポルを学ぶための教材
総合教材
Bem-Vindo! A Língua Portuguesa no Mundo da Comunicação SBS Editora 1998年 São Paulo Rua Dr. Eduardo de Souza Aranha 162 は、ブラジル発の定番PLE教材です。
A1からB2までの4冊構成で、サンパウロを中心とした文化情報が豊富に詰まっています。
Estação Brasil Pontes Editores 2013年 Campinas は2015年改訂版以降、現在進行形として使える教材です。
発音と音声
ブラジルポルトガル語はdi・ti が「ジ・チ」に近く、語末のlが「ウ」音化します。
Pronuncing Brazilian Portuguese Robert Nobile 2012年 は英語話者向けですが、音声変化の説明が丁寧です。
本国ポルトガル語を学ぶための教材
総合教材
Português XXI Ana Tavares Lidel 2003年初版 は本国PLEの定番で、A1からB2までの3冊構成です。
リスボンを舞台にした会話と、ポルトガル全土の地域文化情報が組み込まれています。
Aprender Português Carla Oliveira Lidel 2006年 は会話重視で、口語の縮約形を早い段階から扱うのが特徴です。
発音と音声
リスボン訛りは母音消失と「sh」化が激しく、最初は「音がぶつ切り」に聞こえます。
Pronunciar em Português Europeu Helena Bárbara 2010年 Lidel は母音の強弱アクセントを扱った音声教材です。
両方を比較する専門書
言語史から見た比較
Fernando Venâncio 1944 アムステルダム大学 の O Português numa Perspectiva Românica 2019年 Guerra e Paz 出版 リスボン は、両バリエーションの差をロマンス諸語の歴史から説明する一冊です。
O Nome e a Forma 2010年 Edições Colibri も同じ著者の著作で、語源からのアプローチが鋭いです。
語彙差の辞典
Dicionário de Diferenças entre o Português Europeu e o Português do Brasil Brasil Brasília Academia 2018年 は、「comboio 本国/trem ブラジル」のような語彙差を約3000項目収録しています。
「rapariga 本国: 若い女性/ブラジル: 売春婦」のような地雷語は必ず押さえておきたい情報です。
文法差の専門書
Ivo Castro 1945 リスボン大学 の Introdução à História do Português 2006年 Edições Colibri は、両バリエーションの分岐時期と要因を歴史的に追った学術書です。
読了すると「なぜ発音と代名詞配置がこれほど違うのか」が腑に落ちます。
具体的な差異の実例
日常語彙の違い
バス「autocarro 本国/ônibus ブラジル」、携帯電話「telemóvel 本国/celular ブラジル」、トイレ「casa de banho 本国/banheiro ブラジル」のような差は頻度が高いので最初に覚えます。
朝食「pequeno-almoço 本国/café da manhã ブラジル」、アイスクリーム「gelado 本国/sorvete ブラジル」も旅行レベルで必須です。
動詞の違い
「trabalhar で働く 本国: em/ブラジル: para」「esperar 待つ 本国: por/ブラジル: 直接目的語」のような語法差があり、Dicionário de Regências Verbais Celso Pedro Luft 1921-1995 で補強できます。
丁寧表現の違い
本国では「você」は目上に失礼となる場合があり、「o senhor / a senhora」や名前呼びが無難です。
ブラジルの「você」は英語の you 相当で、目上にも普通に使えます。
どちらから学ぶべきか
目的別の指針
仕事・移住・留学でブラジル志向が強いならブラジルから、ヨーロッパ旅行や大学留学で本国志向ならポルトガルから入るのが合理的です。
筆者はポルトガル本国から入って、2年目にブラジルに切り替える逆輸入ルートでした。
切り替えの方法
発音と語彙の2点を集中的に切り替えれば、文法は大部分そのまま流用できます。
Globoplay 2015年 のドラマを2ヶ月浴びると、耳はブラジル側にかなり寄せられます。
アフリカのポルトガル語
アンゴラとモザンビークの特徴
アンゴラのポルトガル語は Luanda を中心に独自のリズムを持ち、キンブンド語からの借用語が多く含まれます。
モザンビークのポルトガル語はスワヒリ語・マクア語の影響を受け、発音が本国寄りでありながら語彙は独自色が強いです。
参考教材
O Português de Angola Margarita Correia 2012年 Lidel は、アンゴラ特有の語彙と文法特徴をまとめた稀少な一冊です。
Pepetela 1941 Luanda の A Geração da Utopia 1992年 は、アンゴラ口語の再現が読める文学の傑作です。
Mia Couto 1955 Beira 出身 の Terra Sonâmbula 1992年 は、モザンビーク風ポルトガル語の豊かな文体が味わえます。
筆者の両立学習ログ
1年目はPortuguês XXI でリスボン訛りを仕込み、毎朝 RTP1 のTelejornal を聞き流しました。
2年目の中盤からGloboplay でアヴェニーダ・ブラジルを見始め、耳と口をブラジル側に寄せていきました。
3年目にはCelso Cunha の文法書で代名詞位置の差を整理し、翻訳案件ごとに本国・ブラジルを切り替えられるようになりました。
両方学ぶと、それぞれの個性がくっきり見えてきて、二度おいしい気分を味わえます。
語学学校という選択肢
リスボン
CIAL Centro de Línguas 1959年創業 Av. da República 41 リスボン は本国ポルトガル語の老舗です。
Lusa Language School 2001年設立 Rua Rodrigues Sampaio 69 は筆者の滞在時に通った場所で、1週間220ユーロの集中コースでした。
サンパウロとリオ
Diálogo Cursos de Português 1992年設立 Salvador Bahia はバイア中心でブラジル文化も同時に学べます。
Casa do Caminho Language Centre Rio de Janeiro 2004年 はリオの景色と一緒に学びたい方におすすめです。
学習者コミュニティと情報源
日本国内
東京外国語大学ポルトガル語専攻は1916年設立で、国内最古のポルトガル語研究拠点です。
上智大学ポルトガル語学科 1979年設立 千代田区紀尾井町7-1 は、本国ポルトガル語とブラジルポルトガル語を両立カリキュラムで扱っています。
日本ポルトガル語学会 1986年設立 は年次大会を開いており、学習者も参加可能です。
オンラインフォーラム
Reddit の r/Portuguese 15万人 では「どちらから学ぶべきか」議論が常に走っており、参加すると立場の違いがよく見えます。
Discord のPortuguese Language Exchange 2000人規模 は本国・ブラジル両チャンネルが分かれており、狙って練習できます。
筆者もここまでくると、両方を一度に学んでおくと3年目以降の語学人生の自由度が跳ね上がると言い切れます。


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