ポルトガル語の中上級者が最後にぶつかる壁は、接続法・前置詞語法・コロケーションの3点セットです。
このページでは、この3領域に特化した教材を実例付きで紹介します。
筆者もB1からB2に上がる過程で半年ほど足踏みしたテーマなので、躓きポイントを踏まえて案内します。
接続法 conjuntivo に特化した教材
基礎固めの一冊
Modo Conjuntivo Lidel Edições Técnicas 2012年 リスボン Rua D. Estefânia 183 は、PLE 学習者向けに書かれた接続法専門ワークブックです。
現在・過去・未来の3時制それぞれに50題前後の練習問題があり、解答解説も丁寧です。
接続法未来形 futuro do conjuntivo はポルトガル語特有の時制で、スペイン語話者でも習得に時間がかかります。
実例で覚える
Gramática Ativa 2 Olga Mata Coimbra Lidel 初版2000年 改訂2021年 は中上級全般の定番で、接続法の章だけで40ページを割いています。
Português XXI volume 3 Ana Tavares Lidel 2004年 も接続法のドリルが充実しています。
筆者のアプローチ
接続法のトリガー表現embora・talvez・é possível que・duvido que を付箋に書き出し、50個ほどをカフェでぶつぶつ唱える日々を過ごしました。
理屈より反射で出すものだと割り切った途端に、使えるようになった気がします。
前置詞語法の専門書
前置詞と冠詞の縮約
Preposições Porto Editora 1944年 は前置詞特化の薄い本で、縮約形em+o=no・de+a=da・a+as=às を実例で覚えられます。
ブラジルとポルトガルで「para casa」対「para a casa」のような微妙な差があり、この違いを明示的に扱っている教材は貴重です。
動詞と前置詞の組み合わせ
Dicionário de Regências Celso Pedro Luft 1921-1995 Editora Ática 1987年初版 は動詞ごとの前置詞語法を網羅した古典的辞典です。
「gostar de」「precisar de」「lembrar-se de」など、日本人学習者がよく落とす語法を一網打尽にできます。
副詞節と前置詞句
Gramática do Português Língua Não Materna Isabel Leiria Lidel 2012年 は前置詞句を含む副詞節の扱いに1章を割いた珍しい構成の文法書です。
「em vez de」「apesar de」「por causa de」のような定型句をまとめて覚えると、発話のリズムが一気に良くなります。
コロケーション特化の教材
ブラジルポルトガル語の定番
Colocações em Português Stella Tagnin USP 1951 Parábola Editorial 2013年 São Paulo Rua Sussuarana 86 は、動詞と名詞の組み合わせ2000ペア収録の実用書です。
「tomar banho 入浴する」「dar uma olhada ちょっと見る」「ter vontade de 〜したい」など、直訳では出てこないフレーズが並びます。
ポルトガル本国向け
Vocabulário Fundamental do Português INIC 1984年初版 の改訂版は、頻度順3000語とその代表コロケーションを示してくれます。
Porto Editora 1944年 の Dicionário de Colocações 2017年 もオンライン版が年20ユーロで利用できます。
自分でコロケーション辞典を作る
筆者はAnki 2006年 Damien Elmes 作 に「動詞+名詞」のペアを1日5組ずつ入れる習慣を半年続けました。
月150組ペースで積み上げると、900組でB2相当の言い回しがほぼ網羅できた実感があります。
時制と相の精密化
完了相 ter+分詞
「tenho visto 見続けている」のように、英語のhave seen と形は似ていても意味が異なる用法は、日本人学習者が最後まで混乱するポイントです。
Praticar Português Pedro Martins Lidel 2015年 は完了相の演習が60題以上あるのでおすすめです。
過去完了の使い分け
pretérito mais-que-perfeito には単純形と複合形があり、単純形は文学・法律文書でのみ使われます。
José Saramago 1922-2010 の Ensaio sobre a Cegueira 1995年 は単純形の宝庫で、読みながら時制感覚を鍛えるのに最適です。
半過去と完了の境界
pretérito imperfeito と pretérito perfeito の選択はイタリア語やフランス語と似ていますが、ポルトガル語では「反復」「描写」のニュアンスが少し強めです。
Yumiko Yamashita 早稲田大学ポルトガル語講師 が編纂した2018年の自作テキストを非常勤講義で配布しており、時制論点が整理されています。
代名詞の位置問題 colocação pronominal
前置と後置の違い
ポルトガル本国は「dá-me o livro」と後置が基本ですが、ブラジルは「me dá o livro」と前置が口語標準です。
この差は文法書ではなく、Celso Cunha 1917-1989 の Nova Gramática do Português Contemporâneo 1985年 Nova Fronteira で体系的に学べます。
未来形との結合
「dir-te-ei 君に言うだろう」のような中挿型 mesóclise は、ポルトガル本国の文語でのみ残っています。
ブラジルではほぼ使われませんが、政治家スピーチで時折出現するので、聞き取れる程度には慣れておきたい形です。
筆者の学習スケジュール
月曜は接続法ドリル10題、水曜はコロケーション暗記5組、金曜は時制演習10題という3本立てを3ヶ月継続しました。
3ヶ月目の終わりに Catarina Vieira 先生との口頭試験で、接続法の誤用が半減したと言ってもらえた日はよく覚えています。
文法特化の教材は退屈に見えますが、B2の壁を越えるには避けて通れない道でした。
冠詞と固有名詞の処理
国名と都市名
「o Brasil」「a França」は冠詞付き、「Portugal」「Angola」は冠詞なし、という例外が多くルール化しづらい領域です。
「em o Rio de Janeiro → no Rio」のように縮約が発生するので、前置詞との組み合わせまで含めて覚える必要があります。
人名の前の冠詞
ブラジルのくだけた口語では「o João」「a Maria」のように人名に定冠詞を付けますが、ポルトガル本国では必須ではありません。
この差を扱っている数少ない教材として、Gramática Comparada Brasil-Portugal Fernando Venâncio 1944 Guerra e Paz 2019年 が便利です。
口語と書記の切り替え
ポルトガル口語の縮約
「está」が「tá」、「estou」が「tô」、「para」が「pra」と口語で縮みます。
Fala Brasil Emma Eberlein Cunha Pontes Editores 2004年 は縮約形と正式形を並べた練習問題が豊富です。
ポルトガルの口語短縮
リスボン口語では「está」が「tá」ではなく「’tá」に感じられ、さらに母音消失が激しいのが特徴です。
Carlos Reis 1950 Universidade de Coimbra 教授 の論文集 Língua Portuguesa Contemporânea 2018年 が参考になります。
購入先と価格の現実
日本から買う場合
Wook 1995年 リスボン のオンライン書店から国際配送で、1冊25〜35ユーロ+送料15ユーロ程度です。
Amazon Brasil 2012年 から紀伊國屋経由で取り寄せるルートは、文学作品と違って文法書の在庫が薄めです。
電子版の選択肢
Lidel は電子版をLeyaEducação プラットフォームで販売しており、月額9.9ユーロで一部書籍が読み放題です。
Kindle にはGramática Ativa の電子版がないので、紙版を買うか電子ペーパーの代替を探すことになります。
前置詞a と para の境界
「ir a Lisboa 短期で行く」と「ir para Lisboa 移住する」の差は、ポルトガル本国ではまだ意識される区別です。
ブラジルではこの区別が薄れつつあり、どちらも「ir para」が優勢になりました。
翻訳や試験では本国基準で押さえておくと間違いがありません。
対格のlhe と o の混同
ブラジル口語では「ver ele」「ver o João」のように直接目的語に代名詞を使わない傾向があり、学習者が混乱しやすい部分です。
書き言葉では「vi-o」「vi-a」が正しく、この差を扱う章が Celso Cunha の古典文法書にあります。


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