ポルトガル語を学び始めて半年ほど経つと、不定詞に人称変化する動詞に出会って驚きます。
これが人称不定詞Infinitivo Pessoalで、ポルトガル語とガリシア語だけが持つ独特の文法です。
筆者もサンパウロで大学の掲示板に「É necessário sermos pontuais.」と書かれているのを見て、sermosが何だろうと辞書を引いた記憶があります。
人称不定詞とは何か
不定詞なのに主語が見える
通常の不定詞はser/estar/irのように形が固定されます。
ところが人称不定詞は、主語の人称に合わせてser/seres/ser/sermos/seremと語尾が変化します。
1人称単数と3人称単数だけが原形と同形で、残りの3つが変化形です。
変化のルール
原形にそのまま語尾を足す規則動詞の場合、falar/falares/falar/falarmos/falaremと並びます。
comer/comeres/comer/comermos/comeremも同じで、機械的に覚えられます。
irregular verbsであってもこの規則は保たれ、ser/ir/ter/fazerなども同じ語尾を足すだけです。
どんなときに使うか
主節と主語が違うとき
É importante fazermos o trabalho.は「私たちが仕事をすることは大切だ」という意味です。
主語を明示しないと誰がfazerするのか曖昧なので、1人称複数を示すfazermosが使われます。
前置詞の後ろで主語がはっきり見える
Depois de terminarmos o projeto, vamos descansar.は「プロジェクトを終えたら休もう」です。
depois deの後に主語を伴う従属節を置く代わりに、人称不定詞で一気に表現できます。
命令や依頼の丁寧形
É melhor esperarmos mais um pouco.で「もう少し待った方がいい」と提案できます。
主語のnósを省きつつ、esperarmosの語尾で誰が待つのかが伝わります。
普通の不定詞との使い分け
主語が同じなら無変化
Quero estudar português.は「ポルトガル語を勉強したい」で、主語が同じなのでestudarのままです。
ここでestudarmosと言うと、複数の主語を意味してしまい不自然になります。
主語が変わる瞬間に人称化する
Quero que eles estudem.は接続法ですが、É importante eles estudarem.と人称不定詞でも言えます。
後者のほうが口語的で、ブラジルでは接続法の代用として頻繁に使われます。
頻出の前置詞句と結ぶ
para + 人称不定詞
目的を表すpara節で主語が明示できます。
Para sermos felizes, precisamos de tempo livre.は「幸せになるには自由時間が必要」です。
para + 接続法で書くこともできますが、人称不定詞のほうが簡潔です。
sem + 人称不定詞
Sem estudarmos, não passamos no exame.で「勉強しないと試験に受からない」と言えます。
semは「〜なしで」の意味で、否定の条件を表すときに便利です。
até + 人称不定詞
Esperei até eles chegarem.は「彼らが到着するまで待った」という意味です。
時間の終点を示すatéと組み合わせると、主語が異なる時制変化を簡単に表せます。
ブラジルと本国の使用頻度
ブラジルは口語でも頻出
ブラジルでは人称不定詞が接続法の代わりにカジュアルに使われ、出現頻度が非常に高いです。
É hora de irmos.で「もう行く時間だ」と日常的に聞きます。
本国は書き言葉で多い
ポルトガル本国では、書き言葉でより正確に使い分けられ、接続法と人称不定詞が並立します。
Diário de Notícias(1864年リスボン創刊)の社説を読むと、両者がバランスよく出てきます。
学習のコツ
語尾に集中する
基本は-mos/-emの2つだけ覚えれば複数形をカバーできます。
筆者はノートに-mos/-emと大きく書いて、1週間貼りっぱなしにしました。
文ごと暗記
文法説明より、É importante sermos pontuais./Para sabermos mais.のような文ごと覚える方が速いです。
Ankiに10枚の例文カードを作り、毎朝3枚ずつ回すと2週間で感覚が掴めます。
教材の推薦
Gramática do Português Moderno(Pilar Vázquez Cuesta、Maria Albertina Mendes da Luz 1971年原著、1980年Almedina社版)が人称不定詞の歴史的背景を詳述しています。
A Nova Gramática do Português Contemporâneo(Celso Cunha 1917-1989、Lindley Cintra 1925-1991 共著、1984年Edições João Sá da Costa)も定番で、本国・ブラジル両方の用例が載っています。
よくある誤用と修正
誤 Quero eles virem
この形は人称不定詞を誤って主節の目的語に使っています。
正しくは接続法で Quero que eles venham.と言います。
quero queの後は接続法、para/sem/antes de/depois deなどの前置詞の後は人称不定詞という覚え方が安全です。
誤 Estudarmos português
主節なしで突然人称不定詞を置くのは不自然です。
Para estudarmos português precisamos de tempo.のように前置詞節に置く必要があります。
語尾を忘れる癖
初学者は無意識に原形のままにしがちです。
1日1回、Depois de chegarmos em casa, vamos jantar.のような例文を声に出すと、-mosの語尾が体に馴染みます。
実戦での効果
文章がすっきりする
人称不定詞を使うと、que + 接続法で長くなる文を1段階短くできます。
ビジネスメールでÉ essencial respondermos até sexta-feira.と書くと、簡潔で丁寧な印象になります。
ネイティブらしさが増す
人称不定詞をさらっと使えると、中級を超えて上級に進んだ印象をネイティブに与えます。
筆者もリスボンの職場で初めてÉ bom trabalharmos juntos.と口にしたとき、同僚のMarianaから「中級を卒業したね」と笑顔で言われた瞬間が今も記憶に残っています。
1か月の集中メニュー
第1週 語尾の暗記
-/-es/-/-mos/-emの5つの語尾を毎朝5分唱えます。
1週間もあれば口が勝手に動くようになります。
第2週 前置詞との結合
para/sem/até/depois de/antes deの5つを使った文を1日5本書きます。
書き終えたらitalkiの講師に1分だけ読んで聞かせ、発音とアクセントをチェックしてもらいます。
第3週 É … que と É … 不定詞の比較
É importante que、É melhor que、É essencial queの接続法版と、人称不定詞版を並べて書き分けます。
同じ内容を2通りで書ける力がつくと、文章の幅が一気に広がります。
第4週 長文で使う
200字程度のエッセイを書き、人称不定詞を最低3回使います。
筆者は京都の秋をテーマに「Para apreciarmos as folhas vermelhas, precisamos de caminhar devagar.」から始まる文章を書いてPreplyで添削を受けました。
最後に
人称不定詞はポルトガル語の宝物のひとつで、この文法を使いこなすと表現が磨きがかかります。
慌てず、毎朝5分ずつ続けるだけで2か月後には自然に口から出るようになります。
歴史と周辺知識
ラテン語からの系譜
人称不定詞の起源はラテン語の接続法未完了に遡るという説が有力です。
中世ポルトガル語で現在の形に固まり、ガリシア・ポルトガル語圏全体に広がりました。
スペイン語やイタリア語にはこの形がなく、ポルトガル語学習者にとって新鮮に感じられる所以です。
ガリシア語との比較
ガリシア語の人称不定詞はポルトガル語と同じ語尾を取り、ガリシア州サンティアゴ・デ・コンポステラの大学で今も活発に研究されています。
両言語話者は互いにこの形を共有しているため、会話でも自然に流れます。
ブラジルでの人気
Machado de Assis(1839-1908)の小説Dom Casmurro(1899年)にも人称不定詞が随所に使われ、当時の都市ポルトガル語の豊かさを伝えています。
Clarice Lispector(1920-1977)のA Paixão Segundo G.H.(1964年)でも目立ち、文学の中で今も生き続ける文法であることが分かります。
定着を確かめる自習テスト
É melhor _____ agora.(nós 主語)のような空欄補充を10問用意すると効果的です。
答えはirmosで、1日1セット解くだけで2週間後には迷いがなくなります。


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