ポルトガル語の過去時制で最初にぶつかる壁が、完了過去と線過去の使い分けです。
英語は単純過去でまとめてしまえる場面も、ポルトガル語は二択を迫ってきます。
筆者もブラジルで語学学校に通っていた頃、comprei と comprava の選択を毎日のように間違えました。
完了過去 Pretérito Perfeito Simples
基本的な役割
終わった出来事を1点として報告する時制です。
Ontem comi pastel de Belém.で「昨日パステル・デ・ベレンを食べた」と言えます。
時間の長さは問題ではなく、話者が「完結した」と見なすかどうかが基準です。
典型的な時間副詞
ontem、na semana passada、em 2020、há dois anosなどと相性が良いです。
Há três anos mudei para Lisboa. は「3年前にリスボンに引っ越した」という自然な言い方です。
活用の落とし穴
規則動詞はfalei/falaste/falou/falámos/falaram と並びますが、本国では1人称複数のfalámos にアクセント記号がつきます。
ブラジルではfalamosと書き、現在形と同形なので文脈で判断します。
この小さな違いはAcordo Ortográfico 1990年の論争の的でもあり、現在も本国出版物は falámos を守っています。
線過去 Pretérito Imperfeito
反復・背景・継続
繰り返し行われた行為や、過去の情景描写に使います。
Quando era criança, morava em Kyoto. で「子供の頃は京都に住んでいた」と言えます。
erasとmoravaが同じ線過去で連続するのが自然です。
丁寧表現としての線過去
Queria um café, por favor. は「コーヒーをお願いします」と訳せます。
現在形のQueroより柔らかく、カフェでの注文はほぼ全員これを使います。
リスボンのA Brasileira(1905年Rua Garrett創業)で筆者もこの形で注文し、店員の反応が明らかに柔らかくなりました。
典型的な時間副詞
sempre、todos os dias、antigamente、naquela épocaが線過去を呼び込みます。
Antigamente não havia internet.で「昔はインターネットがなかった」の意味になります。
二つを並べる定型パターン
背景+出来事
線過去で情景を描き、完了過去で一撃の出来事を入れるのが定番です。
Eu caminhava pela Avenida Paulista quando encontrei o Marcelo.で「パウリスタ通りを歩いていたらマルセロに会った」の意味になります。
caminhavaは継続、encontreiは1点の出来事で役割分担が明確です。
繰り返し+一度だけ
Todos os dias bebia café, mas naquele dia bebi chá.は「毎日コーヒーを飲んでいたが、あの日は紅茶を飲んだ」です。
bebiaが習慣、bebiが例外の1回を示します。
二つの線過去の並列
Enquanto eu lia, ela escutava música.は「私が読書している間、彼女は音楽を聴いていた」です。
同時並行の継続行為は両方とも線過去になります。
ブラジルとポルトガルの現在完了
Pretérito Perfeito Composto の特殊性
ポルトガル語のtenho comidoは「最近ずっと食べ続けている」の意味で、英語のI have eatenとは別物です。
Ultimamente tenho trabalhado muito.は「最近たくさん働いている」という反復中の継続を表します。
完了の意味で「食べた」と言いたいなら単純過去の comi を使うのが正解です。
ブラジル口語の傾向
ブラジルでは現在完了をほとんど使わず、ほぼすべて単純過去で済ませます。
ポルトガルでも同様ですが、北部方言では tinha comido のような過去完了が日常的に使われる地域があります。
学び方の順番
最初の3週間
筆者のおすすめは、まず完了過去を徹底的に口に慣らすことです。
日記をptに切り替え、1日5文を昨日の行動で書くと、1か月で規則動詞の語尾が体に染みます。
次の3週間
線過去に切り替え、子供時代の話を題材にすると反復のニュアンスが掴めます。
筆者はVideos do YouTubeチャンネル「Fala Gringo!」のブラジル語学習動画を同時視聴し、Estevão氏の口語例が非常に役立ちました。
不規則動詞の過去形ベスト10
ser と ir の同形ぶり
ポルトガル語の過去でいちばん驚くのは、serとirの完了過去が同じ形fui/foste/foi/fomos/foramになることです。
Fui professor em 2020.は「2020年に教師だった」で、Fui a Lisboa em 2020.は「2020年にリスボンへ行った」です。
前後関係で瞬時に判断しますが、話者も文脈で判断するため会話では支障ありません。
ter と estar
完了過去のterはtive/tiveste/teve/tivemos/tiveramで、estarはestive/estiveste/estevesです。
Tive uma ideia.で「ひらめいた」、Estive no Rio em 2022.で「2022年にリオにいた」です。
fazer と dizer
fizとdisseの語幹変化は要暗記です。
Fiz um bolo.は「ケーキを作った」、Disse que sim.は「いいよと言った」です。
学習素材
文法書と参考書
Modern Portuguese: A Reference Grammar(Mário A. Perini 2002年Yale University Press)が英語ベースの定番です。
日本語なら市之瀬敦「ポルトガル語のしくみ」(白水社 2006年)が薄くて扱いやすく、筆者も初学期に常備していました。
ドリル
Conjuguemos.com(Boston発の無料サイト)は動詞活用を指定時制で連続出題してくれます。
1日5分を2週間続けると、完了過去の不規則動詞が自然に出てくるようになります。
読み物で確認
Jorge Amado(1912-2001、バイア州出身)のDona Flor e Seus Dois Maridos(1966年)が線過去の宝庫です。
José Saramago(1922-2010、1998年ノーベル文学賞)のEnsaio sobre a Cegueira(1995年)は完了過去と線過去の切り替えが見事で、中級以上の教材として優秀です。
つまずきの避け方
英語の癖を捨てる
英語話者の初学者は完了形と結びつけてtenho feitoを多用しがちです。
日本語話者も「〜した」の感覚で線過去を使いがちなので、反復か一度きりかを毎回意識してください。
ディクテーションで耳から覚える
RTP Play(無料アプリ)で短いニュースを1分聞き、書き取ります。
完了過去と線過去が交互に出るので、半年続けるとかなりの精度で聞き分けられます。
一週間の練習メニュー
月曜と火曜
完了過去の規則動詞3種(-ar/-er/-ir)を各20文ずつ作ります。
comprar/comer/partirなど基本動詞で慣らすのが効率的です。
水曜と木曜
不規則動詞ser/ir/ter/estar/fazer/dizer/virの暗唱に集中します。
毎朝通勤中に声に出すだけで十分で、筆者は東京メトロ銀座線でこれを1か月続けました。
金曜と土曜
線過去に切り替え、子供時代の話題で30文書きます。
Quando eu tinha dez anos, jogava futebol no parque.のような骨組みを使い回すと量がこなせます。
日曜の仕上げ
完了過去と線過去を混ぜた物語を200字で書きます。
italkiでブラジル人講師に添削してもらうと、時制の迷いがその日のうちに解決します。
到達の目安
毎日30分を3か月続けると、完了過去と線過去の選択に迷わなくなります。
筆者が2024年の春にこのルートで練習したときも、3か月目の終わりにはリスボンのカフェで過去の旅話を違和感なく語れていました。
時制選択のチェックリスト
自問1 完結したか
話し手が「終わった」と見なしていれば完了過去です。
Fui ao mercado.は「市場へ行ってきた」で、行って帰ってきた全体を完結として報告しています。
自問2 背景か前景か
舞台装置のように情景を描くなら線過去です。
Chovia quando saí de casa.の前半は雨の状況描写、後半は出発の一点で役割が分かれます。
自問3 習慣か一回か
繰り返しなら線過去、単発なら完了過去という単純なフィルターがよく効きます。
Aos sábados íamos à praia.は「土曜にはいつもビーチへ行っていた」で反復、No sábado passado fomos à praia.は「先週の土曜にビーチへ行った」で単発です。
自問4 時間副詞の相性
ontem、em 2020、há três anosなら完了過去、sempre、todos os dias、antigamenteなら線過去が原則です。
ただし例外もあるので、最終判断は文脈に委ねてください。


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