語学学習をC1以上の上級に引き上げるには、原書多読が最も効果的です。本記事ではクロアチア文学史を代表する作家10名と、学習者向けの読みやすい順序、入手方法を詳しく紹介します。
Miroslav Krleža – 20世紀最大のクロアチア作家
Miroslav Krleža(1893-1981、Zagreb出身、ユーゴスラビア文学界の巨匠)はクロアチア20世紀文学の頂点に立つ作家で、小説・詩・戯曲・エッセイと多ジャンルで傑作を残しました。代表作『Povratak Filipa Latinovicza』(1932年、直訳「フィリップ・ラティノヴィチの帰還」、ブルジョワ社会批判)、『Na rubu pameti』(1938年、直訳「正気の縁で」、政治風刺小説)、『Gospoda Glembajevi』(1928年、戯曲、上流階級の没落を描く)はクロアチア文学の必読書です。Krležaは1950年にクロアチア科学芸術アカデミーHAZU内に「Leksikografski zavod(辞書学研究所、現Miroslav Krleža Institute of Lexicography、Frankopanska 26 Zagreb)」を設立し、戦後クロアチア語学術界の礎を築きました。
Ivo Andrić – ノーベル文学賞
Ivo Andrić(1892-1975、旧ユーゴスラビア、Dolac(ボスニア)近郊出身)は1961年にノーベル文学賞を受賞した唯一の旧ユーゴ地域出身作家で、クロアチア系出身ですが主にボスニアを舞台にした作品を執筆しました。代表作『Na Drini ćuprija』(1945年、直訳「ドリナの橋」、Višegrad橋を舞台にした400年の歴史絵巻、邦訳『ドリナの橋』松谷健二訳、恒文社、1979年)は日本語訳でも読める名作です。ボスニア文学としても扱われる位置にあり、クロアチア文学正史でどう位置づけるかは議論があります。Andrićの文体は重厚で、学習者には難易度高めですが、C1以上を目指すなら挑戦する価値があります。
Marija Jurić Zagorka – 女性作家の草分け
Marija Jurić Zagorka(1873-1957、Negovec出身、クロアチア初の女性ジャーナリストかつ小説家)は19世紀末から20世紀初頭に活躍した女性作家で、『Grička vještica』(1912〜1913年連載、直訳「グリッチの魔女」、全7巻、18世紀ザグレブを舞台にした歴史ロマン)が代表作です。時代小説として読みやすく、女性の視点で歴史を描いた先駆的作品です。ザグレブのTkalčićeva 3番地には「Jurić Zagorka記念博物館」があり、彼女の生涯を知ることができます。
Miljenko Jergović – 現代文学の代表
Miljenko Jergović(1966年Sarajevo出身、1993年よりZagreb在住)は旧ユーゴ崩壊後に登場した現代クロアチア文学を代表する作家です。代表作『Sarajevski Marlboro』(1994年、短編集、ユーゴ戦争下のサラエボを描く)、『Dvori od oraha』(2003年、長編、クロアチア20世紀家族史)、『Mama Leone』(1999年、自伝的連作短編集)などは国際的にも高く評価されており、多数の言語に翻訳されています。Jergovićの文体は比較的明解で、現代クロアチア語の自然なリズムを学ぶのに最適です。出版社はZagrebのFraktura(1997年創業、Seid Serdarević社長、Ksaverska cesta 7)で、日本からもオンライン注文可能です。
Dubravka Ugrešić – エッセイと小説
Dubravka Ugrešić(1949-2023、Kutina出身、1993年からオランダ在住)は国際的に評価されたクロアチア出身の女性作家で、小説・エッセイで独自の知的スタイルを確立しました。代表作『Štefica Cvek u raljama života』(1981年、直訳「ステフィツァ・ツヴェクの人生の顎で」、ポストモダン小説)、『Ministarstvo boli』(2004年、直訳「痛みの省」、亡命者の物語)、『Kultura laži』(1996年、エッセイ集、旧ユーゴ崩壊後の文化批評)が代表です。内省的で文学的な文体は、C1学習者の精読教材として最適です。
Ante Tomić – 人気ユーモア作家
Ante Tomić(1970年Split出身、Slobodna Dalmacija紙ジャーナリスト出身)はクロアチアで最も読まれている現代作家の一人で、軽快なユーモアと深い人物描写が特徴です。代表作『Što je muškarac bez brkova』(2000年、直訳「ヒゲのない男とは」、Dalmacija内陸の村のラブコメディ、2005年Vinko Brešan監督で映画化)、『Ništa nas ne smije iznenaditi』(2003年)、『Čudo u Poskokovoj Dragi』(2009年)などが代表作です。日常語彙が豊富で会話表現が生きているため、中級〜上級学習者が「楽しく読める」理想の教材です。
Slavenka Drakulić – フェミニズム文学
Slavenka Drakulić(1949年Rijeka出身、ジャーナリスト・小説家)は国際的に知られたフェミニスト作家で、旧ユーゴ社会の女性問題・戦争・共産主義を独自の視点で描きます。『Hologrami straha』(1987年、腎臓移植を巡る物語)、『Kao da me nema』(1999年、Bosnia戦争下の女性収容所、英訳『As If I Am Not There』)などがあります。文体は平易で、社会問題に関心がある学習者におすすめです。
学習者向けの読書順序
私のおすすめする学習者向けの読書順序は次の通りです。B1〜B2:Ante Tomić『Što je muškarac bez brkova』(日常語彙、会話表現豊富、読みやすい)→Jergović『Sarajevski Marlboro』(短編集、テーマ毎に分けて読める)→Dubravka Ugrešić『Štefica Cvek…』(軽いタッチの小説)。C1:Jergović『Dvori od oraha』、Drakulić小説群、Renato Baretić『Osmi povjerenik』。C2:Krleža『Povratak Filipa Latinovicza』→『Gospoda Glembajevi』、Andrić『Na Drini ćuprija』、Krleža『Na rubu pameti』。いきなりKrležaに挑むと挫折するので、必ず現代文学から始めることをおすすめします。
入手方法
クロアチア書籍は日本国内からの入手が難しいですが、主要選択肢は3つあります。1. Fraktura出版社の公式サイト(fraktura.hr)からの国際配送(DHL経由、送料30ユーロ)、2. Amazon.deで多数のクロアチア書籍が販売されており日本直送可能、3. 電子書籍版はKindleまたはeReaderの各プラットフォームで入手可能です。ザグレブの書店Algoritam(Bogovićeva 7)やSuperknjižara(Rooseveltov trg 4)に現地滞在時に訪れるのもおすすめです。私は2025年夏のザグレブ訪問時にSuperknjižaraでJergović、Tomić、Drakulićの本を計8冊購入しました。
まとめ
文学は語彙・文法・文化すべてを同時に吸収できる最強の教材です。現代作家から入り、徐々にクラシックへと広げていく王道ルートで、1〜2年かけて5〜10冊を読破するだけで、クロアチア語の世界が格段に広がります。辞書を引きながらでも諦めずに読み続けることが、C1以上の真の上達への最短ルートです。
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他に忘れてはならない作家として、Vesna Parun(1922-2010、Zlarin島出身、詩人)、Tin Ujević(1891-1955、Vrgorac出身、20世紀詩人)、Antun Gustav Matoš(1873-1914、Tovarnik出身、モダニズム詩人)、Silvije Strahimir Kranjčević(1865-1908、Senj出身、19世紀後半詩人)なども必読です。詩は短く、原語のリズムを楽しめる点で学習者向けです。
現代では女性作家Ivana Bodrožić(1982年Vukovar出身、『Hotel Zagorje』2010年)もザグレブ文学界の注目株として人気です。若手作家を追うことも、生きた言語感覚の維持に役立ちます。
読書会に参加するのもおすすめで、Goodreads上の「Croatian Literature Book Club」(2019年開設、メンバー約800人、毎月1冊課題書を読む)はオンライン参加可能で世界中の読者と議論できます。月に1冊のペースで読み進める強制力も学習継続の助けになります。
Interliber(ザグレブ国際書籍見本市、1978年から毎年11月開催、Zagreb Fair会場)にも機会があれば訪れてみてください。クロアチア最大の書籍イベントで、新刊の割引販売と作家サイン会が行われます。


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