小説を原書で読めるようになるのは多くの語学学習者の夢です。イタリア文学は古典から現代まで豊かな蓄積があり、読書を通じてイタリア語学習は一段深まります。今回は学習者が実際に読んで挫折しにくい作品を選りすぐって紹介します。
現代ベストセラー作家の代表作
エレナ・フェッランテ(本名不詳、1943年推定ナポリ生まれ)の「ナポリ四部作」は世界中で2000万部以上売れた現代イタリア文学の金字塔です。「L amica geniale」(2011年、e/o出版)、「Storia del nuovo cognome」(2012年)、「Storia di chi fugge e di chi resta」(2013年)、「Storia della bambina perduta」(2014年)の全4巻で、1950年代ナポリから現代までを描きます。文体は比較的平易で、中級者からでも挑戦できます。
パオロ・ジョルダーノ(1982年トリノ生まれ、物理学博士)の「La solitudine dei numeri primi(素数たちの孤独)」(2008年、Mondadori刊)は若くしてストレーガ賞を受賞したデビュー作です。短い章立てと透明感のある文体で、学習者に特におすすめです。
アレッサンドロ・バリッコ(1958年トリノ生まれ)の「Seta(絹)」(1996年、Rizzoli刊)はわずか120ページほどの短編で、19世紀フランス人商人が日本を訪れる幻想的な物語です。抑制された美しい文体は読書入門に最適で、私もこの本から原書読書を始めました。同じ作家の「Novecento(海の上のピアニスト)」(1994年)も短くて読みやすい名作です。
ロベルト・サヴィアーノ1979年ナポリ生まれの「Gomorra」(2006年、Mondadori刊)はナポリのマフィア・カモッラを告発したノンフィクションで、1000万部以上売れた衝撃の一冊です。ただし硬派なジャーナリスティック文体のため、上級者向けです。
読みやすい古典作品
古典に挑むなら、まずイタロ・カルヴィーノ(1923-1985年)の「Il barone rampante(木のぼり男爵)」(1957年、Einaudi刊)がおすすめです。貴族の少年が木の上で一生を過ごす奇想天外な物語で、文体は驚くほど平易で詩的です。「Il visconte dimezzato(真っ二つの子爵)」(1952年)、「Il cavaliere inesistente(不在の騎士)」(1959年)と合わせて「Antenati三部作」と呼ばれます。
プリモ・レヴィ(1919-1987年トリノ生まれ)の「Se questo e un uomo(これが人間か)」(1947年、Einaudi刊)はアウシュヴィッツ体験を描いた20世紀世界文学の傑作です。冷静で明晰な文体は学習者にも読みやすく、重いテーマですが一度は挑みたい一冊です。
推理小説・エンタメ系
娯楽として楽しむなら推理小説が最適です。アンドレア・カミッレーリ(1925-2019年シチリア・ポルト・エンペドクレ生まれ)の「モンタルバーノ警部」シリーズ(Sellerio刊、1994年開始)はシチリアを舞台にした警察小説で、全30作以上あります。シチリア方言混じりの文体は最初戸惑いますが、巻末の語彙リストが親切です。
マウリツィオ・デ・ジョヴァンニ1958年ナポリ生まれの「Il commissario Ricciardi」シリーズ(Mondadori刊、2007年開始)は1930年代ファシスト時代のナポリを舞台にした警察小説です。文体は伝統的で美しく、歴史の勉強にもなります。
ドナート・カッリージ1973年マルティナ・フランカ生まれの「Il suggeritore」(2009年、Longanesi刊)は国際的ベストセラーになったサスペンスで、展開が速く飽きません。
短篇集で読書習慣を作る
長編は途中で挫折しがちなので、短篇集から始めるのもおすすめです。ディーノ・ブッツァーティ(1906-1972年ベッルーノ生まれ)の「Sessanta racconti(六十の短篇)」(1958年、Mondadori刊)は幻想的な短篇が60本収められ、1本数ページから読み切れます。
ナタリア・ギンツブルグ(1916-1991年パレルモ生まれ、旧姓レヴィ)の「Lessico famigliare(ある家族の会話)」(1963年、Einaudi刊)は自伝的エッセイで、素朴で温かい文体は学習者の憧れです。ストレーガ賞受賞作です。
児童文学で楽しく学ぶ
大人が読む児童文学ほど効率的な学習素材はありません。語彙が限定され、文法が平易で、物語の推進力が強いからです。ジャンニ・ロダーリ(1920-1980年オメーニャ生まれ)の「Favole al telefono(パパの電話を待ちながら)」(1962年、Einaudi刊)は1話1ページ程度の短さで、毎晩寝る前に1話ずつ読むのに最適です。1970年アンデルセン賞受賞作家で、子供向けでありながら大人が読んでも発見があります。
カルロ・コッローディ(本名カルロ・ロレンツィーニ、1826-1890年フィレンツェ生まれ)の「Le avventure di Pinocchio(ピノッキオの冒険)」(1883年初出)は誰もが知る名作で、19世紀後半のトスカーナ語が学べます。
私のおすすめはロベルト・ピウミーニ1947年エドロ生まれの児童文学です。「Mattia e il nonno(マッティアとおじいちゃん)」(1993年、Einaudi Ragazzi刊)は死と別れをテーマにした美しい中篇で、子供向けながら大人の心にも深く響きます。
イタリア語学習者向け段階別読本
原書が難しい段階では、学習者向けに書き下ろされた段階別読本(letture graduate)が便利です。Alma Edizioni社(本社Via dei Cimatori 16 Firenze)の「Italiano facile」シリーズはA1からC1まで6レベルで展開され、巻末に語彙リストとエクササイズが付いています。1冊6ユーロ前後です。
Hoepli社(本社Via Hoepli 5 Milano、1870年創業)の「Classici Graduati」シリーズはマンゾーニ「Promessi sposi」やピランデッロ短篇を平易に書き直した版があります。学校教材としても広く使われています。
Guerra Edizioni社(本社ペルージャ)の「Leggere facile」シリーズも定評があります。どのシリーズも付属CDやダウンロード音源で音読が確認でき、読解とリスニング両方を鍛えられます。
私の読書習慣
私は寝る前30分を読書タイムにしています。最初の半年はバリッコ「Seta」を3回繰り返し読みました。2回目からは未知語が減り、3回目で文体の美しさが味わえるようになりました。1冊を何度も読むほうが、次々と新しい本に手を出すより身になります。
書店・購入方法
イタリアで本を買うなら大型書店Feltrinelli(1957年ミラノ創業、現在250店以上)かMondadori Store(1907年創業)が定番です。ローマのFeltrinelli本店はVia V. E. Orlando 84-86、ミラノのMondadori Duomoはピアッツァ・デル・ドゥオーモ1番地にあります。
日本からはAmazon.itで直送購入できます。ペーパーバックは1冊10-15ユーロ前後、送料が約15ユーロかかりますが、まとめ買いすれば1冊あたり20ユーロ程度で入手できます。Kindleストアのイタリア語書籍も豊富で、電子書籍ならペーパーバックより30%安く、即入手できます。
東京ではジュンク堂書店池袋本店(東京都豊島区南池袋2-15-5)の洋書コーナーにイタリア文学の原書が常時数十冊並んでいます。神保町の北沢書店、崇文荘書店も穴場です。
文学賞から最新作を追う
最新のイタリア文学を追うなら文学賞チェックが効率的です。最も権威あるストレーガ賞(Premio Strega、1947年創設、毎年7月授賞式)は毎年ストレーガ・アルベルティ社(リキュール「Strega」で有名)がローマ・ヴィッラ・ジュリア国立博物館で授与する国民的文学賞です。2023年はアーダ・ダダモ「Come d aria」(Elliot刊)、2022年はマリオ・デジアーティ「Spatriati」(Einaudi刊)が受賞しました。
カンピエッロ賞(Premio Campiello、1962年創設、ヴェネツィアで毎年9月)はヴェネト州企業家連合が主催する文学賞で、ストレーガ賞と並ぶ名誉です。バガッタ賞、バンカレッラ賞なども毎年注目すべき新作を選定しています。
原書読書の最大の喜びは、翻訳では伝わらないリズムと響きを直接味わえることです。フェッランテのナポリの路地裏の描写、カルヴィーノの透明な文体、レーヴィの静かな証言。これらは原文でこそ真価が分かります。最初は1ページ30分かかっても構いません。毎日少しずつ積み重ねれば、必ず読めるようになります。
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