こんにちは。イタリア語学習の中上級フェーズでとても効果的な練習が、日伊・伊日の翻訳です。この記事では、翻訳を通じてイタリア語を鍛えるための参考書や対訳本、オンラインリソースを具体的に紹介します。
翻訳理論の基礎がわかる一冊
Umberto Eco の Dire quasi la stessa cosa
Bompiani(Milano、Via Angelo Rizzoli 8、1929年創業)から2003年に出た Umberto Eco 著 Dire quasi la stessa cosa は、翻訳という行為の本質を論じた必読書です。Eco(1932年 Alessandria 生まれ、2016年没)は自身も優れた翻訳者で、原書と訳書の微妙なズレを丁寧に例示してくれます。
Susanna Basso の Sul tradurre
Bruno Mondadori(Milano、Piazzale Vittorio Veneto 1)から2010年に出版された Susanna Basso 著 Sul tradurre は、Alice Munro や Ian McEwan の英伊翻訳を担当した現役翻訳者の手によるエッセイ集です。具体例に基づく訳語選択の悩みが率直に語られていて、読み物として面白く学びも深い一冊です。
対訳本で文学翻訳に触れる
Mondadori の Meridiani 叢書
Mondadori(Milano、Via Mondadori 1、1907年創業)の I Meridiani 叢書では、外国文学の原典と対訳を並べた特別版が多数刊行されています。Boris Pasternak の Il dottor Zivago(1957年原著、Pietro Zveteremich 訳)やラテン文学の Virgilio Eneide など、言語学習者にも有用な一次テキストが揃います。
Einaudi の対訳詩集
Einaudi(Torino、Via Umberto Biancamano 2、1933年創業)から出ている対訳版の古典詩集は、左ページに原語、右ページにイタリア語訳が並んでいます。Pablo Neruda の Cento sonetti d amore(Giuseppe Bellini 訳)や、Emily Dickinson の Poesie(Marisa Bulgheroni 訳)などが代表例です。
日本語との対訳教材
白水社の対訳シリーズ
白水社(東京、千代田区神田小川町3-24、1915年創業)は語学系出版社の老舗で、イタリア語の対訳本を複数刊行しています。Antonio Tabucchi の Sostiene Pereira(1994年刊)日本語訳や、Italo Calvino の Marcovaldo の対訳版は、直訳と意訳の違いを考えるのに最適です。
NHK 出版の古典対訳
NHK 出版(東京、渋谷区宇田川町41-1)の Dante 神曲対訳シリーズは、中世イタリア語の原文と現代日本語訳を並べた学術的な版で、注釈も充実しています。わたしは地獄篇の数篇を毎週一行ずつ日訳してノートに書き、既訳と比べる練習をしています。
映画字幕翻訳で学ぶ
Netflix や Amazon Prime で配信されているイタリア映画には、日本語字幕とイタリア語字幕の両方を選べる作品が多数あります。L ultimo bacio(2001年、Gabriele Muccino 監督)や La vita e bella(1997年、Roberto Benigni 監督)は、会話のリズムと字幕のズレが学べる好例です。わたしは気に入ったシーンを切り出し、自分で新しい日本語字幕を作って元の字幕と比べるというゲームをよくしています。
オンラインの翻訳練習プラットフォーム
Tatoeba プロジェクト
Tatoeba(tatoeba.org、2006年発足、フランスの Trang Ho によるオープンプロジェクト)は、複数言語の例文データベースで、日本語とイタリア語の対訳例文が約5万件以上登録されています。自分で訳文を投稿するとネイティブから指摘がつくことがあり、交流型の翻訳練習の場として機能します。
DeepL を使った逆翻訳練習
ドイツ・ケルン発の翻訳 AI である DeepL(2017年公開、DeepL SE、Markgrafenstrasse 36、Koln)は、イタリア語の翻訳精度が高く、学習者の下訳チェックに重宝します。わたしは日本語のコラムを一段落ずつイタリア語に訳し、DeepL の提案と比較して違いを分析する練習を週に二回行っています。ただし AI の訳を鵜呑みにせず、必ず自分の頭で考えた訳を先に書くのがコツです。
翻訳講座と通信教育
イタリア文化会館(東京、千代田区九段南2-1-30)は月額のイタリア語翻訳講座を開催しており、経験豊かな翻訳家が添削してくれます。受講料は全八回で約三万円、文学翻訳を目指す人にとって心強い第一歩になります。大阪では公益財団法人日本イタリア会館(京都府京都市左京区吉田牛ノ宮町4)が同様の講座を運営しています。
日伊翻訳の用語集を作る
翻訳をしているとどうしても迷うのが、文化固有の語彙(sagra や comune など)の訳し方です。わたしは iPhone のメモアプリに自分専用の用語集を作り、出会った訳語候補をメモしています。半年もすれば500以上の項目が集まり、独自の辞書として機能し始めます。
実務翻訳と文学翻訳の違い
プロを目指すなら、実務翻訳(契約書、マニュアル、ウェブサイト)と文学翻訳では必要なスキルがまったく違うことを意識しましょう。実務翻訳は正確さと納期遵守が命で、一方の文学翻訳は作家の声と読者の感覚のバランスが問われます。日本翻訳者協会(東京、中央区日本橋馬喰町1-8-12)は両分野の勉強会を定期開催しており、会員になると最新の業界情報が得られます。
CAT ツールとの付き合い方
実務翻訳の世界では SDL Trados Studio(2005年 SDL 社が発売、現在は RWS グループ)や MemoQ(2004年 ハンガリーの Kilgray 社が発売)といった CAT ツールが標準です。学習段階では無料の OmegaT(2000年 Keith Godfrey 開発、GPL ライセンス)から始めると良く、用語集と翻訳メモリの考え方が自然と身につきます。
まとめ
翻訳練習は語彙力と文法力を同時に鍛え、さらに両言語の文化的背景にまで目を開かせてくれる総合的な学習法です。まずは Dire quasi la stessa cosa を読み、Tatoeba や DeepL を使って日々短い翻訳を積み重ねるところから始めてみてください。半年後の自分に驚くはずです。
翻訳フォーラムとメンター
ProZ.com(2000年創業、シラキュース本社のオンライン翻訳者コミュニティ)には Kudoz という用語質問フォーラムがあり、日伊翻訳に困ったときに他のプロの意見を無料で仰ぐことができます。登録料は無料で、質問を投稿すると数時間以内に複数の回答がつくのが普通です。
原書を複数回訳し直す
わたしは一年に一度、同じ短編を一から訳し直す練習を続けています。題材にしているのは Italo Calvino の Le citta invisibili(Einaudi 1972年刊)の一章で、毎年同じ部分を訳すと、自分の成長と弱点が手に取るようにわかります。翻訳練習は一度きりで終わらせず、時間を置いて繰り返すことで初めて本当の成長が見えてきます。
文芸翻訳家の評伝から学ぶ
須賀敦子(1929年兵庫県生まれ、1998年没)は日本を代表するイタリア文学翻訳家で、Natalia Ginzburg や Antonio Tabucchi の訳者として知られます。彼女のエッセイ集 ミラノ 霧の風景(白水社 1990年刊、講談社文芸文庫にも収録)は、翻訳と生活と文学が交差する稀有な読み物で、翻訳者の思考法を学ぶ教科書にもなります。わたしは机の横にこの本を常備し、迷ったときのお守りにしています。
毎日の短い翻訳習慣
最後に実践的なアドバイスを一つ。一日3文でいいので、イタリア語の記事を日本語に訳す習慣をつけてみてください。題材は Il Post の見出しでも Corriere della Sera のコラムの冒頭でも構いません。三か月続けると、訳すスピードが二倍になり、同時にイタリア語を読み解く力も格段に上がります。
翻訳作品を朗読で確かめる
訳文が完成したら、必ず声に出して読み上げてみてください。黙読では気づかなかったリズムの悪さや言葉の重複が、耳で聞くとはっきりわかります。わたしは翻訳作業の最終段階で iPhone の音声メモに自分の訳文を録音し、散歩中に聞き返しています。耳からのフィードバックは机上の校正では得られない気づきを連れてきてくれます。
辞書を引く癖を切らさない
DeepL や Google 翻訳が便利になった今でも、紙の辞書を引く手間を省かないことが語学力の維持に直結します。Zanichelli の伊和中辞典(池田 廉 編、Shogakukan 小学館 2008年改訂版、Tokyo 千代田区一ツ橋2-3-1)は、用例が豊富で文学翻訳にも実務翻訳にも使える信頼の一冊です。
翻訳者の声を記録したインタビュー集もぜひ手に取ってください。須賀敦子の読書日記(みすず書房、2008年刊)には、翻訳中の苦闘や作家との往復書簡が収められていて、訳す行為の孤独と喜びが生き生きと伝わります。


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