インドネシア音楽完全ガイド ダンドゥットからHindia・Rich Brianまで

インドネシア音楽は、実は世界で最も多様な音楽生態系を持っています。人口2.7億人、言語600以上、島1万7,000以上という国土が、ダンドゥットからインディーロック、ヒップホップまで無数のジャンルを育ててきました。

今日はインドネシア音楽をゼロから楽しむための完全ガイドをお届けします。語学学習者視点で、どのジャンルから入ればよいか、誰を聴けばよいか、どこで手に入るかを徹底解説します。

大ジャンル概観 ―― 5つの柱

Dangdut(ダンドゥット)

インドネシアの国民音楽といえばこれ。インド映画音楽、マレーポップ、アラブ音楽の融合から1960年代に生まれ、Rhoma Irama(1946年生まれ、「ダンドゥットの王」)が1970年代に確立しました。近年は若手のVia Vallen(1991年生まれ)やNella Kharisma(1995年生まれ)がTikTokで世界的に拡散。

Pop Indonesia

1970年代のKoes Plus(1969年結成)から始まり、90年代のSheila on 7(1996年結成、ジョグジャ出身)、2000年代のPeterpan/Noah(2000年結成、Ariel率いる)を経て、現代はTulus(1987年生まれ、バンドン工科大学建築出身)、Raisa(1990年生まれ)、Yura Yunita(1991年生まれ)などソロ歌手の時代。

Indie/Alternative

Efek Rumah Kaca(2001年結成)、The S.I.G.I.T.(2000年結成、バンドン)、White Shoes & The Couples Company(2002年結成、ジャカルタ芸術大学出身)などが代表格。社会派歌詞と洗練されたサウンドで、歌詞がそのまま現代詩のような仕上がりの曲が多いです。

Hip Hop/R&B

ジャカルタ出身Rich Brian(本名Brian Imanuel、1999年生まれ、88rising所属)が2016年『Dat $tick』で世界デビューし、以後シーンが一気に国際化。Matter Mos(1995年生まれ)、Ramengvrl(1990年生まれ)、.Feast(Baskara Putra率いる、2012年結成)らが中心です。

Gamelan/Traditional

ジャワ・バリのガムラン音楽はUNESCO無形文化遺産で、インドネシア芸術文化の根幹。現代音楽家Rahayu Supanggah氏(1949-2020年)らの作品から入ると良いです。

絶対聴くべき10アーティスト

1. Tulus

「Monokrom」(2016年)「Pamit」(2019年)は国民的名曲。歌詞が文学的で、インドネシア語の美しさを味わえます。

2. Hindia(Baskara Putra)

.Feastのフロントマンのソロプロジェクトで、2018年デビューアルバム『Menari Dengan Bayangan』は現代若者の不安を詩的に描く名盤。

3. Raisa

透き通る声でPop Indonesiaを代表するディーヴァ。「Kali Kedua」「Lagu Untukmu」などの代表曲は発音練習に最適です。

4. Dewa 19

1986年結成のレジェンドバンドで、Ahmad Dhani(1972年生まれ)率いるプログレッシブロックの雄。「Kangen」「Pupus」は世代を超えた国民的ヒット。

5. Iwan Fals

1961年生まれ、インドネシアのBob Dylanと呼ばれる社会派フォークシンガー。「Bento」「Bongkar」は政治風刺の金字塔。

6. Chrisye

1949-2007年、Pop Indonesiaの父。「Andai Aku Bisa」「Kisah Kasih di Sekolah」は今も色褪せません。

7. Slank

1983年結成、Bimbim・Kaka率いるロックバンドで、反体制的メッセージと熱狂的ファンダムで知られます。

8. Yura Yunita

1991年生まれ、バンドン出身。Tulusの楽曲提供者でもあり、「Tenang」「Harus Bahagia」は癒し系の名曲。

9. Weird Genius

Reza Arap・Eka Gustiwana・Gerald Liuのトリオで、「Lathi」(2020年、Sara Fajiraをフィーチャー)が世界的バイラルヒット。ジャワ語のサビが特徴。

10. Didi Kempot

1966-2020年、ジャワ語ダンドゥットの「失恋の皇帝」。「Cidro」「Stasiun Balapan」はジャワ語学習の入口にもなります。

音楽で学ぶインドネシア語 ―― 5つの実践法

1. 歌詞カラオケ法

YouTubeで「(曲名)lirik」と検索すると歌詞付き動画が出てきます。カラオケ字幕を追いながら歌うのが最強の発音練習。筆者はTulusの「Sepatu」を30回歌って口の筋肉を作りました。

2. 1曲を3週間かけて味わう

新曲を次々消費するより、1曲を深く掘る方が語学効果は高いです。歌詞を和訳・暗唱・背景リサーチまでやれば、1曲が教科書1章分の価値になります。

3. ミュージシャンのInstagramをフォロー

ミュージシャン本人の投稿はインドネシア語のカジュアルな書き言葉の宝庫。Hindiaの投稿キャプションは文学作品のような美しさです。

4. Spotifyのローカルプレイリスト

「Top Hits Indonesia」「Indie Indonesia」「Dangdut Koplo」など公式プレイリストを日常BGMに。耳が勝手に慣れていきます。

5. 音楽フェスのセットリストを追う

We The Fest(2014年開始、ジャカルタ)、Synchronize Festival(2016年開始、ガムラン〜エレクトロまで網羅)、Joyland Festival(2019年開始、バリとジャカルタで開催)のラインナップから新しいアーティストを発掘しましょう。

ライブハウスとフェス ―― 現地で体感する

ジャカルタのM Bloc Space(2019年オープン、Kebayoran Baru地区の旧国営印刷所跡地)、Rossi Musik(老舗ライブハウス)は毎週若手バンドのライブが開催されます。バンドンではGedung Budaya Sabilulungan、ジョグジャではJogja Nationalが有名。

大型フェスではWe The Fest(毎年8月前後)、Djakarta Warehouse Project(2008年開始、エレクトロ系最大級)、Joyland Festival(3月ジャカルタ/11月バリ)が定番です。

まとめ ―― 音楽は国境を溶かす

歌は文法書では教えてくれない「感情語彙」を教えてくれます。「rindu」(恋しい)「patah hati」(失恋)「kenangan」(思い出)といった言葉を、旋律と一緒に体に染み込ませてください。

今日、SpotifyでTulusかHindiaを検索して、1曲だけ通して聴いてみましょう。歌詞が途中から物語のように聞こえたら、あなたはもう「インドネシア音楽ファン」です。

時代別歴史 ―― もう少し詳しく

1960-70年代 ―― 黄金のフォーク期

Koes Plus(1969年Tonny Koeswoyo率いるカルテット)はビートルズ直系のハーモニーでインドネシア独自のポップを確立しました。同時期にBimbo(1967年結成、Sam兄弟のアコースティックグループ)がイスラムテーマのバラードで人気を博し、Guruh Sukarnoputra(1953年生まれ、初代大統領スカルノの息子)がGipsyを結成してジャワ文化×ロックの先駆けとなりました。

1980年代 ―― ロックとバラードの時代

God Bless(1973年結成、Achmad Albar率いるハードロック)、Nicky Astria(1967年生まれ、「レディーロッカー」)、Fariz RM(1959年生まれ、プログレ鍵盤奏者)が活躍。ダンドゥットではRhoma Irama率いるSoneta Groupが黄金期を迎えました。

1990年代 ―― オルタナ革命

Dewa 19、Gigi(1994年結成)、Slankの三大バンドが若者文化を牽引。インディーではPas Band(1989年結成、バンドン初のメタル)、Puppen(1992年結成)がアンダーグラウンドシーンを耕しました。

2000年代 ―― メインストリームの拡張

Peterpan/Noah、Padi、Ungu、Sheila on 7が国民的人気を獲得。Maliq & D’Essentials(2002年結成)はジャズ融合で大人向けリスナーを開拓しました。

2010年代以降 ―― ストリーミング時代

Spotify Indonesia(2016年3月ローンチ)、Apple Music、Joox、Noiceなどの配信プラットフォームがローカル音楽の発見を加速。インディーシーンはPamungkas(1993年生まれ)、Nadin Amizah(2000年生まれ)、Ardhito Pramono(1995年生まれ)らの若手ソロが牽引しています。

購入・入手ガイド

デジタル配信はSpotify・Apple Music・JOOX・Noiceで十分ですが、CDを集めたい人は Demajors(2001年創業、ジャカルタのインディーレーベル兼ディストリビューター)のオンラインショップが便利です。レコード派にはLaidback Blast(バンドン)、Substore(ジャカルタ)が定番。

筆者は毎回ジャカルタ出張のたびに Aksara Bookstore Kemang 店でCDとTシャツを買い込むのが密かな楽しみでした。

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