オランダ旅行というとアムステルダムばかりが注目されがちですが、近郊の歴史都市にこそ本当のオランダの魅力が詰まっています。ユトレヒト、レイデン、ハールレムは、いずれも中世からの面影を残す美しい街並みと、ゆったりした空気が特徴です。
この記事では、アムステルダムから日帰りで行ける三つの古都をオランダ語学習者の目線でご紹介します。
Utrecht オランダの中心
街のプロフィール
Utrecht(ユトレヒト)はユトレヒト州の州都で、人口約36万人(2024年)のオランダ第四の都市です。ローマ帝国時代に築かれた砦を起源とし、中世にはオランダ最大の都市として繁栄しました。1713年の「ユトレヒト条約」でも世界史に名を刻んでいます。
ユトレヒト大学(1636年創立、オランダ屈指の研究大学)のキャンパスタウンでもあり、学生が街に活気をもたらしています。アムステルダム中央駅から電車で約30分という近さも魅力です。
Domtoren
Domtoren(ドム塔、1382年完成)は高さ112メートル、オランダで最も高い教会塔です。もともとはSint-Maartenskathedraal(聖マルティヌス大聖堂)の一部でしたが、1674年の竜巻で本堂が崩壊し、塔と内陣だけが残りました。今も塔と教会の間の広場はその歴史を物語ります。
塔は465段の階段を登って見学でき、頂上からはユトレヒト旧市街と遠くのアムステルダムまで見渡せます。ガイドツアー制で、事前予約が必要です。
運河の二層構造
ユトレヒトの運河Oudegrachtは他の都市とは違う二層構造で有名です。水面と街路のあいだに中間の荷揚げ用段があり、昔は商人たちが直接船荷を地下室に運び込みました。現在その半地下スペースはカフェやレストランに改装されていて、水面を眺めながらの食事が楽しめます。
中心部にはMiffy(ナインチェ・プラウス、1955年作家Dick Bruna 1927年ユトレヒト生まれ2017年没が創作)のミッフィー博物館nijntje museumもあり、ミッフィー信号機や像が街のあちこちに隠れていて、探しながら歩くのも楽しいです。
Leiden 大学と知の街
歴史と立地
Leiden(レイデン)は南ホラント州にある人口約12万人の中規模都市です。レンブラント(1606年レイデン生まれ)の故郷であり、オランダ最古のライデン大学(1575年創立、ウィレム沈黙公が創設)のキャンパスを中心とした学術都市です。
アムステルダムからは電車で約35分、デン・ハーグからは約10分という便利な立地で、半日あればゆったり散策できます。街のあちこちにオランダ語と英語の詩が建物の壁に書かれた「Wall Poems」プロジェクト(1992年開始)があり、街歩きの楽しみを倍増させてくれます。
Rijksmuseum van Oudheden
Rijksmuseum van Oudheden(国立古代博物館、1818年創立)はオランダ最大の古代文明博物館で、古代エジプト、ギリシア・ローマ、オランダ先史時代のコレクションが充実しています。エジプトのTaffehの神殿(紀元前1世紀、エジプト政府から1971年贈呈)が館内に再建されているのが見どころです。
Naturalis Biodiversity Center(2019年リニューアル開館)はオランダ最大の自然史博物館で、ティラノサウルスのTrixなど本物の恐竜化石に圧倒されます。子ども連れでも大人だけでも満足度が高い展示です。
Hortus botanicus Leiden
Hortus botanicus Leiden(ライデン植物園、1590年創設)はオランダ最古の植物園で、400年以上の歴史を持ちます。1593年にオランダ初のチューリップ球根を植えたClusius(Carolus Clusius 1526年生まれ1609年没)の記念区画があり、オランダ球根産業発祥の地とも言える場所です。
園内には日本庭園や熱帯温室もあり、四季を通じて楽しめます。入場料は大人11ユーロ前後です。
Haarlem 黄金時代の気品
歴史と街並み
Haarlem(ハールレム)は北ホラント州の州都で、人口約16万人の美しい古都です。アムステルダム中央駅から電車でわずか15分という近さにもかかわらず、旧市街の落ち着いた雰囲気は大都市の雑踏と対照的で、隠れた名所好きに人気があります。
1577年にウィレム沈黙公の軍に解放されて以来、プロテスタント商業都市として栄え、17世紀には多くの画家を輩出しました。フランス・ハルス(Frans Hals 1582年生まれ1666年ハールレムで没)の活動拠点だったことで知られます。
Frans Hals Museum
Frans Hals Museum(フランス・ハルス美術館、Groot Heiligland 62、1913年開館)は世界最大のフランス・ハルス作品コレクションを所蔵します。旧救貧院を改装した建物で、「ハールレムの民兵集団の集団肖像画」などハルスの代表作を自然光で鑑賞できます。
別館のHAL(旧食肉処理場Vleeshal、1603年建立)ではハルスの時代から現代美術までつなぐ企画展が開かれていて、建築と作品の両方を楽しめます。
Grote Markt と Grote Kerk
ハールレムのGrote Markt(中央広場)は石畳に囲まれた絵のように美しい広場で、広場を見下ろすようにGrote Kerk(Sint-Bavokerk、大聖堂、15世紀)が建っています。この教会のオルガンは1738年にChristian Müllerが製作したもので、モーツァルト(1766年、10歳)とヘンデルが演奏したという伝説が残っています。
金曜と土曜の午前中には広場で市が開かれ、花やチーズ、魚、古着、家庭用品など地元の生活感あふれる品々が並びます。観光地ぽさが少なく、地元の日常に触れられる貴重な体験です。
三都市を一日で巡るプラン
三都市すべてを一日で巡るのは駆け足になりますが不可能ではありません。朝8時にアムステルダム出発、ハールレム(15分)で2時間→レイデン(30分移動、2時間)→ユトレヒト(40分移動、3時間)→アムステルダム帰還というルートが現実的です。
ただしオランダの歴史都市はそれぞれに味があるので、一つの街に半日ずつ使って二日間で巡るほうが満足度は高いです。無理のない計画を立ててください。
食と土地の名物
ユトレヒトではDe Zakkendrager(1851年創業)という老舗ホフィエや、運河沿いのRoost(テラス席が人気)で昼食を取るのがおすすめです。ユトレヒト名物はとくにありませんが、学生街らしくコーヒースタンドや小洒落たブランチカフェが豊富です。
レイデンではHutspot(じゃがいもとにんじんと玉ねぎの伝統煮込み)が発祥の地とされています。1574年のスペイン軍包囲戦中に食べられた料理で、毎年10月3日のLeidens Ontzet(レイデン解放記念日)にはこの料理と白パン、ニシンが無料配布される伝統行事があります。
ハールレムのHalte 3(旧トラム駅を改装したレストラン)、Jopenkerk(旧教会を改装したブルワリーパブ、2010年開業)も旅の一杯を楽しむのにぴったりです。Jopenkerkのビールはハールレム産で、観光土産にもなります。
お役立ちフレーズ
観光案内所で「Heeft u een plattegrond van de stad?」(街の地図はありますか)、「Welke bezienswaardigheden kunt u aanraden?」(見どころのおすすめは)、「Hoe lang duurt de rondleiding?」(ガイドツアーの所要時間は)といった言い回しは便利です。
入場券売場では「Twee volwassenen, graag.」(大人2名お願いします)、「Is er een studentenkorting?」(学生割引はありますか)、「Tot hoe laat zijn jullie open?」(閉館は何時ですか)が定番です。どの歴史都市も丁寧に接してくれる係員ばかりなので、安心して尋ねてください。
季節と祭り
ユトレヒトでは9月のUtrechtse Vrouwenweek(女性週間)や毎年11月のInternational Film Festival Rotterdam予選的存在のNederlands Film Festival(1981年開始、オランダ最大の映画祭)が見どころです。後者はオランダ映画界の賞Golden Calfの授与式も行われます。
レイデンは10月3日のLeidens Ontzet、ハールレムは4月のBloemencorso Bollenstreek(花のパレード、1948年開始)で沿道が賑わいます。旅の日程が祭りに重なると、その土地の空気が何倍にも濃く感じられて忘れがたい思い出になります。
旅を深めるための読書
ユトレヒトに行く前にDick Brunaの絵本を数冊、レイデンに行く前にレンブラントの伝記を一冊、ハールレムに行く前にフランス・ハルスの作品集を眺めておくと、現地での体験が何倍にも深まります。
旅行は準備の時間も含めて楽しむもの。オランダ語の観光パンフレットを取り寄せて、知らない単語を辞書で調べながら読むのも立派な語学学習です。


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