「食べる」「行く」「見る」の裏側
タイ語の動詞や形容詞には、一見すると同じ意味でも場面によって使い分ける類義語ペアが多数存在します。
また、1つの語が複数の意味を持つ多義語や、決まった組み合わせでしか使えないコロケーション(連語)も豊富で、これらを知らないと不自然なタイ語になってしまいます。
この記事ではタイ語学習者が必ずぶつかる類義語・多義語・コロケーションの代表例を、実用的な使い分けのコツとともに解説します。
「食べる」の使い分け กิน/ทาน/รับประทาน
日本語の「食べる」に相当するタイ語は3種類あり、場面の改まり度で使い分けます。
กิน(キン)—普段使い
友人同士・家族・日常会話で使う最もカジュアルな「食べる」です。
「กินข้าว(ご飯食べる)」「กินเผ็ด(辛いの食べる)」と何にでも使えますが、目上の人やフォーマルな場では避けた方が無難です。
ทาน(ターン)—丁寧
フォーマル寄りの「食べる」で、レストランやホテル、目上の人との食事でよく使われます。
元々は「ดื่มและทาน(飲み食い)」の語源から来ており、現代では単独で「食べる」を意味するようになりました。
รับประทาน(ラッププラターン)—最上級の敬意
パーリ語・サンスクリット語由来の形式語で、ニュース原稿・公式文書・王室用語で使われます。
日常会話で使うと「仰々しすぎる」と笑われるので、書き言葉専用と考えた方がいいでしょう。
「行く」の使い分け ไป/เดินทาง/ออกเดินทาง
ไป(パイ)—基本の「行く」
最も基本的な「行く」で、英語のgoとほぼ同じ用途です。
เดินทาง(ドゥーンターン)—旅する
「歩く+道」の複合語で、距離のある旅行や出張を表します。
「เดินทางไปญี่ปุ่น(日本に旅行する)」のように、単なる移動ではなく旅・出張のニュアンスがあります。
ออกเดินทาง(オーク・ドゥーンターン)—出発する
「出る+旅する」で、英語のdepartに対応します。空港のアナウンスや旅行記事で頻出です。
「見る」の使い分け ดู/เห็น/มอง
ดู(ドゥー)—意図して見る
映画を見る、本を見る、景色を見るなど、意識的に注視する動作を表します。「ดูหนัง(映画を見る)」「ดูทีวี(テレビを見る)」のように使います。
เห็น(ヘン)—視野に入る・気づく
意図せず目に入る、あるいは認識することを表します。「เห็นแล้ว(見えた・分かった)」「ไม่เห็น(見えない)」と使い、英語のseeに近い感覚です。
ดูとเห็นの関係は、英語のlookとseeの関係とほぼ同じです。
มอง(モーン)—じっと見つめる
凝視・観察を表し、「มองตา(目を見つめる)」「มองไกลๆ(遠くを見つめる)」のように使います。恋愛の文脈やドラマで頻出する情緒的な動詞です。
「好き」の使い分け ชอบ/รัก
ชอบ(チョープ)—広い好意
物・食べ物・場所・人・行動すべてに使える万能の「好き」です。「ชอบอาหารไทย(タイ料理が好き)」「ชอบเดินทาง(旅行が好き)」。
รัก(ラック)—深い愛情
家族・恋人・強い情熱に対して使う「愛する」です。安易にรักを使うと重すぎる印象を与えるので、友達レベルではชอบを選びましょう。
ちなみにタイ人は家族や親友に「รัก」をよく使い、日本人よりも愛情表現がストレートな文化があります。
多義語の罠
เอา(アオ)—取る/持つ/要る/する
「เอาอะไร?(何要る?)」「เอามา(持ってきて)」「เอาไป(持っていって)」と、英語のget、take、want、haveを一語でカバーする万能動詞です。
文脈で意味が変わるので、用例で覚えるしかありません。
ได้(ダイ)—できる/得る/過去
「ทำได้(できる)」「ได้เงิน(お金を得る)」「เมื่อวานได้ไป(昨日行った)」と、3つの意味を持つ多義語です。
位置で意味が変わるのが厄介で、動詞の後なら可能、動詞の前なら過去というルールです。
コロケーションの世界
タイ語には「この名詞にはこの動詞」という決まった組み合わせが多数あり、これを間違えると不自然な響きになります。
お金を「稼ぐ」
「お金を稼ぐ」はหาเงิน(探す+お金)で、ทำเงิน(作る+お金)ではありません。
日本語では「お金を作る」と言うと違和感がありますが、タイ語も同じ感覚で、「探す」がお金を得る動作の定番動詞です。
薬を「食べる」
「薬を飲む」はกินยา(食べる+薬)で、ดื่มยา(飲む+薬)とは言いません。
日本語の「飲む」は水・薬・酒すべてに使えますが、タイ語では固形の薬はกิน(食べる)、液体の水はดื่ม(飲む)と使い分けます。
風邪を「ひく」
「風邪をひく」はเป็นหวัด(〜になる+風邪)で、จับหวัด(捕まえる+風邪)ではありません。
日本語の「風邪をひく」は英語のcatch a coldからの直訳感覚ですが、タイ語では「風邪の状態になる」と表現します。
シャワーを「浴びる」
「シャワーを浴びる」はอาบน้ำ(浴びる+水)で、これは日本語と同じ感覚です。
ただし「風呂に入る」もอาบน้ำで表され、湯船と区別する必要がある場合はแช่น้ำร้อน(浸かる+温泉)という別表現になります。
形容詞の類義語
美しい สวย/งาม/น่ารัก
สวย(スアイ)は女性の外見を褒める最も一般的な「美しい」、งาม(ガーム)は文語的で風景や芸術に使う「優美な」、น่ารัก(ナーラック)は「可愛い」で子供や小動物、親しい間柄の女性に使います。
大きい ใหญ่/โต
ใหญ่(ヤイ)は物理的な大きさ、โต(トー)は成長した・大人になったというニュアンスで、子供にโตは使いますが建物にはใหญ่を使います。
学習リソース
類義語・コロケーションの学習には、Becker著「Thai for Intermediate Learners」(Paiboon Publishing、2004年)の第3章が充実しています。
日本語ではチャラット・チラクポンパン(チュラロンコーン大学講師)の「タイ語類義語辞典」(めこん、2011年)が決定版で、筆者も愛用しています。
また冨田竹二郎著「タイ日辞典」(養徳社、1964年/1997年改訂)には類義語の微妙な違いが詳述されており、上級者向けの必携書です。
擬音語・擬態語の豊かさ
タイ語には擬音語・擬態語(คำเลียนเสียง)が非常に豊富で、会話や広告、漫画で多用されます。
โครม(ゴーム、ドスンという衝撃音)、ตุ๊บ(トゥップ、ポトンと落ちる音)、เจี๊ยวจ๊าว(チアオチャオ、鳥のさえずり)、กุ๊งกิ๊ง(クンキン、キラキラした様子)など、音と動きを生き生きと伝える語が数百存在します。
広告コピーや子供向け絵本を読むと、これらの擬音語がたくさん登場し、タイ語の音の楽しさを実感できます。
まとめ
類義語の使い分けはタイ語学習の中級の壁と言われ、辞書だけでは習得できません。
筆者がおすすめするのは「同じシチュエーションで複数の類義語を試してみて、ネイティブの反応を観察する」という実践法です。
กินとทานを場面で使い分けられるようになると、一気に中級者らしい洗練された会話ができるようになります。
多読・多聴でコロケーションを体に染み込ませ、実地で試す—これが類義語習得の黄金ルートです。
色の語彙と連想
タイ語の色の名前は、自然現象や動物から取られたものが多く、文化背景を知ると覚えやすくなります。
สีแดง(赤、血の色)、สีขาว(白、米の色)、สีดำ(黒、炭の色)、สีเขียว(緑、葉の色)、สีฟ้า(水色、空の色)、สีน้ำเงิน(濃青、藍染の色)、สีเหลือง(黄、ターメリックの色)。
各曜日に色が対応しており、月曜=黄、火曜=ピンク、水曜=緑、木曜=オレンジ、金曜=青、土曜=紫、日曜=赤というタイ独自の体系があります。
故プミポン国王(1927-2016)は月曜日生まれで黄色がシンボルカラーとなり、黄色のポロシャツが国王誕生日の定番として今でも販売されています。
曜日の名前の由来
タイ語の曜日名は天体・神に由来し、仏教宇宙観を反映しています。
วันจันทร์(月曜、月神)、วันอังคาร(火曜、火星・軍神)、วันพุธ(水曜、水星・学問神)、วันพฤหัสบดี(木曜、木星・最高神)、วันศุกร์(金曜、金星・美神)、วันเสาร์(土曜、土星・試練神)、วันอาทิตย์(日曜、太陽)。
これはインド占星術の影響で、古代インドのサンスクリット語から借用された語が土台になっています。
パーリ・サンスクリット借用語
タイ語の語彙の約3割はパーリ語・サンスクリット語からの借用で、仏教用語・学術用語・王室用語がこの層に集中しています。
例えば「大学」มหาวิทยาลัย(マハーウィッタヤーライ)はmahā(大)+vidyā(知識)+ālaya(場所)の複合語で、サンスクリット三語から成ります。
「国王」พระมหากษัตริย์(プラ・マハー・カサット)もサンスクリット由来で、日常語のกินやไปとは全く別の語源体系に属します。
この層を知っておくと、上級者になったときに語彙の拡張が爆発的に進むので、ぜひ意識しておきたいポイントです。


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