Twitter(現X)、Instagram、TikTok、WhatsApp、Telegram ―― インドネシアのネット上には、教科書には絶対載らない独特のスラングが大量に飛び交っています。
私もジャカルタのコワーキングスペースで同僚が投稿するツイートを眺めては「え、これ何語?」となったことが、数えきれないほどあります。
この記事では、インドネシア語のインターネットスラング、略語、記号文化を、実例とともに整理してご紹介します。
インドネシアのSNS事情を一言で
まず背景として、インドネシアは世界有数のSNS大国です。
We Are Social社の2024年1月レポートによれば、インドネシアのSNSユーザーは約1億3900万人、Twitter(X)利用者では世界4位、TikTokでは世界2位の市場規模を誇ります。
そのため、新しいスラングの発生スピードも桁違いで、3ヶ月前のバズワードが「もう古い」扱いになることも珍しくありません。
頻出インターネット略語
インドネシア語の略語文化は、英語圏とは発想が少し違い、「文全体の頭文字をとる」パターンが主流です。
これを知っておかないと、投稿が暗号にしか見えません。
感情・反応系
wkwkwk:笑い声(英語の lol に相当)。子音 k を連打すればするほど爆笑感が出ます。
wkwk land:外国からの揶揄を逆手に取った呼称で、2018年頃に欧米ゲーマーがインドネシア人を揶揄したのを、インドネシア側が自虐的に採用して定着しました。
awowkwk / wowkwk:さらに激しい笑い。
gws:get well soon(お大事に)、英語略のまま使います。
otw:on the way(今向かってる)、インドネシア人はこれを平気で「あと10分」の意味で使い、実際は30分以上かかることもあるのでジョークにされます。
関係性・SNS作法
CMIIW:Correct Me If I’m Wrong。議論系ツイートの末尾によく付きます。
IMHO:In My Humble Opinion。英語圏と同じ使い方です。
TBH:to be honest、これも英語のまま。
BTW:by the way、同上。
FYI:for your information、同上。
インドネシア語オリジナルの略語
kzl:kesal(ムカつく)、母音を抜いて子音だけ残すパターン。
bgt:banget(超)。「enak bgt」「cape bgt」は定番です。
gpp:gak papa(nggak apa-apa、大丈夫)。
sy / km / kk / bp / ibu:saya / kamu / kakak / bapak / ibu の省略形で、チャット全般で普通に使います。
yg:yang(関係代名詞・主題マーカー)、どの略語リストにも必ず出てきます。
dgn / dg:dengan(〜と共に)。
utk:untuk(〜のために)。
krn:karena(なぜなら)。
tdk:tidak(〜でない)。
jd:jadi(だから/〜になる)。
フレーズ略語
GJ:gak jelas(意味不明)、あるいは gaje とも書かれる。
WTS / WTB / WTT:Want to Sell / Buy / Trade、ECカーンの投稿でよく見る。
COD:Cash on Delivery、Tokopedia や Shopee の取引で定番。
DM:Direct Message、Instagramから派生。
STR:setor(送金する・支払う)。
数字を使った暗号スラング
アルファベットの形や音が数字に似ていることから生まれた、数字置換スラングもあります。
7an(tujuan=目的)
7 は tujuh(7)と読むので、tujuan(目的)を「7an」と書きます。
「7an lo apa sih?(あなたの目的は何?)」のように使われます。
4L4Y(alay)
「alay(ダサい・痛い)」を 4L4Y と書くのは、2000年代後半のインターネット黎明期に流行した「leet speak(リート)」の流れです。
今では逆にそれ自体が「古い・alay」と言われる自己言及的な冗談になっています。
ミームとハッシュタグから生まれる新語
インドネシアのTwitter圏は、特にミーム発のスラング製造工場として知られています。
いくつか代表例を見てみましょう。
「ngabers」「ciwi-ciwi」など
ngabers は「お兄さんたち(abang を複数にした造語)」の意味で、バイク愛好家コミュニティで使われ始めてから一般化しました。
ciwi-ciwi は「女の子たち(cewe の反復変形)」で、ネット界隈の女性読者を指す親しい呼びかけとして2020年頃から広まりました。
「santuy」「kuy」
santuy は santai(リラックス)の口語化で、2019年頃にラッパー Young Lex らのリリックから広まりました。
kuy は yuk(〜しようよ)を逆さに書いたもので、「kuy cabut(行こうぜ)」のように使います。
「bund」「gaes」
bund は bunda(お母さん)の略で、子育て系インフルエンサーがフォロワーに呼びかけるときに使います。
gaes は英語 guys のインドネシア読みで、YouTuber が視聴者に向かってよく「Halo gaes!」と始めます。
大御所インフルエンサーが作るスラング
一部のインフルエンサーは、スラングを一単語ずつ世に送り出す力を持っています。
YouTuberのアトゥタ・ハラパン(Atta Halilintar、1994年生、登録者3,000万超)、コメディアンのラディチャ・ディカ(Raditya Dika、1984年生)、俳優のリオ・デワント(Reza Rahadian、1987年生)、インフルエンサー Fuji(Fujianti Utami、2002年生)らの発言はそのまま流行語になりがちです。
2023年にバズった「skena(サブカルに通じている人)」は、音楽シーンからTikTokを経て全国ワードになった例です。
SNSでスラングを学ぶときの注意
ネットスラングは便利ですが、使いどころを間違えると「痛い」と思われます。
特に、目上の人や仕事関係者とのWhatsAppでは、saya / Anda とフルスペルの文章を使うのが鉄則です。
SNSで覚えた言葉を使う前に、必ず「これ、友達以外にも使っていいやつ?」と確認するクセをつけると、失敗しません。
一番確実なのは、italki でインドネシア人講師に、その週に見つけたスラングをメモしておいて聞くことです。
この「スラングメモ帳」方式、私自身が3年間続けて、500語以上のネット語を覚えることができました。
プラットフォームごとのスラング事情
どのSNSで使われるかによって、スラングの空気感はかなり違います。
私の観察では、プラットフォームごとの「言葉の色」を意識してインプットすると、学習効率が2倍くらいに上がります。
Twitter(X)
インドネシアのTwitter圏は通称「twitter base」と呼ばれ、匿名アカウントがゴシップや告白を投稿して引用リツイートで盛り上がる文化が根強いです。
@workfess(匿名職場ゴシップ)、@collegemenfess(大学生の告白)、@tubirfess(論争投稿)など「○○fess」系のアカウントには、その時々で流行するスラングがリアルタイムで流れてきます。
文末の「-lah」「sih」「tuh」「kok」「dong」「loh」の多用、半角スペース抜きの略語連打、アルファベット1字の感情語(「j」「y」など)が特徴です。
ビジュアル重視なので、スラングはキャプションより、ハッシュタグとストーリーズに集中します。
#kulineridn(kuliner Indonesia=インドネシアグルメ)、#explorejakarta、#ootdindo(outfit of the day Indonesia)などの大型タグの下には、影響力のあるクリエイターが自身のスラングを投下しています。
TikTok
音源やダンスに合わせて広がる言葉が多く、2023年にはリリースわずか数週間で「skena」「sigma boy」「yapping」が拡散しました。
TikTok発のスラングは寿命が短く、半年後には誰も使っていないことがよくあるので、その儚さごと楽しむのが正解です。
WhatsApp と Telegram
メッセンジャー系では、略語とステッカー(stiker)が主役です。
Telegramのステッカーパックには、「Wkwkwk」「Anjay」「Santuy」などスラングそのものを描いたイラストが数百種類あり、無料で配布されています。
スラングを安全に保存する方法
学習者の私がおすすめするのは、Notionに「インドネシア語ネットスラング辞典」ページを作り、見かけた語と出典URL、意味、自分なりの用例を3行で書き残すこと。
この方法なら、流行が去った語も「あの頃はこれが流行ってたんだな」と振り返れて、語感の時間軸まで身につきます。
ネットスラングは、生きた言語そのもののスナップショット。
辞書には載らない、でも現地の人の心を正しく理解するために欠かせない宝物だと、私は思っています。


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