広東語のありがとう|唔該と多謝の使い分けと返し方

広東語

広東語のありがとうは、唔該(m4 goi1)と多謝(do1 ze6)の2語に分かれています。

どちらを使うかは気持ちの強さではなく、感謝の対象が「してもらった行為」か「もらったモノ」かで決まります。

香港へ発つ前に知りたいのはたいていこの判断なので、先に基準を出してから、迷いやすい場面を1つずつ潰していきます。

本文のカタカナは近似表記です。広東語の音をカタカナで正確に写すことはできないので、見当をつけるための補助として見てください。

粤拼(Jyutping)に付く数字は声調の番号です。番号の中身は広東語の声調と粤拼の記事にまとめてあります。

結論|してもらったら唔該、もらったら多謝

唔該は相手の行為に対して、多謝はモノや金銭など実体のあるものを受け取ったときに使います。

席を譲られたら唔該、お土産をもらったら多謝。この2つを軸にすれば、旅行中の判断はほぼ付きます。

気持ちを厚くしたいときは、どちらの語にも 晒(saai3)を足します。

広東語 粤拼+カタカナ 意味と使う場面
唔該 m4 goi1(ンゴーイ) してもらったお礼、すみません、お願いします
多謝 do1 ze6(ドーゼー) モノを受け取ったときのお礼
唔該晒 m4 goi1 saai3(ンゴーイサーイ) 行為への厚めのお礼
多謝晒 do1 ze6 saai3(ドーゼーサーイ) モノへの厚めのお礼
唔使客氣 m4 sai2 haak3 hei3(ンサイハーッヘイ) どういたしまして

この5つが入っていれば、滞在中に困る場面はまず出てきません。

あとは自分の場面がどちらに寄るかを見分けるだけなので、以下でその境界を細かく見ていきます。

唔該(m4 goi1)が担う3つの役割

唔該は、英語でいう thank you と excuse me と please を1語で兼ねています。

唔該を「ありがとう」とだけ覚えると、香港で耳にする唔該の大半が意味不明に聞こえます。

店で、乗り物で、道端で飛び交うこの語を、3つの役割に分けて見ていきます。

行為へのお礼としての唔該

電車で席を譲られたときに言うのが唔該です。

ドアを押さえて待っていてくれた人にも唔該を返します。

道を教えてもらったあとも、最後は唔該で締めます。

店員が注文を取りに来てくれたときや、メニューを渡されたときも唔該です。

写真を撮ってもらったときも、相手がしてくれたのは行為なので唔該になります。

共通しているのは、相手の手間や動作に対して返しているという点です。

人を呼び止める「すみません」としての唔該

2つ目の役割は、人に声をかけるときの「すみません」です。

店員を呼ぶとき、人混みで前を通してもらうとき、落とし物を拾って渡すときの第一声が唔該になります。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該 m4 goi1(ンゴーイ) (店員に)すみません
唔該,借借 m4 goi1, ze3 ze3(ンゴーイ ゼー・ゼー) すみません、通してください

唔該で店員を呼ぶのは失礼ではありません。日本語の「すみません」とほぼ同じ感覚で使えます。

似た場面の語に唔好意思(m4 hou2 ji3 si1)があり、こちらは気まずさや申し訳なさを含んだ声かけです。

はっきりした謝罪は對唔住(deoi3 m4 zyu6)で、ぶつかった、遅れたなど自分に非がある場面はこちらに寄せます。

依頼の「お願いします」としての唔該

3つ目は、文頭に置いて依頼をやわらげる用法です。

日本語の「すみません、〜してください」の前半とちょうど同じ働きをします。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該,埋單 m4 goi1, maai4 daan1(ンゴーイ マーイダーン) お勘定をお願いします
唔該,落車 m4 goi1, lok6 ce1(ンゴーイ ロッ(ク)チェー) (小巴で)降ります
唔該,呢度落車 m4 goi1, ni1 dou6 lok6 ce1(ンゴーイ ニードウ ロッ(ク)チェー) ここで降ろしてください
唔該,等一等 m4 goi1, dang2 jat1 dang2(ンゴーイ ダンヤッ(ト)ダン) ちょっと待ってください

小巴(ミニバス)は停留所以外でも降ろしてくれるので、降りたい場所の手前で運転手に声をかけます。

このとき唔該を落とすと命令口調になってしまうため、前置きとして必ず置きます。

唔(m4)は母音のない音節

唔は子音の m だけで1つの音節を作る語です。

「ム」と書いてしまうと母音の u が入り、別の音として聞こえて通じにくくなります。

口を閉じたまま低く鼻を鳴らし、その響きからそのまま goi1 に移ります。

声調は唔が第4声(低く平ら)、該が第1声(高く平ら)で、この落差が唔該らしさを作ります。

母音を持たない音節がそのまま単語になる例は日本語にも普通話にもなく、広東語では他に五(ng5)があります。

カタカナで「ンゴーイ」と書くのは、この母音のなさを写すためです。

多謝(do1 ze6)を使う場面

多謝の守備範囲は、受け取ったものに対する謝意です。

手に残るもの、口に入るもの、財布に入るものが目の前で動いたときは多謝、と考えると迷いません。

モノ・お金・利是を受け取ったとき

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
多謝 do1 ze6(ドーゼー) (受け取って)ありがとう
多謝晒 do1 ze6 saai3(ドーゼーサーイ) 本当にありがとう
多謝你 do1 ze6 nei5(ドーゼーネイ) ありがとうございます

贈り物、おごり、チップ、旧正月に配られる利是(lai6 si6)は、すべて多謝の側です。

禮物(lai5 mat6)を手渡された瞬間の一言も多謝になります。

金額の大小は関係なく、飴玉1個でも受け取ったものは受け取ったものとして扱います。

褒められたときの多謝

「廣東話講得好好(広東語がお上手ですね)」と言われたら、多謝で受けるのが自然です。

日本語のように、まず否定してから受け取るという段取りは必要ありません。

謙遜を添えたいときは、邊度係啊(bin1 dou6 hai6 aa3)と続けると「そんなことないですよ」になります。

褒め言葉は相手から差し出されたものなので、受け取る側の語である多謝が選ばれると考えると筋が通ります。

公の場とスピーチの多謝

スピーチや舞台、SNSの投稿では多謝大家(do1 ze6 daai6 gaa1)が定番で、「みなさんありがとうございます」にあたります。

この場面に口語の唔該はほとんど出てきません。

書き言葉になるとさらに改まり、感謝(gam2 ze6)のような標準中国語寄りの語に置き換わります。

広東語は話し言葉と書き言葉が離れていて、メールや公式文書は標準中国語の文体で書かれるのが普通です。

そのため、口では多謝と言った相手が、文面では感謝と書いてくることも珍しくありません。

迷う場面はどちらを使うか

ここまでの基準を、実際の場面に当てはめた一覧にします。

自分のケースに近い行を探して、右端の形をそのまま言えば通じます。

場面 唔該か多謝か 実際に言う形
席を譲ってもらった 唔該 唔該晒
お土産をもらった 多謝 多謝晒
レジで釣り銭とレシートを受け取った 唔該 唔該
誕生日プレゼントをもらった 多謝 多謝你
エレベーターのボタンを押してもらった 唔該 唔該
ごちそうしてもらった 多謝 多謝晒
道を教えてもらった 唔該 唔該
利是を受け取った 多謝 多謝
写真を撮ってもらった 唔該 唔該
広東語が上手だと褒められた 多謝 多謝
荷物を持ってもらった 唔該 唔該晒
試食をもらった 多謝 多謝
引っ越しを手伝ってもらった 唔該 唔該晒
忘れ物を届けてもらった どちらでも通じる 唔該晒
寝込んだときに差し入れをもらった どちらでも通じる 多謝晒

下2行のような境界はあります。届けてくれた行為に対しても、戻ってきたモノに対しても言えるからです。

迷ったときは、相手が動いてくれたのか、自分の手に何かが残ったのかを見ます。

どちらとも決めきれない場面で多謝晒と言って、失礼になることはありません。

行為かモノかで割り切れないとき

散髪やマッサージのように、サービスを受けた場面は行為なので唔該です。

案内やアドバイスをもらった場面も、動いてくれたのは相手なので唔該になります。

名刺やパンフレットのように、その場で手渡された紙は形が残るので多謝の側に寄ります。

値引きやおまけをしてもらったときは、判断が割れます。相手の裁量という行為と、得をしたという結果の両方が見えるからです。

その場合は、目の前で何かが手に渡ったかどうかを最後の決め手にします。

おまけの品を袋に入れてもらったなら多謝、値札より安くしてくれただけなら唔該と考えると一貫します。

1日を追って見る唔該と多謝

基準が入ったところで、香港で1日を過ごすつもりで場面を順に追ってみます。

自分が言う側だけでなく、相手が言ってくる側の唔該と多謝も拾っておくと、耳が迷わなくなります。

店とレストラン|受け取る側が多謝

店に入って席へ案内されたら唔該、メニューを持ってきてもらっても唔該です。

料理が運ばれてくるたびに小さく唔該と言えば、それで礼儀は成立します。

支払いのときは唔該,埋單と声をかけ、釣り銭とレシートを受け取ってまた唔該です。

ここで店員のほうが多謝と言うことがあります。代金というモノを受け取ったのは店の側だからです。

逆に試食や小さなおまけを渡されたときは、こちらが受け取る側になるので多謝に切り替わります。

同じ相手との数分のやりとりの中で、唔該と多謝が両方出てくるのはこのためです。

タクシーと小巴

タクシーでは、目的地に着いて料金を払い、荷物をトランクから出してもらったところで唔該です。

運転手のほうは代金を受け取った側なので、多謝と返してくることがあります。

小巴では、降りる場所の手前で唔該,落車と声をかけ、実際に降りるときにもう一度唔該と言えば完結します。

この2つは、同じやりとりの中で唔該と多謝が別々の人の口から出る、いちばん分かりやすい例です。

エレベーターと建物の中

エレベーターでボタンを押してもらったら唔該です。

先に降ろしてもらったときも、扉を押さえてもらったときも同じで、すべて相手の動作へのお礼になります。

集合住宅や事務所ビルで荷物を預かってもらったときも唔該で、その荷物を返してもらうときにも唔該です。

ここで多謝を使うと、預けた荷物をそのままもらったかのように響いてしまいます。

道を譲られたとき、親切にされたとき

道を譲られた、傘に入れてもらった、落とした物を拾ってもらった。この種の場面はすべて唔該です。

手伝ってもらったときも唔該晒で足ります。幫手(bong1 sau2)が「手伝う」なので、この語を覚えておくと相手の申し出も聞き取れます。

親切そのものは形が残らないので、目の前にモノが動いたかどうかだけを見れば判断できます。

厚みを足す、やわらげる言い方

お礼に厚みを足したいときは、晒(saai3)を後ろに付けます。

晒はもともと「すっかり、全部」を表す語で、後ろに付いて程度を強めます。

你(nei5)を足すと相手を名指しするぶん、丁寧な響きになります。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該晒 m4 goi1 saai3(ンゴーイサーイ) 本当にありがとう(行為に対して)
多謝晒 do1 ze6 saai3(ドーゼーサーイ) 本当にありがとう(モノに対して)
唔該你 m4 goi1 nei5(ンゴーイネイ) ありがとうございます
麻煩晒 maa4 faan4 saai3(マーファーンサーイ) お手数をおかけしました
辛苦晒 san1 fu2 saai3(サンフーサーイ) お疲れさまでした
有心 jau5 sam1(ヤウサム) お気遣いありがとう
多謝關心 do1 ze6 gwaan1 sam1(ドーゼーグワーンサム) 気にかけてくれてありがとう

麻煩晒は、相手にはっきり手間をかけた自覚があるときの一言です。

辛苦晒は、運搬や作業で体を使ってくれた相手をねぎらう言い方になります。

有心は日本語に訳しにくい語で、体調や家族のことを気遣ってもらったときの返しに使います。

見舞いの言葉やお悔やみに対して有心と返すと、気持ちのほうを受け取ったという意味合いになります。

もう少しはっきり言葉にしたいときは、多謝關心と続けます。

「どういたしまして」の返し方

お礼を言われる側に回ったときの返しも、いくつか持っておくと会話が途切れません。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔使客氣 m4 sai2 haak3 hei3(ンサイハーッヘイ) どういたしまして
唔使唔該 m4 sai2 m4 goi1(ンサイ ンゴーイ) お礼はいいですよ
小事啦 siu2 si6 laa1(シウシーラー) 大したことないよ
唔緊要 m4 gan2 jiu3(ンガンユー) 気にしないで

唔使(m4 sai2)は「〜する必要はない」という意味で、普通話の 不用 にあたります。

文末の啦(laa1)は響きをやわらげる助詞で、広東語にはこの種の文末助詞が数十あります。

唔該に対しては唔使唔該、多謝に対しては唔使客氣と返すと、対応がきれいに揃います。

唔使客氣の「客」は haak3 と読み、最後の k を開放せずに止める入声の音節です。日本語の音読み「キャク」の -ku は、この閉じた子音を母音付きで写した名残にあたります。

同じ対応は音読み全体に及ぶので、日本語と広東語で音が似ている漢語の記事にまとめてあります。

普通話の謝謝との対比

普通話を先に学んだ人ほど、唔該の守備範囲の広さに戸惑います。

普通話は謝謝の1語が広い範囲をカバーしますが、広東語は行為とモノで語を分けています。

分業したぶん唔該には余裕ができ、呼びかけと依頼まで引き受けるようになりました。

場面 広東語 普通話
席を譲られて 唔該 m4 goi1 謝謝 xièxie
贈り物をもらって 多謝 do1 ze6 謝謝 xièxie
店員を呼ぶ 唔該 m4 goi1 不好意思 bù hǎoyìsi
依頼の前置き 唔該 m4 goi1 麻煩你 máfan nǐ
どういたしまして 唔使客氣 m4 sai2 haak3 hei3 不客氣 bú kèqi

どちらが丁寧かという話ではなく、1語あたりの守備範囲の割り振り方が違うだけです。

語彙や発音をまたぐ違い全般は、広東語と北京語の違いの記事で扱っています。

香港は文字も繁体字なので、書くときは謝の字をそのまま使います。繁体字と簡体字の関係は中国語の漢字と声調の記事にまとめてあります。

よくあるつまずき

いちばん多いのは、唔該を「ムゴイ」と読んで通じない形です。母音を入れず、口を閉じたまま低く鳴らします。

贈り物のお礼に唔該を使うと、モノではなく「持ってきてくれた手間」への礼に聞こえます。意味は通じますが、狙いが少しずれます。

謝謝は広東語の音でも読めますが、香港の人どうしの日常会話には出てきません。普通話の語として認識されています。

書くときに簡体字の 谢谢 を使わないようにします。香港とマカオの表記は繁体字です。

教材によっては唔該を ng4 goi1 と書くものがありますが、粤拼の標準形は m4 goi1 です。

お礼のつもりで對唔住を使うと謝罪になってしまうので、感謝と謝罪は語を分けて覚えます。

よくある質問

唔該と多謝、迷ったらどちらを使えばいいですか

相手が動いてくれた場面なら唔該です。

判断がつかない場面では多謝晒と言っておけば、失礼にはなりません。

唔該の「ン」はどう発音しますか

母音を入れず、口を閉じたまま低い高さで鼻を鳴らします。

その響きを保ったまま該(goi1)へ移ると、唔該らしい形になります。

香港で普通話の謝謝は通じますか

意味は通じます。

ただし広東語話者どうしのやりとりでは唔該と多謝が自然なので、広東語で返したい場面ではこの2語を使います。

メールやメッセージではどう書きますか

書き言葉は標準中国語寄りになるため、多謝や感謝(gam2 ze6)が使われます。

友人同士のメッセージやSNSでは、話し言葉のまま唔該や多謝晒と書くことも普通です。

声調を間違えると通じませんか

m4 goi1 は低い音から高い音への落差が大きいので、多少ずれても文脈で通じます。

ただし該(goi1)を低く言ってしまうと落差が消え、聞き取りにくくなります。

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