広東語を初めて聞いたとき、普通話(北京語)よりベトナム語みたいに聞こえた。そう言う人は珍しくありません。
広東語とはどういう言語なのか。この記事は音・文法・語彙と文字の3方向から、その問いに答えます。
先に見取り図を置きます。語彙と文字は中国の言語、音韻と文法は東南アジア寄りです。
ただしその「東南アジア寄り」の中身は限定的で、そこを分けるのがこの記事の仕事です。
なお本文のカタカナは近似で、正確な音を写したものではありません。音は粤拼(Jyutping)の側を見てください。
「ベトナム語みたいに聞こえる」という感想は、当たっているのか
この感想を否定も肯定もせず、当たっているところと外れているところを分けます。結論を先に3つ置きます。
| 見る場所 | この記事の結論 |
|---|---|
| 語彙と文字 | 疑いなく中国の言語。漢字で書き、語彙の骨格は漢語 |
| 音 | 似て聞こえるのは事実。ただし理由は「広東語がベトナム語に寄った」ではなく「両方が古い漢語の音を保存し、普通話が変わった」 |
| 文法 | 普通話より東南アジア寄り。ただし名詞のまわりの語順など中核では完全に漢語型で、「ベトナム語型」は事実に反する |
普通話との実用的な違いは広東語と北京語の違いの記事にあります。こちらが扱うのは「なぜそうなったのか」です。
まず語族を整理する(ここを間違えると全部崩れる)
日本語圏の説明でいちばん誤りが多いのがここなので、最初に片づけます。
| 言語 | 語族 | 主に話される場所 |
|---|---|---|
| 広東語(粤語) | シナ・チベット語族シナ語派 | 香港・マカオ・広東省・広西 |
| 普通話 | シナ・チベット語族シナ語派 | 中国全土 |
| ベトナム語 | オーストロアジア語族(南アジア語族)ヴィエト・ムオン語派 | ベトナム |
| タイ語 | クラ・ダイ語族(タイ・カダイ語族) | タイ |
| チワン語 | クラ・ダイ語族 | 広西 |
| インドネシア語・タガログ語 | オーストロネシア語族 | インドネシア・フィリピン |
オーストロアジア語族とオーストロネシア語族は、名前が似ているだけの完全に別の語族です。
前者に属するのがベトナム語、後者に属するのがインドネシア語やタガログ語で、両者を結ぶ系統関係は立証されていません。
ベトナム語の所属が確定するまでの経緯
20世紀の初めには「声調があるからタイ語の仲間だ」という説があり(マスペロ 1912)、一時は有力でした。
決着をつけたのは、フランスの言語学者オードリクール(A.-G. Haudricourt)の1953〜54年の2本の論文です。
彼はベトナム語の声調が語末の喉音の消失で後から生まれたものだと示し、「声調があるから」という論拠を無効にしました。
以後はオーストロアジア語族が定説です。声調の有無は系統の証拠にならない、という原則がここで立ちます。
系統と接触という2つのものさし
系統は同じ祖先から分かれた関係、接触は系統が違っても長く隣り合って似てくる関係です。
似ている理由がどちらなのかで、言えることがまるで変わります。似ているという観察だけでは、親戚なのか隣人なのかは決まりません。
音:似て聞こえるのには、ちゃんと理由がある
まず「なぜ似て聞こえるか」を5つに分解し、次に因果の向きを正します。最後に「はっきり違うところ」を出して、行きすぎた一般化を防ぎます。
似て聞こえる5つの理由
| 特徴 | 広東語とベトナム語に共通する内容 |
|---|---|
| 声調の多さ | 区別する声調が6つあり、普通話の4つより多い。低く落ちる声調が目立つ |
| 入声 | -p・-t・-k で音節がぷつっと切れる。普通話にも日本語にもない終わり方 |
| -m で終わる音節 | 唇を閉じたまま終わる音節がある。普通話にはない |
| そり舌音と兒化の不在 | 日本語話者が「中国語らしさ」として覚えている zh・ch・sh・r とアール化が、どちらにもない |
| 音節の重さ | 普通話の軽声にあたる弱まりが乏しく、各音節がほぼ等しい重さで並ぶ |
たとえば 中國 は普通話で zhōngguó とそり舌で始まりますが、広東語では zung1 gwok3 でそり舌が出ません。
ただし、この「そり舌がない」はハノイの発音の話です。南部では tr・s・r がそり舌で実現されるので、印象は変わります。
なお、この聴覚印象を測定した研究は確認できていません。音韻的にそう説明できる、という水準の話です。
因果の向きは、直感と逆になっている
広東語がベトナム語に寄ったわけではありません。
広東語は中古漢語(唐代前後の中国語)の音節の形をそのまま保存し、ベトナム語は同じ唐代の中国語音を体系的に借用して保存しました。
つまり両者は同じ祖型を別々に受け取り、両方がよく保存しているという関係です。
実際に変わったのは普通話のほうで、入声も -m も失いました。
漢越語という仕組み、そして日本語も同じ立場にいる
ベトナム語がこうして取り込んだ層は漢越語(Hán-Việt)と呼ばれます。日本語の音読みも構図はまったく同じで、同じ中古漢語を受け取った第三者です。
だから漢字1字を4つの言語で並べると、対応が目に見えます。
| 漢字 | 広東語(粤拼/カタカナ) | ベトナム語(漢越音) | 普通話 | 日本語の音読み |
|---|---|---|---|---|
| 學 | hok6/ホッ(ク) | học | xué | ガク |
| 日 | jat6/ヤッ(ト) | nhật | rì | ニチ |
| 十 | sap6/サッ(プ) | thập | shí | ジュウ |
| 國 | gwok3/グォッ(ク) | quốc | guó | コク |
| 心 | sam1/サム | tâm | xīn | シン |
| 三 | saam1/サーム | tam | sān | サン |
| 越 | jyut6/ユッ(ト) | việt | yuè | エツ |
普通話の列だけが音節の終わりの子音を失っています。日本語話者には、知っている音読みがそのまま手がかりになります。
声調が生まれた仕組みまで同じ型だった
オードリクールが示したモデルは2段階です。第1段階は、音節の終わりにあった喉の音(声門閉鎖や -s)が消えて、その痕跡がピッチの型として残る変化です。
第2段階は、語頭の子音の有声・無声の区別が消えて、その痕跡が声調を高い組と低い組に二分する変化です。
広東語(漢語)とベトナム語は、この同じ2段階を通って声調を得ました。
広東語で言えば、詩 si1 と 時 si4、百 baak3 と 白 baak6 の高低差が第2段階の産物です。ただし留保が3つ要ります。
| 留保 | 内容 |
|---|---|
| 系統の話ではない | 系統が近いからではなく、東南アジア大陸部という同じ地域で似た変化が並行して起きた |
| 時期がずれる | 漢語の四声は5世紀にすでに記述があるが、ベトナム語の3声調段階は6世紀ごろ、高低2組への分裂は12世紀ごろと推定されている |
| 細部は議論中 | このモデルには後続の修正提案があり、決着していない部分が残る |
なお入声の字にかぎれば、広東語の声調とベトナム語の漢字音の声調はほぼ例外なく対応します。
ただし四声全体では崩れ、南 naam4 に対して nam は無記号です。声調体系が同じわけではありません。
それでも、はっきり違う
| 違いの種類 | 内容 |
|---|---|
| 声調の作り方 | 広東語の声調は基本的に高さで区別する。ベトナム語は声の質そのものが弁別に関わり、ngã や nặng では声門が締まって声がきしんだり途切れたりする |
| 子音 | ベトナム語の b・đ は息を吸い込むように出す入破音。広東語にはない |
| 母音 | 広東語の 書 syu1・香 hoeng1 に出る前舌の円唇母音が、ベトナム語にはない |
| 母音のない語 | 広東語の 唔 m4・五 ng5 のような、母音を含まない一音節語がベトナム語にはない |
| 入声に立つ声調の数 | 広東語は3種類。ベトナム語は2種類しか立たない |
ベトナム語の声調は北部(ハノイ)標準で6つ、南部では hỏi と ngã が合流して5つになります。
ベトナム語の音そのものは発音とリスニングの記事と文字と声調の記事で扱っています。
声調をもつ別系統の言語として、5声調のタイ語の声調も一緒に聞くと違いがつかめます。
文法:どこまで東南アジア的なのか、数字で見る
印象で語ると必ず行きすぎるので、先に数字を出してから中身に入ります。
20項目で採点すると、広東語は9点だった
言語類型学者デ・ソウザ(Hilário de Sousa, 2015)が、東南アジア大陸部の言語に典型的な20項目を各言語に当てはめて採点しています。
| 言語 | 20点満点のスコア |
|---|---|
| タイ語 | 18 |
| ベトナム語 | 17 |
| クメール語 | 16 |
| インドネシア語 | 13 |
| ミエン語 | 11 |
| 客家語 | 10 |
| ビルマ語 | 10 |
| 広東語 | 9 |
| 普通話 | 7 |
読み方は3つです。まず、広東語は普通話より2点だけ東南アジア寄りにすぎません。
次に、タイ語18・ベトナム語17とは倍近い開きがあり、位置としてはビルマ語10と同程度です。
そして客家語10のほうが広東語より上で、広東語だけが特別でもありません。デ・ソウザ自身の結論も「シナ語のどれも東南アジア言語圏の中核とは言えない」です。
東南アジア側に立つ点
| 項目 | 広東語 | 普通話 | タイ語 | ベトナム語 |
|---|---|---|---|---|
| 彼は私より背が高い | 佢高過我 keoi5 gou1 gwo3 ngo5 | 他比我高 tā bǐ wǒ gāo | เขาสูงกว่าผม(高い+超える+私) | Anh ấy cao hơn tôi(高い+より+私) |
| 先に行って | 你行先 nei5 haang4 sin1 | 你先走 nǐ xiān zǒu | ไปก่อน(行く+先に) | đi trước(行く+先に) |
| もっと食べて | 食多啲 sik6 do1 di1 | 多吃點 duō chī diǎn | กินอีกหน่อย(食べる+さらに) | ăn nhiều hơn(食べる+多く) |
| 類別詞だけで「その〜」 | 本書好貴 bun2 syu1 hou2 gwai3 | 不可(書很貴 と言う) | 仕組みが異なる | Con chó cắn tôi(可) |
広東語には文末助詞が非常に多く、マシューズとイップの文法書は36を挙げています。
ただしこれは「東南アジア的である証拠」には使えません。日本語も「ね・よ・な・ぞ・っけ」と豊富ですが、東南アジアの言語圏には属さないからです。
日本語話者には、終助詞の感覚がそのまま通じる取っつきやすい点として見るほうが役に立ちます。
比較や使役はタイ語の派生構文、類別詞はタイ語の類別詞、ベトナム語の骨格はベトナム語の文法体系にまとめてあります。
完全に中国語の側に立つ点
ここがこの記事でいちばん重要な反証です。名詞のまわりの語順は広東語と普通話が完全に一致し、タイ語・ベトナム語とは正反対になります。
| 項目 | 広東語 | 普通話 | タイ語 | ベトナム語 |
|---|---|---|---|---|
| 新しい本 | 新書 san1 syu1 | 新書 xīn shū | หนังสือใหม่(本+新しい) | sách mới(本+新しい) |
| 私の本 | 我嘅書 ngo5 ge3 syu1 | 我的書 wǒ de shū | หนังสือของผม(本+の+私) | sách của tôi(本+の+私) |
| この本 | 呢本書 ni1 bun2 syu1 | 這本書 zhè běn shū | หนังสือเล่มนี้(本+類別詞+この) | quyển sách này(類別詞+本+この) |
| 私が買った本 | 我買嘅書 ngo5 maai5 ge3 syu1 | 我買的書 wǒ mǎi de shū | หนังสือที่ผมซื้อ(本+私+買う) | sách tôi mua(本+私+買う) |
ここから2つ言えます。1つは、SVOの言語でありながら関係節を名詞の前に置く組み合わせが世界的にも珍しく、シナ語派にほぼ固有だということです。
広東語もそこから外れておらず、文法の大きな一区画では完全に中国語です。
もう1つは例外で、数詞の位置だけは 兩本書 loeng5 bun2 syu1 のように数詞→類別詞→名詞と並びます。
この並びはベトナム語(hai quyển sách)と一致し、タイ語(หนังสือสองเล่ม)とは一致しません。「東南アジアの言語」はひとくくりにできないのです。
タイ語の語順そのものはタイ語の語順の記事で扱っています。
いちばん有名な論拠が、いま揺れている
「畀本書我 bei2 bun2 syu1 ngo5(あげる+本+私)」の語順は、橋本萬太郎(1976)以来もっとも引かれてきた証拠です。
南方中国語がタイ語系言語の影響を受けた例、という説明で、タイ語も確かに同じ型です。
ところがデ・ソウザ(2015)は、これは接触によるものではないだろうと述べます。理由は4つです。
| 反証 | 内容 |
|---|---|
| ベトナム語が合わない | ベトナム語は普通話と同じ「動詞+相手+モノ」型で、広東語と一致しない |
| 隣のチワン語も合わない | 北部チワン語(クラ・ダイ語族)も、標準的な語順は普通話型 |
| 他の南部中国語も合わない | 閩南語・南寧平話も普通話型 |
| そもそも新しい形らしい | 広東語のこの語順自体、「畀T過R」という連動文の後半が落ちてできた19〜20世紀の新しい形とされる(チン 2011) |
さらに広東語でも、この語順を取るのは「あげる」系の動詞だけです。
たとえば「広東語を教えてください」と頼む場面の 教我廣東話 gaau3 ngo5 gwong2 dung1 waa2 は、普通話と同じ語順です。
比較の言い方は、借りたのではなく残した
佢高過我 の型(形容詞+標識+比較対象)は、じつは上古漢語がもともとこの型でした(梟大於鳩)。
普通話の「比」構文のほうが、中古漢語以降に「比べる」という動詞から文法化して広まった新しい形です。
つまり広東語は借りたのではなく古い型を保持しており、結果としてタイ語・ベトナム語と形が揃った、という二重の説明が要ります。
中国語の文法の基本は中国語の文法の特徴の記事にあります。
語彙と文字:ここは疑いなく中国の言語
3方向のうち、いちばん素直に答えが出るのがここです。広東語はシナ語派なので語彙の骨格は漢語であり、漢字で書きます。
ただし対称性を隠すと誤導になります。「中国語由来の語彙が多い」だけならベトナム語も同じで、漢越語は辞書ベースで語彙の3分の1から7割という推計があります。
推計の幅が大きく、1995年のテレビ番組の調査では実際の使用は18%でした。数字は一人歩きさせないほうが安全です。
| 日本語訳 | ベトナム語の固有語 | ベトナム語の漢越語 |
|---|---|---|
| 一 | một | nhất |
| 水・国 | nước | quốc |
| 人 | người | nhân |
| 食べる | ăn | thực |
日常語ほど固有語が優勢です。
広東語とベトナム語を分けるのは、語彙の出自の比率ではありません。文法の骨格がシナ語派であることと、漢字を使い続けていることの2つです。
ベトナム語は20世紀に漢字(chữ Hán / chữ Nôm)を捨て、ラテン文字のクオックグーへ全面的に移りました。
広東語のほうは逆に、唔 m4・係 hai6・嘅 ge3・咗 zo2・喺 hai2・佢 keoi5 のような口語字を作って漢字を拡張しています。
漢字と発音の結びつきそのものは漢字と声調の記事でも扱っています。
では、なぜ広東語だけこうなったのか
「普通話より少しだけ東南アジア寄り」という状態がどこから来たのかを、歴史と地域の話として見ます。
漢人が来る前の嶺南にいた言語(基層説)
紀元前214年の秦の嶺南征服以降、漢・唐・宋の崩壊期ごとに、北から移民の波がありました。
その移民がもともと嶺南にいたタイ系(クラ・ダイ語族=チワン語などの祖先)の話者と混じり、その下地が残っているという見方が広く共有されています。
バウアー(Bauer 1996)をはじめ複数の研究者が論じ、デ・ソウザ(2015)は「珠江デルタの標準広東語ですら強いタイ基層をもつ」と書いています。
ただし「この単語がタイ系起源だ」と一つひとつ確定させるのは難しく、個別の例には異論もあります。
基層があることは「広東語が中国語でなくなる」ことを意味しません。語彙・文字・文法の骨格は漢語のままです。
下地の痕跡と言われているもの
| 日本語訳 | 広東語 | 普通話 |
|---|---|---|
| 雄鶏 | 雞公 gai1 gung1 | 公雞 gōngjī |
| 雌鶏 | 雞乸 gai1 naa2 | 母雞 mǔjī |
| 客 | 人客 jan4 haak3 | 客人 kèrén |
| この・ここ | 呢 ni1 | 這 zhè |
性別を後ろの要素で示す形や、修飾する要素を後ろに置く複合語の作り方が、東南アジアの言語の並べ方と一致します。
呢 ni1 をタイ系基層の名残とする説もあります。いずれも「そう説明されている」の水準にとどめるのが妥当です。
ここで切り分けを1つ。これは複合語をつくるときの並べ方の話です。
句のレベルで修飾語を名詞の前に置く点は普通話とまったく同じで、層が違います。さきほどの 新書 san1 syu1 や 呢本書 ni1 bun2 syu1 と矛盾しません。
「粤」と「越」はもともと同じ字だった
広東省の略称「粤」と古代の「百越」の「越」は、通用する同じ字です。『史記』が「南越」と書くところを『漢書』は「南粵」と書きます。
ベトナムの Việt も同じ字の漢越音で、国名 Việt Nam は「南越(Nam Việt)」の語順を入れ替えたものです。
広東語では 粤語 jyut6 jyu5、越 jyut6。字の上では、広東語とベトナム語は同じ「越」の世界に属しています。
ただしこれは地名と族称の話で、言語の系統が同じという意味ではありません。百越の言語は単一ではなく、現在も分類未確定として扱われています。
言語連合という考え方
系統が違う言語が長く隣り合って似てくる現象を言語連合(Sprachbund)と呼び、東南アジア大陸部(MSEA)はその代表例です。
ヘンダーソン(1965)以降、エンフィールド(2005)らが体系化してきました。
対象はシナ・チベット、クラ・ダイ、オーストロアジア、ミャオ・ヤオ、オーストロネシアの5語族にまたがり、長江以南の中国も範囲に入ります。
この枠組みの標準的な参考書には、広東語を扱った章が収められています(デ・ソウザ 2015)。
したがって広東語をベトナム語・タイ語と並べて論じること自体は妥当です。ただし広東語は、この言語圏の中核ではなく周縁にいます。
オーストロネシア語族の話が出てくるとしたら、どこか
まず確認します。オーストロネシア語族に属するのはインドネシア語・マレー語・タガログ語などで、ベトナム語はそこに含まれません。
そのうえで、この語族が広東語の話に関わりうる経路は1つだけあります。
広東語の下地にあると考えられているチワン語(クラ・ダイ語族)と、オーストロネシア語族を結びつける「オーストロ・タイ仮説」(ベネディクト 1942、オスタピラット 2005)です。
これが正しければ、広東語の基層はごく遠いところでインドネシア語やタガログ語とつながります。ただしこれは仮説の段階で、確定した話ではありません。
3行でまとめると
語彙と文字は疑いなく中国の言語です。漢字で書き、語彙の骨格は漢語で、ベトナム語と分けているのは文法の骨格と漢字の使用です。
音が似て聞こえるのは事実で、理由も説明できます。ただし広東語がベトナム語に寄ったのではなく、両者が古い中国語の音を保存し、普通話のほうが変わりました。
文法は普通話より東南アジア寄りですが、20項目のスコアは広東語9・普通話7に対してベトナム語17・タイ語18でした。
名詞のまわりの語順は完全に普通話と同じで、「ベトナム語型」は言いすぎになります。
広東語とは、東南アジア言語圏の周縁に位置する中国語である。これがこの記事の答えです。
普通話との実用的な違いをまとめて知りたいときは、広東語と北京語の違いの記事へどうぞ。
よくある質問
広東語とベトナム語は親戚ですか
語族が違うので、親戚ではありません。
似ているのは、ベトナム語が唐代の中国語音を体系的に借用したことと、長く隣り合ってきたことによる収斂です。
ベトナム語は何語族ですか
オーストロアジア語族(南アジア語族)です。
オーストロネシア語族はインドネシア語やタガログ語のほうで、名前が似ているだけの別物です。
広東語は中国語ではないのですか
シナ・チベット語族シナ語派の一分枝で、系統としてはそこに争いがありません。
普通話と通じないことと、系統がどうかは別の話です。
なぜ普通話だけ音が違うのですか
普通話が入声と -m 韻尾を失ったからです。
変わったのは普通話のほうで、広東語やベトナム語の漢字音のほうが古い形を残しています。
広東語を学ぶとベトナム語も楽になりますか
漢越語の対応を知っていると、語彙の見当をつけるのに役立つ場面はあります。
ただし文法も文字も別なので、負担が大きく減るとまでは言えません。


