インドネシアの契約書には独自の3要素があります。
法人印章(Cap Perusahaan)、e-meterai(電子印紙)、電子署名(PrivyID/DocuSign)の3つを併用するのが標準です。
このページではNDA草案送付から本契約書レビュー、e-meterai対応までを、ジャカルタ法務実務に基づいて整理します。
BUMNの紙押印必須プロセスや、UU 24/2009(言語法)対応も含めて扱います。
インドネシア契約プロセス
契約締結は段階的なプロセスで進みます。
草案交換
双方が草案(draft)を交換します。
多くの場合、提案側が標準テンプレートを提供します。
レビュー期間は通常1〜2週間です。
レビュー、修正会議
双方の弁護士・法務担当者が参加するレビュー会議を開催します。
主要争点を会議で詰め、軽微な修正はメールで処理します。
会議は対面(tatap muka)または daring(オンライン)で行います。
最終確定
修正版を確定し、双方の最終承認を取ります。
「Final draft」のラベルで版管理します。
承認後の修正は原則受け付けません。
法人印章(Cap Perusahaan)押印
確定版に双方が署名し、Cap Perusahaan(法人印章)を押印します。
BUMNでは紙の原本必須、民間では電子化が進んでいます。
印章管理者の予約が必要です。
e-meterai添付
e-meterai(電子印紙、IDR 10.000)を契約書に貼付します。
PERURI(インドネシア国営印刷所)認証のe-meteraiが法的有効です。
2021年から電子印紙制度が本格化しました。
電子署名(PrivyID/DocuSign)
電子署名サービスを使用する場合もあります。
PrivyIDはインドネシア国産で、DocuSignは国際的に普及しています。
UU ITE(電子情報法)下で法的効力があります。
NDA事前締結要請メール
商談開始前にNDA締結を要請します。
「Sebelum membahas detail, mohon dapat menandatangani NDA」
「詳細を議論する前にNDAの締結をお願いします」の意です。
機密情報を含む議論の前提として標準的です。
初回提案前か技術詳細議論前に送ります。
自社標準NDAの添付
会社標準のNDAテンプレートを添付します。
主要条項として、機密情報定義、義務範囲、有効期限、違反時の対応を含めます。
有効期限は2〜5年が標準です。
レビュー期間の案内
「Mohon waktu 1 minggu untuk review」とレビュー期間を提案します。
急ぎの場合は3営業日で済ませることもあります。
BUMNや大企業ではレビューに2週間以上かかります。
NDA草案送付メール
草案を送付する際の標準形式です。
「Terlampir draft NDA untuk ditinjau」
「レビュー用にNDA草案を添付しました」の意です。
添付ファイル名は「NDA_PT[両社略称]_v1.0_YYYYMMDD.pdf」が標準です。
バージョン管理を厳密に行います。
主要条項のハイライト
レビューポイントとなる主要条項を本文で言及します。
「Pasal 3: definisi informasi rahasia, Pasal 5: kewajiban kerahasiaan, Pasal 8: sanksi pelanggaran」のように指摘します。
受信者のレビュー効率を上げます。
レビューポイントの案内
「Mohon perhatian khusus pada masa berlaku 5 tahun dan jurisdiksi hukum Indonesia」と特定の論点を提示します。
議論の対象を絞り込むことで、効率的に合意できます。
双方の関心事項を事前に明らかにします。
NDA修正要請メール
修正が必要な場合の対応です。
修正部分の明示
具体的な修正箇所を Track Changes(赤字校正)で示します。
「Pasal 5 ayat (2): mohon ditambahkan exceptions untuk informasi yang sudah publik」のように具体的に書きます。
修正案も併せて提示します。
修正理由の説明
なぜその修正が必要かの理由を説明します。
「Karena sesuai praktik industri kami, exceptions ini umum」のように業界標準を引き合いに出します。
説得力のある理由が合意につながります。
再送付の約束
「Setelah revisi, akan kami kirim ulang dalam 3 hari」と再送付期限を約束します。
修正版にはバージョン番号を上げます(v1.1またはv2.0)。
修正履歴も別ファイルで管理します。
本契約書草案送付
NDA締結後、本契約書のプロセスに進みます。
条項別の要約
本契約書の各条項を要約して説明します。
「Pasal 1: Definisi, Pasal 2: Ruang Lingkup, Pasal 3: Harga dan Pembayaran, Pasal 4: Jangka Waktu」のように構造を示します。
受信者の理解を助けます。
前提条件の確認
「Kontrak ini berdasarkan asumsi: 1) volume bulanan 1.000 unit, 2) periode 24 bulan, 3) harga tetap」のように前提を明示します。
前提が変わると価格や条件が変わることを示唆します。
後の解釈ぶれを防ぎます。
レビュー日程
レビュー会議の日程を提案します。
「Mohon dijadwalkan rapat review 60 menit pada minggu ke-2 Mei 2026」のように具体化します。
双方の弁護士参加が標準です。
契約書レビュー会議要請
レビュー会議は対面が望ましいです。
双方弁護士参席提案
「Disarankan kehadiran legal counsel dari kedua pihak」と弁護士参加を提案します。
顧問弁護士のいる会社では参加が標準です。
BUMNや上場企業では必須です。
争点の事前整理
会議前に争点リストを共有します。
「Topik yang akan dibahas: 1) klausul indemnification, 2) jurisdiksi, 3) terminasi」のように整理します。
会議時間を効率化します。
会議日程調整
3つの時間候補を提示するのが標準です。
「Opsi 1: Senin 15 Mei 14.00 WIB, Opsi 2: Selasa 16 Mei 10.00 WIB, Opsi 3: Rabu 17 Mei 13.00 WIB」のように選択肢を出します。
所要時間も明示します(通常60〜90分)。
修正履歴管理
契約書の修正履歴は厳密に管理します。
Redline様式の共有
Microsoft WordのTrack Changes機能を使うのが標準です。
修正者ごとに色分けされ、レビューしやすくなります。
PDFではAdobe AcrobatのComments機能を使います。
バージョン管理規則
「v1.0 → v1.1(軽微修正)→ v2.0(大幅修正)」のように管理します。
ファイル名にバージョン番号と日付を含めます。
最終版は「v_FINAL」または「v_EXECUTED」とラベルします。
最終版の確認
「Mohon konfirmasi versi v2.3 sebagai final」と最終版確認を取ります。
双方の同意後、それ以降の修正は受け付けません。
署名前の最終チェックリストも標準化されています。
e-meterai(電子印紙)の活用
e-meteraiはインドネシア固有の制度です。
e-meterai 10.000ルピア
e-meteraiは IDR 10.000で、契約書1枚に1枚貼付します。
商業文書、契約書、領収書などが対象です。
2021年に施行された制度です。
PERURI(インドネシア国営印刷所)認証
PERURI(Perusahaan Umum Percetakan Uang Republik Indonesia)が公式発行機関です。
PERURI公認の販売チャネル(pos.peruri.co.id等)から購入します。
非公認のe-meteraiは法的効力がありません。
PDFへの埋め込み
e-meteraiはPDFに直接埋め込みます。
専用アプリ(e-Meterai Mobile)またはWebサービスで埋め込み処理します。
埋め込み後はPDF全体が改変できなくなります。
法人印章(Cap Perusahaan)押印手続き
Cap Perusahaanは契約書の重要要素です。
自社法務チームの承認
Cap Perusahaan押印には法務チームの最終承認が必要です。
承認なしの押印は社内ルール違反です。
承認プロセスは2〜5営業日かかります。
法人印章管理者の予約
法人印章は鍵付き保管庫で管理されることが多くあります。
印章管理者(多くは法務マネージャー)の予約が必要です。
大企業では事前予約が必須です。
原本送付方法(特にBUMN)
BUMNでは紙の原本送付が必須です。
Pos Indonesiaの公式書留(Pos Kilat Khusus)またはJNE/SiCepatの宅配便を使います。
受取証明付き配達で、配達証明を保管します。
電子契約(PrivyID/DocuSign)活用
電子署名サービスも活用が広がっています。
PrivyID(インドネシア国産、最大手)
PrivyIDはインドネシア最大手の電子署名サービスです。
BSSN(インドネシアサイバー国家庁)認証で、UU ITE下で法的効力があります。
BUMNや上場企業(Tbk)でも採用が進んでいます。
DocuSign(多国籍企業)
DocuSignは国際的に普及しているサービスです。
多国籍企業のジャカルタ支社で標準的に使われます。
本社が指定する場合もあります。
法的効力の同等性(UU ITE)
UU ITE(電子情報取引法)下で、電子署名は手書き署名と同等の法的効力を持ちます。
BSSN認証の電子署名サービス使用が条件です。
BANI(インドネシア仲裁機関)でも証拠として認められます。
署名要請メールの作法
「Mohon ditandatangani melalui PrivyID/DocuSign. Link akan dikirim terpisah」と書きます。
署名リンクは別チャネル(メール)で送ります。
署名期限も明示します(通常7日)。
契約後の管理
契約締結後の管理も重要です。
契約書の保管
契約書原本は鍵付き保管庫または専用クラウドストレージに保管します。
BUMN対応では紙の原本必須です。
保管期間は最低5年(インドネシア商法)、税務関連は10年が標準です。
期限モニタリング
契約期限、更新期限、終了期限をカレンダーで管理します。
更新通知期限の3〜6ヶ月前にアラートを設定します。
SaaSツール(DocuSign CLM、Ironclad等)でも管理できます。
更新と終了管理
契約更新は事前協議が必要です。
「Kontrak akan otomatis diperpanjang」(自動更新)か「Kontrak akan berakhir kecuali diperpanjang」(自動終了)かは契約条項次第です。
終了時の引継ぎプロセスも事前に定めておきます。
英文契約書の処理
英文契約書には特別な配慮が必要です。
インドネシア語と英語並記 vs 英文のみ
UU 24/2009(言語法)により、インドネシア当事者を含む契約書はインドネシア語版が必要です。
並記(bilingual)か翻訳版を別途作成するかを選択します。
並記が最も確実です。
翻訳監修の必要性(UU 24/2009)
翻訳は公認翻訳者(Penerjemah Tersumpah)の監修を受けるのが安全です。
誤訳は契約解釈の紛争原因になります。
主要条項は法律専門翻訳者を使います。
準拠法条項
準拠法(Governing Law)と裁判管轄(Jurisdiction)を明示します。
「Kontrak ini tunduk pada hukum Indonesia」または「This contract is governed by Singapore law」のように書きます。
仲裁条項(Arbitration Clause)も併せて検討します。
BUMN・政府機関契約特有の手続き
BUMN対応にはさらに厳格なプロセスがあります。
紙押印必須
BUMNや政府機関では紙の契約書原本必須です。
電子署名は補助的な位置づけです。
原本送付には公式書留を使います。
公証人(Notaris)認証
重要契約は公証人(Notaris)による認証を受けます。
Akta Notaris(公証人による公式文書)として法的効力が強化されます。
BUMN契約では標準的な手続きです。
多重approval line
BUMNでは6〜8階層のapproval lineを通ります。
Direktur承認だけでなく、Komisaris(監査役)承認も必要なことがあります。
1ヶ月以上かかることも珍しくありません。
国際契約特有の論点
国際契約には固有の論点があります。
準拠法(Indonesian Law / Singapore Law)
準拠法はインドネシア法、シンガポール法、ニューヨーク州法などから選択します。
インドネシア法は中小企業に有利、シンガポール法は国際的に中立とされます。
双方合意で選択します。
仲裁条項(BANI / SIAC)
BANI(Badan Arbitrase Nasional Indonesia)はインドネシアの仲裁機関です。
SIAC(Singapore International Arbitration Centre)は国際的に評価が高いです。
多国籍企業はSIACを選ぶことが多くあります。
言語条項(インドネシア語が正本義務)
UU 24/2009によりインドネシア語版が正本(official version)となります。
英語版との不一致時はインドネシア語版が優先されます。
「Bahasa Indonesia akan menjadi versi resmi」と契約書に明記するのが標準です。
具体的なNDA送付メールの完成例
ここまでの要素を組み合わせた完成例を示します。
件名: [NDA Draft] PT Maju Bersama dan PT Astra International – Untuk Tinjauan
本文冒頭: Yth. Bapak Andi Pratama, Direktur Legal PT Astra International, Dengan hormat,
第1段(送付): Terlampir draft NDA untuk ditinjau (filename: NDA_MajuBersama_Astra_v1.0_20260425.pdf). Mohon waktu 1 minggu untuk review.
第2段(主要条項): Pasal 3: Definisi Informasi Rahasia, Pasal 5: Kewajiban Kerahasiaan (5 tahun), Pasal 7: Pengecualian, Pasal 8: Sanksi Pelanggaran (denda IDR 1 miliar).
第3段(注目点): Mohon perhatian khusus pada: 1) Masa berlaku 5 tahun, 2) Jurisdiksi hukum Indonesia, 3) Sanksi pelanggaran. NDA dibuat dalam Bahasa Indonesia (versi resmi) dan English (versi referensi).
第4段(次ステップ): Setelah review, mohon dapat dijadwalkan rapat 60 menit dengan kehadiran legal counsel kedua pihak. Eksekusi via PrivyID dengan e-meterai PERURI.
結語: Terima kasih atas perhatian Bapak. Hormat saya, [署名]
日本人の契約書メールNG3選
失敗のパターンは決まっています。
e-meterai漏れ
e-meterai未貼付の契約書は法的効力に疑義が生じます。
必ずPERURI認証のe-meteraiを貼付します。
1枚IDR 10.000の少額負担で、コンプライアンスリスクを回避できます。
レビュー期間が短すぎ
3日以内のレビュー要請は無理があります。
最低1週間、複雑契約は2週間以上を確保します。
BUMN対応では1ヶ月以上見るのが現実的です。
弁護士介入時点の誤判断
すべての契約に弁護士介入は不要です。
標準的なNDAは法務担当でレビュー、複雑な本契約は弁護士介入と区別します。
金額や戦略的重要度で判断します。
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