インドネシアのビジネスで電話商談や交渉を任されるようになると、メールや対面とは違う独特の間合いと語彙が必要になります。
筆者は日系メーカーの現地駐在員として、スマトラの原料メーカーやジャカルタの物流会社と数百回の電話交渉を重ねた経験から、失敗と成功の両面で学んだフレーズを整理します。
電話の基本フレーズ
「Halo, selamat pagi(もしもし、おはようございます)」が最初の一言です。
続けて「Ini Tanaka dari PT Japan Asia(PTジャパンアジアの田中です)」と名乗ります。
相手の確認
「Apakah saya berbicara dengan Bapak Andi?(アンディさんとお話ししてよろしいでしょうか)」、「Bisa disambungkan ke Bapak Budi?(ブディさんに繋いでいただけますか)」で相手を特定します。
disambungkanは「繋がれる」、berbicaraは「話す」の意味です。
取次の依頼
「Bapak Budi ada?(ブディさんいらっしゃいますか)」、「Tolong sambungkan ke Divisi Pemasaran(マーケティング部に繋いでください)」が定番です。
tolongは丁寧な依頼、sambungkanは「繋いでくれ」の命令形です。
用件の切り出し
「Saya ingin membicarakan mengenai pesanan bulan depan(来月の注文について話したいです)」、「Ada hal penting yang harus saya sampaikan(重要なお知らせがあります)」で用件を切り出します。
membicarakanは「話し合う」、menyampaikanは「伝える」の意味です。
確認事項のリストアップ
「Ada tiga hal yang ingin saya konfirmasi(確認したいことが三つあります)」、「Pertama, kedua, ketiga(第一に、第二に、第三に)」と順序立てて話します。
電話では相手が見えないので、番号付けは特に効果的です。
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価格交渉のフレーズ
「Harga ini masih bisa dinegosiasikan?(この価格はまだ交渉の余地がありますか)」が最初の一手です。
dinegosiasikanは「交渉される」、bisaは「できる」の意味です。
値下げ要求
「Kami minta diskon 10 persen untuk pembelian besar(大口購入で10パーセントの割引をお願いしたい)」、「Kalau naik volume-nya, bisa turun harganya?(量を増やせば値下げできますか)」と具体的に提案します。
volumeは英語そのまま使い、turunは「下がる」の意味です。
反論と交渉の膠着
「Harga ini sudah terbaik, Pak(これが最安値です)」と言われたら、「Bisakah kita ketemu di tengah?(中間点で妥協できませんか)」、「Bagaimana kalau 5 persen saja?(5パーセントではどうですか)」と段階的に譲歩します。
di tengahは「真ん中で」という妥協の表現です。
納期と数量の交渉
「Kapan bisa kirim barang?(いつ発送できますか)」、「Saya butuh dalam 2 minggu(2週間以内に必要)」と急ぎを伝えます。
「Kalau mendesak, bisa ditambah biaya ekspres(急ぎなら特急料金で対応可能)」と提案されることもあります。
最小発注量MOQ
「Minimum order kami 1000 unit(最低発注は1000個)」、「Bisa turunkan MOQ jadi 500?(MOQを500に下げられますか)」と交渉します。
MOQ(Minimum Order Quantity)は英語そのまま使われます。
分納の提案
「Kami bisa kirim bertahap, 500 bulan ini dan 500 bulan depan(分納可能、今月500、来月500)」のようにbertahapで分割を示します。
音声トラブル対応
「Halo, suara Bapak kurang jelas(もしもし、音声が聞こえにくいです)」、「Bisa bicara lebih keras sedikit?(もう少し大きな声で話していただけますか)」は電話の頻出表現です。
「Mohon ulangi sekali lagi(もう一度繰り返してください)」、「Sinyalnya jelek di sini(こちら電波が悪い)」と状況を伝えます。
折り返し電話
「Saya telepon balik dalam 10 menit(10分後に折り返します)」、「Nanti saya hubungi lagi ya(後ほどまた連絡します)」がよく使う定型句です。
telepon balikは「折り返し電話」、hubungiは「連絡する」の意味です。
電話の締めくくり
「Terima kasih atas waktunya, Pak(お時間ありがとうございました)」、「Nanti saya kirim konfirmasi via email(メールで確認書を送ります)」と結びます。
「Selamat bekerja(お仕事頑張ってください)」は午前中の締めに便利な挨拶です。
学習者がつまずきやすい例 曖昧な返事に振り回された話
2018年、スラバヤの物流会社に「Bisa kirim besok pagi?(明日朝発送できますか)」と聞いたところ、「Bisa, Pak(できますよ)」と即答されました。
翌日になっても発送されず、追及すると「Bisa kalau ada stok(在庫があればの話)」との返答で、条件付きだったことが判明しました。
それ以来、筆者は必ず「Stok sudah ada sekarang?(今在庫ありますか)」、「Jam berapa berangkat?(何時に出荷ですか)」と数字付きで確認する癖がつきました。
商談で定番の10フレーズ
Halo selamat pagi(もしもし)/Ini Tanaka(田中です)/Bisa disambungkan(繋いでください)/Bisa dinegosiasikan(交渉可能)/Kapan bisa kirim(いつ発送)/Sudah konfirm(確認済み)/Mohon ulangi(繰り返してください)/Nanti hubungi lagi(後で連絡)/Via email(メールで)/Terima kasih(ありがとう)。
WhatsApp Businessでの商談
インドネシアのビジネスは電話と同等以上にWhatsApp Business(2018年リリース、Meta社運営)が主要コミュニケーション手段です。
「Selamat pagi Pak, ini Tanaka dari PT Japan Asia(おはようPak、PTジャパンアジアの田中です)」から入り、絵文字は控えめにするのがビジネスの作法です。
既読スルーへの対応
「Sudah terima WA saya tadi pagi, Pak?(先ほどのWhatsApp受け取られましたか)」と数時間後に再確認するのは失礼にあたりません。
むしろインドネシアでは既読スルー(WhatsApp用語で「left on read」)が日常的なので、リマインダーを送るのが普通です。
支払い遅延への対応
「Invoice kami sudah jatuh tempo kemarin(請求書は昨日期日を過ぎています)」、「Mohon konfirmasi kapan akan dibayar(いつ支払われるかご確認ください)」と柔らかく催促します。
jatuh tempoは「期日到来」、dibayarは「支払われる」の意味です。
催促の段階
最初の催促はソフトに、2回目はやや強く、3回目以降は法的手段を示唆します。
「Kalau belum dibayar minggu depan, kami terpaksa kirim somasi(来週までに支払いなければ催告状を送らざるを得ません)」のように段階的に圧力をかけます。
somasiは法的催告状を意味するインドネシア語法律用語です。
国際電話の特殊事情
日本からインドネシアへの国際電話は+62が国番号、続けて0を除いた携帯番号を入力します。
「Mohon maaf, ini panggilan internasional dari Jepang(すみません、日本からの国際電話です)」と断れば相手も理解を示します。
タイムゾーンの確認
インドネシアは東西に長く、WIB(西部時間、UTC+7、ジャカルタ/スマトラ)、WITA(中部時間、UTC+8、バリ/ロンボク)、WIT(東部時間、UTC+9、パプア)の3タイムゾーンです。
「Jam berapa di sana sekarang?(そちらは今何時ですか)」、「Ini WIB atau WITA?(これは西部時間ですか中部時間ですか)」と確認します。
日本とジャカルタの時差は2時間、バリは1時間、パプアは0時間です。
商談相手のビジネス文化理解
インドネシアのビジネス文化は、日本の常識と異なる点が多くあります。
相手の背景を理解することで、商談の進め方が変わってきます。
華人系企業の特徴
インドネシアの経済界では、華人系企業が大きな存在感を持っています。
家族経営のスピード感ある意思決定が特徴で、トップとの直接交渉が効果的です。
関係構築を重視し、初対面の商談より複数回の面談を経た信頼構築が優先される傾向があります。
ランチや夕食での非公式な対話が、正式な会議より決定的な意味を持つこともあります。
プリブミ系企業の対応
Pribumi(先住系) の企業は、ゆったりとしたペースで商談が進む傾向があります。
Jam karet(ゴム時間) と呼ばれる時間感覚で、予定より30分程度の遅れは日常的です。
イスラム教の礼拝時間を考慮した会議設定が、信頼関係の構築に役立ちます。
宗教的な休日(ラマダン、イドゥル・フィトリ) の時期は、商談を控えるのが望ましいです。
国営企業との取引
BUMN(国営企業) との取引は、公式な手続きが多く時間がかかります。
入札プロセスは透明性が重視され、必要書類の数が民間企業より多いです。
担当者の異動が頻繁で、引き継ぎに時間がかかる場面もあります。
忍耐強く継続的な関係を築く姿勢が、長期的な成果につながります。
インドネシア語でのメール対応
電話や対面商談の後は、メールでの確認が商談成功の鍵になります。
適切なメール文化を身につけることで、信頼度が上がります。
ビジネスメールの書き出し
Dengan hormat(敬具) は、最もフォーマルなメールの書き出しです。
Yth. Bapak/Ibu +氏名 で宛名を書くのが標準的な形式になります。
冒頭で Semoga email ini menemui Anda dalam keadaan baik(このメールがあなたの元に健やかに届くことを願います) と健康を気遣う一文を入れる文化があります。
形式ばった挨拶を省略せず、丁寧に積み上げるのが好まれるスタイルです。
本文構成のポイント
本文は、背景説明、要件、依頼、期限の順で構造化します。
一つの段落に複数の要件を詰め込むと、相手が混乱する原因になります。
箇条書きを使って視覚的に整理すると、読み手の負担が軽減されます。
添付ファイルがある場合は、本文中で明記し、ファイル名も記載するのが親切です。
締めくくりの定型句
Atas perhatian dan kerjasamanya, kami ucapkan terima kasih(ご配慮とご協力に感謝します) は定番の締め文句です。
Terima kasih atas waktunya(お時間ありがとうございます) は、より簡潔なバージョンです。
署名欄には、氏名、役職、会社名、連絡先を記載するのが一般的です。
手書き署名を画像で挿入する形式は、フォーマルな場面で好まれます。
商談の失敗パターンと回避策
商談ではさまざまな失敗が起こり得ます。
事前に想定しておくことで、現場での対応力が格段に上がります。
曖昧な返事の読み解き方
Nanti saja(後でいいです) Belum bisa sekarang(今はまだ無理です) は事実上の断りを意味することが多いです。
Insya Allah(神の思し召しがあれば) は、宗教的な表現であると同時に曖昧な同意の意味も持ちます。
相手が明確な返答を避けている場合、別日に確認を取り直すのが賢明です。
沈黙や話題転換も、拒否のサインである可能性を考慮します。
決裁権の確認
Siapa yang mengambil keputusan?(誰が意思決定を行いますか?) を早い段階で確認します。
実際の決裁者に会わないまま商談を進めると、合意が最終段階でひっくり返るリスクがあります。
Apakah saya bisa berbicara langsung dengan direktur?(取締役と直接話せますか?) の依頼は、早めに行う価値があります。
現地の代理人を通じて動く場合、決裁権の所在を紙で明文化する習慣が有効です。
契約直前のトラブル
契約書に署名する直前での条件変更要求は、珍しくない場面です。
Ada satu hal lagi yang ingin kami bicarakan(もう一つ話したいことがあります) と切り出されるパターンが代表的です。
事前に交渉の可否ラインを設定しておくと、現場で冷静な判断が下せます。
譲歩する場合も、代わりに何を得るかを明確にする交渉姿勢が長期的な信頼を生みます。
契約書の言語と法的注意点
インドネシアでは、契約書に関する特有の法制度があります。
外国企業との取引では、知らないと大きなトラブルになる点を押さえます。
契約書のインドネシア語義務
2009年の法律第24号により、インドネシア関係者との契約書はインドネシア語での作成が義務付けられています。
英語のみの契約書は法的効力が認められないリスクがあります。
実務上は、インドネシア語と英語のバイリンガル契約書を作成するのが標準です。
両言語で矛盾が生じた場合の優先言語を契約書内で明記しておくことが重要です。
印紙税と署名の扱い
契約書にはMeterai(印紙) の貼付が必要で、10,000ルピア印紙が一般的に使われます。
電子契約の場合はe-Meterai が導入されており、オンラインで発行可能です。
署名は、氏名の手書きと印鑑の併用が一般的な慣行です。
外国企業の場合、社印や会社印鑑を使うケースもあり、事前に形式を確認します。
紛争解決条項の重要性
BANI(インドネシア仲裁機関) は、商事紛争解決の主要機関として機能しています。
裁判所での訴訟より、仲裁を指定するのが実務的な選択肢です。
準拠法と裁判管轄を契約書に明記しておくことで、紛争時の混乱を避けられます。
シンガポール国際仲裁センターを指定する企業も増えており、国際的な中立性を確保できます。
デジタル決済と回収業務
インドネシアのビジネスシーンでは、デジタル決済が急速に普及しています。
最新の支払い手段に対応することで、商談の幅が広がります。
QRISの活用
QRIS(インドネシア版QRコード決済) は、中小企業との取引で重宝されます。
Bayar pakai QRIS saja(QRISで支払います) は、日常的な支払い表現になっています。
GoPay、OVO、DANA の3大決済サービスが、QRIS統合プラットフォームで連携されています。
銀行振込より手数料が低く、即時反映されるメリットがあります。
国際送金の選択肢
SWIFTでの国際送金は、手数料が高く反映まで時間がかかる課題があります。
Wise やPayoneer などのフィンテックサービスが、中小企業間取引で利用されるようになっています。
為替レートと手数料の透明性が、従来の銀行送金より優れている点が支持される理由です。
ただし、インドネシアの金融規制で受取金額に上限があるため、事前確認が必要です。
未払い対応のフレーズ
Kami ingin menanyakan status pembayaran(お支払い状況についてお伺いしたいです) は、柔らかい催促表現です。
Mohon bantuannya untuk segera melakukan pembayaran(お早めにお支払いをお願いします) は、ややフォーマルな督促です。
法的措置に言及する前に、段階的に強度を上げる交渉が推奨されます。
書面での督促記録を残しておくと、必要に応じて法的手続きに移行できます。
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