アラビア文字の読み方入門|28文字と右から左に書く仕組み

アラビア語

アラビア語を始めようとして、最初に立ちはだかるのがあの曲線だらけの文字です。

右から左へ流れ、点がちらばり、単語ごとに形が変わる姿を見て「記号にしか見えない」と感じる方は少なくありません。

ただ、アラビア文字は28文字しかなく、ルールを順番に押さえれば意外と早く読めるようになります。

この記事で分かることは次の3点です。

  • アラビア文字28文字の一覧と、それぞれの4つの字形
  • 右から左に書く仕組みと、文字が繋がる連結のルール
  • 短母音記号(ハラカート)が省略される理由と、練習に使える教材

なお本記事は、新聞・書籍・ニュースで使われるフスハー(正則アラビア語)を基準に解説します。

エジプト方言や湾岸方言でも文字そのものは共通なので、まず読み方を覚えれば方言学習にもそのまま活きます。

アラビア文字を学ぶ前に知っておく3つの前提

文字表に入る前に、つまずきを減らす前提を3つ共有します。

本記事はフスハーが基準

アラビア語には正則語のフスハーと、地域ごとの話し言葉である方言(アーンミーヤ)があります。

発音や語彙は方言で変わりますが、書き文字は基本的にフスハーで統一されているため、まず学ぶべきは28文字の読み方です。

方言そのものの違いは「フスハーと方言の違い」を参照してください(詳しくは「フスハーと方言の違い|エジプト方言・湾岸方言はどれを学ぶべきか」を参照)。

28文字はすべて子音

アラビア文字28文字は、原則としてすべて子音を表します。

母音のうち「アー」「ウー」「イー」のような長母音はاやوやيで書きますが、短い「ア・ウ・イ」は文字ではなく上下の小さな記号で補う仕組みです。

この「子音を並べ、母音は記号で足す」という発想が、ローマ字や仮名と大きく違う点になります。

アラビア文字を使うのはアラビア語だけではない

アラビア文字はアラビア語のほかに、ペルシア語(イラン)やウルドゥー語(パキスタン)でも使われています。

これらの言語では文字が数個追加されますが、土台は同じなので、アラビア文字を覚えると読める世界がぐっと広がります。

アラビア文字28文字の一覧表

まずは全体像です。

次の表に、28文字の名称・独立形・語頭形・語中形・語尾形・音価をまとめました。

一覧表の見方

アラビア文字は単語のどの位置に来るかで形が変わり、独立形・語頭形・語中形・語尾形の4種類があります。

語頭形・語中形・語尾形の「ـ」は隣の文字と繋がる線を表しているだけなので、まずは独立形と音価を覚えれば読み始められます。

アラビア語(名称) 独立形/語頭形/語中形/語尾形 音価(カナ・ローマ字転写)
アリフ(alif) ا / ا / ـا / ـا アー(ā・声門のʼ)
バー(bāʼ) ب / بـ / ـبـ / ـب バ行(b)
ター(tāʼ) ت / تـ / ـتـ / ـت タ行(t)
サー(thāʼ) ث / ثـ / ـثـ / ـث 英thの無声音(th)
ジーム(jīm) ج / جـ / ـجـ / ـج ジャ行(j)
ハー(ḥāʼ) ح / حـ / ـحـ / ـح 強い息のハ(ḥ)
ハー(khāʼ) خ / خـ / ـخـ / ـخ 喉をこするハ(kh)
ダール(dāl) د / د / ـد / ـد ダ行(d)
ザール(dhāl) ذ / ذ / ـذ / ـذ 英thの有声音(dh)
ラー(rāʼ) ر / ر / ـر / ـر 巻き舌のラ行(r)
ザーイ(zāy) ز / ز / ـز / ـز ザ行の有声z(z)
スィーン(sīn) س / سـ / ـسـ / ـس サ行(s)
シーン(shīn) ش / شـ / ـشـ / ـش シャ行(sh)
サード(ṣād) ص / صـ / ـصـ / ـص 強勢のサ(ṣ)
ダード(ḍād) ض / ضـ / ـضـ / ـض 強勢のダ(ḍ)
ター(ṭāʼ) ط / طـ / ـطـ / ـط 強勢のタ(ṭ)
ザー(ẓāʼ) ظ / ظـ / ـظـ / ـظ 強勢のザ(ẓ)
アイン(ʿayn) ع / عـ / ـعـ / ـع 喉を締める有声音(ʿ)
ガイン(ghayn) غ / غـ / ـغـ / ـغ 喉びこのガ行(gh)
ファー(fāʼ) ف / فـ / ـفـ / ـف ファ行(f)
カーフ(qāf) ق / قـ / ـقـ / ـق 喉の奥のカ(q)
カーフ(kāf) ك / كـ / ـكـ / ـك カ行(k)
ラーム(lām) ل / لـ / ـلـ / ـل ラ行のl(l)
ミーム(mīm) م / مـ / ـمـ / ـم マ行(m)
ヌーン(nūn) ن / نـ / ـنـ / ـن ナ行(n)
ハー(hāʼ) ه / هـ / ـهـ / ـه ハ行(h)
ワーウ(wāw) و / و / ـو / ـو ワ/ウー(w・ū)
ヤー(yāʼ) ي / يـ / ـيـ / ـي ヤ/イー(y・ī)

表の音価を見ると、日本語のカナで近似できる文字が半分以上あることに気づきます。

問題は残りの、日本語にない音のグループです。

日本語にない喉の音に注意

アラビア語の難所は、喉の奥を使う子音です。

とくにح(ḥ・強い息のハ)、ع(ʿ・喉を締める音)、ق(q・喉奥のカ)、خ(kh・喉をこするハ)は、カナ表記が同じでも実際の音は別物になります。

いきなり完璧に発音しようとせず、まずは「点の有無」と「形」で文字を見分けられるようになるのが先決です。

右から左に書く仕組み

アラビア文字の最大の特徴は、書く向きが右から左であることです。

行も単語も右から並ぶ

日本語や英語が左から右へ進むのに対し、アラビア語は行の右端から書き始め、左へ向かって進みます。

単語の並びも右から左なので、文の主語が右側、続く語が左へと連なっていく感覚です。

数字だけは左から右

不思議なことに、アラビア語の中でも数字だけは左から右に書きます。

たとえば「2026」という年号は、文章が右から左に流れていても、数字部分は「٢٠٢٦」と左から右の順で並びます。

この左右混在は初学者が最初に戸惑う点ですが、慣れれば自然に読み分けられます。

本もノートも右開き

書字方向が逆なので、アラビア語の本は日本の縦書き本と同じく右開き(右側に背表紙)になります。

ページも右から左へめくり、ノートも右端から書き始めると覚えておくと戸惑いません。

文字が繋がる(連結する)ルール

アラビア文字は、原則として単語内で隣の文字と繋がる筆記体だけの文字です。

位置で形が変わる4つの字形

1つの文字は、独立して置かれるとき・語頭・語中・語尾の4つの位置で少しずつ形を変えます。

基本の骨格は同じで、前後と繋げるための線が付いたり省かれたりするだけなので、独立形さえ覚えれば残りの形も推測できます。

たとえばبは、独立形ب、語頭形بـ、語中形ـبـ、語尾形ـبと変化しますが、下の小さな点1つと横長の器という特徴は共通です。

左に繋がらない6文字

ほとんどの文字は前後どちらとも繋がりますが、6文字だけは左(後ろの文字)に繋がらない例外です。

その6文字はا(アリフ)・د(ダール)・ذ(ザール)・ر(ラー)・ز(ザーイ)・و(ワーウ)です。

アラビア語 読み方 日本語訳・ポイント
وَرْد ワルド(ward) バラ。وもرも左に繋がらないので3文字が離れて見える
بَاب バーブ(bāb) ドア。اの後で一度切れ、次のبが独立形に戻る

これらの文字の後ろで線が一度途切れるので、単語の中に「隙間」があっても別の単語ではありません。

ラームとアリフの合字

ラームل とアリフا が続くときは、لا という専用の合字(つながった形)になります。

これはアラビア語で頻出する組み合わせで、「いいえ」を意味するلا(ラー/lā)そのものでもあります。

短母音記号(ハラカート)が省略される仕組み

アラビア文字を読むうえで最大のハードルが、短母音の扱いです。

ファトハ・カスラ・ダンマの3つ

短い母音「ア・イ・ウ」は文字ではなく、子音の上下に付く小さな記号で表します。

この母音記号をまとめてハラカートと呼び、基本は次の3つです。

アラビア語(記号名) 読み方 音・位置
فَتْحة(ファトハ) ファトハ(fatḥa) 短い「ア」。子音の上に斜め線
كَسْرة(カスラ) カスラ(kasra) 短い「イ」。子音の下に斜め線
ضَمّة(ダンマ) ダンマ(ḍamma) 短い「ウ」。子音の上に小さなو

たとえばبにファトハが付くと「バ」、カスラなら「ビ」、ダンマなら「ブ」と読み分けます。

スクーン・シャッダ・タンウィーン

母音以外にも、読み方を決める補助記号があります。

アラビア語(記号名) 読み方 働き
سُكُون(スクーン) スクーン(sukūn) 母音なし(子音だけ)を示す小さな丸
شَدّة(シャッダ) シャッダ(shadda) 子音を重ねる(促音・重子音)を示す
تَنْوين(タンウィーン) タンウィーン(tanwīn) 語末に-an/-in/-unの「ン」を足す

シャッダは日本語の促音「っ」に近く、付くと子音を2つ分はっきり発音します。

実際の文章ではほぼ省略される

ここが最大のポイントですが、新聞・書籍・ネット記事などの一般的な文章では、ハラカートはほとんど書かれません。

母音記号を全部書くのは、子ども向けの教科書・コーラン・辞書・詩など、正確な読みが必要な場面に限られます。

つまり大人向けの文章は「子音だけ」で書かれ、読み手が単語を知っている前提で母音を補って読む仕組みです。

たとえばكتبという3文字は、母音記号なしだとكَتَبَ(カタバ/書いた)ともكُتُب(クトゥブ/本の複数)とも読めます。

だからこそ、初学者はハラカート付きの教材から入り、語彙が増えたら母音なしに移行するのが定石です。

似ている文字の見分け方

アラビア文字は、骨格が同じで点の数と位置だけが違う「兄弟文字」が多く、ここでの取り違えが誤読の主因です。

点の数と位置で区別する

同じ形でも、点が上か下か、いくつあるかで別の文字になります。

たとえば横長の器の形は、点が下に1つならب(b)、上に1つならن(n)に近く、上に2つならت(t)、上に3つならث(th)です。

まずは点だけに注目して見比べる練習をすると、混乱がほどけていきます。

紛らわしいペア一覧

アラビア語 読み方 見分けのポイント
ب / ت / ث バ/ター/サー(b/t/th) 器は同じ。点が下1・上2・上3で変わる
ج / ح / خ ジーム/ハー/ハー(j/ḥ/kh) 形は同じ。点が中1・なし・上1
د / ذ ダール/ザール(d/dh) 点なし・上1で区別
ر / ز ラー/ザーイ(r/z) 点なし・上1で区別
س / ش スィーン/シーン(s/sh) ギザギザは同じ。点が上に3つ付くとsh
ص / ض サード/ダード(ṣ/ḍ) 楕円は同じ。点が上に1つ付くとḍ

この6ペアさえ意識すれば、似た文字による読み間違いは大きく減ります。

日本人がつまずくポイントと対策

日本語話者ならではのつまずきどころを、対策とセットで押さえておきましょう。

母音がないと読めない不安

「母音記号がないと読めないのでは」という不安は、多くの初学者が抱えます。

対策は、単語をまるごと「形」で覚えることで、日本語の漢字を一目で読むのと同じ感覚が育てば母音なしでも読めるようになります。

似た形の取り違え

点の位置を見落として別の文字と読み違えるミスも頻発します。

対策として、前述の紛らわしいペアをカードにして、点だけを見比べる反復が効きます。

手書きは右からの運筆に慣れる

右利きの人ほど、右から左へ書く運筆に最初は違和感を覚えます。

対策は、1文字ずつ独立形から書き始め、慣れてきたら語頭・語中・語尾の連結形を続けて書く練習に進むことです。

挨拶のような短いフレーズを実際に書いてみると定着が早まります(詳しくは「アラビア語の挨拶フレーズ|アッサラーム・アライクムの使い方と返し方」を参照)。

練習に使えるアプリ・教材

独学でも進められるよう、実在のアプリと書籍を用途別に紹介します。

スキマ時間に使えるアプリ

Duolingo(デュオリンゴ)

ゲーム感覚でアラビア文字と基礎フレーズを学べる無料アプリで、文字入門の最初の一歩に向いています。

Drops(ドロップス)

イラストで単語を覚えるアプリで、アラビア文字の視覚的な記憶づけに使えます。

Write It! Arabic(ライトイット・アラビック)

画面を指でなぞって文字の書き順を練習できるアプリで、手書きの運筆に特化しています。

体系的に学べる書籍

白水社『ニューエクスプレスプラス アラビア語』

音声付きで会話から入れる定番の入門書で、文字の導入もていねいです。

大学書林『現代アラビア語入門』

文法を体系的に積み上げたい人向けの硬派な教材で、フスハーをじっくり学べます。

アルク『アラビア語 文字の練習帳』系ワークブック

なぞり書きで28文字と連結形を反復できるので、書きながら覚えたい人に向いています。

学習全体の進め方や辞書・オンラインレッスンの選び方は、勉強法マップにまとめています(詳しくは「アラビア語の勉強法と教材の完全マップ」を参照)。

よくある質問

アラビア文字は覚えるのにどれくらいかかりますか。

1日5〜6文字ずつ進めれば、28文字の形と音を一通り把握するのに1週間から2週間が目安です。

ただし喉の音の発音や、母音なしで読むスピードは、その後の多読で少しずつ伸びていきます。

数字も右から左に書くのですか。

いいえ、文章は右から左ですが、数字だけは左から右に並べます。

「٢٠٢٦」のように、桁の大きい方が左という点は日本語や英語と同じ順序です。

母音記号(ハラカート)は覚えなくてもよいですか。

読めるようにはなっておくべきですが、実際の文章ではほとんど省略されます。

入門期は母音記号付きの教材で読みを固め、慣れたら母音なしの文章に移行するのがおすすめです。

フスハーと方言で文字は違いますか。

文字そのものは共通で、まずフスハーの28文字を覚えれば方言の読み書きにもそのまま使えます。

違うのは主に発音と語彙で、書き言葉は基本的にフスハーで統一されています。

まとめ

アラビア文字は28文字で、すべて子音を表し、短母音は記号で補うのが基本の仕組みです。

覚えるうえで大事なのは次の3点になります。

  • 書く向きは右から左(ただし数字だけ左から右)
  • 文字は位置で4つの字形に変わり、6文字だけ左に繋がらない
  • 母音記号は普段の文章では省略されるので、単語を形で覚える

文字が読めるようになったら、次は挨拶や数字といった実用フレーズに進むと学習が一気に楽しくなります(詳しくは「アラビア語の数字と時間表現|インド数字との違いも解説」を参照)。

焦らず1日数文字ずつ、気が向いたときに書いて覚えていけば大丈夫です。

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