香港で実際に耳に入る広東語|地下鉄のアナウンス、店員の決まり文句、エレベーターでの一言

広東語

香港で最初に困るのは、自分が話せないことではありません。

向こうから飛んでくる言葉が聞き取れず、レジの前で固まってしまうことのほうです。

会話集を丸暗記しても、店員の一言に反応できなければ、やりとりはそこで止まります。

そこでこの記事は順番を逆にして、地下鉄・店・エレベーター・食堂・タクシーで実際に耳へ入る言葉から並べます。

表記は繁体字、粤拼(Jyutping)、カタカナ近似の3点セットです。

カタカナはあくまで近似で、-t と -k は小さい「ッ」、-p は唇を閉じるだけの音を表します。

粤拼に付く数字は声調の番号で、仕組みは広東語の声調と粤拼の記事にまとめてあります。

香港で耳に入る広東語には2種類ある

香港の街で耳に入る広東語は、性質のまるで違う2つに分かれます。

1つは駅や店内に流れるアナウンスと掲示で、これは標準中国語の書面語を広東語の音で読み上げたものです。

請勿・即將・緊握といった硬い言い回しがそれにあたり、日常の会話にはまず出てきません。

もう1つは店員や乗客が口にする言葉で、こちらは口語広東語です。

唔・唔係・冇・咗・嘅のような、書面語には現れない字が並びます。

この2つを混ぜて覚えると、アナウンスの言い方をそのまま店で使ってしまいます。

日本語でいえば、駅の「駆け込み乗車はおやめください」を目の前の人に向かって言うようなずれ方です。

だから以下では場面ごとに、耳にする言葉と自分が言う言葉を分けて並べます。

同じ広東語のなかで書き言葉と話し言葉がここまで割れる事情は、広東語の書き言葉と話し言葉の記事で扱っています。

普通話との違い全般は広東語と北京語の違いの記事にあります。

表記についてもう1点だけ断っておきます。

広東語には語末の音節が高く上がる變調があり、たとえば 錢 は辞書の見出し形(本調)が cin4 ですが、会話では cin2 に近い高さで聞こえます。

本記事は 錢 をこの見出し形で書くので、耳で聞いた高さと表記がずれても気にしないでください。

地下鉄(MTR)で流れる音

MTRの車内と駅では、同じ定型が1日じゅう繰り返されます。

一字一句が固定されているわけではありませんが、おおむね次のように流れます。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
下一站 haa6 jat1 zaam6(ハー ヤッ(ト) ザーム) 次の駅は
請小心月台空隙 cing2 siu2 sam1 jyut6 toi4 hung1 kwik1(チン シウサム ユッ(ト)トイ ホン クィッ(ク)) ホームとの隙間にご注意ください
車門即將關上 ce1 mun4 zik1 zoeng1 gwaan1 soeng5(チェー ムン ジッ(ク)ジョーン グァーン ソーン) まもなくドアが閉まります
請勿靠近車門 cing2 mat6 kaau3 gan6 ce1 mun4(チン マッ(ト) カーウ ガン チェー ムン) ドアに近づかないでください
請緊握扶手 cing2 gan2 aak1 fu4 sau2(チン ガン アーッ(ク) フー サウ) 手すりにおつかまりください

放送は広東語・普通話・英語の順に流れることが多く、広東語を聞き逃しても同じ内容が2回追いかけてきます。

まず広東語で音の輪郭だけ掴み、意味は英語で答え合わせをするのが現実的な聞き方です。

ここで注意がいるのは、上の5つがどれも書面語だということです。

請勿も即將も緊握も、人に向かって言う言葉ではありません。

混んだ車内でドアの前に立っている人にどいてほしいときは、口語のほうを使います。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該借借 m4 goi1 ze3 ze3(ンゴーイ ゼー・ゼー) すみません、通してください
唔該 m4 goi1(ンゴーイ) すみません(呼びかけ・依頼)

唔該借借は「ちょっと通してください」にあたる決まり文句で、朝夕の車内では何度も聞こえます。

言われた側は体を少しずらすだけでよく、返事はいりません。

改札まわりで繰り返される3語

駅の掲示と駅員の声で必ず出てくるのが、改札に関わる3語です。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
八達通 baat3 daat6 tung1(バーッ(ト) ダーッ(ト) トン) オクトパスカード
入閘 jap6 zaap6(ヤッ(プ) ザーッ(プ)) 改札に入る
出閘 ceot1 zaap6(チョッ(ト) ザーッ(プ)) 改札を出る

八達通は交通機関から店の支払いまで使える非接触カードで、香港では現金より出番が多くなります。

閘 zaap6 は改札のゲートを指す字なので、入閘・出閘はそのまま「入場」「出場」です。

残高不足でゲートが開かないときに駅員から飛んでくるのもこの語なので、音だけでも拾えると話が早く進みます。

店とレジで必ず言われる一言

この記事でいちばん実用度が高いのがここです。

コンビニでもドラッグストアでもスーパーでも、レジで飛んでくる言葉はほぼ決まっています。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
歡迎光臨 fun1 jing4 gwong1 lam4(フン イン グォン ラム) いらっしゃいませ
要唔要袋? jiu3 m4 jiu3 doi2(イウ ン イウ ドイ) 袋はいりますか
有冇會員? jau5 mou5 wui2 jyun4(ヤウ モウ ウイユン) 会員証はお持ちですか
碌卡定現金? luk1 kaat1 ding6 jin6 gam1(ロッ(ク) カーッ(ト) ディン インガム) カードですか、現金ですか
找返你 zaau2 faan1 nei5(ザーウ ファーン ネイ) お釣りです

要唔要袋?は香港でレジ袋が有料なので、買った量にかかわらず毎回聞かれます。

有冇會員?は会員カードの有無を尋ねる問いで、旅行者には縁がなくてもチェーン店ではほぼ確実に飛んできます。

碌卡定現金?の 碌卡 luk1 kaat1 はカードを機械に通すことを指す口語で、定 ding6 が「それとも」にあたります。

找返你 は釣り銭を渡すときの一言で、金額を読み上げながら手渡されます。

返しは3語で足りる

上の問いは、どれも「いる」か「いらない」で答えが付きます。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
jiu3(イウ) いります
唔要 m4 jiu3(ン イウ) いりません
唔使 m4 sai2(ン サイ) 結構です
幾多錢? gei2 do1 cin4(ゲイ ドー チン) いくらですか

袋も会員証もレシートも、最初の3語で処理できます。

唔使は「その必要はありません」という断りで、唔要より柔らかく響きます。

金額の口語の単位は 蚊 man1(マン)で、値札やレシートに印字される 元 とは字が違います。

数の聞き取りと値札の読み方は広東語の数字と値段の記事にまとめてあります。

普通話で覚えた語は、この5つで置き換わる

中国語を学んだことがある人ほど、街なかで語彙が噛み合わずに驚きます。

旅行者が実際に口にする範囲でも、次の5つは普通話の語がそのまま通りません。

場面 広東語 普通話
すみません(通してください) 唔該借借 m4 goi1 ze3 ze3(ンゴーイ ゼー・ゼー) 借過
ありがとう 多謝 do1 ze6(ドーゼー) 謝謝
ない 冇 mou5(モウ) 沒有
これ 呢個 ni1 go3(ニーゴー) 這個
いくら 幾多錢 gei2 do1 cin4(ゲイドーチン) 多少錢

紙に書いて見せれば普通話の語でも通じますが、音のほうは渡りません。

覚え直すのは語彙だけで、語順や文の組み立ては中国語の知識がそのまま使えます。

エレベーターと建物の中

香港の建物はエレベーターが狭く、奥に立つと自分でボタンに手が届きません。

たとえば混んだ箱の奥へ押し込まれた場面では、扉の前にいる人に階を伝えることになります。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該,三樓 m4 goi1, saam1 lau2(ンゴーイ サーム ラウ) すみません、3階お願いします
幾樓? gei2 lau2(ゲイ ラウ) 何階ですか
等埋 dang2 maai4(ダン マーイ) 待って

幾樓?はボタンを押してくれる側から飛んでくる問いで、階数だけ返せば通じます。

等埋 は扉が閉まりかけたときに外から飛んでくる声で、開ボタンを押す合図です。

ボタンの数字は日本と1つずれる

日本語話者が確実につまずくのがここです。

香港では地上階が 地下 dei6 haa2 で、ボタンには G と表示されます。

その上が 一樓(1/F)なので、日本でいう2階にあたります。

ボタンの表記 日本の数え方
B/LG(地庫 dei6 fu3) 地下1階
G(地下 dei6 haa2) 1階
1(一樓 jat1 lau2) 2階
2(二樓 ji6 lau2) 3階

「1階のロビーで待ち合わせ」と聞いて 1 のボタンを押すと、1つ上に着いてしまいます。

階数を言われたら数字を復唱して、G なのか 1 なのかだけ確かめておくと安全です。

加えて、建物によっては4階・13階・14階・24階が欠番になっていることがあります。

ボタンの数と建物の高さが合わないのはこのためで、縁起をかつぐ数の扱いは数字と値段の記事で扱っています。

食堂(茶餐廳)で飛び交う短い言葉

茶餐廳は香港の大衆食堂で、点心を蒸籠で出す飲茶の店とは別の業態です。

回転が速く、店員の言葉が短くて速いので、旅行者にとっては最大の聞き取りの難所になります。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
幾多位? gei2 do1 wai2(ゲイ ドー ワイ) 何名様ですか
搭枱 daap3 toi2(ダーッ(プ) トイ) 相席
熱定凍? jit6 ding6 dung3(イッ(ト) ディン ドン) ホットですか、アイスですか
走冰 zau2 bing1(ザウ ビン) 氷抜き
少甜 siu2 tim4(シウ ティム) 甘さ控えめ
行街 haang4 gaai1(ハーン ガーイ) 持ち帰り
唔該埋單 m4 goi1 maai4 daan1(ンゴーイ マーイ ダーン) お会計をお願いします

入口で最初に飛んでくるのが 幾多位?で、指で人数を示せばそれだけで通ります。

搭枱 は相席のことで、混雑時には断ってよいものというより前提として扱われます。

熱定凍?は飲み物がホットかアイスかの二択で、ここでも 定 ding6 が「それとも」を作っています。

走冰・少甜は注文に付ける調整で、走 zau2 が「抜く」、少 siu2 が「控えめ」を表します。

行街 は持ち帰りの指定で、店内で食べるなら何も言わなくて構いません。

注文票に書かれる符丁

茶餐廳の店員は、注文を紙に略号で書き取ります。

その略号を声に出して読み上げることもあるので、意味を知らないと会話の筋が追えなくなります。

広東語 粤拼+カタカナ 注文票での意味
飛沙走奶 fei1 saa1 zau2 naai5(フェイ サー ザウ ナーイ) 砂糖もミルクも抜き
靚仔 leng3 zai2(レン ザイ) 白飯 baak6 faan6
靚女 leng3 neoi2(レン ノイ) 白粥 baak6 zuk1

飛沙走奶は、飛 fei1 も 走 zau2 も「抜く」を表していて、沙が砂糖、奶がミルクです。

靚仔・靚女が白飯と白粥を指すのは、この注文票の上でだけ成り立つ用法です。

同じ語を店員が客に向けて言えば「お兄さん・お姉さん」という呼びかけになり、意味はまったく別になります。

呼びかけとしての使われ方は広東語の挨拶と呼びかけの記事にまとめてあります。

タクシーとミニバス

タクシーでは行き先を伝えたあとに、細かい指示を出す場面が出てきます。

運転手から確認が飛んでくることもあるので、方向の語は聞く側としても使います。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
轉左 zyun3 zo2(ジュン ゾー) 左折
轉右 zyun3 jau6(ジュン ヤウ) 右折
直行 zik6 haang4(ジッ(ク) ハーン) 直進
停埋一邊 ting4 maai4 jat1 bin1(ティン マーイ ヤッ(ト) ビン) 脇に寄せて停めてください
前面落 cin4 min6 lok6(チン ミン ロッ(ク)) この先で降ります

停埋一邊 は「脇に寄せて停めて」で、埋 maai4 が寄せる動きを表しています。

前面落 の 落 lok6 は降車を表す動詞で、落車 lok6 ce1 の形でも使われます。

有落 はミニバス専用の言い方

降りる意思を伝える語として有名なのが 有落 ですが、使う乗り物が決まっています。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
有落 jau5 lok6(ヤウ ロッ(ク)) 降ります(ミニバスで)
小巴 siu2 baa1(シウ バー) ミニバス
的士 dik1 si2(ディッ(ク) シー) タクシー

小巴 は停留所が固定されていないため、降りたい場所で運転手に届くよう声を出して伝えます。

有落 が生きるのはこの場面だけで、MTRやタクシー、二階建てバスでは使いません。

降車ボタンのある乗り物で声を出すと、かえって場違いに響きます。

車体の色で走る区域が分かれている

香港のタクシーは色ごとに営業できる区域が違い、色を間違えると乗車を断られます。

車体の色 走る区域
香港島・九龍を中心とした市街地
新界の一部
ランタオ島

行き先を伝えるときは、口で言うより漢字で書いたものを見せるほうが確実です。

地名は声調を外すと別の場所に聞こえることがあり、文脈が助けてくれない語の代表だからです。

宿の名刺や地図の画面を出せば、それだけで会話は成立します。

会話に英語が混ざるのは崩れた広東語ではない

香港の日常会話では、英語の単語が文の中にそのまま入ります。

これは乱れた話し方ではなく、香港で普通に使われている形です。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
check 一 check check jat1 check(チェック ヤッ(ト) チェック) ちょっと確認してみる
send 個 email 俾我 send go3 email bei2 ngo5(センド ゴー イーメール ベイ ンゴー) メールを1通送ってください
book 咗枱 book zo2 toi2(ブック ゾー トイ) 席を予約してある
有冇 wifi? jau5 mou5 wifi(ヤウ モウ ワイファイ) ワイファイはありますか
OK 呀 OK aa3(オーケー アー) 大丈夫ですよ

教科書に載らないのは、書き言葉に落とすと英語の部分が消えてしまうからです。

日本語話者にとって、この混ざり方はむしろ有利に働きます。

広東語の語が出てこないとき、その部分だけ英語に置き換えても通じることが多いからです。

聞き取りの側でも同じで、文中の英語を拾えば全体の骨格がだいたい見えます。

有冇 wifi?のように前後が短い定型なら、英語1語だけで内容が確定します。

返す側は、この6語で足りる

ここまで耳にする言葉を並べてきましたが、自分から出す言葉はそれほど多くありません。

次の6語があれば、旅行中のやりとりはひととおり処理できます。

広東語 粤拼+カタカナ 日本語訳
唔該 m4 goi1(ンゴーイ) すみません、お願いします
多謝 do1 ze6(ドーゼー) ありがとうございます
唔好意思 m4 hou2 ji3 si1(ン ホウ イーシー) すみません、失礼します
唔緊要 m4 gan2 jiu3(ン ガン イウ) 気にしないでください
唔使客氣 m4 sai2 haak3 hei3(ン サイ ハーッ(ク) ヘイ) どういたしまして
係咁先 hai6 gam2 sin1(ハイ ガム シン) それでは、また

唔該は依頼と軽いお礼、多謝は物や好意を受け取ったときのお礼で、守備範囲が分かれます。

この2語の線引きは唔該と多謝の記事にまとめてあります。

唔好意思は人にぶつかったときや割り込むときの謝罪で、唔該とは別の場面で出ます。

係咁先 は会話を切り上げる言葉で、電話でも対面でも使えます。

朝や別れ際の挨拶そのものは広東語の挨拶の記事で扱っています。

音の作り方でつまずいたときは日本語話者向けの広東語発音の記事を見てください。

よくある質問

香港で英語は通じますか

場面によって差が大きいというのが実際のところです。

空港・MTR・大型のチェーン店・ホテルでは表示も案内も英語が併記され、英語だけで用が足ります。

一方で街市の店先や地元の茶餐廳では広東語が中心で、英語が通じない相手もいます。

行き先と数字を書いたものを見せられるようにしておくと、この差をだいたい埋められます。

普通話で話しかけても大丈夫ですか

通じることは多く、標識も繁体字なので書いて見せる分にはほぼ問題ありません。

ただし相手や場面によって反応は一様ではなく、広東語で返ってくることもあります。

最初の一言だけ広東語にして、あとは英語や筆談に切り替えるのが実際的です。

アナウンスの言い方をそのまま会話で使ってもいいですか

意味は通じますが、硬すぎて浮きます。

請勿靠近車門 のような書面語は、放送と掲示のための言葉です。

人に向かって言うときは、唔該借借 のような口語の形に置き換えます。

声調が違うと全く通じませんか

短い決まり文句なら、文脈が助けてくれるので通じることが多いです。

レジで袋を差し出されながら 唔要 と言えば、高さが多少ずれても意味は取ってもらえます。

通じにくくなるのは、地名や人名のように文脈が支えてくれない語のほうです。

声調の仕組みそのものは広東語の声調と粤拼の記事で扱っています。

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