2026年9月4日、ベルリンでIFAが開幕します。
その前々日にあたる9月2日には主催者の開幕記者会見が開かれ、報道向けのMedia Daysが始まりました。
今年の柱はKI(künstliche Intelligenz=人工知能)とロボティクスで、会期中にはRoboCupの自律ロボットによるサッカーや、人型ロボットが歩く「Robots on the Runway」が組まれています。
その開幕会見でIFA ManagementのCEO、レイフ・リンドナー氏が話した一文に、日本語話者がドイツ語でつまずく箇所が同時に5つ入っていました。
ここでは、その一文を頭から終わりまでほどいていきます。
この記事で確かめるのは次の3点です。
- 文の1番目が副文まるごとでも、定形動詞は2番目に来ること
- 文末に動詞が4つ積み上がるときの並び順
- 分離動詞が「mit」を切り離さないのはどういう場合か
この記事は、IFA 2026の開幕記者会見で公にされた発言のうち、ドイツ語の組み立てが読み取れる部分だけを教材として使います。市場の見通しや製品の評価には立ち入りません。
引用と訳文の扱い方は編集方針に書いています。
- 会見の入り口にあった3文
- 主役の一文を8つの部品に切る
- この会見の9文のうち、1番目が主語でないのは2文
- Erst wenn は「〜の場合だけ」ではない
- 文末に動詞が4つ積み上がる
- mitgestalten が「mit」を切り離さない条件
- 同じ sie が、1回目と2回目で格が違う
- 形容詞句が1番目に立つと、主語は動詞の後ろへ回る
- 比較の als のあとで、代名詞が名詞より前に出る
- machen + 形容詞と、-bar でつくる「〜できる」
- sein + zu 不定詞で「見て回れる」を言う
- 状態受動の枠が、文の途中で開いたまま伸びる
- 教科書の例文と、この会見の一文を並べる
- 声に出すとき、どこがつながってどこが落ちるか
- ドイツの媒体は、この種の発言を接続法I式に直して報じる
- 置換練習|前域と文末を入れ替える8問
- 同じロボットの話題を、中国語の会見と比べる
- この読み方を、次のドイツ語に持っていくとき
会見の入り口にあった3文
リンドナー氏の開幕あいさつは、短い3文から始まります。
Die Zukunft ist nicht länger etwas, das irgendwo am Horizont liegt. Die Zukunft ist jetzt. Technologie allein schafft jedoch noch keinen Fortschritt.
Leif Lindner氏(CEO, IFA Management)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:未来はもはや、どこか地平線の向こうにあるものではない。未来はいまだ。
訳(3文目):だが技術だけでは、まだ進歩は生まれない。
3文目の jedoch(しかし)で話が折り返し、そのすぐ後に、この記事の主役になる一文が来ます。
Erst wenn Menschen sie verstehen, ausprobieren und mitgestalten können, entfaltet sie ihr Potenzial.
Leif Lindner氏(CEO, IFA Management)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:人がそれを理解し、試し、ともに形づくれて初めて、それは自らの可能性を開く。
ここでの sie は、前の文の Technologie(女性名詞)を受けています。
主役の一文を8つの部品に切る
まず部品ごとに切って、読み方と直訳を並べます。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Erst wenn | エアスト・ヴェン | 〜して初めて |
| Menschen | メンシェン | 人々が |
| sie | ズィー | それを(4格) |
| verstehen, ausprobieren und mitgestalten | フェアシュテーエン、アウスプロビーレン、ミットゲシュタルテン | 理解し、試し、ともに形づくる |
| können, | ケネン | 〜できる |
| entfaltet | エントファルテット | 開く(この文の定形動詞) |
| sie | ズィー | それが(1格) |
| ihr Potenzial. | イーア・ポテンツィアール | 自らの可能性を |
直訳を機械的につなぐと「人々がそれを理解し、試し、ともに形づくれて初めて、開く、それが、自らの可能性を」となり、日本語としては後半が崩れます。
崩れる原因は、ドイツ語が「動詞→主語→目的語」の順で置いた3つを、日本語では「主語→目的語→動詞」に組み替えないと収まらないからです。
訳文で「それは自らの可能性を開く」と並べ替えたのは、この事情によるものです。
一方で前半は、ドイツ語も日本語も「〜して初めて」を先に置くので、ほぼそのまま移せます。
つまりこの一文は、前半は日本語と相性がよく、後半だけが入れ替わるという構造をしています。
この会見の9文のうち、1番目が主語でないのは2文
ドイツ語の語順の話になると「倒置」という言葉がすぐ出てきますが、実際の割合を見ておくと印象が変わります。
この会見で公にされた発言は、リンドナー氏とカリーヌ・シャルドン氏の合計9文です。
その9文について、文の1番目(前域=Vorfeld)に何が立っているかを、1文ずつ目で見て分類しました。
| 文の1番目に立つもの | 件数 | その文の定形動詞 |
|---|---|---|
| 主語(Die Zukunft/Technologie allein/Wir/Der Markt など) | 7文 | ist・schafft・machen・sind ほか |
| 副文まるごと(Erst wenn …) | 1文 | entfaltet |
| 述語になる形容詞句(Entscheidend für Wachstum) | 1文 | sind |
9文のうち7文までは、教科書の最初のページと同じ「主語→定形動詞」で始まっています。
主語以外が1番目に立つのは2文だけで、この会見に限れば倒置は多数派ではありません。
ただし、その2文はどちらも会見の主張の要にあたる箇所で、書き出しに重心が寄せてあります。
語順を動かすと、その文だけが目立つ、というのがこの2文の共通点です。
細かい注意点をひとつ足しておくと、5番目の発言は und で主文が2つつながっており、後半の schaffen Orientierung … には独立した1番目がありません。
ここでは発言の文単位で9として数えていますが、定形動詞の数で数えれば10になります。
Erst wenn は「〜の場合だけ」ではない
erst は「最初の」という意味で覚える人が多い語ですが、時を表す文では「やっと」「ようやく」に寄ります。
そのため erst wenn は「〜して、そこで初めて」という到達点の指定になります。
よく混同される nur wenn とは、指しているものが違います。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Wenn Menschen sie verstehen, entfaltet sie ihr Potenzial. | ヴェン・メンシェン・ズィー・フェアシュテーエン… | 人が理解すれば、それは可能性を開く |
| Nur wenn Menschen sie verstehen, entfaltet sie ihr Potenzial. | ヌーア・ヴェン・メンシェン… | 人が理解する場合に限って、可能性を開く |
| Erst wenn Menschen sie verstehen, entfaltet sie ihr Potenzial. | エアスト・ヴェン・メンシェン… | 人が理解して初めて、可能性が開く |
nur wenn は条件を1つに絞り込む言い方で、他の場合を排除します。
erst wenn は排除ではなく順番の指定で、「その前の段階ではまだ起きていない」という含みが出ます。
会見の文脈では、技術が先にあり、人の理解が後から追いつくという時間の順序をこの2語が担っています。
日本語の「〜して初めて」がほぼそのまま重なるので、ここは覚えやすい部類です。
文末に動詞が4つ積み上がる
この一文でいちばん密度が高いのは、副文の終わりの部分です。
verstehen, ausprobieren und mitgestalten という3つの不定詞が並び、その後ろに können が1つ置かれています。
3つの不定詞は、1つの können を共有しています。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| … wenn Menschen sie verstehen können | …フェアシュテーエン・ケネン | 人がそれを理解できるなら |
| … wenn Menschen sie verstehen und ausprobieren können | …アウスプロビーレン・ケネン | 人がそれを理解し、試せるなら |
| … wenn Menschen sie verstehen, ausprobieren und mitgestalten können | …ミットゲシュタルテン・ケネン | 人がそれを理解し、試し、ともに形づくれるなら |
不定詞をいくつ足しても、können は最後に1つだけ置かれます。
ここが、英語の can とは並べ方が違うところです。
英語なら助動詞が先頭に立って can understand, try and shape のように後ろへ動詞が続きますが、ドイツ語の副文では逆に、助動詞が列の最後尾に回ります。
読むときのコツは、文末から前へ戻って読むことです。
können を見つけたら、そこから左へ不定詞を拾い、さらに左の目的語 sie にたどり着く、という順で組み立て直せます。
この「文末で待ち構える」感覚は副文にかぎらず、完了形や受動を読むときにもそのまま効きます。
mitgestalten が「mit」を切り離さない条件
mitgestalten は mit- と gestalten に分かれる分離動詞です。
それなのに、この一文では mit が離れていません。
分離動詞が本当に割れるのは、その動詞が主文の定形動詞として2番目の位置に立つときだけです。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Die Menschen gestalten die Technik mit. | ディー・メンシェン・ゲシュタルテン・ディー・テヒニク・ミット | 人々が技術をともに形づくる(分離する) |
| …, wenn die Menschen die Technik mitgestalten. | …ヴェン・ディー・メンシェン・ディー・テヒニク・ミットゲシュタルテン | 人々が技術をともに形づくるなら(分離しない) |
| Die Menschen wollen die Technik mitgestalten. | ディー・メンシェン・ヴォレン・ディー・テヒニク・ミットゲシュタルテン | 人々は技術をともに形づくりたい(分離しない) |
会見の一文では、副文であることと、können に従う不定詞であることの両方が重なっています。
どちらか片方でも分離は起きないので、二重に押さえられている形です。
逆に言えば、mit が離れて文末に落ちている文を見かけたら、その動詞は主文の定形動詞だと判断できます。
分離動詞の見分けは、辞書を引く前に位置から推測できる場合が多いということです。
同じ sie が、1回目と2回目で格が違う
この一文には sie が2回出てきますが、役割は別々です。
| 出てくる位置 | 格 | その文中での働き |
|---|---|---|
| Menschen sie verstehen … | 4格 | verstehen・ausprobieren・mitgestalten の目的語 |
| entfaltet sie ihr Potenzial | 1格 | entfaltet の主語 |
ドイツ語の sie は、1格と4格で形がまったく同じです。
そのため、どちらなのかは語順と動詞の形から判断するしかありません。
後半の entfaltet は3人称単数の形なので、直後の sie が主語だと分かります。
もし sie が複数の「彼らが」なら entfalten になるため、動詞の語尾が手がかりになります。
前半の副文で人称変化しているのは文末の können で、これが複数形ですから、主語は Menschen のほうです。
この2段構えの推理は、日本語の「が/を」を見るだけで済む読み方とは手順が違います。
あわせて、後半の ihr Potenzial の ihr も Technologie を受けた所有冠詞で、指しているのは「それ自身の」です。
女性名詞を受ける ihr が「彼女の」に見えてしまうのは、日本語話者が引っかかりやすい箇所です。
形容詞句が1番目に立つと、主語は動詞の後ろへ回る
同じ会見で、GFU Consumer & Home Electronicsのカリーヌ・シャルドン氏も、1番目に主語以外を置いた文を話しています。
Der Markt ist stärker, als es die Stimmung vermuten lässt.
Carine Chardon氏(Geschäftsführerin, GFU Consumer & Home Electronics GmbH)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:市場は、世間の空気がそう推測させるよりも強い。
この文の1番目は主語 Der Markt で、ここは教科書どおりです。
語順が動くのは、次の一文のほうです。
Entscheidend für Wachstum sind gezielte Innovationen, die den Alltag der Verbraucher erleichtern, Energie-effizient agieren oder neue Nutzungsmöglichkeiten eröffnen.
Carine Chardon氏(Geschäftsführerin, GFU Consumer & Home Electronics GmbH)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:成長にとって決定的なのは、消費者の日常を楽にし、エネルギー効率よく働き、あるいは新しい使い道を開くような、的を絞ったイノベーションである。
ふつうの並びなら Gezielte Innovationen sind entscheidend für Wachstum. となるところです。
それを Entscheidend für Wachstum から始めたので、主語 gezielte Innovationen が sind の後ろへ押し出されました。
リンドナー氏の一文は副文を1番目に置き、シャルドン氏のこの一文は形容詞句を1番目に置いています。
置いたものは違っても、主語以外を先頭に出して定形動詞を2番目に保つところは共通しています。
動詞 sind が複数形なのは、後ろに回った gezielte Innovationen に合わせているからで、先頭の Entscheidend は数に関与しません。
比較の als のあとで、代名詞が名詞より前に出る
シャルドン氏の als es die Stimmung vermuten lässt には、日本語話者が読み違えやすい並びが入っています。
主語は die Stimmung(世間の空気)で、es はそれより前に置かれた目的語です。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Der Markt ist stärker als die Stimmung. | デア・マルクト・イスト・シュテルカー・アルス・ディー・シュティムング | 市場は世間の空気より強い |
| Der Markt ist stärker, als die Stimmung es vermuten lässt. | …アルス・ディー・シュティムング・エス・フェアムーテン・レスト | 市場は、空気がそう推測させるより強い |
| Der Markt ist stärker, als es die Stimmung vermuten lässt. | …アルス・エス・ディー・シュティムング・フェアムーテン・レスト | (実際の発話)同上 |
1つ目は als の後ろが名詞だけなので、比較の相手が「空気そのもの」になります。
2つ目と3つ目は als の後ろが文になっており、比較の相手が「空気から推測される強さ」に変わります。
2つ目と3つ目の違いは、代名詞 es を主語 die Stimmung の前に出すかどうかだけです。
ドイツ語では、軽い代名詞を名詞句より前に置く並びが好まれ、実際の発話ではこちらが選ばれています。
この並びを知らないと、先頭の es を主語だと読んでしまい、「それが空気を推測させる」という別の意味に転びます。
あわせて lassen も要注意で、vermuten lässt は「推測させる」という使役になります。
lassen は使役のほかに放任・許可も担うので、丁寧な依頼の言い方とも地続きです。関連する言い回しはドイツ語の依頼表現にまとめてあります。
machen + 形容詞と、-bar でつくる「〜できる」
リンドナー氏のあいさつは、IFAの役割を説明する一文で締めくくられます。
[…] Wir machen Innovationen erlebbar und schaffen Orientierung in einer Zeit, in der sich Technologie schneller verändert als je zuvor
Leif Lindner氏(CEO, IFA Management)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:私たちはイノベーションを体験できるものにし、技術がかつてないほど速く変化する時代のなかで、方向づけを生み出す。
machen … erlebbar は、目的語がどうなるかを形容詞で示す言い方です。
「作る」ではなく「その状態にする」なので、日本語では「〜にする」が当たります。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Wir machen Innovationen erlebbar. | ヴィア・マッヘン・イノヴァツィオーネン・エアレープバー | イノベーションを体験できるものにする |
| Wir machen die Technik sichtbar. | ヴィア・マッヘン・ディー・テヒニク・ズィヒトバー | 技術を目に見えるものにする |
| Wir machen den Zugang einfach. | ヴィア・マッヘン・デン・ツーガング・アインファハ | 接し方を簡単にする |
erlebbar は erleben(体験する)に -bar を付けた形容詞で、「体験されうる」という意味を持ちます。
この -bar は英語の -able とほぼ同じ働きで、machbar(実行可能な)、lesbar(読める)、nutzbar(使える)のように量産できます。
後半の in einer Zeit, in der … は関係節で、前置詞 in が関係代名詞と一緒に前へ出ています。
関係節の中では動詞が終わりに来るはずですが、ここでは verändert のあとに als je zuvor(かつてないほど)がぶら下がっています。
比較の句だけは動詞より後ろへ置ける、というのがドイツ語の書き方の慣習です。
sein + zu 不定詞で「見て回れる」を言う
シャルドン氏の締めの一文には、教科書であまり練習しない形が使われています。
Alle diese Themen und dazugehörigen Produkte und Entwicklungen sind in den kommenden Tagen auf der IFA 2026 zu bestaunen und entdecken
Carine Chardon氏(Geschäftsführerin, GFU Consumer & Home Electronics GmbH)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:これらのテーマと、それに属する製品や開発のすべては、来たる数日のあいだ、IFA 2026で目を見張り、発見できる。
sind … zu bestaunen は「sein + zu 不定詞」で、受動の意味と「〜できる」という意味を同時に運びます。
| ドイツ語 | 読み方 | 日本語訳 |
|---|---|---|
| Man kann die Produkte bestaunen. | マン・カン・ディー・プロドゥクテ・ベシュタウネン | 製品を見て回れる(能動・man を主語に) |
| Die Produkte können bestaunt werden. | ディー・プロドゥクテ・ケネン・ベシュタウント・ヴェルデン | 製品は見られうる(受動+話法の助動詞) |
| Die Produkte sind zu bestaunen. | ディー・プロドゥクテ・ズィント・ツー・ベシュタウネン | 製品は見て回れる(sein + zu 不定詞) |
3つはほぼ同じ内容を運びますが、長さと硬さが違います。
2つ目の können bestaunt werden は動詞が3つ並ぶので、案内文には重すぎます。
3つ目は動詞が2つで済むため、案内・掲示・広報文でよく選ばれます。
なお sein + zu 不定詞は、文脈によって「〜すべきだ」という義務寄りの読みにもなります。
Das Formular ist auszufüllen. なら「この用紙は記入すべきだ」に傾き、書類や掲示ではこちらの読みが多くなります。
可能なのか義務なのかは形では決まらず、周りの語から判断する仕組みです。
この一文では auf der IFA 2026 という場所と in den kommenden Tagen という期間が添えられているので、可能の読みに落ち着きます。
細かい点として、原文は zu bestaunen und entdecken となっており、2つ目の不定詞に zu が繰り返されていません。
書き言葉の規範では zu bestaunen und zu entdecken と両方に置く形が標準とされますが、話し言葉では省かれることが珍しくありません。
状態受動の枠が、文の途中で開いたまま伸びる
シャルドン氏の残り1文は、枠の作り方が読み取りにくい例です。
Die Zukunft des technischen Konsumgütermarktes ist damit nicht nur technologisch geprägt, sondern vor allem auch von der Fähigkeit, Innovation in konkrete Alltagserleichterung zu übersetzen.
Carine Chardon氏(Geschäftsführerin, GFU Consumer & Home Electronics GmbH)/2026年9月2日・IFA 2026 Opening Press Conference(ベルリン)/出典: trendwelten.eu
訳:技術系消費財市場の未来は、それゆえ技術的に形づくられるだけでなく、とりわけイノベーションを具体的な日常の負担軽減へ翻訳する能力によっても形づくられる。
ist … geprägt は状態受動で、「〜によって特徴づけられている」という結果の状態を表します。
問題は、その geprägt が文の途中で顔を出したあと、sondern 以下がさらに続くところです。
後半の「vor allem auch von der Fähigkeit …」には geprägt が書かれていません。
ドイツ語では、同じ語を繰り返さずに省く書き方が許されるので、読み手が前半の geprägt を後半にも当てはめて読みます。
nicht nur A, sondern auch B(AだけでなくBも)という枠が、この省略を支えています。
Fähigkeit の後ろに続く zu 不定詞句も、名詞の中身を後ろから説明する形です。
Alltagserleichterung は Alltag(日常)+ Erleichterung(軽減)の複合名詞で、辞書に載っていなくても部品から意味が読めます。
Konsumgütermarktes も Konsum + Güter + Markt の3段重ねで、長い語ほど部品に切ると速く読めます。
教科書の例文と、この会見の一文を並べる
ここまで見た形を、初級で習う型と突き合わせます。
| 教科書でよく見る形 | この会見で実際に出てきた形 | どこが違うか |
|---|---|---|
| Wenn ich Zeit habe, gehe ich ins Kino. | Erst wenn Menschen sie verstehen, ausprobieren und mitgestalten können, entfaltet sie ihr Potenzial. | 副文の中の動詞が1つから4つに増えている |
| Gezielte Innovationen sind entscheidend. | Entscheidend für Wachstum sind gezielte Innovationen … | 形容詞句が先頭に出て、主語が動詞の後ろへ回る |
| Man kann die Produkte bestaunen. | … sind … zu bestaunen und entdecken | 「できる」を話法の助動詞ではなく sein + zu で運ぶ |
| Der Markt ist stärker als die Stimmung. | Der Markt ist stärker, als es die Stimmung vermuten lässt. | als の後ろが名詞から文になり、代名詞が主語より前に出る |
| Ich nehme an der Messe teil. | … wenn Menschen sie mitgestalten können | 分離動詞なのに mit が離れていない |
| Die Technik wird verständlich gemacht. | Wir machen Innovationen erlebbar. | 受動を使わず、能動+結果の形容詞で言い切る |
並べてみると、教科書との差は語彙の難しさよりも、部品の置き場所に集中しています。
単語はどれも初級から中級の範囲で、erlebbar と bestaunen が少し外れる程度です。
それでも読みにくく感じるのは、1つの枠の中に入る要素が増えているためです。
逆に言うと、枠の開き方と閉じ方さえ追えれば、会見のドイツ語は教科書の延長線上で読めます。
語彙を増やすより先に、前域と文末を意識して読む練習のほうが効きます。
声に出すとき、どこがつながってどこが落ちるか
この一文を音読すると、文字だけでは見えない縮みが出てきます。
Erst wenn は t の直後に w が来るため、2語の切れ目が薄くなり、ひと続きのように聞こえます。
母音のあとの r は子音の前で母音寄りに響くので、Erst は「エルスト」より「エアスト」に近い音になります。
entfaltet sie は、語末の t のあとに sie の濁った s が続くので、切れ目が「ツ」のように詰まって聞こえやすい箇所です。
不定詞の語尾 -en は、日常の速さでは e が落ちて n だけが残ります。
verstehen は「フェアシュテーエン」より「フェアシュテーン」に近づき、ausprobieren も末尾の母音が薄くなります。
複合名詞は最初の部品に強勢が来るのが原則で、Alltagserleichterung なら All- の位置が山になります。
Konsumgütermarktes は3段重ねで、主強勢は先頭の部品 Konsum の中の -sum に落ち、後ろは平らに流れます。
Entscheidend für Wachstum sind … のように主語以外を先頭に置いた文では、その先頭部分に強い山が来ます。
語順を動かす操作は、音の面では「そこを強調する」操作でもある、と考えると腑に落ちます。
聞き取りのときは、文頭で山が立っている文を「主語じゃないかもしれない」と疑うと、取り違えが減ります。
ドイツの媒体は、この種の発言を接続法I式に直して報じる
ドイツ語の報道では、会見の発言を地の文に取り込むとき、動詞を接続法I式に替えて、そこが引用だと読み手に分かるようにする慣習があります。
heise.deはこのIFA開幕会見を扱った記事で、まさにその形を使っています(heise.de)。
ここでは他社の書き方を写さず、上で引用した発言をこちらの手で書き換えて仕組みだけ見ます。
| 直接話法(実際の発言) | 間接話法に直した形 | 動詞の変化 |
|---|---|---|
| Die Zukunft ist jetzt. | Lindner sagte, die Zukunft sei jetzt. | ist → sei |
| Technologie allein schafft jedoch noch keinen Fortschritt. | Technologie allein schaffe jedoch noch keinen Fortschritt. | schafft → schaffe |
| Erst wenn Menschen sie verstehen, ausprobieren und mitgestalten können, entfaltet sie ihr Potenzial. | Erst wenn Menschen sie verstehen, ausprobieren und mitgestalten könnten, entfalte sie ihr Potenzial. | können → könnten/entfaltet → entfalte |
| Der Markt ist stärker, als es die Stimmung vermuten lässt. | Der Markt sei stärker, als es die Stimmung vermuten lasse. | ist → sei/lässt → lasse |
3行目だけ、können が könnten という接続法II式に替わっています。
können の接続法I式は複数形で können となり、直説法と形が同じになってしまうためです。
区別がつかないときは接続法II式で代用する、というのがドイツ語の書き方の決まりごとです。
この置き換えは、報道を読むときの目印にもなります。
地の文なのに動詞が sei や habe になっていたら、そこは誰かの発言を写している部分だと分かります。
会見のドイツ語で接続法がどう働くかは、連邦政府記者会見の記事でも別の角度から扱っています。
置換練習|前域と文末を入れ替える8問
ここまでの形を手で動かして確かめます。
- Die Kunden kaufen erst wieder, wenn die Preise fallen. を、副文を1番目に置いた形に書き換える。
- Kleine Geräte sind wichtig für den Alltag. を、形容詞句から始まる形に書き換える。
- Man kann die Roboter auf der Messe bestaunen. を、sein + zu 不定詞に書き換える。
- Man kann Innovationen erleben. を、machen + 形容詞の形に書き換える。
- mitgestalten を主文の定形動詞として使い、「来場者が展示をともに形づくる」という文を作る。
- Der Markt ist stärker als die Stimmung. の als のあとを、文の形にする。
- Die Zukunft ist etwas, das am Horizont liegt. の関係節を、独立した主文に戻す。
- Lindner sagt: „Die Zukunft ist jetzt.“ を、接続法I式の間接話法に書き換える。
解答と、どこが動いたかの説明です。
| 問 | 解答 | 動いたところ |
|---|---|---|
| 1 | Erst wenn die Preise fallen, kaufen die Kunden wieder. | 副文が1番目に入り、主語 die Kunden が kaufen の後ろへ回る |
| 2 | Wichtig für den Alltag sind kleine Geräte. | 形容詞句が1番目に立ち、主語が sind の後ろへ回る |
| 3 | Die Roboter sind auf der Messe zu bestaunen. | man が消え、目的語が主語になり、動詞は sind + zu 不定詞の2つに減る |
| 4 | Wir machen Innovationen erlebbar. | erleben に -bar を付けて形容詞化し、machen の後ろへ置く |
| 5 | Die Besucher gestalten die Ausstellung mit. | 主文の定形動詞になったので mit が離れて文末に落ちる |
| 6 | Der Markt ist stärker, als es die Stimmung vermuten lässt. | als の後ろが文になり、代名詞 es が主語 die Stimmung より前に出る |
| 7 | Etwas liegt am Horizont. | 関係代名詞 das が etwas に戻り、文末の liegt が2番目へ上がる |
| 8 | Lindner sagt, die Zukunft sei jetzt. | ist が sei になり、引用符とコロンが消えてコンマでつながる |
3番と5番を続けて解くと、動詞の位置がどれだけ情報を持っているかが実感できます。
1番と2番は、置くものが副文か形容詞句かの違いだけで、操作としては同一です。
同じロボットの話題を、中国語の会見と比べる
人型ロボットとAIは、この夏から各国の会見で共通の話題になっています。
中国語の記者会見でも、同じ内容を1文に畳み込む言い方が出てきました。
ただし畳み方が違い、中国語は「不仅…也…还…」という並列の目印を3段重ねて伸ばします。
ドイツ語は目印を増やすかわりに、動詞を文末に積んで枠を大きく開きます。
目印で伸ばすか、枠で抱えるか、という対比として読むと両方が整理しやすくなります。詳しくは中国語の並列をほどく記事にまとめています。
なお今回の9文には、話し手の気分を添える心態詞(doch・ja・mal など)が1つも出てきません。
広報の場では感情の色を薄くする傾向があり、この点は心態詞の使われ方をまとめた記事の観察とも重なります。
この読み方を、次のドイツ語に持っていくとき
今回の一文から持ち帰れるのは、次の3つです。
- 文の1番目には副文も形容詞句も入り、そのとき主語は定形動詞の後ろへ回る
- 副文と不定詞句では動詞が最後尾に集まり、話法の助動詞はさらにその後ろに立つ
- 「〜できる」は können のほかに sein + zu 不定詞と -bar でも言える
展示会の案内、製品ページ、プレスリリースはこの3つがまとまって出てくる場所です。
IFAの会期は9月4日から8日までで、公式サイトでは日ごとのプログラムが公開されています。
Smart Living ForumやIFA Nextといった枠の紹介文は、今回見た sein + zu 不定詞や machen + 形容詞が使われやすい文章です。
読むときは、まず文の1番目に何が立っているかだけを拾ってください。
そこが主語でなければ、次の語が定形動詞で、主語はその後ろにいます。
この手順だけで、長い一文でも骨組みが先に見えてきます。


