デーヴァナーガリー文字の読み方入門|母音・子音・結合文字の仕組み

ヒンディー語

ヒンディー語を始めようとして、最初の壁になるのがデーヴァナーガリー文字です。

丸みと直線が混ざった見慣れない字がずらっと並び、しかも上に一本の横線が通っている。この時点で「無理かも」と感じる方は少なくありません。

ただ、デーヴァナーガリーは音と文字がきれいに対応する表音文字で、仕組みさえ分かれば「読めれば発音できる」状態にたどり着けます。

この記事で分かることは次の3点です。

  • 母音11字・子音33字の読み方と一覧
  • 上線・母音記号(マートラー)・結合文字(コンジャンクト)の仕組み
  • 日本人がつまずく有気音・そり舌音の攻略法と練習教材

なお本記事は、インドの公用語である標準ヒンディー語の表記を対象とします。

デーヴァナーガリー文字とは

デーヴァナーガリー(देवनागरी)は、ヒンディー語を書くために使われる文字体系です。

アルファベットのように子音と母音を並べる方式ではなく、子音を軸に母音記号を添えていく「アブギダ」と呼ばれるタイプに分類されます。

読めれば発音できる表音文字

英語のように「同じつづりで違う読み」がほとんどなく、書かれたとおりに音が決まります。

そのため、文字と音の対応を一度覚えてしまえば、初見の単語でもかなりの精度で発音できます。

同じ文字を使う言語は多い

デーヴァナーガリーはヒンディー語専用ではなく、古典語のサンスクリット、マラーティー語、ネパール語なども同じ文字で書かれます。

つまりこの文字を覚える労力は、将来ほかの南アジアの言語に手を広げるときにもそのまま生きてきます。

デーヴァナーガリーという名前自体、「神々(デーヴァ)の街(ナガリー)の文字」という意味を持つとされ、古くから宗教・学問の言葉を記すために使われてきました。

現在のヒンディー語では、そうした歴史を背負いつつも、駅の案内や新聞、映画の字幕まで、日常のあらゆる場面でこの文字が使われています。

母音(スワル)11字の一覧

まずは母音から見ていきます。ヒンディー語の母音は「スワル(स्वर)」と呼ばれ、独立して書くときの形が11字あります。

独立形の一覧

単語の先頭に母音が来るときは、この独立形を使います。

ヒンディー語 読み方 音価の目安
ア(a) 日本語の「ア」より少しあいまいな短い音
アー(ā) 「ア」を長く伸ばす音
イ(i) 短い「イ」
イー(ī) 長い「イー」
ウ(u) 短い「ウ」
ウー(ū) 長い「ウー」
エー(e) やや長めの「エー」
アイ(ai) 「エ」と「ア」の中間から「アイ」
オー(o) やや長めの「オー」
アウ(au) 「オ」と「ア」の中間から「アウ」
リ(ṛ) そり舌気味の「リ」。主にサンスクリット由来語で使う

短母音と長母音のペアを意識する

इ(イ)とई(イー)のように、多くの母音は「短い音」と「長い音」がペアになっています。

この長短はヒンディー語では意味を分ける重要な区別なので、最初から伸ばす・伸ばさないを意識して覚えると後が楽です。

子音(ヴィヤンジャン)33字の一覧

次に子音です。子音は「ヴィヤンジャン(व्यंजन)」と呼ばれ、基本の字が33字あります。

5つの調音位置グループ

子音は口のどこで音を作るかによって、5つの行に整理されています。

ヒンディー語 読み方 音価の目安
क ख ग घ ङ カ・カ・ガ・ガ・ンガ(ka kha ga gha ṅa) のどの奥で作る軟口蓋音の行
च छ ज झ ञ チャ・チャ・ジャ・ジャ・ニャ(ca cha ja jha ña) 硬口蓋音の行
ट ठ ड ढ ण タ・タ・ダ・ダ・ナ(ṭa ṭha ḍa ḍha ṇa) 舌をそらせるそり舌音の行
त थ द ध न タ・タ・ダ・ダ・ナ(ta tha da dha na) 歯の裏で作る歯音の行
प फ ब भ म パ・パ・バ・バ・マ(pa pha ba bha ma) 唇で作る両唇音の行

各行の1字目と2字目、3字目と4字目はカナで書くと同じに見えますが、後述する「有気音・無気音」の違いがあります。

半母音・摩擦音などその他の子音

5行に収まらない子音もまとめて覚えておきます。

ヒンディー語 読み方 音価の目安
य र ल व ヤ・ラ・ラ・ワ(ya ra la va) 半母音・流音。रは軽く弾く「ラ」
श ष स シャ・シャ・サ(śa ṣa sa) 摩擦音。शとषはどちらも「シャ」に近い
ハ(ha) のどから出す「ハ」
क़ ख़ ग़ ज़ फ़ カ・カ・ガ・ザ・ファ(qa ḵẖa ġa za fa) 下に点を打つ字。ペルシア語・アラビア語由来の借用語で使う

点付きの字はウルドゥー語由来の語彙で登場します。ज़(ザ)とफ़(ファ)は日常語でもよく見かけるので、この2つは早めに慣れておくと便利です。

上線(シローレーカー)でつながる仕組み

デーヴァナーガリーの見た目でいちばん特徴的なのが、文字の上を通る横棒です。

単語は上線からぶら下がる

この横棒はシローレーカー(शिरोरेखा=頭の線)と呼ばれ、単語を書くと各文字がこの線からぶら下がるように並びます。

たとえばनमस्ते(ナマステ/こんにちは)と書くと、上を一本の線が通っているのが分かります。

英語の単語が下のベースラインに乗るのに対し、デーヴァナーガリーは上の線から吊るされる、と考えると読みやすくなります。

上線が最初から切れている文字

ただしすべての文字が上線でつながるわけではありません。

घ(ガ)やध(ダ)のように、字の一部にもともと切れ目がある文字もあり、この切れ目は書き間違いではなく字の一部です。

潜在母音 a と語末の脱落

子音字の読み方には、初学者が必ず一度は戸惑うルールがあります。

子音字は自動的に「ア」を含む

デーヴァナーガリーの子音字は、母音記号が何も付いていないとき、自動的に母音अ(ア)を伴って読まれます。

これを潜在母音(アカーラ)と呼び、たとえばक単独では「ク」ではなく「カ」と読みます。

つまりनमन と書けば、字面どおりには「ナ・マ・ナ」と、各子音に「ア」が付いて発音されるわけです。

語末のアが読まれない(シュワー削除)

ところが標準ヒンディー語では、単語の末尾に来た潜在母音アは、実際には発音されないことがほとんどです。

この現象はシュワー削除と呼ばれ、たとえばराम は字面では「ラーマ」ですが、実際の発音は「ラーム」に近くなります。

インドの叙事詩の主人公「ラーマ」が現代ヒンディー語では「ラーム」と呼ばれるのは、このルールのためです。

母音記号(マートラー)の付き方

単語の途中で子音に母音を足すときは、独立形ではなく母音記号(マートラー)を使います。

子音+母音記号の合成

子音क(カ)を例に、マートラーが付くとどう変わるかを見てみます。

ヒンディー語 読み方 組み立て
カ(ka) 子音+潜在母音ア
का カー(kā) 右に縦棒を足すとアーの音
कि キ(ki) 左側に記号が付く(左に注意)
की キー(kī) 右側に記号が付く
कु ク(ku) 下にウの記号
के ケー(ke) 上にエーの記号
को コー(ko) 右上と右にオーの記号

イの記号は「左」に付く落とし穴

ここでの最大の注意点が、短いイの記号कि です。

音としては子音の「後」に読むのに、記号は子音の「左(前)」に書きます。

見た目の順序と発音の順序がずれるため、कि を「イク」と読み間違えないよう、最初に強く意識しておくと安全です。

結合文字(コンジャンクト)の基本パターン

ヒンディー語には、母音をはさまずに子音が連続する音があります。その表記が結合文字(コンジャンクト)です。

ハラントで潜在母音を消す

子音の潜在母音アを消したいときは、字の下にハラント(्)という記号を付けます。

たとえばक に単独でハラントを付けたक् は、「カ」ではなく子音の「ク」だけを表します。

2つの子音がくっついた形になる

実際の単語では、ハラントを使う代わりに、前の子音を変形させて後ろの子音とくっつける書き方が普通です。

ヒンディー語 読み方 日本語訳
नमस्ते ナマステー(namaste) こんにちは
हिन्दी ヒンディー(hindī) ヒンディー語
क्या キャー(kyā)

स्त や न्द のように、2つの子音が横に圧縮されて1つの塊になっているのが結合文字です。

形のバリエーションは多いものの、頻出のものは限られるので、単語を読むうちに自然と見慣れていきます。

似ている文字の見分け方

デーヴァナーガリーには、点や線の有無だけが違う紛らわしいペアがいくつかあります。

紛らわしいペアを先につぶす

混同しやすい代表的な組み合わせを表にまとめます。

ヒンディー語 読み方 見分けのポイント
ब / व バ(ba)/ワ(va) 下の輪の中に横棒があるのがब
घ / ध ガ(gha)/ダ(dha) 左の形と切れ目の位置が違う
प / फ パ(pa)/パ(pha) फには右上に尾のような出っ張りがある
ड / ड़ ダ(ḍa)/ラ(ṛa) 下の点の有無で弾き音か破裂音かが変わる

こうしたペアは、最初にまとめて「違いはここ」と押さえておくと、読み間違いがぐっと減ります。

日本人がつまずくポイント

文字の形以上に、日本語にない音の区別が難所になります。ここを知っておくだけでも心構えが変わります。

有気音と無気音

各子音行の1字目と2字目は、カナで書くとどちらも「カ」ですが、実際には息の量が違います。

क(ka)は息を抑えた無気音、ख(kha)は「カッ」と強く息を出す有気音で、この違いは意味を分けます。

たとえばゲームの掛け声のように、手のひらを口の前にかざして息が当たるのが有気音、当たらないのが無気音、と体感で覚えるのが近道です。

そり舌音

ट ठ ड ढ ण の行は、舌先を上あごの奥に向かってそらせて出すそり舌音です。

日本語の「タ・ダ・ナ」より舌を後ろに引くイメージで、इंडिया(インディヤー/インド)などに含まれます。

鼻母音とアヌスワール

母音を鼻に抜かせる鼻音化も、日本語話者には見落としやすいポイントです。

字の上に点を打つアヌスワール(ं)やチャンドラビンドゥ(ँ)が付くと、母音が鼻に抜けたり、後ろの子音の鼻音が加わったりします。

नहीं(ナヒーン/いいえ)の末尾がその一例です。

練習アプリ・教材

文字は眺めるだけでは定着しないので、手を動かせるツールと組み合わせるのがおすすめです。

スキマ時間に使えるアプリ

Dropsは、イラストと結び付けて単語と文字を覚えられるアプリで、1日5分から続けやすいのが利点です。

Duolingoは英語版からヒンディー語コースが提供されており、文字の識別問題からゲーム感覚で入れます。

MemriseAnkiのフラッシュカードは、母音・子音を一字ずつ反復するのに向いています。

書籍で体系的に学ぶ

白水社『ニューエクスプレスプラス ヒンディー語』(町田和彦 著)は、文字と発音から会話までを音声付きで学べる定番の入門書です。

文字をていねいに扱う構成なので、独学で最初の1冊を選ぶならまずここから、という位置づけになります。

より辞書的に文字や文法を確認したいときは、大修館書店や東京外国語大学のヒンディー語教材もあわせて参照すると理解が深まります。

手書きで筆順ごと覚える

デーヴァナーガリーは、最後に上線を引くなど独特の筆順があります。

ノートに一字ずつ書き、italkiやPreplyのオンライン講師に発音と字形をチェックしてもらうと、自己流のクセが付く前に矯正できます。

覚える順番の目安

やみくもに全部を一度に詰め込むより、無理のない順番で進めるほうが挫折しにくくなります。

ステップ 覚える範囲 ねらい
1週目前半 母音11字の独立形 まず音の骨格をつかむ
1週目後半 子音5行のうち3行 調音位置の並びに慣れる
2週目前半 残りの子音とマートラー 子音+母音の合成を反復
2週目後半 頻出の結合文字と単語 実際の語で読む練習に移行

この段階まで来ればनमस्ते やहिन्दी といった基本語が自力で読めるようになり、文字学習は一区切りです。

まとめ

デーヴァナーガリー文字は情報量が多く見えますが、押さえる順番を間違えなければ着実に読めるようになります。

要点は3つです。第一に、母音11字・子音33字は音のグループで整理して覚えること。

第二に、子音は潜在母音アを含み、語末では読まれない(シュワー削除)という読み替えのルールを理解すること。

第三に、有気音・無気音とそり舌音という日本語にない区別を、音声教材で耳から入れること。

文字が読めるようになったら、次は実際のフレーズに進むのが楽しい段階です。あいさつから始めたい方は「ヒンディー語の挨拶フレーズ」を、自分のことを話したい方は「ヒンディー語の自己紹介」を参照してみてください。

数の数え方が気になる方は「ヒンディー語の数字と時間表現」を、学習の全体像を把握したい方は「ヒンディー語の勉強法と教材の完全マップ」もあわせてどうぞ。

よくある質問

デーヴァナーガリー文字は何日くらいで覚えられますか?

母音と子音の基本字だけなら、1日数字ずつ進めて1〜2週間が目安です。

結合文字は数が多いので、頻出のものから単語ごとに覚えていくと無理がありません。

ローマ字表記だけで学んではいけませんか?

会話の最初期はローマ字転写でも進められますが、教材や標識はデーヴァナーガリーで書かれています。

早い段階で文字に慣れておくほうが、結局は上達が速くなります。

ヒンディー語とウルドゥー語は文字が違うのですか?

話し言葉はほぼ共通ですが、ヒンディー語はデーヴァナーガリー、ウルドゥー語はアラビア文字系のナスタアリーク体で書きます。

点付きのज़(ザ)やफ़(ファ)は、ウルドゥー語由来の音を表すためにヒンディー語でも使われます。

そり舌音はどう練習すればいいですか?

舌先を上あごの奥に向けてそらせ、そこから「タ・ダ・ナ」を出す感覚をつかむのが基本です。

DuolingoやDropsの音声、オンライン講師の発音を繰り返しまねるのが効果的です。

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