契約書のポルトガル語は、ビジネス会話とは別世界の硬さです。
ラテン語起源の単語、長い文、条件法と接続法の組み合わせが並びます。
この記事では、本国とブラジルの契約書で頻出する語彙と条項表現を体系的に整理します。
契約書の基本構造
表題と当事者
Contrato de Prestação de Serviços(業務委託契約書)、Acordo de Confidencialidade(秘密保持契約)、Contrato de Compra e Venda(売買契約書)。
当事者は Contratante(依頼主、本国では「委託者」)、Contratado(受託者)の呼び名が標準です。
ブラジルでは Contratante/Contratada(女性形)の組み合わせも頻出します。
前文と定義
Pelo presente instrumento particular(本私署契約書により)は契約書冒頭の定番です。
As partes acordam o seguinte(当事者は以下を合意する)。
Para efeitos do presente contrato, entende-se por(本契約の目的上、以下を意味するものとする)と定義条項を導入します。
権利と義務の表現
義務の列挙
O Contratado obriga-se a(受託者は次の事項を履行する義務を負う)。
O Contratante compromete-se a pagar(発注者は支払う義務を負う)。
obrigar-se a+不定詞 と comprometer-se a+不定詞 が義務表現の二大構文です。
権利の付与
Fica assegurado ao Contratante o direito de(発注者には以下の権利が保証される)。
O Contratado terá o direito de(受託者は以下の権利を有する)。
ficar assegurado は「保証される」、ter o direito は「権利を有する」で、両国共通の法律用語です。
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支払条件と納期
金額の記載
O presente contrato tem o valor total de € 10.000,00(dez mil euros)。
数字とアルファベット表記を併記するのが本国の慣習です。
ブラジルは R$ 10.000,00(dez mil reais)と書き、小数点以下をハイフンで区切ることもあります。
支払期限
O pagamento será efetuado no prazo de 30 dias após a emissão da fatura.
A fatura será emitida ao abrigo da legislação em vigor(本国)。
A nota fiscal será emitida conforme a legislação vigente(ブラジル)。
解除と終了
解除事由
O presente contrato poderá ser resolvido em caso de incumprimento(本国)。
O presente contrato poderá ser rescindido em caso de descumprimento(ブラジル)。
本国は resolver、ブラジルは rescindir を使うのが法律用語の慣例です。
通知義務
A parte que pretender rescindir deverá notificar a outra parte com 30 dias de antecedência.
mediante notificação por escrito(書面による通知を経て)は定型句です。
守秘義務と知的財産
守秘義務条項
As partes obrigam-se a manter sigilo absoluto sobre todas as informações confidenciais.
A obrigação de sigilo permanecerá em vigor por 5 anos após o término do contrato.
サンプル条項として Esta cláusula sobreviverá ao término do contrato(本条項は契約終了後も有効である)も覚えておきたいところです。
知的財産権
Todos os direitos de propriedade intelectual resultantes do presente contrato pertencerão ao Contratante.
本国では Código do Direito de Autor e dos Direitos Conexos(著作権および関連権利法典、1985年3月17日 Decreto-Lei 63/85)が根拠法です。
ブラジルは Lei 9.610/1998(1998年著作権法)と Lei 9.279/1996(産業財産法)が基礎になります。
紛争解決条項
管轄裁判所
Para dirimir quaisquer litígios decorrentes do presente contrato, as partes elegem o foro da Comarca de Lisboa(本国)/foro da Comarca de São Paulo(ブラジル)。
foro de eleição(合意管轄)は契約書末尾の必須条項です。
仲裁と準拠法
O presente contrato será regido pelas leis da República Portuguesa(本国)/da República Federativa do Brasil(ブラジル)。
arbitragem(仲裁)なら Câmara de Comércio Internacional Paris 1923年創設 や Câmara de Arbitragem do Mercado CAM 2001年設立 São Paulo を指定することもあります。
署名欄の書き方
E por estarem assim justas e contratadas, as partes assinam o presente em duas vias de igual teor.
「両当事者は同一効力の二通を作成し署名する」という意味の定型句です。
署名欄には通常、場所と日付、当事者の氏名、役職、身分証番号(CC番号/RG番号)が記載されます。
実務での注意点
本国ポルトガルの契約書は Cartório Notarial(公証役場)での認証が必要な場合があります。
ブラジルは Cartório de Registro de Títulos e Documentos で登記することで第三者対抗力が生じます。
筆者はLisboaのCartório Notarial Rua do Carmo 12で初めて契約書にabonado(正式認証)をもらった際、公証人がApostilleの話まで丁寧に説明してくれたのを覚えています。
契約書語彙のミニ辞書
Cláusula(条項)、Parágrafo(項)、Inciso(号)、Aditivo(追加覚書)、Rescisão(解除)、Prorrogação(期間延長)、Vigência(有効期間)、Cessão(譲渡)。
Sem prejuízo de は「〜を害することなく」、Sob pena de は「〜の罰則の下で」、Nos termos do artigo は「〜条の規定に従い」。
本国は artigo(条)、número(項)、alínea(号)の順で細分化、ブラジルは artigo、parágrafo、inciso、alínea、item の五段階です。
翻訳時の落とし穴
日本の「善管注意義務」は dever de diligência como bom pai de família(本国旧表現)または dever de boa-fé e diligência と訳されます。
2019年民法改正で本国は bom pai de família 表現を削除し、pessoa prudente に置き換えました。
ブラジルの民法(Lei 10.406/2002、2002年1月10日制定)は依然 homem médio という表現を残しています。
筆者はLisboaの法律事務所Morais Leitão 1926年創設Rua Castilho 165の契約書チェックで、この時代差を指摘され勉強になりました。
学習リソース
本国法務語彙は Dicionário Jurídico Almedina 2022年版が定番で、Coimbra大学教授陣が監修しています。
ブラジルは Vocabulário Jurídico De Plácido e Silva 初版1963年が古典的名著で、2021年第32版が Forense から出ています。
オンラインでは本国 dre.pt(Diário da República Eletrónico)、ブラジル planalto.gov.br が一次資料の宝庫です。
筆者は契約書を訳すとき、必ず両サイトで現行法の条文番号を確認してから作業します。
契約書の基本構造
ポルトガル語契約書には、独特の構造と表現があります。
主要な要素を整理します。
前文(Preambulo)
契約書は通常、前文から始まります。
当事者の正式名称、住所、登記情報を明記します。
契約締結の背景や目的を、明確に記述します。
後の条項解釈の前提となる重要な部分です。
定義条項(Definicoes)
契約書で使用する重要用語を、定義条項で明確化します。
大文字で始まる用語が、定義された語彙であることを示します。
解釈の不一致を防ぐ、必須の条項です。
国際契約では、特に重要性が高まります。
主要条項
権利義務、対価、期間、解除条件などが、主要条項として並びます。
各条項は番号付けされ、参照しやすい構造です。
条項間の整合性を、常に確認する必要があります。
論理的な構成が、契約書の信頼性を支えます。
頻出表現と慣用句
契約書には、特有の言い回しがあります。
主要な表現を整理します。
義務と権利の表現
obrigado a + 不定詞 で「~する義務がある」を表現します。
tem o direito de + 不定詞 は「~する権利がある」です。
明確な権利義務の記述が、契約の核心です。
誤解を防ぐ、定型的な表現を使うことが重要です。
条件と例外
desde que + 接続法 は「~である限り」を表します。
salvo se + 接続法 は「~でない限り」という例外を示します。
contanto que + 接続法 も、条件付き許可で頻出します。
条件節を使いこなす能力が、契約書理解の鍵です。
解除と終了
rescindir(契約解除) と terminar(終了) は、異なる意味を持ちます。
rescindir は一方的な解除、terminar は合意による終了です。
正確な使い分けが、法的影響を左右します。
専門用語の精密な理解が、契約実務には不可欠です。
本国とブラジルの契約法
本国とブラジルでは、契約法に違いがあります。
主要な特徴を整理します。
本国ポルトガルの法体系
本国は、Codigo Civil(民法典) を基盤とします。
EU 指令の影響も大きく、欧州標準に準拠しています。
ヨーロッパ的な法的伝統が、契約実務に反映されます。
EUの消費者保護法も、商業契約に強く影響します。
ブラジルの法体系
ブラジルもCodigo Civil をベースとしますが、本国とは異なる発展を遂げました。
消費者保護法(Codigo de Defesa do Consumidor) は、世界的に強力です。
労働法(CLT) も、極めて詳細で被雇用者保護が強い特徴があります。
ブラジル特有の法的環境を理解することが、ビジネス成功の鍵です。
準拠法の選択
国際契約では、準拠法の選択が極めて重要です。
ブラジル準拠法は、ブラジル消費者保護法の強制適用を意味します。
本国準拠法は、EU 法の枠組みでの解釈となります。
専門弁護士のアドバイスが、適切な選択に不可欠です。
署名と発効
契約書の署名と発効には、地域ごとの慣習があります。
主要なポイントを整理します。
本国ポルトガルの署名
本国では、当事者の手書き署名が標準です。
電子署名(Assinatura Digital Qualificada) も、法的に認められています。
公証(notarial) が必要な契約もあります。
地方や種類で、要件が変わる点に注意が必要です。
ブラジルの署名慣習
ブラジルでは、当事者と2名の証人(testemunhas) の署名が必要な場合があります。
証人は契約内容を理解した第三者が務めます。
不動産売買などの重要契約では、公証(reconhecimento de firma) が必須です。
各種要件を、事前に確認することが重要です。
電子契約の進化
近年、両国で電子契約が急速に普及しています。
DocuSignやAdobe Sign が、ビジネスシーンで標準化しています。
法的有効性も、伝統的な紙契約と同等になっています。
テクノロジーが、契約実務を変革しています。
紛争解決の仕組み
契約紛争への備えも、契約実務の重要な要素です。
主要な選択肢を整理します。
裁判所での解決
従来は、裁判所での訴訟が紛争解決の中心でした。
本国では、商事裁判所(Tribunal de Comercio) が商業案件を扱います。
ブラジルでは、Justica Estadualが州レベルの裁判を担います。
時間とコストがかかる選択肢です。
仲裁(Arbitragem)
近年、仲裁による紛争解決が増えています。
本国では、Camara Arbitral de Lisboa が主要機関です。
ブラジルでは、CAM-CCBC(サンパウロ商工会議所仲裁機関) が代表的です。
裁判より迅速で、専門性の高い解決が期待できます。
調停(Mediacao)
調停は、当事者の合意による解決を目指す方法です。
関係性を維持しながら解決を図る場合に有効です。
仲裁や訴訟の前段階として、活用されることがあります。
柔軟な解決策が、商業関係の継続に貢献します。
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