9月20日はパエリアの日|スペイン語の「炒める」は6語に割れる

スペイン語

今週の日曜、9月20日は World Paella Day(El Día Internacional de la Paella)です。

公式サイトのトップページは「9ª EDICIÓN DEL WORLD PAELLA DAY」と掲げていて、2026年で9回目にあたります。

El Día Internacional de la Paella es un reconocimiento al plato más universal de la gastronomía de València.

World Paella Day 公式サイト トップページ(ページ名「World Paella Day – 20 de septiembre」)/ページ最終更新 2026年9月11日/出典: worldpaelladay.org

訳:パエリアの国際デーは、バレンシアの食文化のなかでもっとも世界に知られた一皿への敬意です。

この日に合わせて読むのは、バレンシア米の原産地呼称を管理する統制委員会(Consejo Regulador de la Denominación de Origen Arroz de Valencia)が自社サイトに載せたレシピ6本です。

公開は2021年3月から6月で、仕上がりの言い方を見るところだけ、同じ委員会が2020年に出した料理教室の案内も1か所使います。

6本とも料理人が書いた手順書です。話し言葉の記録ではないので、これから出てくるのはすべて紙に書かれた指示の形になります。

新しいのはイベントの日付のほうで、読む対象は5年前の文章です。

その6本を並べると、日本語なら「炒める」「煮る」の2語でほぼ足りる範囲に、10個の動詞が立っています。

油の側に、6つの動詞が立っている

まず油を使う動作から見ます。日本語なら「炒める」でひとまとめにする範囲です。

手順の本文に出るのは、次の6語です。動詞の形で数えた延べ回数を添えます。

スペイン語 読み方 日本語訳と回数
sofreír ソフレイール 油で軽く炒める(7回)
freír フレイール 油で揚げる・じっくり火を入れる(3回)
rehogar レオガール 油をからめて返す(2回)
nacarar ナカラール 米粒に油をまわす(2回)
pochar ポチャール 弱火でしんなりさせる(1回)
dorar ドラール 焼き色をつける(1回)

合計16回です。sofreír だけは6本すべてに出てくるので、これが基本形だと分かります。

いちばん少ない dorar は「Sofreír la pelota valenciana en el aceite de oliva hasta dorar.」のように hasta とセットで出ます。

動作そのものより、どこまでやるかを指す語として立っています。

sofreír は「軽く」がはじめから入っている

sofreír は so-(下に・控えめに)と freír(揚げる)が合わさった語です。

つまり「freír ほど強くない freír」が一語になっています。日本語の「炒める」に副詞を足す必要がない形です。

añadir la panceta ibérica cortada en «mirepoix» y sofreír el conjunto durante 5 minutos a fuego suave

レシピ提供: Jorge De Andrés(Vertical)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年4月19日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:ミルポワに切ったイベリコ豚のバラ肉を加え、全体を弱火で5分炒めます。

「sofreír+弱火で5分」という指定がそろって出てきます。語のほうにすでに「控えめ」が入っているので、火加減はあらためて書かれる形です。

freír は「揚げる」だけの語ではない

freír は辞書では「揚げる」と出ます。出るのは3回ですが、揚げ物として使われているのは1回だけです。

En una sartén comenzamos sofriendo el ajo picado […] Dejamos freír y reducir.

レシピ提供: Sergio Sierra(El Portal)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年3月31日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:フライパンでみじん切りのニンニクを炒めはじめ、[…]そのまま火を入れて詰めます。

同じ書き手が sofriendo(sofreír)と freír を続けて使っています。

前半は「炒めはじめる」、後半は「火を入れたまま水気を飛ばす」。語を分けているのは油の量よりも工程の段階です。

rehogar と pochar は、それぞれ別の仕事をする

rehogar は油をまとわせて全体を返す動作です。Vernetta のレシピでは、ゆでたヒヨコ豆と、入れたばかりの米にこの語が使われます。

h は読みません。「レオガール」です。

pochar は弱火でじっくりしんなりさせる動作で、6本の中では過去分詞の pochadas という形だけで出てきます。

Tavella のレシピの「verduras pochadas」は「しんなりした野菜」で、仕上がった状態を指す形容詞のように働いています。

nacarar は、原文が自分で語釈を付けている

この6本でいちばん面白い語が nacarar です。

nácar は真珠層のことで、nacarar は「真珠層のようにする」が元の意味になります。

訳語を当てにくい語なのですが、Tavella のレシピは説明を自分で書き添えています。

Una vez el sofrito esté listo, nacarar el arroz, es decir, darle unas vueltas para que el aceite impregne los granos.

レシピ提供: Pablo Chirivella(Tavella)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年4月22日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:ソフリートができたら米を nacarar する、つまり、油が粒にゆきわたるように何回か返す。

es decir(つまり)で自分の使った語を言い直しています。こちらが解釈を足す必要がありません。

もうひとつ、そのうしろの para que のあとが impregne という接続法現在になっています。

para que(〜するために)は、うしろに必ず接続法を取ります。「油が粒にゆきわたる」のはまだ起きていない目的だからです。

nacarar は Vertical のレシピにも出ます。1本だけの言い方ではありません。

añadir el arroz, nacarar el grano, y mojar con 0,5l de fondo de ave caliente

レシピ提供: Jorge De Andrés(Vertical)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年4月19日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:米を加え、粒に油をまわし、温めた鶏のだし0.5リットルで湿らせる。

こちらは el grano(粒)を目的語に取っています。Tavella は el arroz(米)でした。

数えたのは、6本の「Elaboración」だけ

ここで出した回数と、このあとの数字は、すべて同じ範囲を数えたものです。

統制委員会のサイトのレシピページは、料理名・材料(Ingredientes)・作り方(Elaboración)・料理人の紹介、という同じ並びでできています。

このうち Elaboración の本文だけを取り出しました。材料リスト、料理人の紹介文、サイトのメニューは入れていません。

本文の中にある「Sofrito de acelgas >」のような小見出し行も除いています。

残ったのは759語、ピリオドで区切って58文です。

レシピ(料理人/店) 公開日 手順本文の語数・文数
Arroz de sepionet y boletus(Sergio Sierra/El Portal) 2021-03-31 144語・13文
Arroz de pelota valenciana…(Pablo García/Vernetta) 2021-04-13 73語・7文
Arròs amb bledes(Jorge De Andrés/Vertical) 2021-04-19 201語・12文
Arroz de verduras con remolacha(Pablo Chirivella/Tavella) 2021-04-22 142語・9文
Arroz meloso de calabaza rustida…(María José Martínez/Lienzo) 2021-05-13 107語・8文
Arroz a los 3 Puñaos(Aurora Torres/La Herradura) 2021-06-28 92語・9文

日本語の文庫本でいえば2ページ分ほどの量に、火の通し方の動詞が10個入っている計算になります。

sofreír と sofrito は、語幹が同じで品詞が違う

sofrito という語は6本に5回出ます。そして5回とも名詞です。

スペイン語 読み方 日本語訳
Elaborar un sofrito con las pencas de acelga エラボラール・ウン・ソフリート… フダンソウの軸でソフリートを作る
Hacer el sofrito con el ajo, el tomate, la cebolla y el pimentón アセール・エル・ソフリート… ニンニク・トマト・玉ねぎ・パプリカでソフリートを作る
Una vez el sofrito esté listo ウナ・ベス・エル・ソフリート・エステ・リスト ソフリートができたら

上の2つは Elaborar・Hacer という「作る」動詞の目的語で、3つ目は esté listo(準備ができている)の主語です。

位置は違っても un / el という冠詞を取ります。ここが、名詞として扱われている印です。

つまり sofrito は作られた土台そのもので、日本語でも「ソフリート」としてそのまま入っている語です。

同じ綴りが sofreír の過去分詞にもなりますが、この6本では5回とも名詞でした。

「sofrito を作る」と「sofreír する」は、日本語にすると両方「炒める」に寄ってしまいます。ここは名詞と動詞で切り分けて覚えるほうが早道です。

水の側は cocer・hervir・cocinar で分担する

火を通す動作のもう半分、水や出汁を使う側に移ります。

スペイン語 読み方 日本語訳と回数
cocer コセール (水分の中で)火を通す・炊く(6回)
hervir エルビール 沸かす・ぐらぐら煮る(4回)
cocinar コシナール 調理する(総称)(3回)
escaldar エスカルダール さっと湯通しする(1回)

合計14回です。油の側の16回とほぼ同じ量が、水の側にも割かれています。

1回だけの escaldar は「escaldar las acelgas 30 segundos」と、必ず秒数を連れて出てきます。

cocer と hervir の境目は「泡が立っているか」

hervir は液体が沸いている状態を指します。だから主語は液体か鍋の中身になります。

Se hierve bien, hasta que la cebolla quede blandita.

レシピ提供: Aurora Torres(La Herradura)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年6月28日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:しっかり煮ます。玉ねぎが柔らかくなるまで。

cocer は「その液体の中で食材に火を通す」ほうです。この6本では米とヒヨコ豆が目的語に立ちます(coceremos el arroz/los garbanzos ya cocidos)。

Añadir el caldo, dejar cocer alrededor de 15 minutos y dar punto de sal.

レシピ提供: Pablo García(Vernetta)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年4月13日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:だしを加え、15分ほどそのまま炊いて、塩加減をととのえる。

cocinar は3回とも「調理する」という総称で、特定の動作を指しません。

「6分 cocinar する」「cocinado になったら」のように、工程をひとまとめにする位置に立ちます。

名詞形に替わると、もっと硬い文になる

硬い文になると、動詞の代わりに名詞が出てきます。cocción(コクシオン)と ebullición(エブリシオン)です。

ただし2語の関係は対称ではありません。cocer は語幹をそのまま残して cocción になりますが、hervir のほうは語幹を引き継ぎません。

ebullición は bullir(泡立つ)系の別語源なので、hervir を見出しにして辞書を引いてもたどり着けません。

Cuando se alcance el punto de ebullición, probamos el punto de sal y echamos el arroz.

レシピ提供: María José Martínez(Lienzo)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年5月13日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:沸点に達したら、塩加減を見て、米を入れます。

「hervir したら」ではなく「punto de ebullición に達したら」と書かれています。

動詞1語で済むところを、名詞+前置詞の枠に置き換える形です。この言い替えはレシピにかぎらず、説明的な文章でよく出てきます。

初級教材でよく見る形と、レシピに実際にある形

ここからは、教材の例文と6本の実物を並べます。

左の列は、初級のスペイン語教材でよく見かける言い方を当サイトが整えたものです。特定の教科書から引いたものではありません。

右は6本のレシピにそのままある形です。

初級教材でよく見る形(当サイトが整えたもの) 6本のレシピにある形 どこが動くか
Cocinar las verduras.(野菜を調理する) empezar a sofreír las verduras por orden de dureza 総称の cocinar ではなく油の動作 sofreír。しかも「硬い順に」まで指定が入る
Poner sal.(塩を入れる) poner a punto de sal 「塩を入れる」ではなく「塩のちょうどよさに合わせる」。a が入って意味が変わる
Cocinar el arroz 15 minutos.(米を15分調理する) dejar cocer alrededor de 15 minutos この場面では cocinar ではなく cocer。さらに dejar が前に立って「そのままにしておく」が加わる
Freír el ajo.(ニンニクを揚げる) comenzamos sofriendo el ajo picado freír ではなく sofreír。現在分詞になり「〜し始める」の中に入る
Hervir el agua.(湯を沸かす) Llevar el agua mineral a ebullición 動詞1語ではなく llevar a+名詞の枠。硬い書き言葉の型
El arroz está cocido.(米に火が通っている) el arroz esté en su punto 「火が通った」ではなく「ちょうどよい点にある」。しかも接続法 esté になる

6組のうち4組で、教材側の動詞はその場面では選ばれていません。

cocinar・freír・hervir という語そのものは、別の場面にはちゃんと出ます(回数は前の表のとおりです)。ここで言えるのは「この場面では選ばれない」までです。

残る2組は、動詞は同じでも前後に枠が足されています。

レシピという文章が、日常会話より書き言葉寄りに寄せて書かれていることが、この並びから見えます。

火加減は4通り、仕上がりは3語で言い分ける

火加減は「a fuego+形容詞」という同じ枠でそろいます。レシピ6本に4通り出ました。

スペイン語 読み方 日本語訳
a fuego suave ア・フエゴ・スアベ 弱火で
a fuego lento ア・フエゴ・レント とろ火で
a fuego fuerte ア・フエゴ・フエルテ 強火で
a fuego medio bajo ア・フエゴ・メディオ・バホ 中弱火で

suave と lento はどちらも日本語では弱火にあたりますが、suave は「穏やかに」、lento は「ゆっくり」が元の意味です。

そして仕上がりの状態には、3つの形容詞が使われます。

En una olla baja o en la paella, dependiendo de si queremos hacer el arroz caldoso o seco, empezar a sofreír las verduras por orden de dureza

レシピ提供: Pablo Chirivella(Tavella)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年4月22日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:底の浅い鍋にするか paella にするかは、汁気の多い米にするか汁気のない米にするかで決め、野菜を硬い順に炒めはじめる。

ここでの la paella が指しているのは、あの平たい鍋のほうです。

6本はどれも、同じ委員会が出した米料理のレシピです。パエリアそのものの作り方は入っていませんが、鍋の名前としてなら本文に出てきます

スペイン語 読み方 日本語訳
seco セコ 汁気がなく仕上がった状態
caldoso カルドソ スープのように汁気が残る状態
meloso メロソ その中間。とろみがついた状態

caldoso は caldo(だし)から、meloso は miel(はちみつ)から来ています。caldoso は汁気の量、meloso はとろみの質感が、そのまま名前になっている形です。

このうち seco と meloso は料理名にそのまま入ります。同じ委員会が2020年に出した料理教室の案内には、4品の名前が並んでいます。

Arroz seco de foie y alcachofas. – Arroz meloso de bacalao, coliflor y ajo tierno.

C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト「Arroces del frío」料理教室の案内/2020年1月22日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:フォアグラとアーティチョークの seco の米料理。/干しダラ・カリフラワー・新ニンニクの meloso の米料理。

caldoso のほうは、6本の中では「caldoso にするか seco にするか」という選択として手順の文に出てくるだけで、料理名としてはこの案内に見当たりません。

スペイン語のメニューで「Arroz meloso de …」と書かれていたら、それは食材の説明の前に仕上がりの状態を宣言しているわけです。

メニューを読む場面での語彙はスペイン語のレストラン会話・メニュー読解にまとめてあるので、旅行前ならそちらも合わせてどうぞ。

punto ひとつで「ちょうどよさ」が言える

手順本文には punto が6回出ます。うち4回が punto de sal です。

そして面白いことに、この同じ句を受ける動詞が3通りに割れています。

スペイン語 読み方 日本語訳
poner a punto de sal ポネール・ア・プント・デ・サル 塩加減をととのえる
dar punto de sal ダール・プント・デ・サル 塩加減をつける
probar el punto de sal プロバール・エル・プント・デ・サル 塩加減を見る

poner のときは前置詞 a が入って冠詞が消え、dar のときは冠詞なしの裸、probar のときは定冠詞 el がつきます。

「塩加減」という同じものを指しているのに、前に立つ動詞によって前置詞と冠詞が入れ替わります。

この手の組み合わせは規則から導けないので、動詞ごと覚えてしまうのが早いです。

残り2回は punto de ebullición(沸点)と en su punto(ちょうどよい状態で)で、後者は肉の焼き加減を訊かれたときの返事にもそのまま使えます。

dejar は2つの形で「〜させておく」をつくる

dejar 系は11回出ます。そのうち7回が dejar+不定詞です。

スペイン語 読み方 日本語訳
dejar cocer デハール・コセール そのまま炊く
dejar reducir デハール・レドゥシール そのまま煮詰める
Dejamos hervir デハモス・エルビール そのまま煮ます
dejamos reposar デハモス・レポサール そのまま休ませます

残る4回は2つに割れます。まず2回が dejar que+接続法という別の形です。

「dejamos que hierva 20 minutos(20分沸かせておきます)」と「dejar que el calor residual cocine el marisco(余熱で魚介に火を入れさせる)」の2つです。

分かれ目は主語が替わるかどうかにあります。

dejar cocer のほうは、火が入る側(米やだし)をわざわざ主語として立てずに済みます。

いっぽう「余熱が魚介に火を入れる」は、火を入れる主体が el calor residual(余熱)に移ります。

この2例では、火を入れる主体が別に立つところで que の節が選ばれています。不定詞でつなぐ言い方もありますが、主体を名指ししたいときは節のほうが収まりがよく、その節が接続法 cocine になります。

hierva も同じです。沸くのは鍋の中身であって、書き手ではありません。

あとの2回は、そもそも「〜させておく」ではありません。

「dejando la tinta y el bazo(墨と肝は残したまま)」のように、dejar が本来の「〜を残す」という他動詞で立っています。

うしろに動詞を取れば迂言形、名詞を取れば本動詞。11回の内訳は、迂言形が9回、本動詞が2回でした。

同じ委員会のサイトなのに、指示の人称が3通りある

ここまで語彙を見てきましたが、6本を並べるともうひとつ目につくものがあります。

同じ「炒める」という指示が、レシピによって3通りの形で書かれています。

スペイン語 読み方 日本語訳
sofreír el ajo picado ソフレイール・エル・アホ・ピカード みじん切りのニンニクを炒める(不定詞)
Se sofríe la cebolla con sal セ・ソフリエ・ラ・セボジャ・コン・サル 玉ねぎを塩とともに炒める(非人称の se)
comenzamos sofriendo el ajo picado コメンサモス・ソフリエンド… みじん切りのニンニクを炒めはじめます(1人称複数)

58文それぞれについて、主節の指示動詞の形を分類しました。

文数 どんな響きか
不定詞(Sofreír / Añadir / Cortar…) 32文 作業指示書に近い。人を出さない
1人称複数(Ponemos / Dejamos / Cocemos…) 19文 「一緒にやりましょう」。読み手を巻き込む
非人称の se(Se sofríe / Se hierve…) 5文 誰がやるか言わない。いちばん中立
指示ではない文(説明1・動詞なしの列挙1) 2文

では、これは委員会のサイト全体が揺れているのでしょうか。それともレシピごとに一貫しているのでしょうか。

数え直すと、答えは「両方」でした。

レシピ(料理人) 内訳 一貫しているか
Jorge De Andrés 不定詞12文 最初から最後まで不定詞
Sergio Sierra 1人称複数13文 最初から最後まで1人称複数
Pablo García 不定詞6文/se 1文 se の1文は提案の枠で、手順そのものではない
Pablo Chirivella 不定詞8文/説明1文 主節は不定詞でそろう
Aurora Torres se 4文 → 1人称複数4文/列挙1文 途中で切り替わる
María José Martínez 不定詞6文/1人称複数2文 途中で切り替わり、最後に戻る

形が最後までそろっているのは4本です。書き手が替われば形も替わる、という状態になっています。

残る2本は、1本の中で人称が動きます。そして動く場所に共通点があります

切り替わるのは、鍋に具が入りはじめてから

La Herradura のレシピは、玉ねぎを炒めて煮るところまでを se で書きます。

Se sofríe la cebolla con sal. […] Se le incorpora el pimentón dulce y se cubre de agua. Se hierve bien, hasta que la cebolla quede blandita.

レシピ提供: Aurora Torres(La Herradura)/C.R.D.O. Arroz de Valencia 公式サイト 2021年6月28日公開/出典: arrozdevalencia.org

訳:玉ねぎを塩とともに炒めます。[…]甘口パプリカを加えて水をかぶるまで注ぎ、玉ねぎが柔らかくなるまでしっかり煮ます。

この次の文から「Incorporamos las alubias…(豆を入れます)」と1人称複数に替わり、最後まで戻りません。

Lienzo のレシピは逆向きで、不定詞で進んだあと、沸点に達したところから2文だけ1人称複数になります。

「probamos el punto de sal y echamos el arroz(塩加減を見て、米を入れます)」の一文です。

そして次の Mantendremos(1人称複数の未来形)で炊く時間を指定したあと、盛りつけの文で不定詞に戻ります。

どちらも、下ごしらえのあいだは無人称か不定詞で、鍋に具材を入れはじめる段になると人が顔を出すという並びです。

ただし切り替わる位置までは一致しません。La Herradura は豆を入れる文、Lienzo は米を入れる文で替わります。

2本だけの観察なので法則とは言えませんが、読むときの目印にはなります。

「入れる」も1語では足りない

火の通し方ほど派手ではありませんが、「入れる」も分かれます。

スペイン語 読み方 日本語訳と回数
añadir アニャディール 加える(14回)
incorporar インコルポラール 混ぜ込む(6回)
echar エチャール ざっと入れる(3回)
mojar モハール 液体で湿らせる(2回)
cubrir クブリール かぶるまで注ぐ(1回)

añadir が14回で、迷ったらこれで通ります。

incorporar は「すでにあるものの中に取り込む」で、豆や野菜を鍋の中身に混ぜ込むときに出ます。

mojar は「濡らす」が元の意味で、米にだしを注ぐ場面専用のように使われています。「だしを加える」ではなく「米を湿らせる」という発想です。

直訳と、レシピとして通る訳

ここまでの語をまとめて、直訳と、日本語のレシピとして自然な訳を並べます。

右の列は当サイトが訳したもので、原文にはありません。

6本のレシピにある形 語のままの直訳 レシピとして通る訳
nacarar el grano 粒を真珠層にする 米粒に油をまわす
dejar cocer alrededor de 15 minutos およそ15分のあいだ炊けるままにしておく そのまま15分ほど炊きます
Cuando tengamos las verduras pochadas 私たちが野菜をしんなりした状態で持つとき 野菜がしんなりしたら
Se hierve bien, hasta que la cebolla quede blandita よく煮られる、玉ねぎが柔らかい状態にとどまるまで 玉ねぎが柔らかくなるまでしっかり煮ます
quedar muy meloso とてもはちみつ状にとどまる とろりと仕上げる
poner a punto de sal 塩の点に置く 塩加減をととのえる

直訳の列を見ると、スペイン語が状態を名詞や形容詞で指定する言語だということが分かります。

tener+目的語+形容詞(las verduras pochadas)、quedar+形容詞(blandita / meloso)、a punto de+名詞。どれも「どうする」ではなく「どういう状態になるか」を言う型です。

日本語のレシピはこれを動詞に畳んでしまうので、訳した瞬間に構造が見えなくなります。

逆に言えば、日本語のレシピをスペイン語にするときは動詞を状態語に開く作業が要ります。

和食を説明する場面での言い回しは和食・行事をスペイン語で説明するフレーズ集にまとめてあります。

辞書を引くときにいちばん迷う3語

この6本に出た語のうち、日本語話者がつまずきやすいものを3つ選びました。

sofreír と sofríe。sofreír は so-fre-ír の3音節で、強勢は最後の í にあります(「ソフレイール」)。

ei は本来ひとつの二重母音ですが、í の上の記号がそれを割って、e と i が別の音節になります。

活用して sofríe になると、記号は同じ i の上にありながら位置が2音節目に移ります。「ソフリエ」です。

この記号を落とすと音節の区切りが変わってしまうので、書くときは必ず付けてください。

hervir と hierve。不定詞の hervir は「エルビール」で、h は読みません。

活用して hierve になると、語幹の e が ie に変化して「イエルベ」になります。

綴りの先頭が h、音の先頭が「イ」なので、聞いてから辞書を引くときに最も迷う語です。

hervir・hierve・hierva と3つの形が6本に出てきますが、辞書の見出しは hervir だけです。

cocción。読みは「コクシオン」で、1つ目の c が [k]、2つ目の c が別の音になります。

スペイン本国では2つ目が英語の th に近い音、中南米の多くの地域では s の音になります。

同じ綴りの子音が続いているのに音が違うので、カタカナで「ココシオン」と覚えると通じにくくなります。

人称を入れ替えてみる

レシピの中から、この記事で扱わなかった文を7つ選びました。

指示された人称に書き換えてください。解答は下にあります。

長い文は、書き換える部分だけを取り出して短くしてあります。

  1. Licuar las remolachas obteniendo la parte del jugo. を1人称複数に
  2. Emplatar el arroz y servir la cabeza de gamba a parte. を1人称複数に
  3. Trituramos y reservamos. を非人称の se に(目的語は単数のものとする)
  4. Limpiamos los sepionets. を非人称の se に
  5. Se sugiere añadir la morcilla casi al final. を1人称複数に
  6. Podemos añadir un poco de caldo. を非人称の se に
  7. Pelar y picar el tomate. を非人称の se に

解答と解説

解答 解説
1 Licuamos las remolachas obteniendo la parte del jugo. -ar 動詞の1人称複数は -amos。うしろの現在分詞 obteniendo は形が変わらない
2 Emplatamos el arroz y servimos la cabeza de gamba a parte. 2つ目は -ir 動詞なので -imos になる。語尾を機械的に -amos にしない
3 Se tritura y se reserva. se の文では動詞が目的語の数に一致する。単数なので3人称単数
4 Se limpian los sepionets. 目的語 los sepionets が複数なので、動詞も3人称複数になる。ここが3と対になる
5 Sugerimos añadir la morcilla casi al final. -ir 動詞の1人称複数。うしろの不定詞 añadir はそのまま残る
6 Se puede añadir un poco de caldo. se で数に合わせるのは poder のほうで、うしろの añadir は不定詞のまま動かない。ここは目的語 un poco de caldo が単数なので Se puede
7 Se pela y se pica el tomate. 目的語 el tomate が単数なので、動詞は2つとも3人称単数。se は動詞ごとに必要

3・4・7の3問は、同じ se の文でも動詞が単数か複数かは目的語で決まる、という点を確かめるためのものです。

日本語には対応する仕組みがないので、ここだけは慣れるまで意識して確認してください。

9月20日に1つだけ持っていくなら

火を通す動詞が10個と聞くと多く感じますが、覚える順番はあります。

油の側は sofreír、水の側は cocer。この2つで6本の大半が回っています。

そのうえで、米が鍋に入る場面だけ nacarar と punto de sal を足せば、レシピの流れは追えます。

残りの語は、読んでいて出てきたときに拾えば足ります。

日曜に街でスペイン語のメニューを見る機会があれば、料理名の2語目に seco / meloso / caldoso のどれが入っているかだけ見てください。

それだけで、出てくる皿の汁気が事前に分かります。

祝祭日にまつわる言い回しはスペイン語の挨拶・祝祭完全ガイドにまとめてあるので、9月20日に一言添えたいときはそちらをどうぞ。

この記事が読んでいるのは、原産地呼称の統制委員会が自社サイトに載せたレシピ本文です。作り方の当否や「本物のパエリア」の定義には立ち入らず、書かれている語の使い分けだけを扱いました(編集方針)。

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