答えない技術|英語・ドイツ語・中国語の記者会見はどこで線を引くか

英語

記者会見の公式記録を3言語ぶん続けて読むと、いちばん手数がかかっているのは「答えられません」の言い換えです。

断るという結論は共通なのに、断る理由として何を持ち出すかが言語ごとに割れます。

ドイツ語は知識の在りかを言い、英語は答えの出来を採点し、中国語は把握の段階を述べます。

この記事が材料にするのは、ドイツ連邦政府の記者会見、欧州中央銀行(ECB)の金融政策記者会見、中国外交部の例行記者会という3つの場の公式記録です。

そこから原文を確認できた14の発言だけを取り出し、言語ごとにまとめず、理由の置き場所で横に並べ直します。

扱うのは言い方だけです。引用は所管・日程・手続きに関するやりとりから選び、政策や主張の当否には立ち入りません。

この線引きの考え方は編集方針に書いてあります。

3つの会見と、理由の置き場所

先に地図を出します。

14例を機能で分類すると、言語ごとに得意な置き場所がはっきり分かれました。

言語(材料にした会見) 断る理由に選ばれるもの この記事で引く実例
ドイツ語(連邦記者会見 4回分) 知識の所在・時期・所管・態度 7例
英語(ECB金融政策記者会見 3回分) 答えの質・代わりに約束する中身 3例
中国語(外交部 例行記者会 4回分) 把握の状態・発表の時期・既出・内容を空にする枠 4例

この表は「ドイツ語話者はこう断る」という話ではありません。

ドイツ語は2026年8月10日・12日・19日・24日の連邦記者会見、英語は同年3月19日・4月30日・7月23日のECB会見、中国語は同年8月14日・17日・20日・24日の外交部会見という、合計11回分の記録から数えた結果です。

会見の種類も揃っていません。

連邦記者会見は省庁の担当者が日替わりで答える場、ECB会見は総裁が単独で答える場、外交部の例行記者会は報道官1人が答える場です。

答える人数が違えば、断り方の分布も当然変わります。

それでも3つを並べる値打ちがあるのは、同じ「答えない」という行為に、言語ごとに別の説明装置が用意されているのが見えるからです。

以下では、その装置を機能ごとに切り分けていきます。

知識の所在に置く|entziehen と 掌握

いちばん穏やかな断り方は、答える意思よりも手元の情報のほうへ理由を寄せる形です。

連邦記者会見では、法律の名称の由来を重ねて問われた省庁担当者がこう答えています。

Das entzieht sich heute meiner Kenntnis. Das kann ich Ihnen aber gern nachreichen.

連邦財務省 報道担当/2026年8月12日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:それは本日のところ私の知るかぎりの外にあります。ただ、後ほど追ってお届けいたします。

注目したいのは主語です。

sich entziehen(免れる・及ばない)の主語は das、つまり質問された事柄のほうで、話し手は meiner Kenntnis という属格の中に退いています。

日本語の「知りません」は話し手が主語になりますが、この形では事柄が勝手に知識の外へ出ていったという組み立てになります。

heute が入っているのも効いていて、知らないのは今日という日に限った状態だと範囲が絞られます。

後半の nachreichen は「後から提出する」という意味の分離動詞で、書類を追送するときの語です。

断ったうえで次の手続きを示すので、質疑はそこで終わらずに持ち越しになります。

同じ「知識の所在」を、中国語は動詞ひとつで表します。

我们暂不掌握有关情况。

林剣(中国外交部報道官)/2026年8月24日・中国外交部 例行記者会/出典: 中華人民共和国外交部 公式記録

訳:私たちは目下のところ関連する状況を把握しておりません。

掌握(zhǎngwò)は「手のひらに握る」が字義で、情報を組織として保有しているかどうかを言う語です。

知道(知っている)でも了解(承知している)でもなく掌握が選ばれると、個人の記憶の話から組織の情報管理の話に土俵が移ります。

そこに暂(zàn/しばらく)が付いて、ドイツ語の heute と同じ働きをします。

不掌握だけなら「把握していない」ですが、暂不掌握は「今の段階では把握していない」になり、後日への含みが残ります。

ドイツ語が構文で話し手を退かせるのに対し、中国語は語彙の選択だけで同じ効果を出している形です。

時期に置く|vorgreifen・noch nicht・适时

次に多いのが、答えられない理由を「まだその段階ではない」に寄せる形です。

ドイツ語にはこの用途専用といってよい動詞があります。

Dem Gespräch kann ich jetzt nicht weiter vorgreifen.

連邦環境省 報道担当/2026年8月24日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:その協議について、私はこれ以上先回りすることはいたしません。

vorgreifen は vor(前に)+greifen(つかむ)で、順番を飛ばして先に手を出すことを指します。

3格支配なので、先回りされる対象は Dem Gespräch と3格に立ちます。

この動詞を使うと、断りの理由が「言いたくない」から「順序を守る」に置き換わります。

もう1つ、断るときに聞き手の側へ働きかける形があります。

Insofern bitte ich um Verständnis dafür, dass wir zu Einzelheiten noch nicht detailliert Stellung nehmen können.

連邦財務省 報道担当/2026年8月10日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:その意味で、細部についてまだ詳しくは見解を示せないことにご理解をお願いします。

骨格は um Verständnis bitten(理解を請う)で、dafür, dass … が理解してほしい中身を受ける受け皿になります。

この dafür を落とすと文が座らないので、学習者が組み立てるときはここが山場です。

noch nicht は「まだ〜ない」で、nicht 単独と比べると打ち切りの度合いが1段下がります。

中国語は、同じ時期の話を肯定文で言い切ります。

关于你提到的具体问题,我们会适时发布消息。

林剣(中国外交部報道官)/2026年8月20日・中国外交部 例行記者会/出典: 中華人民共和国外交部 公式記録

訳:あなたが挙げられた具体的な問題については、私たちが適切な時期に情報を発表いたします。

この文に否定語は1つも入っていません。

适时(shìshí)は「しかるべき時に」で、その時期を決めるのは発表する側だという含みを持ちます。

冒頭の关于你提到的(あなたが挙げられた〜について)は、質問を受け取ったことを示す枠で、受け取ったうえで扱いを先送りする流れになります。

ECB会見にも時期を断る例がありますが、断り方の作りが違います。

I cannot give you a timeline, a date, but I can assure you

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)/2026年3月19日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: 欧州中央銀行 公式記録

訳:時間軸も日付も差し上げられませんが、お約束できることがあります。

ドイツ語と中国語は、断りの範囲を狭めるために時間の語を使いました。

ECBのこの例では、時間そのもの(a timeline, a date)が差し出せない品物の名前として並べられています。

時間の語の向きが逆になっているわけで、3言語を並べないと気づきにくい差です。

さらに but 以降で、内容の代わりに姿勢を約束する部分が続きます。

この補償のしくみは後の章でまとめて扱います。

所管に渡す・既出に差し戻す

答えない理由を、自分の外側に置く形もあります。

ドイツ語の連邦記者会見は複数の省庁が同席するので、その場で担当が移せます。

Für das Zusammenspiel würde ich vielleicht an das Innenministerium abgeben.

連邦財務省 報道担当/2026年8月12日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:連携の部分については、内務省にお渡ししようかと思います。

abgeben は「手渡す」で、荷物やボールを渡すときにも使う日常語です。

ここで würde と vielleicht が2枚重ねになっているのが見どころで、接続法II式が命令調を消し、vielleicht が押しつけを消します。

直説法で Ich gebe an das Innenministerium ab. と言うと、場を仕切る響きが強くなります。

この回の記録では、実際にこの直後から内務省の担当者が引き取って説明を始めています。

省庁をまたぐ会見の型については、2026年8月のドイツ連邦政府記者会見を材料にした記事で、同じ4回分の速記録を語形ごとに数えています。

中国語は、人ではなく文書に差し戻します。

中方在消息稿中介绍了你关心的这场会见的具体情况,你可以查阅,我没有更多补充。

林剣(中国外交部報道官)/2026年8月24日・中国外交部 例行記者会/出典: 中華人民共和国外交部 公式記録

訳:中国側は発表文の中で、あなたが関心を持たれているこの会見の具体的な状況を紹介しておりますので、ご参照ください。私からの追加はございません。

3つの節が役割分担していて、前半が既出の宣言、中ほどの你可以查阅(ご覧いただけます)が参照先の指示、末尾の我没有更多补充が打ち切りの合図です。

查阅(cháyuè)は「調べて読む」で、目の前の人に尋ねず、資料に当たる動作を指します。

ここで初めて主語が我になるのも面白いところで、それまでの中方(中国側)という組織の主語から、報道官個人へ切り替わります。

組織としては出してある、個人としてはこれ以上足さない、という二段構えです。

英語にも既出へ差し戻す形がありますが、質感がまるで違います。

So on your first question, I will not repeat what I said, although I will actually.

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)/2026年4月30日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: 欧州中央銀行 公式記録

訳:では最初のご質問ですが、前に申し上げたことは繰り返しません。とはいえ、結局は繰り返すことになりますけれど。

前半だけなら中国語の差し戻しと同じ機能です。

ところが although I will actually が付いて、宣言した直後に自分で取り消しています。

この後の記録では、実際に前回と同じ説明が続きます。

断りの定型を口にしてから冗談で外す動きは、答える人数が1人で、同じ記者たちと何度も顔を合わせる場だから成立するものです。

外交部の記録にも連邦記者会見の速記録にも、この種の自己訂正は見当たりませんでした。

答えの質に置く|英語だけが「答え」を採点する

3言語を並べて最も目立った差が、この章の内容です。

英語のECB会見には、断る理由を答えそのものの出来に置く形があります。

It’s not a question to which I can give a reliable answer.

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)/2026年7月23日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: 欧州中央銀行 公式記録

訳:それは、信頼できる答えを私が差し上げられる種類の問いではありません。

否定されているのは話し手の意思でも権限でもなく、answer に掛かる reliable という形容詞です。

組み立てを分解すると、It is not a question + to which I can give + a reliable answer の3部品になります。

関係代名詞に前置詞が付いた to which が硬く見えますが、give an answer to a question という日常の結びつきを関係節にしただけです。

この形の効き目は、質問を突き返しているように聞こえない点にあります。

問いが悪いとは言わず、自分が出せる答えの精度が足りないと言うので、断りの理由が話し手の側に残ります。

記録ではこの直後に Why do I say that? と自分で問い直し、理由の説明が続きます。

断ったうえで説明を足す流れが、この会見では定型になっています。

ドイツ語と中国語の11例には、答えの品質を形容詞で評価する例が1つもありませんでした。

ドイツ語が評価するのは発言という行為(sich äußern, Stellung nehmen, spekulieren)で、中国語が評価するのは情報の保有状態(掌握)です。

英語だけが、まだ存在しない答えを先に採点してから断っています。

会見の英語表現をひととおり見るなら、英語の記者会見で繰り返される定型表現のほうが、場を開く型から締めの型まで局面順に並べてあります。

慣例と態度に置く|wie üblich と nicht spekulieren

ドイツ語には、今回だけの判断ではないと示して断る形があります。

Sie wissen, dass ich mich, wie üblich, nicht zu den Einzelheiten der regierungsinternen Abstimmung äußere.

連邦司法省 報道担当/2026年8月24日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:ご承知のとおり、私は例によって、政府内部の調整の細部については論評いたしません。

Sie wissen, dass … は「ご承知のとおり」で、断りの内容を新情報ではなく共有済みの前提として置きます。

そこへ wie üblich(いつものとおり)が重なるので、断りが個別の判断から慣例へ移ります。

sich äußern は zu+3格を取り、触れない対象が zu den Einzelheiten の位置に入ります。

über を使う言い方も文法的には通りますが、この4回分の速記録で会見の断りに使われていたのは zu のほうでした。

もう1つ、態度そのものを名指しする形があります。

Dazu möchte ich, wie gesagt, nicht spekulieren.

連邦経済・エネルギー省 報道担当/2026年8月24日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:その点については、申し上げたとおり、憶測は控えたいと思います。

spekulieren(憶測する)は、答えなかった場合に相手が思い描く行為に名前を付ける語です。

名前が付くと、それは会見の場にふさわしくない行為だという評価がそのまま付いてきます。

möchte が使われているのも軽くありません。

ich will nicht(したくない)だと個人の好みに聞こえますが、möchte nicht は控えめな意向になり、角が取れます。

wie gesagt(申し上げたとおり)は、この4回分の速記録で11回出てきました。

初めて断るのではないという形にすることで、質問を重ねる側の足場を減らす働きがあります。

内容を空にして答える|就…交换意见 と 同語反復

ここまでは断りを明示する形でしたが、断らずに内容だけを抜く型もあります。

中国語の例行記者会で、翌日の会談の議題を尋ねられた回答の締めがこれです。

双方还将就双边关系和国际地区问题交换意见。

林剣(中国外交部報道官)/2026年8月24日・中国外交部 例行記者会/出典: 中華人民共和国外交部 公式記録

訳:双方はさらに、二国間関係および国際・地域の問題について意見を交換いたします。

枠は 就+話題+交换意见 で、就(jiù)は「〜について」を表す前置詞です。

この枠の便利さは、話題の位置に何を入れても文が成立する点にあります。

入っているのは双边关系(二国間関係)と国际地区问题(国際・地域の問題)で、どちらも外交の会談なら必ず当てはまります。

文法的には完全な答えでありながら、議題を1つも特定していない状態です。

この枠を含む書面語の応答セットは、中国外交部の会見で繰り返される疑問枠と応答枠の記事で、質問側の能否・是否・有何と対にして整理しています。

ドイツ語にも、形の上では答えているのに中身が増えない例がありました。

Er äußert sich dann, wenn er sich äußert.

連邦政府副報道官/2026年8月12日・連邦記者会見(Regierungspressekonferenz)/出典: ドイツ連邦政府 公式速記録

訳:彼が見解を示すのは、彼が見解を示すときです。

主文と副文に同じ動詞を置く同語反復で、wann(いつ)という問いに時点を1つも与えていません。

中国語の交换意见 と違うのは、聞き手にも空だと分かる作りになっている点です。

就…交换意见 は定型なので、慣れていない読み手には具体的な予定に見えます。

同語反復のほうは、その場で誰にでも空だと伝わります。

空にする技法が、片方は定型の外見を借り、もう片方は論理の形を借りている、と整理できます。

否定はどこに付くか

14例を、否定語がどこに掛かっているかで並べ替えると、言語ごとの癖が数で見えます。

否定が掛かる先 ドイツ語(7例) 英語(3例)/中国語(4例)
発言という行為(論評する・先回りする・憶測する) 4例(vorgreifen/äußern/spekulieren/Stellung nehmen) 英語1例(repeat)/中国語0例
答えの質・能力(give a reliable answer/give a date) 0例 英語2例/中国語0例
保有している情報(掌握・补充) 0例 英語0例/中国語2例
否定語を使わない 3例(entzieht sich/abgeben/同語反復) 英語0例/中国語2例(适时发布/交换意见)

英語の3例には、すべて否定語が入っていました。

cannot、not a question、will not と形は違いますが、断ることを言葉にしてから先へ進みます。

ドイツ語と中国語には、否定語なしで断る例がそれぞれ3例と2例あります。

ドイツ語の否定なしは構文が引き受けていて、sich entziehen は「及ばない」を語義に内蔵し、abgeben は担当を移すという肯定の動作で断りを実現します。

中国語の否定なしは時制と参照の指示が引き受けていて、适时发布 は未来の発表を約束し、你可以查阅 は既存の文書を指します。

ドイツ語は否定の位置がばらけるのに対し、中国語の否定は不掌握と没有补充という情報の在庫の話に集中します。

ドイツ語が否定するのは動作、英語が否定するのは能力、中国語が否定するのは在庫。

この3つの向きが、そのままタイトルの3本の線です。

誰が答えられないのか|主語の粒がずれる

もう1つ、並べないと見えない差が主語の大きさです。

言語 断る文の主語 14例での内訳
ドイツ語 ich が基本。事柄が主語になる例もある ich 5例/wir 1例/事柄 1例
英語 I と it を行き来する I 2例/it 1例
中国語 我们・中方 が基本。打ち切りのときだけ我 我们 2例/中方・双方 2例(うち1例は末尾で我に交代)

連邦記者会見の担当者は、省庁を代表して座っていながら ich で断ります。

wir が出るのは、省庁全体の手続きを説明する um Verständnis の例だけでした。

外交部の報道官は逆で、我们と中方という組織の主語が既定です。

我が出てくるのは我没有更多补充だけで、しかも組織としての説明を済ませた後の位置に置かれています。

日本語話者にとって使い分けの勘所になるのはここです。

社内会議でドイツ語式に ich を使うと責任の所在がはっきりする一方、中国語式に我们を使うと個人の判断に見えなくなります。

英語の2種類の主語も対照的で、I cannot give は話し手の制約、It’s not a question は問いの性質の話になります。

同じ会見の同じ話し手が、答えの届かなさを説明するときは it、代わりの約束をするときは I、と切り替えていました。

断ったあとに何を差し出すか

3言語とも、断りっぱなしで終わる例はごくわずかでした。

14例のうち11例で、断りの直後か直前に何かが差し出されています。

差し出すもの 言語と実例 質疑がその後どうなるか
次の手続き 独 nachreichen(後で届ける) 持ち越しになり、次回に再質問できる
別の答え手 独 an das Innenministerium abgeben その場で別の担当が引き取る
既存の文書 中 你可以查阅(ご参照いただけます) 読み手が自分で確認する形に移る
将来の発表 中 适时发布消息(適時に発表する) 時期の決定権が発表側に残る
行動の約束 英 but I can assure you 中身ではなく進め方が担保される
理由の説明 英 Why do I say that? に続く説明 断りの妥当性がその場で検証される

並べると、差し出すものの性格が言語ごとにまとまっています。

ドイツ語が差し出すのは人と手続きで、答えは組織のどこかにあるという前提が残ります。

中国語が差し出すのは文書と時期で、答えは公式の発表という形でしか出てこないという枠が示されます。

英語が差し出すのは姿勢と理由で、答えそのものは今この場に存在しないという扱いになります。

差し出すものが違えば、記者の次の一手も変わります。

連邦記者会見では次回に持ち越し、外交部の会見では発表文を読み、ECB会見では理由の当否を追う、という進み方の差が生まれます。

教科書の言い方と、この3つの会見の言い方

初級教材で習う断りの言い方を横に置くと、差がはっきりします。

教科書で先に習う形 この会見で使われていた形 入れ替わっている部分
Ich weiß es nicht.(知りません) Das entzieht sich heute meiner Kenntnis. 主語が話し手から事柄へ移り、heute で範囲が絞られる
Ich sage nichts dazu.(それについては言いません) Dazu möchte ich nicht spekulieren. 沈黙ではなく、避けたい行為に名前が付く
Fragen Sie das Innenministerium.(内務省に聞いてください) Ich würde an das Innenministerium abgeben. 命令形が接続法II式になり、渡す動作が話し手側に残る
I don’t know.(わかりません) It’s not a question to which I can give a reliable answer. 知識の有無ではなく、答えの精度が話題になる
我不知道。(知りません) 我们暂不掌握有关情况。 個人の記憶から組織の情報保有へ移り、暂 が付く
以后再说。(あとで話します) 我们会适时发布消息。 会話の先送りが、公式発表の予告に変わる

右の列がどれも長いのは、飾りが増えたからではありません。

断る理由を言葉にすると、その分だけ部品が要るからです。

学習の順序としては、左の形をまず言えるようにしておいて、場面が公的になったときに右へ差し替えるのが現実的です。

右の形だけを覚えると、友人との雑談でも役所の口調になってしまいます。

置換練習

左の直接的な言い方を、会見で使われている置き場所に寄せて書き直してください。

解答は下に畳んであります。

  1. Ich weiß nicht, wann der Bericht kommt.(報告書がいつ出るかは知りません)を、順序を守る理由に寄せて。
  2. Fragen Sie das Verkehrsministerium.(交通省に聞いてください)を、接続法II式で渡す形に。
  3. Wir können das jetzt nicht sagen.(今は言えません)を、聞き手に理解を請う形に。
  4. I don’t know when we will decide.(いつ決めるかわかりません)を、時期を断ってから姿勢を約束する形に。
  5. That’s a bad question.(悪い質問です)を、問いの評価を避けて答えの精度の話に。
  6. 我不知道。(知りません)を、組織の情報保有の話に。
  7. 以后告诉你。(あとで教えます)を、公式発表の予告に。
解答と解説

1. Dem Zeitplan möchte ich an dieser Stelle nicht vorgreifen. 3格支配なので Zeitplan は Dem Zeitplan になります。

2. Dazu würde ich an das Verkehrsministerium abgeben. 直説法の gebe … ab でも通じますが、場を仕切る響きが出ます。

3. Ich bitte um Verständnis dafür, dass wir uns dazu derzeit nicht äußern. dafür, dass の受け皿を落とすと文が座りません。

4. I am not able to give you a date at this stage, but I can tell you how we will proceed. 断る対象を日付に絞ると、約束できる部分が残ります。

5. That is not a question to which I could give a useful answer. 形容詞を answer に掛けると、質問への評価になりません。

6. 我们目前不掌握相关信息。 不知道を不掌握に替えると、個人の記憶の話から外れます。

7. 有关情况我们会适时对外发布。 対象を先に出すと、発表の予告という形が整います。

つまずきやすいのは1番の格です。

vorgreifen を4格で組む書き方は成立しないので、Ich kann das nicht vorgreifen. は通りません。

6番は語彙の入れ替えだけに見えますが、主語を我から我们へ動かすところまでが1組です。

7番は語順が肝で、有关情况を文頭に置くと、話題を受け取った合図が先に立ちます。

会議とメールに持っていくときの調整

会見の型は、そのまま社内に持ち込むと強すぎることがあります。

ドイツ語の um Verständnis bitten は、相手が複数で公式な場に向く形です。

同僚1人へのメールなら、Ich melde mich, sobald ich mehr weiß.(分かり次第ご連絡します)のほうが収まります。

abgeben も同じで、社内で使うなら Das kann Herr Meier besser beantworten.(マイヤーさんのほうが詳しく答えられます)と名前を出したほうが親切です。

中国語の适时发布消息は、公式発表の予定がある場合に限って成立します。

予定がないのに使うと、発表を約束したことになってしまいます。

社内なら我们确认后回复您(確認のうえご返信します)のように、確認という行為を明示するほうが安全です。

I can assure you は強い語なので、連発すると中身が薄く聞こえます。

1回の会議に1度までを目安にすると、ここぞという場面で効きます。

断らずに答える側の型を増やしたいときは、ドイツ語なら Was ich sagen kann, ist …(申し上げられるのは〜です)が対になる枠です。

標本の限界と、自分で数え直す手順

この記事の14例は、11回分の会見記録から取ったものです。

ドイツ語の連邦記者会見は4回分、英語のECB会見は3回分、中国語の外交部会見は4回分で、期間も2026年の3月から8月までに限られます。

ここから言えるのは「これらの会見ではこう断っていた」までで、その言語の話者一般の傾向ではありません。

会見の種類が揃っていないことも、繰り返し断っておきます。

3つとも公式サイトに全文が出ているので、同じ手順で数え直せます。

  • ページ内検索で断りの語幹を探す(独は vorgreif・spekulier・Kenntnis、英は cannot・will not、中は不掌握・适时)
  • 当たった文の直前にある質問文を一緒に取り出す
  • 質問が何を求めたか(日付・数字・評価・確認)で分類する

3番目まで進むと、断り方の選択が質問の種類と連動していることが見えてきます。

日付を求められた回答には時期の語が出やすく、評価を求められた回答には論評しないという語が出やすい、という具合です。

数えた結果がこの記事と食い違ったら、たいていは分類の定義の差です。

1回分だけ試して、自分の定義でどう動くかを見てみるので大丈夫です。

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