JAXA の火星衛星探査機 MMX が運ぶローバー IDEFIX には、スペインの国立航空宇宙技術研究所(INTA)と宇宙生物学センター(CAB)が開発に加わった、分光計 RAX のレーザー部が載っています。
打ち上げの日(スペイン時間の10月19日)にスペイン高等科学研究院(CSIC)が出したお知らせは、火星の衛星の物質を地球の実験室で調べるのは、この計画が初めてになると書いています。
その1文では「初めて」の後ろに接続法の動詞が2つ続き、同じお知らせで先のことを書くほかの節とは、動詞の形が違う書き方です。
la primera vez que の2文で、動詞の形が分かれる
材料にしたのは、CSIC のサイトの「Actualidad del CSIC」に載ったお知らせです。一覧の1〜8ページにあった79本(表示日は9月7日〜11月3日)のうち、表示日が10月1日から11月3日の45本を集めました。
数えたのは本文の段落561(41,227語)です。題と副題は本文の要約をくり返すことがあり(90のうち31は、本文の1文と語の65%以上が重なりました)、数には入れていません。
本文の欄から右側の欄の手前までにある段落は、クラスの名前を問わずすべて拾いました。外したのは右寄せの署名・連絡先の行と、「Referencia científica」の欄の文献だけで、小見出しと写真の説明は段落の外にあるので入っていません。
本文の中で同じ中身を言い直した文の組には、数える語句を両方に含むものが見つからなかったので、そのまま残しています。
各お知らせの末尾にある広報の署名を、引用の下に名義として添えます。
45本の本文で la primera vez que(大文字・小文字を問わず、una primera vez que・la primera vez en que も含めて拾いました)は2回です。1つは10月19日の MMX のお知らせ、もう1つは10月23日の外来種の意識調査のお知らせです。
Será la primera vez que se recuperen y analicen en laboratorios terrestres materiales procedentes de una luna marciana.
CSIC(署名は CAB-CSIC-INTA Comunicación)2026年10月19日・MMX の打ち上げを伝えるお知らせ/出典: CSIC「España participa en la misión que traerá a la Tierra las primeras muestras de una luna de Marte」
訳:火星の衛星から来た物質が、地球の実験室で回収され分析されるのは、これが初めてになります。
Esta es la primera vez que se realiza una encuesta global, traducida a 23 idiomas y administrada en 54 países […]
CSIC(署名は CSIC Andalucía y Extremadura Comunicación)2026年10月23日・外来種についての国際調査を伝えるお知らせ/出典: CSIC「Seis de cada diez personas no pueden nombrar ninguna especie invasora presente en su país」
訳:世界規模の調査が行われるのは、これが初めてです。調査は23の言語に訳され、54か国で実施されました[…]
2つとも、広報が書いた地の文の中にあります。
MMX の文は Será(〜になる)で始まり、que のあとの recuperen と analicen は接続法現在です。調査の文は Esta es(これが〜だ)で始まり、que のあとの realiza は直説法現在です。
調査はすでに行われ、お知らせはその結果を伝えています。MMX の試料のほうは、お知らせが出た日にはまだフォボスの表面にあります。
Será la primera vez que のあとに直説法現在を置く形も、ニュースの文では見られる書き方です。そのなかで接続法を選ぶと、その回がまだ実現していないことを動詞の形で示すことになり、MMX のお知らせが選んだのはこちらです。
Será の1文は、未来形1つと接続法現在2つで組まれる
MMX の文を句に分けて、1つずつ形を見ていきます。
| スペイン語の句 | 品詞と形 | 訳語 |
|---|---|---|
| Será | ser の未来形(3人称単数) | 〜になる |
| la primera vez | 定冠詞+序数の primera+名詞 vez | 初めての回 |
| que | 前の vez を受ける関係詞 | 〜する(回) |
| se recuperen | se+recuperar の接続法現在(3人称複数) | 回収される |
| y analicen | 接続詞 y+analizar の接続法現在(3人称複数) | そして分析される |
| en laboratorios terrestres | 前置詞 en+名詞+形容詞 terrestre の複数 | 地球の実験室で |
| materiales | 名詞 material の複数 | 物質 |
| procedentes de una luna marciana | 形容詞 procedente の複数+de+名詞+形容詞 marciano の女性形 | 火星の衛星から来た |
se+3人称の動詞で「〜される」を言う形なので、recuperen と analicen は後ろの materiales に合わせて複数になっています。analicen の前に se は書かれておらず、y でつないだ2つの動詞に1つの se がかかる形です。
se を2回書いて se recuperen y se analicen としても、意味は変わりません。
analizar の z は、e の前で c に書き替えます。接続法現在の analice・analicen は、どれもこの綴りです。
直訳すると「火星の衛星から来た物質が地球の実験室で回収され、分析される、初めての回になるだろう」です。
日本語の文にするなら、「火星の衛星の物質を地球の実験室で調べるのは、これが初めてになる」くらいがまとまります。
同じお知らせの題は las primeras muestras(最初の試料)と、primera を形容詞として名詞の前に置いています。このお知らせ1本で序数の primer- は、名詞の前の primeras と、la primera vez que の2つです。
MMX のお知らせの que の節4つは、未来形で書かれる
同じお知らせには、これから起きることを que の節で言う箇所が、題に1つ、副題に1つ、本文に2つあります。
| que の前の名詞 | que のあと(未来形) | 訳 |
|---|---|---|
| la misión(題) | que traerá a la Tierra las primeras muestras de una luna de Marte | 火星の衛星の最初の試料を地球に持ち帰る計画 |
| la expedición(副題) | que partirá hoy hacia las lunas del planeta rojo | 今日、火星の衛星へ向けて出発する探査 |
| el rover(本文) | que recorrerá la superficie de Fobos | フォボスの表面を走るローバー |
| muestras(本文) | que serán transportadas de regreso a la Tierra | 地球へ運び戻される試料 |
que の前の名詞は計画・探査・ローバー・試料で、どれも MMX の計画に組み込まれた物事です。それぞれがこれから何をするか、どうなるかは、4つとも未来形で言い切った形です。
la primera vez のほうは、まだ1度も起きていない回を指していて、その回に起きることを接続法で書いています。
45本の本文全体では、que のあと4語以内に未来形が来る関係節が40か所ありました。en la que・en el que・lo que・las que の形も入れ、señala que・auguran que のような「〜ということ」の節と、理由を言う ya que は外しています。
このうち2か所が MMX のお知らせの本文で、残りは催しや講演会の案内、研究計画や観測施設の紹介などです。
時期を受ける cuando のあとに、未来形の podrán が来る
MMX のお知らせは、試料が地球に戻る時期を、次の文で書いています。
El retorno está previsto para comienzos de la próxima década, cuando los laboratorios más avanzados del mundo podrán analizar unos materiales […]
CSIC(署名は CAB-CSIC-INTA Comunicación)2026年10月19日・MMX の打ち上げを伝えるお知らせ/出典: CSIC
訳:帰還は次の10年の初めに予定されていて、そのころには世界で最も進んだ実験室が、物質を分析できるようになっています[…]
この文の cuando は、前の comienzos de la próxima década(次の10年の初め)を受けて、そのころの様子を言い足しています。カンマのあとに時期の説明を足す組み立てで、その中の動詞は未来形の podrán です。
同じ文の後半には、unos materiales que han permanecido inalterados(変わらないまま残ってきた物質)と、que のあとに現在完了の節も入っています。
作例の3組は、同じつなぎの語に接続法と直説法を置く
ここまでの3つの形を、当サイトで作った文で並べ直します。どれも素材にない文です。
| つなぎの語 | 接続法が来る作例 | 直説法が来る作例 |
|---|---|---|
| la primera vez que | Será la primera vez que mi hija viaje sola.(娘が1人で旅をするのは、今度が初めてになる) | Es la primera vez que visito Sevilla.(セビリアに来るのは初めてです) |
| cuando | Cuando llegues a Tokio, avísame.(東京に着いたら知らせて) | Nos veremos en enero, cuando ya estaré en Madrid.(1月に会おう。そのころには、もうマドリードにいる) |
| 名詞+que | Buscamos un robot que pueda subir escaleras.(階段を上れるロボットを探している) | Este es el robot que subirá al monte Fuji.(これが富士山に登るロボットだ) |
1行目では、visito の文は今まさに起きている回を言い、viaje の文はまだ来ていない回を言っています。MMX の Será la primera vez que se recuperen は、左の列と同じ組み立てです。
2行目の左は「着いたら」と条件のように時を決める cuando で、右は en enero(1月に)を受けてそのころの様子を足す cuando です。MMX の cuando … podrán は右の列の形になります。
3行目の左は、まだ見つかっていない、どれでもよいロボットを言っています。右は1台に決まったロボットがこれからすることを言っていて、MMX の el rover que recorrerá la superficie de Fobos も右の列と同じ形です。
la primera vez que の例文としてよく見かけるのは Es la primera vez que … の直説法なので、未来の「初めて」に接続法が来る形は、ニュースの文で初めて目にするかもしれません。接続法と直説法の選び方の全体は、スペイン語の接続法と直説法の記事にまとめています。
por primera vez は、8回のうち6回が動詞のすぐ後ろに来る
45本の本文では、「初めて」を副詞の por primera vez で言う箇所が8回あります。por primera vez は動詞に添える句で、la primera vez que のように vez のあとへ関係節を続けることはしません。
[…] demuestra por primera vez que las grandes colonias antárticas de pingüino barbijo son una importante fuente natural de metano.
CSIC(署名は ICMAN – CSIC Comunicación)2026年10月8日・ヒゲペンギンの群れのメタンを伝えるお知らせ/出典: CSIC
訳:[…]南極のヒゲペンギンの大きな群れが、メタンの大きな自然の発生源であることを初めて示しています。
この文の que は demuestra(示す)の中身を言う節の頭で、vez を受けてはいません。
8回のうち6回は、presenta・demuestra・incorpora・conecta や、過去分詞の introducida・documentado のすぐ後ろにあります。「初めて示した」「初めて市場に出した」のように、動詞の中身に「初めて」を足す使い方です。
残る2回は文の頭にあり、どちらも研究者の言葉を引いた引用符の中です。10月13日のホネクイハナムシ(Osedax)の新種のお知らせでは、“Por primera vez hemos identificado …”(初めて〜を特定しました)と、現在完了の文の頭に置かれています。
la primera vez que の文が「初めての回」を名詞として立て、その中身を que 以下に書くのに対し、por primera vez は動詞に副詞として付きます。どちらも日本語では「初めて」になるので、訳から元の文に戻すときの見分けどころは、vez の前が la か por かです。
y は a の前ではそのままで、i の音の前では e になる
MMX の文の se recuperen y analicen では、y のすぐ後ろが a の音です。y は母音の前で短い[j]の音になり、続く a と1つの音節になるので、y analicen は「ヤナリ」と始まるように聞こえます。
この y は、次の語が i の音で始まるときには e と書きます。45本の本文で、単独の e(ポルトガル語の機関名の中の2つを除く)は64回あり、64回とも i- か hi- で始まる語の前でした。
| 本文の句 | 次の語の頭 | 意味 |
|---|---|---|
| investigadores e investigadoras | i | 男女の研究者 |
| arte e investigación | i | 芸術と研究 |
| datos e inteligencia artificial | i | データと人工知能 |
| investigación e innovación | i | 研究と技術革新 |
| agrícolas, urbanas e industriales | i | 農業・都市・工業の |
逆に、y が i- や hi- の語の前に立つ箇所は、本文の y 1,327回(小文字の y で、すぐ後ろに語が続くもの)の中に1つもありません。a- や ha- の語の前の y は143回で、こちらは y のままです。
hielo(氷)のように hi のあとに母音が続く語は、頭が[j]の音になるので y のまま書きます。ただ、45本の本文にはこの形の例が出てきません。
「または」の o も同じように、o の音の前では u になります。本文では10月12日の電池の記事の iones de vanadio u otros metales(バナジウムなどの金属のイオン)の1回です。
RAX のレーザー部は、2つの系統を100グラム未満に収める
CSIC のお知らせは、スペインの担当した部品を次のように書いています。
La aportación tecnológica principal es la unidad láser del instrumento RAX, un diseño redundante (con dos canales), miniaturizado (menos de 100 g, como una caja de cerillas) […]
CSIC(署名は CAB-CSIC-INTA Comunicación)2026年10月19日・MMX の打ち上げを伝えるお知らせ/出典: CSIC
訳:技術面での主な貢献は、RAX のレーザー部です。2つの系統を持つ冗長な設計で、小型化されています(100グラム未満で、マッチ箱ほど)[…]
RAX はラマン分光でフォボスの表面の鉱物や化合物をその場で調べる機器で、IDEFIX はフランスの CNES とドイツの DLR が開発したローバーです。お知らせは、スペインの参加を Curiosity・Perseverance・Rosalind Franklin と続いてきた火星探査への協力の1つに数えています。
打ち上げそのものは、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の打ち上げのページが、種子島から H3 ロケットで行われたと伝えています。
同じ10月、NASA の ISS ブログは「きぼう」での実験を research や study などの名詞で書いていて、その数え方を扱ったのがISS ブログの英語の記事です。
記憶や酵母の研究を伝える文にも、que の節が入る
CSIC の10月のお知らせの本文から、MMX 以外の記事の6文を選びました。括弧の中の2つの形から、文に合うほうを選んでください。
まだ起きていないことや言い切らないことを言う節か、決まった物事を言い切る節かが、選ぶときの手がかりになります。
問1 10月16日・記憶の研究
Para que una experiencia reciente se (convierte / convierta) en un recuerdo duradero, el cerebro necesita estabilizarla […]
答えと解説
答え:convierta
para que(〜するために)は、目的としてこれから起きることを言うので、接続法を置きます。訳は「最近の経験が長く残る記憶になるためには、脳がそれを安定させる必要がある」です。
問2 10月21日・酵母の研究
Mucho antes de que (existía / existiera) la microbiología como ciencia, los seres humanos ya utilizaban Saccharomyces cerevisiae sin saberlo.
答えと解説
答え:existiera
antes de que(〜する前に)のあとは、その時点でまだ起きていないことなので接続法になります。文全体が過去の話なので、接続法過去の形を選びます。
訳は「微生物学が学問として成り立つずっと前から、人間はそれと知らずに出芽酵母を使っていた」です。
問3 10月13日・ホネクイハナムシの新種
“Es posible que la conectividad de O martini (está / esté) favorecida por la circulación oceánica profunda e intermedia […]
答えと解説
答え:esté
Es posible que(〜かもしれない)は、そうだと言い切らない見込みを言うので、接続法が続きます。研究者の言葉を引用符で引いた文です。
問4 10月30日・養殖の研究計画
[…] AQUALICIOUS, un proyecto europeo que (estudiará / estudie) cómo mejorar la sostenibilidad de la acuicultura […]
答えと解説
答え:estudiará
que の前は AQUALICIOUS という名前の付いた1つの計画で、その計画がこれから取り組むことを言い切っています。MMX の el rover que recorrerá と同じく、未来形を選びます。
問5 10月16日・記憶の研究
[…] una pequeña proteína artificial denominada QBP1 impide que la proteína cerebral CPEB3 […] se (activa / active) para estabilizar […]
答えと解説
答え:active
impedir que(〜させない)のあとは、止められて起きないことを言うので接続法になります。QBP1 という小さな人工のたんぱく質が、脳のたんぱく質 CPEB3 の働きを止める、という文です。
問6 10月27日・腸の細菌の研究
La única excepción conocida es Thomasclavelia ramosa, una bacteria comensal que (habita / habite) en el intestino sin causar daño […]
答えと解説
答え:habita
que の前は名前で特定された1種の細菌で、その細菌が腸にすんでいるという事実を述べているので、直説法現在です。訳は「知られている唯一の例外は Thomasclavelia ramosa で、腸の中で害を与えずにすむ共生細菌である」です。
CSIC のお知らせは、打ち上げ時刻を21時41分(hora peninsular)と書いています。

