ロシアの研究者が選ぶ科学の言葉|「感じる」が並ぶ2文の後ろの文だけに -ся

ロシア語

ロシアの研究者に「今年の科学をいちばんよく表す言葉」を尋ねるアンケートが始まり、12月初めにサンクトペテルブルクで開かれる若手研究者の大会で結果が発表される予定です。

アンケートは、プーシキン記念国立ロシア語大学(Институт Пушкина)と、ロシアの「科学技術の10年」の事業のポータル Наука.рф が集めます。

2024年と2025年の科学の言葉は、どちらも人工知能だった

企画の名は акция «Слово года в науке»(科学の今年の言葉)で、答えるのはロシア各地の研究者です。

В 2024 и 2025 годах словом года в науке становился «искусственный интеллект».

Институт Пушкина のお知らせ(ページの表示日2026年10月30日)「Ученые определят слово года в науке – 2026」/出典: pushkin.institute

訳:2024年と2025年には、«искусственный интеллект»(人工知能)が科学の今年の言葉になりました。

科学の言葉とは別に、若い世代が使う新しい語はロシアの若者スラングの記事にまとめています。

大学のお知らせは、行事の紹介に проводится を9回使う

プーシキン記念国立ロシア語大学のサイトの「Новости」(ニュース)欄で、ページの表示日が10月1日から11月6日までの記事は28本です。一覧はサイトの WordPress の API で9月24日以降の投稿を取り、「Новости」の分類に入らない教員の紹介ページ195件を外しました。

素材の選び方は、サイトの利用条件と robots.txt を確かめたうえで決めています。

研究者や学長の話は、お知らせの中で «» にくくられ、«— поделился …» のような地の文の句で話し手が示されます。

本文の入れ物(news-content)の中の段落をすべて拾い、句点(. ! ? …)を1つも含まず行末がコロンでもない段落は、署名や順位の一覧の行として外しました。
で改行された行は、次の行が小文字で始まるときに前の行とつないでいます。

本文の入れ物に入っていた記事の題の行(1本)も、見出しとして外しました。

次に段落を文に切り、語の重なりが8割以上の文が先の記事に出ていれば、再掲として落としました。「Учёные будущего」の事業の説明の決まり文句や講師の一覧がこれにあたり、数字だけが違う文は別の文として残しています。

28本はすべてロシア語の文で、ほかの言語の段落はありません。ё は е にそろえ、здесь や Беларусь のように -сь で終わる動詞以外の語は外しました。

残ったのは213段落・396文で、-ся か -сь で終わる動詞の形は128回でした。

-ся の付いた形 回数 多い語形
過去形(-лся・-лась・-лось・-лись) 48回 состоялось 5・состоялась 3・поделился 3
3人称の現在形・未来形(-ется・-ится・-ются など) 42回 проводится 9・реализуется 3
不定形(-ться・-тись) 17回 познакомиться 3
形容詞の形の分詞(-щийся など) 13回 обучающихся 3・учащихся 3
1人称・2人称 7回 надеюсь 3・надеемся 2
副動詞(-ясь) 1回 знакомясь 1

3人称の42回は、次の手順で分けました。まず、主語がその動作を自分でする人や団体なら「その他」とし、-ся を外した他動詞が無いか、主語をその他動詞の目的語に置けない語も「その他」にしています。

残る28回のうち、行う側を造格(〜によって)で言い足して文が成り立つものを「受け身」、成り立たないものを「自分で変わる・そう見える」としました。

分け方 回数 例
受け身(行う側を造格で足せる) 19回 реализуется / реализуются(実施される)4 など
自分で変わる・そう見える(足せない) 9回 расширяется(広がる)・укрепляются(強まる)・видится(見て取れる)など
その他(主語の人・団体が自分でする) 6回 поделятся(分かち合う)・встретятся(会う)など
その他(他動詞が無い・目的語に置けない) 8回 является(〜である)2・становится(〜になる)2 など

расширяется(広がる)・укрепляются(つながりが強まる)・закрепляются(根づく)の3つは造格を足せるとも読め、そう読むと受け身は22回になります。

2文目の чувствовалась は、女性名詞の наука に形を合わせる

アンケートのお知らせで чувствовать が出てくるのは、事業の運営団体の代表が話した言葉の中の2文です。

Язык чувствует общество. И мы спросим у научного сообщества, каким словом чувствовалась наука.

София Малявина(генеральный директор АНО «Национальные приоритеты»)ページの表示日2026年10月30日・Институт Пушкина のお知らせ「Ученые определят слово года в науке – 2026」/出典: pushkin.institute

訳:言葉は社会を感じ取ります。そこで私たちは研究者の皆さんに、科学がどんな言葉で感じられたかを尋ねます。

見る所 1文目 Язык чувствует общество. 2文目 […]каким словом чувствовалась наука.
動詞 чувствует(現在形・3人称単数) чувствовалась(過去形・女性単数、-ся つき)
主語 язык(言葉) наука(科学)
目的語 общество(社会) なし
感じ取る側 主語の язык 主語にも造格にも立たない

1つ目の文では、言葉 язык が主語で、社会 общество が目的語です。язык も общество も主格と対格が同じ形なので、どちらが感じる側かは語順で決まっています。

2つ目の文の чувствовалась は、спросим у научного сообщества(研究者の世界に尋ねる)に続く節の中にあり、-ся が付いたことで目的語を取らなくなり、感じられる側の наука(科学)が主語に立ちます。語尾の -ась は、наука が女性名詞の単数であることに合わせた形です。

主語の наука は、文の最後に置かれています。каким словом чувствовалась наука は спросим に続く間接疑問で、疑問の語を含む каким словом が節の頭に出て、主語は動詞の後ろに来ています。

日本語の「感じられる」にも、だれかに感じ取られるという受け身の読みと、自然にそう感じるという自発の読みの2つがあり、どちらも同じ形です。чувствовалась も、研究者に感じ取られたと読むことも、科学がそういう手ざわりだったと読むこともできます。

каким словом の造格は、手段の読みが自然だ

каким の語尾 -им と словом の語尾 -ом は、どちらも造格(「〜で」「〜によって」にあたる格)の形です。слово の造格は словом、疑問の какое の造格は каким になります。

受け身の -ся の文では、造格は行う側を表すこともあれば、使う物を表すこともあります。слово(言葉)は感じ取る側にはならないので、ここでは「どの言葉を通して」という手段の読みが自然です。

同じ28本で、造格が手段を言う -ся の受け身の文は、若手専門家の賞の紹介にもう1つあります。

Победители и финалисты награждаются дипломами, памятными знаками и призами.

Институт Пушкина のお知らせ(ページの表示日2026年10月14日)「Молодой специалист – 2026」/出典: pushkin.institute

訳:受賞者と最終候補者には、賞状と記念章と賞品が贈られます。

награждаются は награждать(表彰する)に -ся が付いた形で、表彰される側の победители и финалисты が主語です。дипломами・знаками・призами は複数の造格で、表彰に使う物を並べています。

表彰する側の団体は、この文には出てきません。造格の名詞が3つ並んでいても、どれも行う側ではない点が、次の節の проводится の文と違います。

проводится のあとの造格は、行う側を言う

行う側を造格で示す受け身は、行事を紹介する文の最後のほうに出てきます。

Фестиваль «Наука 0+» проводится Минобрнауки России и Московским государственным университетом имени М.В. Ломоносова при поддержке Российской академии наук.

Институт Пушкина のお知らせ(ページの表示日2026年10月14日)「Лингвистика для всех: преподаватели и учёные Института Пушкина на фестивале «Наука 0+»」/出典: pushkin.institute

訳:科学のイベント「Наука 0+」は、ロシア科学高等教育省とロモノーソフ記念モスクワ国立大学が開いており、支援はロシア科学アカデミーです。

行う側の1つ目、Минобрнауки(科学高等教育省の略称)は格で語尾が変わらない語です。2つ目の Московским государственным университетом が -им・-ым・-ом の造格の語尾を見せていて、ここから2つとも造格だと分かります。

при поддержке(〜の支援で)は前置詞の句で、支える団体は生格の Российской академии наук で示されます。

受け身19回で、行う側の示し方 回数 例
行う側を造格で示す 5回 проводится Институтом Пушкина・реализуется Государственным институтом
при поддержке・по инициативе の句だけ 4回 реализуется при поддержке Министерства
示さない 9回 проводится в этом году впервые
造格は手段 1回 награждаются дипломами

造格で行う側を示す5回のうち4回は проводится、1回は реализуется です。そのうち2回は、教員のコンクールの最終候補を伝えた10月30日の1本の、冒頭と末尾の別の文にあります。

行う側を言わない9回のうち7回は、«[…]проводится в этом году впервые»(今年初めて開かれる)の впервые のような時の語か、в нашем университете(私たちの大学で)のような場所の語を添えています。

造格の語尾の一覧は、「学校」が8つの形になるロシア語の格の記事で、школа を例に並べました。

видится も、知覚の動詞に -ся を付けた形だ

28本の -ся の128回で、知覚の動詞に -ся が付いた形は、чувствовалась と видится の2つでした。видится は、ウズベキスタンの大学の副学長の言葉の中に出てきます。

Благодаря таким проектам особенно ясно видится, что образование и наука не знают границ, а язык служит мостом между народами.

Мухиддин Бафаев(проректор по учебной работе Бухарского государственного педагогического института)ページの表示日2026年10月15日・Институт Пушкина のお知らせ「Вдохновляя на открытия: как прошёл проект «Учёные будущего» в Узбекистане」/出典: pushkin.institute

訳:こうした事業のおかげで、教育と科学には国境がなく、言葉が人々をつなぐ橋になっていることが、とくにはっきり見て取れます。

видится は видеть(見る)に -ся が付いた形で、見て取れる中身は что 節です。主語は что 節そのものなので、動詞は3人称単数の形です。

видится の文には、見る人が出てきません。

この2文では、知覚の -ся が、だれが見たか・感じたかを言わずに、そう見える・感じられるという事実を置いています。

чу́вствовать は、в を1つ飛ばして[チューストヴァチ]と読む

чувствовать は、最初の в を読まずに чу́ствовать のように発音します。чу́вство(感覚)や здра́вствуйте(こんにちは)と同じく、子音が4つ続く所で в が落ちる綴りです。

強勢は最初の у にあり、чу́вствует・чу́вствовалась と、形が変わっても動きません。

3人称の -тся と不定形の -ться は、どちらも[ツァ]と読みます。прово́дится と проводи́ться は綴りが違っても -тся の音は同じで、強勢の位置で区別します。

過去形の語尾 -лась の -сь は軽い[シ]に近い音で、чу́вствовалась の最後は[ラシ]に近い音です。

能動の文に戻すと、行う側が文の頭に立つ

大学のお知らせの -ся の受け身は、行う側を主語にした能動の文に言い換えられます。下の3組は、どれも素材に無い作例です。

能動の文(作例) -ся を付けた文(作例) 行う側と使う物の置き場所
Университет проводит фестиваль.(大学がイベントを開く) Фестиваль проводится университетом.(イベントは大学が開く) 行う側は造格 университетом で文の最後
Учёные чувствуют перемены.(研究者は変化を感じる) Перемены чувствуются.(変化が感じられる) 感じる側は文から消える
Жюри награждает лауреатов призами.(審査員が受賞者に賞品を贈る) Лауреаты награждаются призами.(受賞者に賞品が贈られる) 贈る側は消え、призами は手段の造格のまま残る

2行目の чувствуются は、主語の перемены(変化)が複数なので、3人称複数の -ются の形です。

3行目では、能動の文の目的語 лауреатов(対格)が、-ся の文で主格の лауреаты に替わります。

si を付けたイタリア語の受け身は、da で行う側を足さない

イタリア語では、In questa università si studia il russo.(この大学ではロシア語が学ばれている)のように、再帰代名詞 si を3人称の動詞に付けた受け身の形があります。Si organizzano concorsi ogni anno.(毎年コンクールが開かれる)では、動詞が後ろの複数の名詞に合わせた -ano の形です。

この si の受け身は、ふつう da(〜によって)で行う側を足しません。行う側を言うときは、I concorsi sono organizzati dall’università. のように essere と過去分詞を使います。

ロシア語の -ся の受け身が проводится Институтом のように造格の行う側を取れるのとは、ここで違いが出ます。文化交流の場で使うイタリア語の言い回しは、文化交流のイタリア語フレーズの記事で紹介しました。

закрепляются の主語には、新しい用語と概念が立つ

アンケートのお知らせでは、学長の言葉の中で、語そのものが -ся の動詞の主語です。«[…]мы исследуем, как новые термины и понятия закрепляются в речи[…]»(新しい用語や概念がどう話し言葉に根づくかを調べます)という一節です。

закрепляются は закреплять(固める)に -ся が付いた形で、主語に термины и понятия(用語と概念)が立ちます。造格の行う側を足しにくいと見て、先の表では「自分で変わる」に入れました。

同じ -ся でも、訳は「〜される」と「〜になる」に分かれる

次の6つの文は、同じ28本のお知らせから取った文です。太字の -ся の動詞の訳として、原文に合う方を A・B から選んでください。

問1 «Партнёрские отношения с Арменией в области науки и образования стабильно развиваются[…]»(A 発展させられています/B 発展しています)

問2 […]нужно определить, какие художественные приёмы используются в представленном тексте.(A どんな技法が出てくるか/B どんな技法が使われているか)

問3 Победители конкурса приглашаются к участию в мероприятиях Института Пушкина в Москве[…](A 招かれます/B 招待に応じます)

問4 «Будущее создаётся сегодня[…]»(A 未来は今日つくられます/B 未来は今日生まれます)

問5 […]место, где прошли детские годы Александра Сергеевича и зарождались мотивы его будущих произведений.(A 芽生えさせられた/B 芽生えた)

問6 Благодаря этой поездке Сербия открылась мне с новой стороны[…](A 新しい面を見せました/B 新しい面から開かれました)

答えと解説

問1 B 主語の отношения(関係)を発展させる行う側を造格で足すと、文が成り立ちません。11月3日のお知らせで、学長が話した一節です。

問2 B приёмы(技法)は作者が使う物で、используются автором(作者によって)と言い足せるので受け身の訳が合います。10月26日のお知らせの、文学の試験問題の説明です。

問3 A приглашать は「招く」で、招く側の大学を造格で足すことができ、B では -ся の受け身の意味が抜けます。10月23日のお知らせの、詩のコンクールの受賞者への案内です。

問4 A создавать は「つくる」で、原文はこのあとに в исследованиях, в идеях(研究や発想の中で)と、つくられる場を続けます。11月2日のお知らせで、中国の大学の学長の言葉として載った一節です。

問5 B мотивы(作品の題材)を芽生えさせる行う側は、文脈からは立てられません。10月28日のお知らせで、プーシキンが子どものころを過ごしたザハロヴォの屋敷を紹介した文です。

問6 A 主語は Сербия(セルビア)で、だれかが国を開いたという話ではありません。10月12日のお知らせで、事業に加わった研究者が旅の感想として話した一節です。

科学の今年の言葉のアンケートに2年間で加わった研究者のうち、最年長は94歳でした。

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