マクロン大統領を迎えたスペイン王宮の晩餐会|国王は大統領ひとりを os と呼ぶ

スペイン語

os、vuestro、habéis。

スペイン語の授業では「友だちが何人かいるときの形」として習うこの3つが、9月29日の夜、マドリードの王宮でフランス大統領ひとりに向けて使われました。

フランス大統領夫妻の国賓訪問を迎えた晩餐会で、フェリペ6世国王が読んだ歓迎のスピーチです。

王室は、国賓や公式訪問の相手を迎える食事会でのスピーチを公式サイトに載せています。

オマーン、ドイツ、ポルトガル、ルクセンブルク、セネガルと、この1年に迎えた相手へのスピーチと並べると、迎える・呼びかける・杯を上げるという場面ごとに、ほぼ同じ部品が使い回されています。

この記事ではその部品を場面の順に取り出し、最後に、乾杯の挨拶に借りられる形と、この場でしか使わない形とに分けます。

外交・安全保障を論じた段落は、このページでは一行も引かず、主賓をどの人称で呼び、どの順で杯を上げるかという形の面だけを見ています。線引きの考え方は編集方針のページに書いてあります。

王室のサイトに載っている、国賓・公式訪問の食事会の6本

素材はスペイン王室の公式サイト casareal.es の「Discursos」です。

過去12か月(2025年9月30日〜2026年9月29日)のうち、スペインが迎える側で開いた国賓・公式訪問の晩餐会と午餐会のスピーチを全部拾い、6本になりました。

迎えた相手 日付・食事 語数
オマーンのスルタン 2025年11月4日・晩餐会 1,242
ドイツ大統領夫妻 2025年11月26日・晩餐会 890
ポルトガル大統領 2026年2月20日・午餐会 951
ルクセンブルク大公夫妻 2026年3月5日・午餐会 961
セネガル大統領 2026年3月25日・午餐会 888
フランス大統領夫妻 2026年9月29日・晩餐会 1,154

会場は6回ともマドリードの王宮で、合計は6,086語です(ポルトガル向けの回に入っているポルトガル語の段落を含みます)。

国王が招かれる側に回った食事会(2025年11月の北京など)は、お礼を言う向きが逆になるので入れていません。

サイトが本文の一部を抜き出して太字で再掲している枠は、同じ文を二度数えることになるため外しました。

一言目は「歓迎します」か「光栄です」

6本の最初の文は、2つの型のどちらかで始まります。

La Reina y yo os damos la bienvenida a Madrid, a España, junto con vuestra esposa

フェリペ6世(スペイン国王)2026年9月29日・マドリード王宮、フランス大統領歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:王妃と私は、奥様とご一緒のあなたを、マドリードへ、スペインへお迎えいたします。

dar la bienvenida(歓迎の言葉を贈る)を使う型で、セネガル大統領の回は同じ「La Reina y yo os damos la bienvenida a España.」という1文で始まっています。

オマーンの回は「Os doy la más cordial bienvenida a España.」と、主語を国王ひとりにして最上級で強めた形です。

Es un honor recibiros en el Palacio Real de Madrid, junto con la Gran Duquesa Stéphanie y la delegación que les acompaña.

フェリペ6世(スペイン国王)2026年3月5日・マドリード王宮、ルクセンブルク大公夫妻歓迎の午餐会/出典: casareal.es

訳:大公妃ステファニー殿下、随行の皆さまとともに、殿下を王宮にお迎えできるのは光栄です。

もう1つが Es un honor +不定詞の型で、ポルトガル(volver a acogeros)、ドイツ(un gran honor recibiros)の回もこちらです。

ドイツの回だけは「光栄です」のあとに「nuestra bienvenida más cordial」も続けていて、2つの型を1文に入れています。

型は違っても、6本とも最初の段落のうちに王妃が出てきます。

フランス・セネガル・ドイツ・ポルトガルの4本では1文目の主語か「para la Reina y para mí」の形で、オマーンとルクセンブルクの2本では2文目に入ります。

os と vuestro で、目の前の相手を敬う

最初の引用に戻ると、os は大統領を指していて、夫人は「vuestra esposa(あなたの奥様)」として別に出てきます。

つまり os は「あなたがた」ではなく、大統領ひとりを受けています。

形は vosotros の活用と同じですが、使い方は古い儀礼の vos(敬意の2人称)の流れをくむもので、ひとりの相手にも最大級の敬意を向けるときに使われます。

数えたのは、代名詞の os、不定詞や命令形に付いた -os と -dme、所有詞の vuestr-(Vuestra Excelencia のような称号も含む)、2人称複数の活用で、país と仏語の sais は除き、ポルトガル語の段落は外しました。

形の種類 6本での回数 主な形
所有詞 vuestr- 30 Vuestra visita/vuestro mandato
代名詞 os 8 os damos/Os reitero
語末に付いた -os・-dme 12 recibiros(4)/expresaros(3)/permitidme(2)
2人称複数の活用 12 habéis(5)/culminaréis/hallaréis

vuestr- 30のうち「Vuestras Altezas」の2か所は、ルクセンブルク大公夫妻の2人を指す本来の複数です。

合計は62か所で、オマーン18・ポルトガル14・ドイツ10・フランス9・ルクセンブルク7・セネガル4の順です。

動詞まで2人称複数で活用する

El próximo año culminaréis vuestro mandato como Presidente de la República

フェリペ6世(スペイン国王)2026年9月29日・マドリード王宮、フランス大統領歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:来年、あなたは共和国大統領としての任期を終えられます。

culminaréis は culminar(締めくくる)の未来形で、語尾 -éis が2人称複数です。

同じ段落の後半には「os agradezco el firme compromiso que habéis mostrado」とあり、代名詞・所有詞・活用の3つがそろって大統領ひとりを受けています。

Vuestra を大文字で書くかどうかは、そろっていない

文頭以外の vuestr- 30か所のうち、大文字で始まるものが15、小文字が15で、ちょうど半々でした。

オマーンの回では、同じ名詞に付いた形が、協定の署名に触れた段落では「Vuestra visita」、最後から2番目の段落では「vuestra visita」と書かれています。

フランスの回の乾杯の文にも「Vuestra visita」と「vuestro mandato」が1文の中に並んでいて、大文字にするかどうかで意味が変わるわけではなさそうです。

大公夫妻を指すときは、3人称の les に切り替わる

先に引いたルクセンブルクの回の1文目で、recibiros の os が受けているのは大公ひとりで、大公妃は「junto con la Gran Duquesa Stéphanie」と別に添えられています。

同じ文の終わりの「que les acompaña」の les は、随行団が付き従う相手、つまり大公と大公妃の2人を受ける3人称複数です。

1つの文の中で人称が2人称から3人称に変わり、指している相手もひとりから夫妻2人へ広がっています。

直接話しかける相手は敬意の os で、話題として触れる夫妻は les で、という書き分けとして読めます。

「Señor Presidente,」を1行だけ置いて、話題を変える

呼びかけは6本で23か所ありました。

数えたのは相手を指す称号がコンマで区切られて置かれている箇所で、「Su Majestad el Sultán Qabus」(先代のスルタンの話)や「como Presidente de la República」(補語)のように文の成分になっているものは除いています。

置き方 か所 例
それだけで1行(段落) 9 Señor Presidente,/Altezas Reales,
段落の頭に置き、そのまま本文へ 7 Majestad, Omán tiene…
文の途中に挟む 7 Hubo momentos, Señor Presidente, en que…

フランスの回は4か所のうち3か所が独立した1行で、そのたびに話題が「大統領の任期と両国の結びつき」「欧州の課題」「世界の現状」と切り替わります。

日本語のスピーチなら「さて」や改行で済ませるところを、呼びかけの1行が見出しの役を果たしている形です。

段落の頭の7か所のうち4か所は、コンマのすぐ後ろに空白がなく大文字が続く形(Señor Presidente,En Alemania…)でサイトに載っていて、原稿では1行だったものが掲載の際に詰まった可能性もあります。

Os reitero, Majestad, la inmensa satisfacción por recibiros en Madrid

フェリペ6世(スペイン国王)2025年11月4日・マドリード王宮、オマーンのスルタン歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:陛下、マドリードにお迎えできた大きな喜びを、重ねて申し上げます。

たとえばこの文では、呼びかけが動詞 reitero と目的語 la inmensa satisfacción のあいだに入っています。

「繰り返し申し上げます、陛下、その喜びを」という順になり、呼びかけが一拍の間として働きます。

称号は相手で変わり、大統領には Señor Presidente、オマーンのスルタンには Majestad、ルクセンブルク大公には Alteza/Altezas Reales が使われています。

España y Francia のあとに来るのは hemos

España y Francia hemos recorrido un largo camino juntos

フェリペ6世(スペイン国王)2026年9月29日・マドリード王宮、フランス大統領歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:スペインとフランスは、長い道のりをともに歩んできました。

国名を2つ並べた主語は3人称複数なので、文法の練習問題なら han recorrido が答えになります。

ところがこのスピーチは hemos(1人称複数)で受けていて、話し手が「スペイン」の側に入っていることが動詞の語尾に出ています。

España と相手国を y で並べた主語は6本で8か所あり、7か所が1人称複数、3人称複数は1か所だけでした。

主語と動詞 人称 回
Alemania y España tenemos 1人称複数 ドイツ
España y Luxemburgo compartimos(2回) 1人称複数 ルクセンブルク
España y Senegal, dos pueblos antiguos y cultos, hemos cultivado 1人称複数 セネガル
Francia y España podemos/España y Francia hemos recorrido 1人称複数 フランス
Compartimos, Omán y España, … 1人称複数(主語が後ろ) オマーン
el Sultanato de Omán y el Reino de España tienen 3人称複数 オマーン

3人称複数の1か所は、国名を「スルタン国」「王国」という正式な呼び方で並べた文でした。

数えたのは España を含む「国名 y 国名」が主語になっているものだけで、「la hermandad entre España y Portugal」のような前置詞の後ろの形は入れていません。

Sigamos で、聞いている側を巻き込む

「〜しましょう」にあたる接続法の1人称複数は、主節で使われたものが5つありました。

オマーンの回の Impulsemos と trabajemos、ポルトガルの回の Ofrezcamos、セネガルとフランスの回の Sigamos です。

セネガルでは「Sigamos alimentándolo」、フランスでは「Sigamos trabajando unidos」と、どちらも seguir+現在分詞で「このまま続けましょう」と言っています。

すでにある関係をこの先も続けると言う形が、スピーチの締めくくり近くに置かれています。

ドイツの回は乾杯の文の最後に「sigamos caminando juntos」を置き、porque のあとで接続法にしています。

杯を上げる一文は、por を重ねて閉じる

levanto mi copa por lo mucho que nos une: Por Francia, por España, por Europa, por el futuro.

フェリペ6世(スペイン国王)2026年9月29日・マドリード王宮、フランス大統領歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:私たちを結ぶ多くのものに杯を上げます。フランスに、スペインに、ヨーロッパに、未来に。

乾杯の文は6本のうち5本にあり、言い方は次の4つに分かれます。

乾杯の動詞 乾杯の対象を導く por 回
levanto mi copa por… 4/5 セネガル・フランス
permitidme alzar mi copa y brindar por… 5 ポルトガル
Brindo por… 7 ルクセンブルク
Permitidme … invitaros … a brindar por ello 1 ドイツ

乾杯の対象は por で導き、コンマやセミコロンでいくつも重ねます(セネガルの回の「nos queda por recorrer」の por は乾杯の対象ではないので数えていません)。

国名を挙げた4本では、4本とも相手国を先に、スペインを後に置いていました(Por Francia, por España/por Portugal, por España/por Luxemburgo y por España/por la República de Senegal y por el Reino de España)。

Con ese deseo levanto mi copa −y a todos invito a brindar− por la República de Senegal y por el Reino de España

フェリペ6世(スペイン国王)2026年3月25日・マドリード王宮、セネガル大統領歓迎の午餐会/出典: casareal.es

訳:その願いを込めて、皆さまにもご一緒にとお願いしつつ杯を上げます。セネガル共和国とスペイン王国に。

ダッシュで挟んだ「y a todos invito a brindar」が、国王ひとりの乾杯を会場全体の乾杯に広げる一言です。

「todo lo que nos une」「lo mucho que nos une」(私たちを結ぶもの)は、ポルトガル・ルクセンブルク・フランスの3本の乾杯に入っていました。

オマーンの回には乾杯の文がなく、「Os reitero, Majestad…」の段落のあとに「Muchas gracias.」の1行で終わります。

結びの「Muchas gracias.」はルクセンブルクの回にもあり(乾杯のあと)、残る4本は乾杯の文そのものが最後の1文です。

マクロン大統領への乾杯を、日本語の式辞に訳す

9月29日の乾杯の文を前から順に区切り、直訳と、日本語の式辞として読める訳を付けます。

区切り 直訳 式辞としての訳
Así que だから それでは
Señor Presidente, Señora Macron, 大統領閣下、マクロン夫人、 大統領閣下、ならびに令夫人
celebrando Vuestra visita あなたの訪問を祝いながら このたびのご訪問を心から喜び
y con nuestros mejores deseos para la culminación de vuestro mandato, そしてあなたの任期の完成への私たちの最良の願いとともに 任期の締めくくりが実り多いものとなるよう願って
levanto mi copa 私は私の杯を上げる 杯を上げたいと思います
por lo mucho que nos une: 私たちを結ぶ多くのもののために 両国を結ぶ数々の絆に
Por Francia, por España, por Europa, por el futuro. フランスのために、スペインのために、ヨーロッパのために、未来のために フランスに、スペインに、ヨーロッパに、そして未来に、乾杯

直訳すると「〜のために」が4つ並びますが、乾杯の por は「〜に(乾杯)」と訳すと日本語の乾杯の挨拶の形に収まります。

celebrando は現在分詞で、主語の yo が「祝いながら杯を上げる」という同時の動作を1文にまとめています。

mejores deseos(最良の願い)は、手紙の結びの「Con mis mejores deseos」と同じ組み合わせで、ここでは para のあとに願いの向かう先を置いています。

la culminación de vuestro mandato は、さきほど引いた「culminaréis vuestro mandato」を名詞にした形で、スピーチの前半と乾杯とで同じ語を響かせています。

相手国の言葉を、原語のまま置く回と訳して置く回

6本のうち5本が、相手国の詩人や思想家の言葉、または相手国の言語そのものを入れています。

入れたもの 何語で 回
ペソアの詩「Valeu a pena? Tudo vale a pena…」 ポルトガル語+直後にスペイン語訳 ポルトガル
大統領あての3段落(Desejamos-lhe…) ポルトガル語のみ ポルトガル
モンテーニュの「que sais je?」、ユゴーの一節 フランス語のみ・訳なし フランス
teranga(もてなし) ウォロフ語を1語、語釈つき セネガル
詩人・思想家・政治家の言葉 スペイン語で オマーン・セネガル・ルクセンブルク

Desejamos-lhe, Presidente Rebelo de Sousa, Professor Marcelo, um futuro feliz

フェリペ6世(スペイン国王)2026年2月20日・マドリード王宮、ポルトガル大統領歓迎の午餐会/出典: casareal.es

訳:レベロ・デ・ソウザ大統領、マルセロ先生、あなたに幸せな未来をお祈りします。

ポルトガル語に切り替わると、相手を指す代名詞は lhe(3人称)になり、スペイン語の部分の os とは形がまったく違います。

スペイン語の段落に戻った直後の文は「Sois, Presidente, un amigo de España」で、再び2人称複数の sois に戻っています。

[…] como nos enseñó Víctor Hugo, “ceux qui vivent ce sont ceux qui luttent”.

フェリペ6世(スペイン国王)2026年9月29日・マドリード王宮、フランス大統領歓迎の晩餐会/出典: casareal.es

訳:ヴィクトル・ユゴーが教えたとおり、「生きる者とは、闘う者である」。

フランスの回では、ユゴーの一節をフランス語のまま置き、スペイン語訳を付けていません。

スペイン語の側は「como nos enseñó(私たちに教えたように)」で引用の枠だけを作り、中身は相手の言語に任せています。

ルクセンブルクの回のシューマン(ルクセンブルク生まれの政治家)の言葉は、スペイン語に訳して引いていました。

同じ記事を複数の言語で載せる例は、サッカークラブのサイトにもあります。FCバルセロナがキャプテン翼の作者の訪問を伝えた記事は、スペイン語・カタルーニャ語・英語・日本語の4版が同じ日に載り、南葛SCを説明する部分の並べ方が版ごとに違っていました。

入門書の usted と、王宮の os

入門書で習う丁寧な文を左に、6本に実際に出てきた文を中央に置きました。

入門書で習う形 晩餐会に出てきた形 どこが動いたか
Bienvenido a España, señor Presidente. La Reina y yo os damos la bienvenida a España. 形容詞の一語から、dar la bienvenida の文へ。主語に王妃が入る
Le agradezco su compromiso. os agradezco el firme compromiso que habéis mostrado le/su(usted)が os/habéis(敬意の vos)に替わる
España y Francia han recorrido un largo camino. España y Francia hemos recorrido un largo camino juntos 3人称複数が1人称複数に。話し手が主語の中に入る
¡Salud! levanto mi copa por lo mucho que nos une かけ声の代わりに、por で対象を重ねる1文にする
Muchas gracias por su atención. (4本は乾杯の文で終わる) お礼の1行を置かず、乾杯を最後の言葉にする

入門書の usted は「目上の相手への丁寧な形」として正しく、ビジネスの場や初対面ではこちらを使います。

晩餐会の os は、それよりもう一段上の、儀礼のためだけに残っている形と考えると位置づけがつかめます。

1行目の Bienvenido は相手の性と数に合わせて変わる形容詞で、夫妻を一度に迎えるなら Bienvenidos になります(日常の歓迎の言い方はスペイン語の挨拶と文化にあります)。

晩餐会の文は dar la bienvenida を使っているので、歓迎する側(La Reina y yo)が主語に立ち、誰が誰を迎えるのかがはっきりします。

3行目の違いは語尾の2文字だけですが、han なら「スペインとフランスという2国」を外から語る文、hemos なら「私たちスペインとフランス」を内側から語る文になります。

vos は2つある:王宮の vos とアルゼンチンの vos

スペイン語で vos と聞いて多くの学習者が思い浮かべるのは、アルゼンチンなどで tú の代わりに使う親しい2人称でしょう。

あちらの vos は活用も vos sabés のようになり、ポルトガルの回に出てきた「como sabéis」の sabéis とは別の形です。

王宮の os/vuestro は、同じ vos という名前でも敬意の側に立つ形で、活用は vosotros と同じ形を使います。

中南米の vos のやりとりは南米コーンのビジネスメールと voseoに、スペイン本国で tú と usted をどう選ぶかはスペイン本国式のビジネスメールにまとめています。

主賓の国の言葉、フランス語から見ると、vous が「あなたがた」と「あなた(丁寧)」を1つの形で兼ねていて、大統領ひとりにも vous を使います。

スペイン語の普段の丁寧語 usted は3人称の活用なので、フランス語とは形が合いません。王宮の os は、たまたま vous と同じ「複数の形でひとりを敬う」側に立っていることになります。

ドイツ語の Sie は3人称複数の形を借りた丁寧語で、スペイン語の usted と同じく、2人称ではない形で相手を立てる仕組みです。

フランス語の式辞の定型はフランス語の公式スピーチの定型表現で、ロシア語の вы と ты の切り替えはロシア語の呼びかけと敬称の使い分けで扱っています。

王宮の書き方にそろえる練習

6本のうち、ここまで本文で書き換えていない文を使います。

問1 ルクセンブルクの回で、スペイン語について「殿下もよくご存じの」と添えた挿入句です。称号 Vuestra Alteza を主語にした形を、殿下に直接話しかける形に変えてください。

…nuestra lengua, hablada por más de 630 millones de personas —y que Vuestra Alteza conoce bien—

答えと解説

…—y que conocéis bien—

Vuestra Alteza のような称号を主語に立てると、動詞は3人称単数(conoce)で受けます。称号を外して相手に直接話しかけるなら、この場の敬意の形は2人称複数なので conocéis になります。

問2 ドイツの回で、大統領夫妻に向けた願いの文です。空欄の sentir を活用させてください。

Nuestro deseo e ilusión es que, en estos días, __ el mismo afecto que recibimos entonces del pueblo alemán

答えと解説

sintáis

「Nuestro deseo e ilusión es que…」(私たちの願いと望みは〜であること)のあとは願いの中身なので接続法になります。相手が夫妻なので本来の複数とも敬意の形とも読めますが、どちらにしても2人称複数です。

sentir は語幹が e→i に変わる動詞で、接続法の1人称複数・2人称複数でも sintamos・sintáis と i になります。usted で書けば sienta です。

問3 ポルトガルの回から。transmitiros の os を、活用している動詞 queremos の前に移してください。

Por eso queremos transmitiros, en nombre de todos los españoles, nuestro inmenso pesar…

答えと解説

Por eso os queremos transmitir, en nombre de todos los españoles, nuestro inmenso pesar…

querer +不定詞のように動詞が2つ続くときは、目的語の代名詞を不定詞の後ろに付けても、活用した動詞の前に出してもかまいません。6本で動詞が2つ続く位置は、この queremos transmitiros のほか deseamos expresaros・volver a acogeros のように、どれも不定詞の後ろに付けていて、前に出した例はありません。

問4 ポルトガルの回で、国王がポルトガル語で話した一文です(caro は「親愛なる」)。スペイン語の段落と同じ敬意の形でスペイン語に直してください。

Mas saiba, caro Presidente, que entre nós não se tratará de uma despedida

答えと解説

Pero sabed, querido Presidente, que entre nosotros no se tratará de una despedida(訳例)。

ポルトガル語の saiba は3人称の命令の形で、スペイン語の usted なら sepa にあたります。この場の敬意の形では2人称複数の命令形 sabed になり、permitidme の -d と同じ語尾です。

問5 ポルトガルの回の乾杯は、国王が自分の杯を上げる形でした。これを会場の全員に「一緒に乾杯しましょう」と呼びかける形に変えてください(brindar を使い、por 以下はそのまま残す)。

Y ahora permitidme alzar mi copa y brindar por todo lo que nos une

答えと解説

Y ahora brindemos por todo lo que nos une.

「〜しましょう」は接続法の1人称複数で、brindar なら brindemos です。話し手も乾杯する側に入るので、permitidme(私に〜させてください)も mi copa も要らなくなります。

6本で繰り返し使われていた部品

6本を通して読むと、同じ部品が何度も使われていました。ただし、6本すべてにそろっている部品は呼びかけだけで、並び方も回によって違います。

部品 形 6本中
王妃と並んで迎える La Reina y yo os damos la bienvenida/para la Reina y para mí 4本(1文目に王妃が入る回)
呼びかけ Señor Presidente,/Majestad,/Alteza, 6本(独立した1行になるのは4本)
両国を並べた主語 España y ◯◯ hemos/compartimos(オマーンの回は3人称の tienen) 5本(ポルトガルの回にはない)
続けようと誘う Sigamos+現在分詞 主節では2本(セネガル・フランス)。ドイツは従属節の中
杯を上げる levanto mi copa por…/Brindo por… 5本(levanto mi copa は2本)

このうち、相手を os・vuestro で呼ぶ部分だけは、国家元首を迎える儀礼の場に限られた形です。

残りの歓迎・呼びかけ・乾杯の形は、改まった席であれば、学習者が自分の挨拶に組み込んでも不自然になりません。

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