英語の記者会見はどんな定型表現で回っているか|質問の受け方・留保・引き取り・締めを公式トランスクリプトで確認

英語

英語の記者会見を聞いていると、内容が入れ替わっても同じ言い回しが繰り返し出てくることに気づきます。

質問を受け取る一言、答えを留保する一言、話を前に戻す一言、場を閉じる一言。

この4つはほぼ固定の型で回っており、型さえ押さえれば聞き取りも発話もかなり楽になります。

この記事では、欧州中央銀行(ECB)の金融政策記者会見、日本銀行の英語スピーチ、国際通貨基金(IMF)の定例ブリーフィング、ASAP Sportsが公開しているスポーツ会見の書き起こし、ノーベル賞授賞式の式辞という5つの場から、実際に使われた定型表現だけを拾って並べます。

教科書に載っている型と実際の会見で使われている型がどこでずれるかも、対比表と置換練習で確認します。

会見の英語は4つの局面でできている

会見の進行は、司会が場を開く局面から始まって、質問の受け取り、答えの調整、締めの4段階で動きます。

それぞれの局面に、その局面でしか使わない表現群が割り当てられているのが英語の会見の特徴です。

局面 代表的な型 その型が担う役割
場を開く ready to take your questions / welcome to the press conference of 質疑の開始を宣言し、発言権を記者側に渡す
質問を受け取る Thank you for your first question 質問を聞き取ったことの確認と、答える順番の予告
答えを調整する I cannot give you a timeline / not a question to which I can give a reliable answer 答えない範囲を先に線引きしてから、答えられる部分を出す
締める That will be a wrap / gratitude for your kind attention 終了の合図と感謝を分けて置く

以下、局面ごとに一次ソースの原文を見ていきます。

場を開く一言は、司会と登壇者で形が違う

発言権を渡す側の型

中央銀行の記者会見では、冒頭の声明を読み終えた登壇者が自分で質疑の開始を宣言します。

We are now ready to take your questions.

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年7月23日・ECB金融政策記者会見の冒頭声明末尾/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:それでは、ご質問をお受けします。

主語が I ではなく We である点が、この型の要です。

個人ではなく機関として質問を受ける、という立場をこの一語で示しています。

同じ位置に put on the table や open the floor を置く形もありますが、ECBの直近の会見では ready to take your questions がほぼ固定で使われています。

会場を紹介する側の型

スポーツの会見のように司会が別にいる場では、開始の一言は「〜の記者会見へようこそ」の枠に収まります。

Ladies and Gentlemen, welcome to the press conference of

大会司会者 2026年8月13日・National Bank Open男子シングルス優勝者の記者会見冒頭/出典: ASAP Sports書き起こし

訳:みなさま、(〜の)記者会見へようこそ。

welcome to the press conference of のあとには、人名ではなく肩書の長い名詞句が入るのが通例です。

この会見では大会名とスポンサー名と部門名が全部そこに詰め込まれ、名前が出るのは最後でした。

講演の冒頭に置かれる型

質疑のない講演では、開始の一言が honor か pleasure を使った感謝の形になります。

It is a great honor to have the opportunity today to address

神山一成(日本銀行理事)2026年5月14日・AIMA Japan Annual Forum 2026における挨拶/出典: 日本銀行公式英文

訳:本日、(〜の皆様に)お話しする機会をいただけたことを、大変光栄に思います。

It is a great honor to do の形は、主語の I を文頭から外して「機会そのもの」を主語に立てる構文です。

話し手の感情ではなく場の格を述べる形になるため、公式の場ではこちらが選ばれます。

質問を受け取る一言は Thank you で終わらない

Thank you for your question は教科書でも定番ですが、実際の会見ではこの型が単独で置かれることはほとんどありません。

後ろに序数か、質問の内容への言及がくっついて、次に何を話すかの予告になります。

Thank you for your first question and thank you for reminding everyone

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年4月30日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:ひとつめのご質問をありがとうございます、そして皆さんに思い出させてくださったことにも感謝します。

ここでは thank you が2回続き、2回目が質問の中身への評価になっています。

質問を褒めることで、その論点から答えを始める許可を自分で作る形です。

実際に使われた形 直訳 その場での機能
Thank you for your first question ひとつめのご質問をありがとう 質問が複数あることを確認し、答える順番を宣言する
Thank you for reminding everyone 皆に思い出させてくれてありがとう 質問の前提を肯定し、そこから話を起こす
Thank you for your two questions 2つのご質問をありがとう 質問数を数え上げて、答え漏れを防ぐ宣言にする

質問が2本きたときの分け方

英語の会見では、記者が一度に2問投げるのが普通です。

そのため質問側にも回答側にも、番号を管理するための決まった言い方があります。

質問側は two-part question と最初に宣言してから、切れ目でこう言います。

And the second part, how do you keep going

記者の質問 2026年8月13日・National Bank Open男子シングルス優勝者の記者会見/出典: ASAP Sports書き起こし

訳:そして2つめですが、どうやって続けているのですか。

回答側は、答えの途中で番号に戻ります。

On your second question, as I said, I’m proud of the projections

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年3月19日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:2つめのご質問についてですが、申し上げたとおり、私はこの見通しを誇りに思っています。

On your second question は前置詞句だけで独立しており、そのあとに完全な文が続きます。

About ではなく On が使われるのは、話題の所在を指すだけで内容に踏み込まないためです。

番号を扱う型 使う側 置かれる位置
Two-part question. 質問する記者 質問全体の冒頭
And the second part, … 質問する記者 1問目を言い終えた直後
On your second question, … 答える登壇者 1問目の答えを終えた直後

答えを留保するときは、否定の位置がずれる

答えられない質問に対して、英語の会見で I don’t know がそのまま使われることはまずありません。

代わりに、答えられない理由を名詞側に移す構文が選ばれます。

It’s not a question to which I can give a reliable answer.

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年7月23日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:これは、私が信頼できる答えを出せる種類の質問ではありません。

否定されているのは「私の能力」ではなく「質問の性質」です。

to which I can give a reliable answer という関係詞節で question を限定し、その外側を not で切る形になっています。

もうひとつよく出るのが、答えない部分と答える部分を but でつなぐ型です。

I cannot give you a timeline, a date, but I can assure you

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年3月19日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:時期も日付も申し上げることはできませんが、これだけはお約束できます。

cannot give と can assure が同じ助動詞で対になっており、否定と肯定が一本の文の中で釣り合っています。

この釣り合いがあるために、留保が拒絶として受け取られにくくなります。

質問そのものを別の当事者に振り直す型もあります。

that’s really more of a question, I think, for the authorities

ジュリー・コザック(IMF広報局長)2026年6月4日・IMF定例記者ブリーフィング/出典: IMF公式トランスクリプト

訳:それはむしろ、当局に向けられるべき質問だと思います。

more of a question for X は「Xのほうに向いた質問だ」という比較の形で、答える主体を静かに移します。

間に挟まれた I think が断定を弱め、押し返しの角を落としています。

前に言ったことに戻す型と、隣に渡す型

会見が長くなると、同じ論点が形を変えて何度も出てきます。

そこで使われるのが as I said と、その拡張形です。

So on your first question, I will not repeat what I said, although I will actually.

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年4月30日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:さて1つめのご質問ですが、以前申し上げたことは繰り返しません、とはいえ結局繰り返すのですが。

I will not repeat と although I will actually が同じ文の中で衝突しており、宣言を自分で取り消す形になっています。

書き言葉の規範からは外れる並びですが、話し言葉では「言い直す許可を場から取る」働きをします。

同じ機能をもっと短く済ませる形は、スポーツの会見にも出てきます。

As I said, I feel like I just rushed by the end of this first set.

エレナ・リバキナ(テニス選手)2026年8月13日・National Bank Openの試合後記者会見/出典: ASAP Sports書き起こし

訳:先ほど言ったとおり、第1セットの終盤は自分が急ぎすぎたと感じています。

as I said は直前の自分の発言だけでなく、別の会見での発言も指せます。

指す範囲が広いぶん、聞き手にとっては「もう出た話だ」という合図として機能します。

自分では答えず、同席者に渡す型も定型です。

you also give me a chance to offer the floor to my Vice-President

クリスティーヌ・ラガルド(欧州中央銀行総裁)2026年3月19日・ECB金融政策記者会見の質疑応答/出典: ECB公式トランスクリプト

訳:おかげで、副総裁に発言をお願いする機会もいただけました。

offer the floor to X が、発言権という見えないものを物のように手渡す言い方です。

give me a chance to という前置きが入ることで、交代が質問者の手柄として処理されています。

締めは「終了」と「感謝」を分けて置く

英語の会見の終わり方は、終了の宣言と感謝が別々の文になっているのが普通です。

That will be a wrap to this year. Thank you, everyone.

大会司会者 2026年8月13日・National Bank Open男子シングルス優勝者の記者会見の末尾/出典: ASAP Sports書き起こし

訳:今年はこれで終わりとなります。皆さん、ありがとうございました。

That will be a wrap は撮影現場の合図が会見に転用された言い方で、未来形の will が「ここで打ち切ります」の宣言になっています。

講演の締めは、感謝の対象が「聞いてくれたこと」に固定されます。

I would like to extend my sincere gratitude for your kind attention.

神山一成(日本銀行理事)2026年5月14日・AIMA Japan Annual Forum 2026における挨拶の末尾/出典: 日本銀行公式英文

訳:ご清聴に対し、心より感謝申し上げます。

gratitude for your kind attention は、日本語の「ご清聴ありがとうございました」にほぼ一対一で対応する定型です。

attention を「聞いてくれた時間」として名詞で受け取る発想が、この型の背骨になっています。

式典の締めでは、感謝ではなく祝意が同じ位置に入ります。

I wish to convey to you our warmest congratulations.

オロフ・ラムストレム(スウェーデン王立科学アカデミー会員・ノーベル化学賞委員会委員)2025年12月10日・ノーベル賞授賞式の式辞/出典: ノーベル財団公式テキスト

訳:心よりのお祝いを申し上げます。

I wish to convey は I want to say の格式版で、convey が「言葉を運ぶ」動作を表します。

our と複数形になっているのは、話し手個人ではなく機関を代表しているためです。

教科書的例文と実際の発話はどこでずれるか

会話教材に載っている会見表現は、意味は合っていても実際の場では単独で使われない形が多くあります。

上で見た一次ソースと並べると、ずれ方に4つの型があることが分かります。

教科書的な例文 実際の会見で観察された形 ずれの中身
Thank you for your question. Thank you for your first question and thank you for reminding everyone 感謝で終わらせず、序数と内容評価を足して「次に何を話すか」の予告にしている
I don’t know. It’s not a question to which I can give a reliable answer. 否定の対象が話し手の能力から質問の性質へ移り、関係詞節で範囲が限定されている
No comment. I cannot give you a timeline, a date, but I can assure you 拒否を単独で置かず、can の否定と肯定を対にして代わりに出せるものを添えている
Any questions? We are now ready to take your questions. 主語が I ではなく We になり、質疑の開始が機関としての宣言になっている
Thank you for listening. I would like to extend my sincere gratitude for your kind attention. 動詞 listen が名詞 attention に置き換わり、感謝が儀礼の形式に固定されている

共通しているのは、実際の発話のほうが必ず一語多いという点です。

その一語が序数だったり関係詞節だったり but 節だったりするだけで、機能はどれも「次の展開を予告する」ことに向いています。

逆に言えば、教科書の短い形をそのまま会見で使うと、情報が足りずに素っ気なく響きます。

Thank you for your question. のあとに何も続けない話し方は、実際のトランスクリプトにはほとんど現れません。

音として何が起きているか

会見の定型表現は、文字で見るより実際の音のほうが短く潰れます。

聞き取りで詰まりやすい箇所は決まっているので、そこだけ先に押さえておくと楽になります。

表記 実際の聞こえ方の目安 起きている現象
ready to take your questions レディタテイキョアクエスチョンズ to の弱化と take your の同化で3語がひと塊になる
on your second question オニョアセカンクエスチョン on your の連結と、second の語末 d の脱落
It’s not a question イツナタクエスチョン not a の t が有声化してラ行に近づく
That will be a wrap ザルビアラップ that will が縮約され、be a が一拍に潰れる

イントネーションにも型があります。

On your second question のような前置きは平板に速く読まれ、その直後の内容語で初めて音が上がります。

つまり前置き部分は聞き取れなくても実害が少なく、上がったところから拾えば内容は追えます。

会見音声を教材にするときは、この「上がる直前まで」を捨てて聞く練習が効きます。

置換練習

ここまでに出た型を、別の場面に載せ替える練習です。

日本語を英語にするのではなく、与えられた英語をより会見らしい形に組み替えます。

第1問 I don’t know when it will happen. を、答えられない範囲を質問側に移す形に書き換えてください。

解答と解説

解答例:I cannot give you a timeline, a date, but I can assure you that we are working on it.

ポイントは、知らないことを述べるのではなく「出せないもの」を名詞で列挙する点です。

timeline と date のように具体物を2つ並べると、拒否ではなく線引きとして響きます。

第2問 Thank you for your question. の後ろに情報を足して、2問目から答え始める形にしてください。

解答と解説

解答例:Thank you for your two questions. Let me start with the second one.

質問数を数え上げてから順番を宣言すると、答え漏れの予防になります。

Let me start with は許可を求める形ではなく、進行の宣言として使われます。

第3問 I said this before. を、繰り返しの予告として自然な会見表現に直してください。

解答と解説

解答例:As I said earlier, our position on this has not changed.

as I said は単独では置かず、直後に本題の文を続けるのが会見での標準の形です。

earlier を足すと、同じ会見内の発言を指していることが明示されます。

第4問 This is a question for the ministry. を、押し返しの角を落とした形にしてください。

解答と解説

解答例:I’d say that’s really more of a question for the ministry.

more of a question for X の比較形にすると、断定ではなく傾向の指摘になります。

I’d say を頭に置くのも、同じく断定を弱めるための定型です。

第5問 Now my colleague will speak. を、発言権を渡す型に直してください。

解答と解説

解答例:Let me offer the floor to my colleague.

floor は「発言権」を指す名詞で、offer や give と組んで使われます。

will speak のような予定の記述より、渡す動作を明示するほうが会見では自然です。

第6問 Thank you for listening. を、講演の締めにふさわしい格式の形に直してください。

解答と解説

解答例:I would like to extend my sincere gratitude for your kind attention.

extend gratitude は「感謝を差し伸べる」という比喩で、儀礼的な場に固定して使われます。

listening を attention に替えると、聞き手が割いた時間そのものへの謝辞になります。

第7問 OK, that’s it. を、会見の終了宣言らしい形にしてください。

解答と解説

解答例:That will be a wrap. Thank you, everyone.

終了の宣言と感謝を2文に分けるのが、英語の会見での標準的な締め方です。

1文にまとめると、どちらの機能も弱くなります。

会議とメールに移すときの調整

会見の型はそのまま社内会議でも使えますが、いくつか強すぎるものがあります。

Ladies and Gentlemen や extend my sincere gratitude は式典寄りなので、少人数の会議では浮きます。

会議で使いやすいのは、番号を管理する型と、答えを留保する型の2群です。

On your second question と I cannot give you a date, but I can assure you は、そのまま社内の議論に持ち込めます。

進行役として場を開く言い方を増やしたい場合は、英語ファシリテーションのフレーズ集ビジネス会議で使う英語表現を合わせて見ると、会見の型との距離が測れます。

メールに移すときは、留保の型だけが生き残ります。

I cannot give you a timeline at this stage の形は、期日を確約できない返信の骨組みとしてそのまま使えます。

ただし but 以下に出せるものを必ず添えるのが条件で、ここを省くと単なる拒否として読まれます。

丁寧さの段階をどう積むかは英語の丁寧表現の使い分けに整理があります。

聞き取りの手順

会見音声を教材にするときは、内容から入らないほうが早く慣れます。

最初の1回は、質疑の開始宣言と締めの一言だけを探して聞きます。

2回目は、Thank you for と On your と as I said の3つだけを拾います。

この3つが出た位置が、そのまま話の切れ目になっています。

3回目で初めて内容を追うと、どこが本題でどこが前置きかが最初から分かった状態で聞けます。

ECBやIMFのトランスクリプトは音声と対応しているので、答え合わせに使えます。

この記事は英語学習のために、各機関が公開している会見・講演の公式記録から定型表現だけを抜き出して比べたものです。取り上げた発言の内容や、その背景にある判断の当否には立ち入りません。

引用の扱いについては編集方針をご覧ください。

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